みなさんは「哲学」と聞いてどのような印象を持つでしょうか。
ひょっとしたら難しそうに思えたり敷居が高く感じてしまうかもしれませんね。
けれども実はそんなことはなく、哲学について初めて学ぶ人にもわかりやすく解説されている本はたくさんあります。
今回は哲学とはどんなものか、哲学を学ことでどんなメリットがあるかを紹介します。
「哲学」とはいったいどういうものなのか?
「哲学」とは何でしょうか?
小中高校で習う学校の教科の中には「哲学」という科目はありません。
ですからみなさんは「哲学はなんだか難しいもの」「大人が学ぶようなもの」と感じてしまうのかもしれません。
哲学は何かとひと言で答えるとすれば「さまざまな物事の本質をとらえる営み」といえます。
では物事の「本質」など、本当にわかるのでしょうか?
現代は、「相対主義」の時代と言われています。
世界には絶対的な正義などはなく、立場によってそれぞれの正義や価値観があるという考えが一般的です。
確かに、この世に「絶対に正しい」ことはないのかもしれません。
けれども、人類全体での共通了解が得られないということはないのではないでしょうか。
例えば、友達や先生、家族と一緒に話す中で、「なるほど、それはたしかに本質的なことかもしれないな」と、お互いに納得し合えることはありませんか?
「恋」とは、「教育」は、一体どんなものなのか、といった共通のテーマについて、お互いの対話を重ねることを通じて、その「本質」を深く了解し合える可能性があります。
このことは「絶対の真理」とは異なり、できるだけだれもが納得できる「本質的な考え方」のことを言います。
そのような物事の「本質」を洞察することが、哲学を学ぶ最大の意義と言えるのです。
現代は相対主義の時代だと前述しましたが、現代の世の中の多くの人々は、「絶対に正しいことは何もない」と言って問題を済ませようとしているように見えます。
そんな時に、「より良い社会とは?」「子供にとって本当に良い教育とは?」「本当の平和とは何か?」のような困難な問題に直面した時、多くの人は「それは人それぞれだから」と言って簡単に考えるのを諦めてしまう傾向があります。
けれども哲学の世界では、「すべての人が納得できる考えは何か」について考え抜こうとします。
そして歴史上の偉大な哲学者たちは、限界まで考え抜き思考を追いつめ、そしてそれを世の中の多くの人々へ納得できるように投げかけてきたのです。
哲学は「答えのない問題をただぐるぐる考えているだけだ」と誤解されがちですが、それは全くの誤りで、優れた哲学者たちは、それまでの哲学者たちの思考を受け継ぎ、そしてそれを未来へ向けて確実に推し進め深めてきているといえます。
また、「答えのない問題を考えることこそが哲学だ」と誤解されることもあります。
このことは間違ってはいませんが、少なくとも哲学のうちの半分しか言い当てていません。
もっと重要な残りの半分、哲学の本質ともいえるそれは、「問題をとことん考え、そしてきちんと答え抜くこと」といえます。
いずれにしても、これまでに哲学者が答え抜いてきたこと、それは決して絶対の正解とはいえません。
けれども、それでもなお、哲学者たちは、できるだけ多くの人々が納得できる「共通了解」を見出そうと探究をつづけてきました。そしてその探求はこれからも続いていくのです。
哲学書を読んでみよう!
ここまで読んで「哲学ってなんだか難しそう」と、思った人は多いと思います。
けれども現在、書店へ行くと様々な哲学関連の書籍が棚に並んでいます。
それだけ、現代社会が答えのない問題に囲まれていて、その答えを知りたいと思っている人々が多いといえるのでしょう。
そこでここでは、哲学を知るための「哲学書」の選び方を紹介したいと思います。
まずは哲学初心者から。
哲学初心者向けおすすめは入門書
「初心者」と一口にいっても、まったく哲学に触れたことがない人もいれば、もともと興味があり少し知識はあるものの、本格的に学ぶ機会がなかったという人など、さまざまです。
いずれにしても哲学書は自分の知識に合った本を選ぶことが大切です。
まず、小中学生である子どもたちが哲学に触れたいと思った時に手に取る本としては、断然子供向け哲学書がおすすめです。
ひょっとしたら、親御さんが子供に哲学を学ばせたいと思っているかもしれませんが、そんなケースの場合はなおさら子供向けを選んでください。
子供たちにとって、哲学について何も知らないからこそ、哲学との出会いが肝心です。
はじめに「わからない」というマイナスイメージが付いてしまうと、「哲学は難しい」という悪い先入観が植え付けられてしまいます。
哲学は、人生観や倫理観などに通じる思想です。
子供の頃から学ぶことで、将来何か壁にぶつかった時でも、自ら考え、乗り越えることができる大人になれるでしょう。
教育の一環で哲学を学ぶことはその子供にとって大きな意味を持ちます。
だからこそ、子供たちにはなるべく簡単に解説されている本から入ってもらって、哲学を身近なものに感じてもらえるようにすることがおすすめです。
大人でも、もしも哲学に苦手意識があるようなら迷わず子供用から試してみるのがお勧めです。
次に、大人初心者、哲学に触れたことがないという人の場合は、「そもそも哲学とは何か?」という箇所から説明してくれる哲学入門書がおすすめです。
そもそもまったくの初心者にとっては、「そもそも哲学って何?」「必要なの?」と疑問に思う人が多いのではないでしょうか。
まずは無理なく哲学の世界に導いてくれるような、易しい本から読み始めると良いでしょう。
近頃は、人気の絵本作家や漫画家によって描かれた挿絵入りの入門書や、全編漫画の入門書もあります。
こうした入門書は気軽に読めることが魅力で、あまり気負わずに哲学に触れてみたいという人にお勧めです。
活字ばかりだと理解しにくいですが、イラストや漫画で視覚的に説明されることで、断然理解がしやすくなります。
特に哲学は人物が多く登場するため、人物の写真やイラストがあるとイメージを掴みやすいかもしれませんね。
ギャグの要素が入っていたり、構成がシンプルな本も初心者には良いかもしれません。
「学生時代に哲学を習ったけれどその時にはよくわからなかった」という人にも入門書はお勧めです。
学校を卒業して何年か経って導入目的の書籍を読むと、学生時代に理解できなかったことが改めて理解しなおすことが出来ます。
元々哲学に苦手意識がある人が、先入観を消すために読む哲学書も初心者向けがおすすめです。
哲学の問い・議論だけ聞くと、私たちの日常生活には直接関わるものではないように思えるかもしれません。
けれども、哲学はどんなことを探求している学問なのか、どんな場合に使われるのかを教えてくれる入門書を読めば、哲学への興味がかきたてられる人も多くなるのではないかと思います。
学びたい内容・目的から選ぶ
とはいえ、ただでさえ難しそうな哲学書、読みはじめても途中で挫折してしまうかも…と、心配な人もいるかもしれませんね。
そんな時は、自分にとって興味があるテーマや学ぶ目的に合っているかというポイントで選ぶのがおすすめです。
普段気になっている疑問を解決できるという利点はもちろん、その中からさらに新しい発見ができるかもしれません。
例えば、特定の分野の思想に興味があるならば、地域や思想ごとの入門書がおすすめです。
西洋哲学、東洋哲学と大きく分けて学んでも良いでしょう。
さらに細分化してギリシャ哲学やイスラーム哲学、インド哲学、中国哲学などといった地域ごとの哲学を学んだり、自然哲学、実存主義、構造主義などのように思想ごとに学ぶのもお勧めです。
教科書のように地域ごとや思想ごとにまとめたものがあれば、その概要を把握するのにぴったりです。
日常生活の悩みや考え事の中で哲学に興味を持った人は、特定のテーマを取り上げている入門書がおすすめです。
入門書の中には、「人は何のために生きているのか」「幸福になるにはどうしたら良いか」「なぜ人は死ぬのか」といった根本的な疑問を扱ったものもあれば、「将来が不安」「お金が欲しい」といった身近なテーマまで、わかりやすく解説している本があります。
悩み事や求めているものがはっきりしているならば、特定の悩みをテーマにしている本を読むことで、効率的に求めている答えにたどり着けるかもしれませんね。
気になる哲学者の本から始めよう
「哲学の祖」と言われるソクラテス、永劫回帰の思想を提唱したニーチェ、実存主義のサルトル、孔子・孟子など諸子百家、…古今東西、世界中にはさまざまな思想を持つ哲学者が存在しました。
先人たちの思想を受け継いで考えを深めたり、時には批判をしながら現在に至るのが哲学という学問です。
もともと哲学に興味があり多少なりとも知識があるようなら、気になる哲学者の思想を扱っている本を読むことをお勧めします。
悩みを抱えて哲学に興味を持った人も、ひょっとしたら簡単な本よりも一歩踏み込んだ内容の本の方が、解決のヒントが得られるかもしれませんね。
歴史上これまでに何人もの哲学者が誕生してきました。
それぞれの哲学者たちは自身の考えに基づいて研究を重ね、その考え方を体系化しています。
そうした哲学者の思想を勉強する中で「この人の考えと自分の考えは近いかもしれない」と感じることがあるかもしれません。
このように、自分好みの哲学者を見つけ、より詳しく学ぶのも良いのではないでしょうか。
東洋で人気の哲学者は「孔子」です。
「孔子」は春秋戦国時代に活躍した思想家で、社会が大混乱の時代に西周初期の「礼」の復活を目指して活動していました。
徳を持った君主が国を治める徳治主義を提唱し、これを政治に取り入れるよう、時の為政者へたびたび進言していました。
彼の弟子たちが孔子の言葉をまとめたものが「論語」ですが現在でも哲学として学ばれています。
古代ギリシャのソクラテスは有名な哲学者の一人で合理主義を提唱しています。
対話によって相手の考えの矛盾を暴き出し、本質をより深く追及することにこだわった哲学者です。
ソクラテスは、人間の営みには「規範」があるとし、幸福な人生を全うするためにはどうすればよいかを考え続けたことで、人々に大きな影響をもたらした哲学者の一人です。
ソクラテスの弟子として有名な哲学者がプラトンです。
プラトンは、ソクラテスとは異なり、討論で相手を打ち負かすことにはそれほど興味がなかったため、人望があったといわれています。
彼は世界で初めて学校を作ったことでも知られています。
プラトンは、「イデア説」を提唱し、永遠で変わることのない世界を概念としてとらえようとした人物です。
抽象的との批判もありましたが、その著作の多くは、後世の哲学者・思想家たちに大きな影響を与えたことから、哲学史にはなくてはならない存在と言えます。
プラトンと同じく、今もなお様々な思想に大きな影響を与えたとされる人物の代表格がアリストテレスです。
彼はプラトンのイデア説を否定し、経験主義を唱えたほか、「目的因」「倫理学」なども説き、人間は政治的生物だと断じました。
君主国家を理想に掲げ、奴隷制の奨励や男尊女卑などを提唱し、現代にも残る思想の基を築きました。
近代の哲学者ジョン・ロックは、近代政治哲学に大きな影響を及ぼした人物です。
人間の観念は感覚したものの反映であり個人差があるとし、そうした個人差のある感覚を「第一性質」「第二性質」と定義しました。
また、国家が各人の生命や自由を侵害する場合は、政府を取り替えるべきだという「統治制二論」は、政治思想家として彼の考えを著した有名な著作の一つです。
フランスの政治思想家モンテスキューも有名です。
現代のフランスの憲法や価値観の根幹を築いた啓蒙主義者で、憲法史を学ぶ時には必ず語られるほど偉大な人物です。
彼は、イギリスの立憲政治をたたたえ、「三権分立」を唱えたことから、近代民主主義の祖と言われる存在です。
著書の「法の精神」はとても有名ですので、もしも哲学を好きになってきたら、ぜひ一度読むと良いでしょう。
哲学の歴史や流れを把握できるものに挑戦
本格的に哲学を学びたくなった時には、ぜひ哲学の歴史と全体的な流れが把握できる本を読んでみてください。
人の考えや価値観は時代とともに変化します。
前述しましたが、哲学は先人の思想を受けてそこからさらに思考を深め批判しながら時代に応じた答えを追い求めていくものです。
本格的に学ぶためには、哲学の歴史・流れを知ることがとても大切といえます。
入門書の中には、時系列で解説されているものや、哲学の歴史の流れをまとめているものがあります。
このような入門書は本格的に哲学を学ぶ時に概要を知る手助けとなります。
是非チェックしてみてください。
なぜ哲学を学ぶと良いのか?哲学を学ぶメリットとは
それでは哲学を学ぶとどんな良いことがあるのでしょうか。
日常生活や勉強、仕事に、哲学は役に立つのでしょうか。
その答えは、「YES」。大いに役立つといえます。
では具体的に哲学は日常の中でどんな時に役に立つのかを紹介します。
哲学を学ぶことのメリットのひとつは、「定義力」が身につくということす。
どんなことを行うにしてもその「目的」があることでしょう。
この目的の設定が間違っていると、取り組んでいるタスクの全体の価値が低くなります。
逆に目的を正しく理解していればそのタスク全体の価値が上がるのです。
「そもそもの顧客は誰?」「このことをする意味は何?」と、いつも確認しなおす思考としての「定義力」は哲学を学ぶ上でとても必要になる力です。
もう一つは「探究力」です。
哲学において、知的好奇心を持ち問題の全体を知ること、知ろうとすることは大切なことです。
例えば、何か企画を練る時には調査や分析が必要になります。
そしてそこには正しい「問い」を立てられることが重要です。
問いを立てられる力、「探求力」こそ、哲学を学ぶことでトレーニングできる能力といえます。
最後に哲学を学ぶことで最も得意にできること、それが「論理的思考」です。
原因と結果をつぶさに見ていく作業が論理的思考でが、この思考は話し合いの場面や、何か計画をたてるとき、さまざまなことを行うときに必要となる能力です。
また、論理的思考力を持っていると従来のイメージや常識にとらわれずに新しい発想で物事に取り組むことができます。
まとめ〜今なぜ「哲学」なのか?
哲学は学校で学ぶ教科にはありませんが、これから大人になって生きていく上で大いに参考になる考えが盛りだくさんに詰まった学問です。
一時期は「哲学」が役に立たないと敬遠され、大学の「哲学科」は受験生たちに人気のない時代もありました。
ところが近年、徐々に哲学に注目が集まりつつあります。
それはなぜでしょうか?
答えが用意されていない数々の難問に溢れた今の時代で、哲学的思考ができることは、それだけで旅をする時に地図を得ているようなものです。
なぜなら哲学の中には、人類の叡智とも言える偉大な哲学者の問いとその答えがぎっしりと詰まっているからです。
ぜひあなたも一度哲学書を手に取って、先人の思考に触れてみてはいかがでしょうか。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。