英語の勉強は大変ですよね。
そんなとき、「日本人は英語が苦手」という”うわさ”を聞いたりするとなんだか安心するものです。
「ああ、よかった。苦しんでいるのは自分だけじゃなかった」と胸をなでおろすかもしれません。
学校で習う読み書きはまだいいとしても、特に多くの日本人は「英語で話すのは大の苦手」という印象をもっているものです。
はたして、それらの説は本当なのでしょうか?
もし本当だとすると、その理由はいったい何なのでしょうか?
「日本人は英語が苦手」と言われる理由と、その解決策を解説します。
日本人は本当に英語が苦手?
「日本人は英語が苦手」という話をたまに耳にしますが、そもそもこれは本当なのでしょうか?
ひとくちに日本人といっても、その人口は1億人以上。
なかには語学が得意な人もいれば、苦手な人もいるでしょう。
語学に限らず、算数やスポーツなど、どの国のどんな分野でもそれは同じことです。
客観的な根拠があるとすると、それは統計が示すデータです。
英語の統一テストの点数が国際的な基準になります。
2021年 にEF(Education First)という団体が「国ごとの成人の英語力」を調べたところ、日本は112カ国中78位に位置していました。
ランキングは「EPI英語能力指数」によって<非常に高い・高い・標準的・低い・非常に低い>の5段階に区分され、日本は上から4番目の<低い>に分類されています。
この国際ランキングによると、日本はたしかに”中の下”になりますが、少なくとも<非常に低い>国々には入っていないようです。
ちなみに、その反対に「日本人が覚えやすい言語」については、以下の記事にまとめましたので合わせて読んでみてください。
英語力は「国力」と相関する!?
とはいうものの、ランキング下位に並んでいるのはアフガニスタン・イラク・カザフスタンなどのいわゆる「発展途上国」の国々です。
日本は先進国の中ではやはり低い順位であると言わざるを得ません。
他の国々をみると、欧米諸国は軒並み<非常に高い><高い>国となっており、日本の近隣の中国・韓国・香港でさえ<標準的>で32-49位にランクインしています。
この結果を鑑みると、地理的な位置や経済指標のわりに「日本人は英語が苦手」という説にはどうやら信憑性があるようです。
さらに気になることに、このテストが算出した英語能力指数は「人口当たりの輸出」「国民総所得」「イノベーション」と正の相関を示すことが分かっています。
つまり、計測された英語力は”総合的な国力”と結びついているといえます。
したがって、「日本人の英語力は乏しい」のが本当だとすると、国の将来にとっても由々しき事態だといえます。
言語能力は人類共通
では、どうしてこのような現象が生じるのでしょうか?
考えてみると、どの国の赤ん坊でも、大人になれば母国語を不自由なく話せるようになりますよね。
このことから分かるように、語学の習得に特別な才能はいりません。
人類がもつ「生まれながらにして言語を話すことができる能力」は、人間と動物を分け隔てる大きな特徴のひとつです。
高いコミュニケーション能力によってグループを形成する力こそ、人類が「地球上で最も繁栄する種族」になった力の源泉と言われています。
21世紀に入って以降、ヒトゲノム(DNAの情報)の詳細な研究によって、あらゆる人種の遺伝子情報が比較解析されました。
その結果、「身長や骨格、目や髪の色」といった外見的な特徴を除くと、人種による能力差は基本的にみられなかったそうです。
ということは人類である以上、言語コミュニケーションの能力に人種差はありません。
つまり、「〇〇人だから生まれつき語学力(語学を習得する能力)が低い」ということは考えにくいのです。
理由①文化的・地理的な要因
もともと備わっている言語能力に大きな人種差はないとすると、あと考えられるのは後天的な要因です。
日本のどのような環境要因が「英語が苦手」という現象を生んでいるのでしょうか?
まず、考えうるのは文化的・地理的な要因です。
たとえば、父親と母親の人種が異なる、いわゆるハーフのお子さんのいるご家庭を例にとってみましょう。
家庭内では異なる言語で会話が行われるため、その家庭で育ったお子さんは自然に2カ国語を話すことに長けたバイリンガルへと成長するでしょう。
日本は島国で基本的に単一民族国家であるため、このような家庭は珍しいものでした。
ふつうに暮らす限り、日本人とだけ日本語で会話していれば生活に困ることもありません。
近年ではハーフのお子さんも増えたとはいえ、他国と比べるとまだまだ日本人のみの家庭が占める割合が圧倒的に高いです。
歴史的にも日本は近代まで長らく、中国・韓国を除く外国との接点は基本的にありませんでした。
他国との侵略戦争も蒙古来襲や朝鮮出兵など数えるくらいです。
さらに政治的に大きいのは、江戸幕府が鎖国政策をとっていたことです。
思想・科学・工業が大きく発達した「近代」という重要な時代において、約260年間の長期にわたり、他国との接触を断っています。
したがって、日本では歴史的に「他国との交渉を必要としない」「他国の文化を取り入れなくてもやっていける」という空気が強く醸成され、その思想が未だに残っているといえます。
理由②言語学的な要因:日本語と英語の違い
「日本人は英語が苦手」説の別の根拠は、日本語と英語が根本的に違うというものです。
たしかに、日本語が語尾を変化させることで語を活用する「膠着語」であるのに対し、英語は動詞自体が活用変化する「屈折語」であり、言語学的分類が異なります。
また、語順は日本語が「主語(名詞)+目的語(修飾語)+述語(動詞)」であるのに対し、英語は「主語(名詞)+述語(動詞)+目的語(修飾語)」であり、感覚的になじみにくいところがあります。
この区分けでは「英語は日本語より中国語と親和性が高い」といえます。
日本語のユニークな特徴はどんなところでしょうか?
それは、英語にはない「助詞」の存在や、「オノマトペ」と呼ばれる擬音語・擬態語が非常に多い点です。
そしてなにより世界的に見ても珍しい特徴は「漢字・カタカナ・ひらがな」の3種類もの文字で構成されていることです。
日本人にとっては当たり前のことでも、他国からみるととても奇妙なことなのです。
こうした特徴をもつ日本語と親和性が高いのは中国語や韓国語です。
現代の中国語は必ずしも日本語と同じではありませんが、義務教育で漢字を習う日本人にとって、漢字が並ぶ中国語は初めて見かける言葉でも直観的に理解しやすいものです。
また、韓国語のハングル文字も平仮名に似ており、音感はどこか日本語に似ています。
以上のことから「外国人にとって日本語は最も覚えにくい」という説もあります。
いずれにしても、言語学的な違いは英語習得の難しさに結びつくといえます。
フランス語やドイツ語よりはマシ!?
ただ、語学の習得は元来難しいもの。
裏を返せば「英語だけが特別難しい外国語」というわけでもありません。
たとえば、フランス語やドイツ語の文章読解を考えてみましょう。
これらの言語は多くの日本人にとって馴染みのないものです。
Il fait beau aujourd’hui et ça fait du bien.
(今日はいい天気で気持ちがいいです)
フランス語の文に対応する日本語の文をみると、ひとつひとつの単語や文法をよく知らないため、「どの単語がどの日本語に対応するのか」さえ分かりづらいものです。
むしろ、英語がある程度読める人にとっては無理やり日本語に訳すより、英文に訳す方がわかりやすいといいます。
欧米系の言語は同じラテン語に起源をもつため単語や文法の類似性が高く、語の対応がとりやすいからです。
以下は、ラテン語に起源をもつ英単語の例です。
digest declare demonstrate
exaggerate insist suggest
persist plead proclaim
中学校・高校で習うような語彙が多く含まれていますね。
英語を知っていれば、これらの派生語は他言語からも意味を類推できるわけです。
他にも類似性はあります。
日本語に動詞は1種類だけですが、英語にはおなじみのbe動詞と一般動詞があり、フランス語やドイツ語にも同様の区分けがあります。
名詞の複数形は日本語にありませんが、欧米系の言語には複数形があります。
フランス語やドイツ語にはさらに男性名詞・女性名詞など、ややこしい区別が加わります。
フランス人やドイツ人と直接コミュニケーションをとりたければ、本来これらの難解な規則を覚える必要があります。
その点、英語さえ覚えておけば最低限どの国でも通じるので、便利なものです。
このように「英語には日本語と違う特性があって難しい」のはたしかですが、それはなにも英語に限ったことではなく、むしろ「英語は(万能なわりには)簡単な部類」と捉えることもできそうです。
理由③公的教育:学習時間が短い!
「日本人は英語が苦手」な大きな理由に環境要因、すなわち公的教育の問題があります。
他の国々と比べて教育環境にどんな問題があるのでしょうか?
細かいことを挙げるとキリがありません。
最大の問題は「日本人の英語の学習時間は少ない」ということです。
この点については、さまざまなところで指摘があります。
当然ながら、語学習得には大量の時間がかかるものです。
日本語を習得するのにかかった時間を思い出してみましょう。
誰でも小さい頃から10年近く、日本語の”シャワー”を毎日浴びるように育ち、また学校でも国語の授業は相当なウェイトを占めています。
ところが、英語の学習期間は中高6年間のみで、しかも週3-4時間がせいぜいだったはずです。
一方、近隣アジアの国々の母国語は日本語と大差ないのにもかかわらず、英語力が圧倒的に高い理由は「学習時間が長い」からです。
学校での公的教育、及び卒業後もかなりの時間を英語学習に割いているのです。
近年の教育改革で、日本の小学校でも英語を早い学年から取り組むようになりました。
文科省もようやく危機感を抱き始めたというわけです。
英語を話すのが苦手な理由は?
次いで、日本人が「英語を話す」のが苦手な理由を考えてみましょう。
まず、第一に発音の問題です。
日本語とアルファベットの音は異なるため、”LとR”の発音や、”Th”の発音、アクセントやイントネーションなどが根本的に違います。
そのため、「ちゃんと話したつもりでも相手に伝わらない」ことが頻繁に起こります。
ネイティブスピーカーと話す速度が圧倒的に違うのも、第二の大きな問題です。
英会話の先生でもない限り、現地の人が上手でない英語にじっくり付き合ってくれることはありません。
また、リスニングテストのようにゆったり分かりやすく話してくれることは稀で、現地に行くとカルチャーショックを受けます。
こうした経験を重ねるうちに自信をなくし、話すことをためらってしまうのです。
第三に、「英語4技能」のうち、スピーキングはそもそも最も難しいスキルだということです。
基礎力をある程度身につけないと、流暢に話せないのも無理はありません。
第四に、日本人固有のシャイな性格や、人前に出ることをあまり好まない性質です。
下手でもまわりの目を気にせず、場数を踏まないと上達は望めないでしょう。
英語が苦手な日本人、その解決策は?
では、「英語が苦手」説を覆す劇的な解決策はあるのでしょうか?
日本人全体の英語力を上げるには、国家レベルで英語学習に対する取り組みを抜本的に変えなくてはなりません。
英語教育の改革はまさにその例で、文科省の新学習指導要領によって小学校・中学校・高校のカリキュラムが強化されました。
その目的は言うまでもなく、「英語の学習時間を増やす」ことです。
小学校では「昔の中学校の内容」に近いレベル、中学校では「昔の高校の内容」に近いレベルにそれぞれ底上げがされました。
ただ、これほど劇的な変化は今までになく、教育現場に大きな動揺を与えています。
たとえば、2021年度の中学校1年生向けの新しい英語の教科書では単語量が大幅に増えました。
それにより、早々と授業についていけない生徒も続出しています。
英語力向上は耳障りの良い言葉ですが、「良薬は口に苦し」という通り、現場の当事者である教師や生徒にとって対応は簡単ではありません。
豊富な選択肢から自分に合うものを選ぶ
日本のこれまでの教育は平均レベルに合わせるものでしたが、今後は国際的に通用するレベルを目指すため、思い切った英語教育改革に踏み切りました。
ただ、今回の改革は日本人の平均的な英語力からすると現実離れしているという指摘もあります。
語弊を恐れずにいうと「ある一定の上位層」向けのカリキュラムになっており、厳しい言い方をすれば、ついていけない生徒のことをあまり考えていないのです。
こうしたやり方は教育論としては王道で本筋ですが、少なくとも従来の日本の教育にはなかったことから、多くの先生方や親御さんの認識との間に乖離が生じています。
現状を打開するには学校や塾に頼るだけでなく、ひとりひとりが自助努力で地道に英語力を上げていくことです。
「学習時間を長くする」ためにやれることは今や無数にあります。
洋画・洋書に親しむ、語彙を増やす、英語学習サイト・動画の活用、英語サークルやクラブへの加入など。
スピーキングについては、場数をこなすために手軽なオンライン英会話があります。
選択肢がかつてなく豊富な時代、日々の努力や心がけ、工夫によって英語力はいくらでも向上できます。
自分に合っていて、続けられそうなものを選びましょう。
日本人が「算数・数学が得意」なわけ
英語とは反対に、日本人は「算数・数学が得意」と言われています。
OECDの実施する学力比較調査において、日本は「数学的リテラシー」の項目で安定的に上位にランクインしているからです。
ちなみに日本人に限らず、中国やインドなどのアジア人は数学が得意な傾向があり、正確には「日本人は(英語圏の人々と比べて)算数・数学が得意」という仮説です。
”数の表記”が国ごとに異なっていた昔ならともかく、現代ではどの国でもアラビア数字の表記を用いています。
言語と違い、習得度は国によらず平等になるはずですが、差が生じるのはなぜでしょうか?
実は、ここでも「言語の違い」が関係しているようです。
たとえば、日本語では数字を「いち、にい、さん…」と1~2文字の短いひらがなの音節で表せるのに対し、英語では「one, two, three…」と比較的長い音節(スペル)になります。
いっけんわずかな差にみえますが、掛け算の初歩である「九九」を覚える際にこれは大きな差となります。
日本語では「ににんがし、しにがはち」というように数式を少ない文字数で表せるため、リズムよく暗唱することができるのです。
一方、同じ内容を英語で言うと「Two times two is four. Two times four is eight.」ともっさりした表現になり、覚えづらくなることは明らかです。
また、11以降は日本語では「じゅう・いち、じゅう・に、じゅう・さん…」と1~10までの呼び方を使い回せるのに対し、英語では「eleven, twelve, thirteen…」とスペルも複雑なうえ、新たな呼び方を覚えることが求められます。
些細な違いにも思えますが、5-7歳くらいの幼い子どもにとっては、この「数字を表す言葉」を覚える負荷の差が、算数・数学の習得に大きな影響を与えるようです。
それにより、各国の習熟度の違いが生まれると考えられます。
数学がもたらすヒント
このように、「九九」の段階では計算の習得に有利とされる日本語ですが、昔から数学に強かったわけではありません。
そもそも、現代に伝わる高度な数学は、近代まで日本にはほぼ存在しなかったと考えられています。
未知の数を求める際、江戸時代の日本で独自に発達したのが、鶴亀算や旅人算で知られる「和算」です。
今では和算は中心的に活用されていませんが、工夫が凝らされた優れた考え方であるため、今でも中学受験などに取り入れられています。
一方、西洋で発達した「方程式」は現代科学で用いる多くの計算の基礎になったため、日本でも中学校から習うようになりました。
その結果、もともと後発の日本も国際的に高い数学力を備えるようになったのです。
この意味では、自国の伝統にこだわらない優れた教育改革によって、ハンデを克服したともいえます。
数学の成功例は、日本人が英語力を今後高めるうえでヒントになるかもしれません。
まとめ
日本人の英語力は”中の下”であり、先進国では低い水準にあります。
「日本人は英語が苦手」である原因には文化的・地理的・言語学的な理由のほか、公的教育の問題が考えられます。
そのうち、教育環境は改善可能であり、数学は好例です。
解決法としては「英語に触れる時間を増やす」ことに尽き、昨今の英語教育改革、及び各々が学習への意識を高めることで克服できます。
多文化共生の時代、外国語の素養は異文化の理解に必須ですが、英語習得はその近道となります。
楽しくなければ何事も続きませんが、長年の英語教育の蓄積によって、工夫された有用な方法がさまざまに選べる時代です。
自分に合った教材・環境・学習法に即した継続的な英語学習を身につければ、「日本人は英語が得意」と言われる日がきっと来ることでしょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。