2020年度から始まる大学入学共通テストで導入される英語民間試験について、文部科学相の萩生田光一氏は2019年11月1日、20年度の実施を見送ると表明した。
本記事でご紹介する内容は、特に英語の変更点について焦点をあててご紹介していますが、実施される際には大きく修正される可能性があることを予めご了承ください。
この「実施見送り」の件については以下の記事で解説しています。
過去にセンター試験廃止についてのコラムを記載しているので、そちらも併せてご覧ください。
2020年度からこれまでのセンター試験が大学入学共通テストに変わります。
今回は、この変更点やそれへの対策について焦点を当ててみていきます。
なかでも、英語の変更点は極めて大きいです。
そこで特に英語について具体的に何が変わるのか、その有効な対策を紹介します。
共通テストにおける英語の変革
英語に関しては、外部試験が導入されます。
「大学入試英語成績提供システム」として、英検やTOEFL、TEAPといった外部の民間団体が主催する英語試験を利用します。
ちなみに、当コラムを掲載している札幌のチーム個別指導塾「大成会」では、英検などの各種資格試験対策などにも対応しています。
外部試験で評価される
2024年度より、この民間試験だけで英語の評価がなされます。
2020~2023年度までは移行期間で、民間試験と大学入学共通テストの双方で英語の点数が出ます。
そのため、2020~2023年度が最も受験生にとって負担が大きく、民間試験と共通テストの両方で高得点を取る必要があります。
認められる外部試験は6種
英語の民間試験は、なんでも共通テストへの提供に使えるわけではありません。
以下に具体的な6つの外部試験を挙げます。
- ケンブリッジ英語検定
- 英検
- IELTS
- GTEC
- TEAP
- TOEFL
TOEICが共通テストから辞退
上記の英語試験だけではなく、大学生や社会人におなじみのTOEICもその1つに数えられていました。
2018年には文部科学省による各種検定試験の認定が行われました。
これは、主に信頼性から実施されています。
しかし、TOEICは自ら辞退する形で、2019年7月2日、大学入学共通テストには利用できないこととなりました。
なぜTOEICは辞退することにしたのでしょうか。
これは主に、共通テストの評価方法が起因しています。
■TOEICが辞退した理由
大学入学共通テストでは、従来の2技能から4技能を測定する試験へと進化しています。
つまり、「読む」「聞く」「書く」「話す」といった具合です。
・共通テストの趣旨である「4技能」判定に向かない
TOEICは、そのメインとなる試験が「Listening & Reading Test」です。
つまり、読む力と聞く力の判定です。
よくTOEICでは900以上のスコアを持っていると、就職で有利になったり、大学院進学で優遇されたりします。
これは、TOEICのなかでも「Listening & Reading Test」を指しています。
他に、書く力と話す力を判定する「Speaking & Writing Tests」も設置されています。
こちらは、パソコンを使うのが特徴です。
そのため、各回に定員が設けられています。
スコアも「Listening & Reading Test」のような990点満点ではありません。
・2試験の日程調整が難しい
入学共通テストの趣旨に対応するために、学生はTOEICの場合、上記2つの試験を両方とも受けなければなりません。
少しでも負担を軽減するために、両試験の実施日を既存のものからより近づけることを要求されました。
しかしTOEICは世界的規模で試験日を調整しているために、この日程変更が容易ではありません。
もともと試験が以上のように分かれていることもあって、共通テストの趣旨との相性があまり良くなかったといえます。
■TOEIC利用予定の学生に大きな損害
とはいえ、2018年3月には公式に文部科学省のほうからTOEICも含むことが発表されていましたから、既にTOEICを受験科目とすることを決めていた生徒がいます。
文科省の調査によると、それは全体の約2%です。
割合でみると少ないですが、人数でみると約1万人に相当します。
1万人もの学生が、大学入試でTOEICを使おうと思っていたのに、それが使えなくなったとあっては、かなりの損害ですし、公平性も保たれません。
そこで文部科学省は、2019年度中に既にTOEICを受験した学生については、その成績を使うことができる特別措置を認めています(※)。
※参考:文部科学省 大学入試センターが運営する「大学入試英語成績提供システム」参加試験について
■矢継ぎ早の改革に批判の声が多数
しかし、このような急な発表で、しかもこれまで勉強してきてまだ受験していない子の保証には届かないため、批判は多いです。
教育改革をしたい意向については一定の理解を得ているものの、このような矢継ぎ早の急激な改革については、高校生やその保護者に不足の損害を与え、公平性が担保されず、極めて配慮に欠ける不合理な政策という声が多数です。
確かに、一連の流れを客観的にみても、もっと慎重に、少しずつ制度を変革して、都度時期にも余裕をもった発表をしたうえで、もちろん公平性に何よりも配慮する、という基本的な姿勢に欠けています。
・6つの選択肢が公平性を困難にする
そもそも、6つもの外部試験を自由に選択できれば、やはり公平を保つのは至難の業になります。
それぞれに試験形式や特徴、相性が異なるからです。
英検のみ、TOEFLのみなど、利用できる外部試験を単一的なものにしない限り、生徒によって受ける試験が違うのでは、なかなか公平を確立するのは難しいです。
大学入学共通テストの問題も受験(2020~2023年度)
前述のように、2020年度から2023年度の移行期に大学入学共通テストを受ける学生は、外部試験だけではなく、共通テスト独自の問題も受験しなければなりません。
この独自問題も、従来のセンター試験とは配点や内容が異なっています。
センター試験との違い
■配点
センター試験は、筆記とリスニングからなっていました。
配点は、筆記が200点、リスニングが50点でした。
筆記のほうが比重が重かったわけです。
しかし、大学入学共通テストとなると、筆記はリーディングに名称が変えられ、配点も200点から100点に減少しています。
一方で、リスニングは50点から100点に倍増しています。
つまり、リーディング100点、リスニング100点と同等の配点に改められました。
■内容
配点だけではなく、中身にも違いがみられます。
リーディング(大学入学共通テスト)については、とにかく長文重視に変更されました。
筆記(センター試験)のときは、発音や語句整序、会話、文法といった問題が単独で出題されました。
共通テストでは、読解以外の問題が単独では出ません。
そのため、リーディングセクションではとにかく速く読み、正確に内容を理解する能力が非常に大事です。
・TEAPの長文と似ている
上智大学と日本英語検定協会が共同開発したTEAPの長文問題(※)が、似ていると話題です。
共通テストでは通常の文章と資料や文献などのいくつかのセンテンスを一気に読む必要があります。
TEAPはこの構造に似ています。
特にPART3AやPART3Bは教材・資料・文献の文脈、論理の流れ、詳細把握となっていて、共通テストに通じるものがあります。
※参考:TEAP 問題構成・見本問題
・プレテストがHPに公開中(平成29年度と30年度)
大学入試センターのHPに、平成29年度と30年度のプレテストの内容が掲載されています(※)。
これを見ると、全てが長文で、その種類は手紙や予定表、レシピ、記事などバラエティに富んでいます。
さらに適宜、図表が挿入されていて、それを読み解く必要があります。
※参考:大学入試センター 平成30年度試行調査_問題、正解等
・問題演習はTEAPでカバー
確かに、TEAPの読解と類似しています。
なぜTEAPの問題との類似点を指摘するのかというと、上記のようにプレテストが2年分しかないからです。
もちろん、TEAPは共通テストで提出できる外部試験に含まれています。
TEAPを外部試験として選択すれば、そのまま共通テスト対策になるので一石二鳥です。
・TOEICも問題演習に使える
他に、TOEICのPART6やPART7といったリーディングセクションも共通テストと似通っています。
ただし、TOEICは前述のように利用できる外部試験から脱退しましたから、共通テスト対策という視点で考えると、TEAPのほうが実益が大きいです。
ただ、TOEICはその後の就活や大学院進学において公に評価されやすい試験です。
TOEIC900点以上取ると外資系企業の就職に有利に働きます。
特に大学院入試で優遇措置を設けているところもあります。
将来的な目線で見ると、TOEICの問題を使って共通テスト対策をするのもまた、実利があります。
・演習のポイント
問題演習の材料は、プレテストの他、TEAPやTOEICを使えば、充分にあります。
実際に演習をする際のポイントとしては、とにかく速く正確に読むことです。
そのためには、基本的な文法を押さえていることはもちろん、単語も充分に憶えておかなければなりません。
そのうえで、とにかく英文を読む量を増やして慣れていき、徐々にスピードを上げていきます。
・英文をそのまま順序で理解する
さらに、英文を英文の順序で理解することも大切です。
たとえば、プレテストの実際の文を挙げてみてみます。
平成30年度プレテスト第二問Bの一文です(※)。
これについて、たとえばこの一文を読み終えた後で、「from September~だから、2018年の9月から、inで学校において、prohibit~fromの構文だから、携帯を使うことを生徒に禁止した、そして主語として、フランスの政府が、willだから禁止するだろう、と未来形だな」などと頭のなかで考えて一文一文訳して読み進めるのでは、時間が足りなくなります。
そうではなくて、必ず英語の順序で理解し、頭のなかで日本語の文章として組み立てる過程を省きます。
たとえば、「The French government will」まででフランスの政府が何かする、「prohibit students from using mobile phones in schools」で、生徒に禁止する、携帯を使うことを、学校で、と英文のままの順序で理解します。
そして最後に「from September, 2018」で、2018年9月からね、と付け加えられればOKです。
このように、英文のままの順序で理解することに慣れると、読みと理解のスピードが格段に速くなります。
※参考:平成30年度プレテスト 外国語 〔英語(筆記[リーディング])〕
共通テストにおける国語と数学の変化
英語の他には、国語と数学において記述式問題が加わります。
国語では現代文において、論理的な解釈ができているか否かが判定されます。
数学においては、基本をしっかりと理解しているかを、数式などの記載を通して測られます。
国語の記述式対策
国語の記述式は、最大でも120字以内と非常に短いです。
作文とまではいえない範囲でしか記述は要求されません。
内容も、本文をちゃんと理解しているかどうかがキーになります。
そのため、記述式という問題形式に慣れておくことは必要ですが、英語のように外部試験の問題を利用しての新たな対策まではいりません。
これまでのセンター試験対策で、そのまま通用できる内容です。
以下、平成30年度プレテストの第1問、問1を例に取ります(※)。
本文では、外国に行って言葉が通じない状況では、指差しが魔法のような力を発揮すると述べられています。
さらにその前では、指差しで意思を伝えるのは人間にだけできる能力であること、さらに指差しが認められず、言葉も目の動きなども遮断されたら、ほとんど意思を伝えるのは不可能であることが表現を変えて指摘されています。
ここまで単純に読解できれば、指差しの意思疎通を図るうえでの重要な機能、役割を重複的に指摘すれば足りることが分かります。
※参考:平成30年度プレテスト 国語
数学の記述式対策
数学の記述式も部分集合を式で表すなど基本的なものです。
こちらも、形式に慣れておけば、従前のセンター対策で充分に対応できます。
数学では、たとえば、以下のような出題がみられます(※)。
※参考:平成30年度プレテスト 数学1・数学A 第一問(1)
大学入学共通テストの変更点についてまとめ
センター試験から大学入学共通テストとなり、一番の変更点はやはり英語です。
完全に長文読解がテーマになっています。
速く正確に読むことを普段から練習しておくことが必要です。
共通テストのプレテストだけでは絶対数が少ないので、TEAPやTOEICなどの問題を活用して、多くの英文に触れて慣れて得意にすることが大切です。
数学や国語の記述式は、特に難解な問題が出るわけではありません。
今までどおり基礎をしっかりと固めておけば、その形式にさえ慣れているなら充分に解答可能です。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。