ワーキングメモリとは?脳科学から考える効率的な勉強法

【脳科学】ワーキングメモリとは?
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ワーキングメモリ」という言葉を耳にしたことはありますか?

ワーキングメモリとは、私たちが物事を覚えたり、考えたりするときに使われる脳の大切な機能のことです。

受験勉強を効率的に進めるためには、ワーキングメモリの活用が欠かせません。

ワーキングメモリについて知っておくと、お子さんの長所や短所をより深く知ることができます。

そして、どのように勉強を行えばよいか、対策を立てる良い参考になります。

一方、最近では発達障害のお子さんも増えてきています。

発達障害のお子さんにとっても、ワーキングメモリの考え方を知っておくことはとても有用です。

ワーキングメモリにおける考え方や活用法などについて解説していきます。

ワーキングメモリとは?

ワーキングメモリは認知心理学で用いられる概念で、「作業記憶」「作動記憶」とも呼ばれます。

脳の信号イメージ日常生活における「作業や動作に必要な情報を一時的に記憶・処理する能力」のことで、「短い時間に心の中で情報を覚えておきながら、同時に処理すること」に深く関係します。

ワーキングメモリがうまく働かないと、「頼まれ事をすぐに忘れてしまう」「同時に2つ以上のことをするのが苦手」のような症状が出ます。

思い当たるふしはありませんか?

もしかすると、小さなお子さんや高齢者、発達障害の方などを思い浮かべるかもしれません。

典型的には、小さなお子さんや発達障害の方であればワーキングメモリが未発達であり、高齢者であればワーキングメモリの機能が低下している、というふうに説明がつきます。

このように健全な記憶を妨げ、日常生活に支障をきたす原因となるのがワーキングメモリです。

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ワーキングメモリは長期記憶や知的能力ではありません!

ワーキングメモリは記憶のうち、短い時間=短期の記憶能力を指します。

記憶を保持できる時間は「数十秒程度」とされます。

一方、ワーキングメモリと対になる概念は、長い時間=長期にわたる記憶能力です。

記憶を保持できる時間は「数年~数十年」にも及びます。

ワーキングメモリと長期記憶は別物です。

たとえば、戦争体験を語る高齢者の方は、70年以上前の出来事をまるで昨日のことのように鮮明に覚えています。

しゃべり出すと回想エピソードは止まりません。

こうした長期の記憶、とりわけ衝撃的な体験の記憶は、長い年月が経ってもそう簡単に衰えるものではありません。

また逆に、小さいお子さんでも記憶力が抜群に優れた子もいます。

難しい漢字を読み書きできたり、円周率を何十桁も覚えていたり、英語をペラペラ話せるバイリンガルであったり…

ポイントを示す男性ワーキングメモリはそうした、いわゆる”記憶力”ではなく、日常生活に必要な類のものです。

たとえば、優れたお子さんでも頼まれ事を忘れるなど、大切な事柄の記憶が抜け落ちることは珍しくありませんが、それがワーキングメモリです。

年齢に関係なく、抜群の記憶力の持ち主でも、日常生活の些細なことを覚えるのが苦手な方はざらにいます。

むしろ、歴史上の”天才”と言われるような人物に限って、簡単なことを覚えていなかったりします。

約束を忘れていたり、食事を忘れていたり、入浴を忘れていたり…

普通の人では考えられないような面白い逸話が残っています。

そこまで極端ではないにしても、ワーキングメモリとある種の知的能力は直接関係ないことも多いのです。

ワーキングメモリの”マジカルナンバー7”

では、ワーキングメモリに限界はあるのでしょうか?

それについて調べた有名な心理実験があります。

アメリカの心理学者、ジョージ・ミラーによる「マジカルナンバー7±2」 という1956 年の実験です。

能の記憶この実験では、「人間の脳は平均して7個(5個~9個)のものしかいっぺんに覚えられない」という興味深い結果が得られました。

たとえば、数字の場合、どれだけがんばっても「3・2・5・1・9・0・8」の7個しか一度に覚えられないということです。

さらに、ワーキングメモリには単純な記憶力ではなく、処理能力も含まれます。

「3・2・5・1・9・0・8」をそのまま足し算すると、「3+2+5+1+9+0+8=28」となりますね。

それ以上、多くの数(8~9つ以上)の暗算は基本的にできないということです。

専門的な分類:記憶力と処理能力

多少ややこしいのですが、この例のようにワーキングメモリは「短期記憶」と「作業記憶(ワーキングメモリ)」に分類されます。

前者は単純な記憶力、後者が処理能力の意味になります。

短期記憶は「数字や単語、文字を一時的に頭にメモして覚える」ことです。

一方、作業記憶は「メモした記憶を保持しつつ、それらを使って脳が情報処理(=作業)をすること」にあたり、単なる記憶力より「処理能力」の意味合いがあります。

さらに、短期記憶はその内容によって「言語的短期記憶」「視空間的短期記憶」に分けられます。

端的には、前者が言葉に関係するもの、後者はそれ以外のものです。

作業記憶も同様に「言語性ワーキングメモリ」「視空間性ワーキングメモリ」に分けられます。

まとめると、ワーキングメモリは正確には4つの側面(言語的短期記憶・視空間的短期記憶・言語性ワーキングメモリ・視空間性ワーキングメモリ)があることになります。

複雑さを避けるため、以下ではこれらを厳密に区別せず、単に「ワーキングメモリ」と記載します。

コンピュータにもあるワーキングメモリ

コンピュータはある程度、人間の認知機構をモデルに作られているため、両者には機能的に重なる部分があります。

コンピューターやスマートフォンにたとえると、ワーキングメモリはその名の通り「メモリ(RAM)」にあたります。

スマートフォンを購入する際、「メモリ:4G(ギガバイト)」のような表示を見たことがあるかと思います。

「メモリ」は一時的な処理をするための短期記憶装置であり、演算装置(CPU)や、外部記憶装置(ROM、ハードディスク)とは違います。

CPUが頭の回転、ハードディスクが長期記憶だとすると、 メモリはまさに「短期記憶に基づく処理能力」を担っているわけです。

ワーキングメモリが小さいと長文が読めなくなる!?

では、お子さんのワーキングメモリが低下している場合、どのような問題が起こるのでしょうか?

日常生活は別として、日々の学習や受験においてどのような支障が出るのでしょうか?

読解力典型的な例は、国語や英語における長文読解力の低下です。

国語の設問を解くケースを考えてみましょう。

設問を解くには、当然ですが、問題文を正しく読めなければなりません。

文章の難易度が上がるにつれて、問題文も長くなります。

すると、ワーキングメモリの能力が低い場合、問題文の意味や出題者の意図を正しく読み取れなくなってきます。

どういうことでしょうか?

読んだ文章をすぐ忘れてしまい、文章の前後関係、いわゆる文脈をつかめないのです。

日本語は主語と述語が離れている場合が多いため、文が長くなると、ときにはたった一文さえ意味を捉えられなくなります。

また、英語の場合も関係代名詞が多く含まれる長い文章は意味が読み取りづらくなります。

問題文を読み終えると、次は本文を読むことになります。

このプロセスでもワーキングメモリの能力が低いと、困難が生じます。

本文を読んでいるうちに問題文を忘れてしまい、「どこを読めばいいんだっけ…」と迷ってしまうのです。

本文を読み終えたのち、再び問題文の選択肢を眺めると、またもや困難が生じます。

今度は本文の内容を忘れてしまうので、「何て書いてあったっけ…」と再び混乱します。

こうして文章の本質的な理解とは別に、ワーキングメモリの不足によって読解力低下に陥ってしまうのです。

読解力は他の教科にも影響する

勉強が遅れる学生のイメージ国語や英語の成績が芳しくなく、伸び悩む受験生は少なくありません。

国語なら漢字・書き取り・短文理解、英語ならスペリング・語彙・発音・文法などに大きな問題がないにもかかわらず、長文読解のみが不得意な場合、ワーキングメモリの問題を疑うとよいでしょう。

また、算数・数学でも、計算問題が得意なのに文章題や図形の問題になると苦手、というケースは非常に多くみられます。

このケースでも、ワーキングメモリが原因の場合があります。

この手の問題もある程度、文章が読みこなせないと設問自体が理解できないからです。

苦手意識や語彙力不足などを別にすれば、長く難しい文章を読めない主な理由はワーキングメモリの不足です。

そうしたお子さんの場合、問題が易しいうちはなんとか対処できても、難易度が上がってくるとだんだん対応できなくなってきます。

問題文が読みこなせないことは、受験する上で致命的です。

どんな教科も「国語力が大切」と言われるのはそのためです。

読解力低下とSNS

SNSがこれほど盛んになる以前、インターネットではブログ文化が栄えました。

ブログは一世を風靡しましたが、利用人口はある一定の割合にとどまりました。

その後、ツイッターやインスタグラムが登場すると、あっという間に浸透したのはどうしてでしょうか?

ツイッターは140字の短文で済み、インスタグラムは写真で視覚的に理解しやすいからです。

今の時代、多くの人は長文を読むことに慣れておらず、そのことが読解力低下に拍車をかけています。

昨今、子どもたちの読解力低下が叫ばれる理由も、こうしたSNSやさまざまな娯楽の登場で「読書量が落ちている」ためだと言われます。

国立情報学研究所の新井紀子氏の著作『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』でもこの点が指摘されています。

したがって、日常的に読書に親しみ、読書量を増やすことがワーキングメモリの改善に直結すると考えられています。

発達障害とワーキングメモリ

手つなぎ近年、発達障害のお子さんが増えていますが、発達障害とワーキングメモリには密接な関連があります。

発達障害のお子さんが指示を理解できず、ケアレスミスが増えてしまったり、勉強が苦手な傾向がある原因として、ワーキングメモリの低下が指摘されているのです。

たとえば、発達障害のひとつ、注意欠如・多動症(ADHD)ではワーキングメモリに関わる脳の部位に機能低下がみられます。

言語理解や知覚推理など他の能力は平均的にもかかわらず、発達障害のお子さんが勉強を苦手になってしまうのはそのためです。

また、学習だけでなく、プリントを忘れたり、買い物が苦手だったり、人の話を聞けないなど、ワーキングメモリの低下は日常生活の支障の原因にもなっています。

ワーキングメモリの裏技

ワーキングメモリの容量が限られているとすると、できることは何でしょうか?

実は、裏技があります。

ポイントそれは、記憶のまとまり(チャンク)を作ることです。

たとえば、「とおのずみむこびとずわかやけいるふ」という17文字の平仮名を覚えなければならない、としましょう。

全く意味不明な文で、覚えるのはとても困難ですね。

ところが、逆から読んでみると、どうでしょう?

「ふるいけやかわずとびこむみずのおと」になります。

「古池や蛙飛び込む水の音」、これは有名な松尾芭蕉の俳句ですね。

この場合、元の文と違い、「ふるいけ」「かわず」「とびこむ」「みず」「おと」という風に単語単位に分けられるので、5個の単語と2つの助詞「や」「の」を覚えればよいことになります。

合わせて計7つなので、ワーキングメモリー的に覚えるにもピッタリなのが俳句の長さというわけですね。

この裏技について、ミラーはこう言っています。

記憶の過程とは、単にチャンク(ひとまとまりになる項目の集まり)を形成することかもしれない。少数でも十分なチャンクがあれば、すべての項目を思い出すことができるようになる

つまり、ワーキングメモリーの限界を突破し、たくさんの物事を覚える=記憶するコツは「チャンクをうまく作れるか」どうかにかかっているのです。

▼他にも「記憶の宮殿」と呼ばれる面白い記憶術を以下のコラムで紹介しています。

チャンク化理論の実例

この方法は、ワーキングメモリーの個人差によらず、誰でも使えるやり方です。

他の実例をご紹介しましょう。

往年のディズニー映画『メリー・ポピンズ』に登場する有名な長い英単語に「supercalifragilisticexpialidocious」があります。

「チャンク化理論」にしたがって、このスペルを覚えようとすると、「super」「cali」「fragi」「listic」「expiali」「docious」のように、チャンクに分けると思い出しやすくなります。

この方法を利用しているのが、いわゆる語呂合わせですね。

かつて、「いいくに(1192)つくろう鎌倉幕府」という語呂合わせがありました。

現在では歴史認識が変わり、「いいはこ(1185)つくろう鎌倉幕府」に訂正されているので注意が必要です。

きれいで代表的な語呂合わせでしたが、悲しいことに鎌倉時代も”箱物行政”になってしまいました。

それはともかく、日常使う言葉に置き換えると、馴染みがなく意味がわかりにくい言葉の羅列を大量に覚える際にたいへん役立ちます。

また、中高の理科(化学)では、「水兵リーベ僕の船」「リアカー無きケー村 馬力で勝とうと努力するもくれない」といった語呂合わせが昔から知られています。

元素の周期表や炎症反応を記憶するこれらのテクニックには、「覚えやすいチャンクのかたまりにする」という科学的裏付けがあったのです。

以上のように、「チャンク化理論」は国語・数学・英語・歴史・化学など多くの科目に応用できます。

受験勉強では語呂合わせを含む”チャンク化”を駆使し、ワーキングメモリーの容量限界を乗り越えることがひとつのカギになるでしょう。

脳を鍛えてワーキングメモリを向上

植物の矢印真の実力をつけるためには、ワーキングメモリを改善する必要があります。

ワーキングメモリは遺伝子で決まる先天的な部分もある一方、後天的に伸ばす(=鍛えられる)ことが知られています。

「読書習慣をつける」以外に、どのようにワーキングメモリを鍛えればよいのでしょうか?

大脳生理学的には、脳は主に言語を司る左脳と、主に直観や創造力を司る右脳に分かれています。

このうち、左脳は右半身を、右脳は左半身をそれぞれ支配するため、身体の片側ずつから感覚入力を受けています。

日本人は右利きの人が多いため、多くの人は左脳だけが鍛えられます。

よって、比較的未発達な右脳を鍛えるには強制的に左手を使う必要があります。

両手を使う作業が有効で、楽器の演奏、たとえばピアノのレッスンなどが良い例です。

楽器を上手に演奏するには、譜面を先読みする必要もあり、このこともワーキングメモリの能力を促進する訓練になります。

遊ぶことも勉強のうち?

ワーキングメモリを担う場所は、より具体的には大脳前部にある前頭葉の「前頭前野」という部位です。

最近、教育業界では「非認知能力」が注目されていますが、その発達にもワーキングメモリが関わっています。

ワーキングメモリが向上すると、前頭葉が発達するため非認知能力が上がり、自主性や社会性も高まるというわけです。

”脳を鍛える”と聞くと、物理的に鍛えることを想像してしまいますが、そうではありません。

ランニングする女性方法としては、「運動」「社交性」「知的活動」「バランスのよい食生活」が知られています。

「運動」「バランスのよい食生活」は基本的生活習慣なので説明は省きますが、「知的活動」には毎日の工夫が必要です。

単に「知的活動」といっても、必ずしも本を読んだり、問題集を解いたり、勉強時間を増やすことだけではありません。

ときにはアウトドアやレジャー、旅行など休暇における非日常的な体験がワーキングメモリを高めてくれます。

とはいえ、必ずしも非日常的な活動が必要なわけではありません。

習慣のルーティン化をなるべく避け、いつもと違う道を通ったり、やったことのないゲームやパズルに挑戦するなど、心がけ次第でいつでも「知的活動」は高められます。

「社交性」もまた心がけ次第です。

人付き合いは時間をとられて面倒くさいから…と定常的に断るのではなく、どんどん意欲的に参加することが大事です。

たくさんの人の顔と名前を覚える直接的な理由もありますが、異なる趣味・嗜好をもった人たちとの付き合いは脳の柔軟性も高めてくれます。

その意味で、部活動やクラブ活動といった課外活動も代え難い良さがあります。

地域のお祭りやボランティア活動に参加し、近所の方と交流を図るのも良いでしょう。

周辺の歴史や環境について考えるよいきっかけにもなります。

昔から「よく遊び、よく学べ」と言われますが、机上の学習以外の時間も大切なのは気分転換のためだけでなく、”脳を鍛える”効果があるからなのです。

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まとめ

ワーキングメモリは短期の作業に必要な記憶能力、及びそれに基づく脳の処理能力です。

ワーキングメモリが不足すると日常生活に支障が出るだけでなく、主に読解力の低下によって、総合的な成績や受験に大きな負の影響を及ぼします。

ワーキングメモリの容量には限界があるものの、チャンク化理論に従って「語呂合わせ」などのテクニックを駆使した効率的な勉強法で、その限界を乗り越えることが可能です。

また、ワーキングメモリは後天的に伸ばすことが可能で、読書・生活習慣の改善・非日常的体験・課外活動・楽器の練習などで、根本的に鍛えることができます。

使い方次第で受験生の強い味方となるワーキングメモリの性質をよく理解し、日々の学習に活用していきましょう。

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この記事を監修した人

チーム個別指導塾
「大成会」代表
池端 祐次

2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。

「大成会 西18丁目教室」
教室長
日野浦 大河

2017年北海道教育大学卒、中学・高校の社会科教員免許保持。現在は2023年8月にオープンした「大成会 西18丁目教室」の教室長を勤める。家庭教師時代の経験から、成績の伸びを決める一番大きなものは生徒さん自身のやる気であると痛感し、そのやる気を刺激する方法を日々模索している。


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公開日:2021年12月28日 更新日:2024年2月28日
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