大学での学びは、専門の分野について深く学び・研究するということが、高校までの学習と大きく異なる点ということは、高校生のみなさんでも、なんとなく理解しているのではないでしょうか。
自分が今興味を持っている学問や、好きな科目からだけ進路を決めてしまうのではなく、自分が将来なりたい職業や、やってみたい仕事と照らし合わせて、学部や大学を選ぶということもとても大切です。
卒業後の進路の面や資格取得の面から、医療系の学部・学科については、以前からとても人気がありましたが、そんな中でも特に近年注目を集めているのが、メンタルヘルス研究の最前線、「心理学」です。
「心理学部」では、実際どんなことを学び、将来どんな道があるのか、「心理学部」に入るためにはどんな勉強をしたら良いかを、ここではお話ししたいと思います。
「心理学」ってどんな学問?どんな種類があるの?
「心理学」とひとことにいっても、実に様々な種類の研究分野があります。
代表的なものをここにあげてみましょう。
発達心理学
発達心理学とは、人間の一生(ライフサイクル)の中での心の発達の研究をいいます。
幼児期や青年期など、各発達段階における心理がどのように成長とともに変化するのか、赤ん坊と大人では知覚にどのような違いがあるのか、思春期の子どもの心理には何が起こっているのか、「発達」という観点で人間の心理を研究する分野です。
発達心理学を学ぶことは、教育や育児に携わる仕事につきたいと思っている人たちだけでなく、将来自分の子供を育てる時にも大いに役に立つ分野です。
教育心理学
教育心理学とは、学校だけでなく、家庭やそのほかの環境での教育の効果を高める方法を研究する分野です。
上手な教え方やコミュニケーション方法を知るためには、教えられる側の心理を理解する教育心理学の知見が不可欠です。
発達心理学と同じように、将来教育関連の職につきたい人や、子育てなどに、大いに役に立つ分野です。
社会心理学
社会心理学とは、個人は社会や集団からどのような影響を受けるのかを研究する分野です。
「社会」とは、企業や国といった、大きな枠組みだけをいうのではではなく、家庭や学校・友人関係といった、小さな集団のことも含まれます。
その中での人間の社会的行動についての研究をします。
近年社会問題となっている、経済格差・少子高齢化・高度情報社会化などの社会の変化が、私たちの生き方・考え方をどう変えるのか、このような社会全体に関する大きなテーマだけではありません。
親子や友だちなどの人間関係が、私たちにどのように影響しているのか、といった身近な問題についても研究します。
このように、私たちの社会を取り巻く様々なテーマを学びたい人に、社会心理学はおすすめです。
認知心理学
認知心理学は、人間の心を構成しているといわれる「知識」「感情」「意志」のうちの「知識」(知覚・学習・記憶・思考など)のアプローチで人間心理を研究する分野です。
たとえば、「文字の認識」についての研究テーマがあります。
書く人のクセや字体によって、形が異なる平仮名やアルファベットといった文字。
なぜ私たちは、それぞれの文字について共通の文字として認識できるのでしょうか。
認知心理学では、このような脳による「認知(認識)」の問題に取り組んでいます。
文字だけでなく、音や言語の識別などについても研究対象としています。
犯罪心理学
犯罪心理学は、犯罪や犯罪者の心理・動機について研究する分野です。
凶悪事件を引き起こした容疑者の心理について、テレビなどで心理学者が分析して解説していることがありますね。
皆さんも一度は見たことがあるのではないでしょうか。
犯罪心理学を研究することは、新たな犯罪が起きるのを予防することや、罪を犯した人を更生させるのに役立っています。
臨床心理学
臨床心理学は、カウンセリングや心理療法についての研究のことを言います。
専門職の臨床心理士や心理カウンセラーとして働くために必要なのが、臨床心理学の知識です。
具体的には、クライアントが抱える精神的な問題を解決する方法についての研究を行います。
臨床心理学はクライアントの「治療」が目的なので、今まで紹介したほかの心理学の分野と比べると、実践的な面が強いといえます。
クライアントが抱える様々な種類の悩みを解決するためには、発達心理学や社会心理学など、各分野の基礎知識だけでなく、大脳生理学などの医学的な知識までもが必要となってきます。
このような幅広い分野の研究も臨床心理学の範囲に含まれます。
ここで紹介したもの以外にも、研究対象やアプローチごとに多くの心理学ジャンルが存在します。
人間の行動に焦点を置いた「行動心理学」、特定の年齢層の心理に特化した「児童心理学」・「青年心理学」。
最近話題になっている、「今、このとき」を前向きに生きることにより心の回復を目指す「アドラー心理学」など。
「心理学」は、人間の行動のもととなる心の動きについての研究なので、工学や理学、医学などとの結びつきも深く、マーケティングや教育などの分野でも、これから発展性が見込まれる学問です。
このように「心理学」という学問は、専門の分野がじつに多岐にわたっています。
自分はどの分野の心理学の勉強をしたいのか、ざっくりとでもいいので絞り込んでください。
どの分野の心理学について学びたいのか、そのためには、どこの大学の、どの先生についたら、詳しく学ぶことができるのかをリサーチする必要があります。
各大学で研究が進んでいる分野や、得意な分野は異なりますので、まずは自分がどの種類の心理学について学びたいのかを明確にすることから始めてください。
「心理学部」ではどんなことを学ぶの?どんな資格が取得できるの?
学びたい心理学の種類や、興味があるジャンルについて絞り込むことができたら、次は大学ごとの特色を調べてみましょう。
ここでは、代表的な心理学部のある大学をご紹介します。
同志社大学
神経・行動心理学領域/臨床・社会心理学領域/発達・教育心理学領域といった、幅広い心理学の研究がされています。
同志社大学心理学部を卒業していて、在学期間に認定基準を満たす所定の単位を取得した卒業生は、認定心理士、認定心理士(心理調査)の認定申請ができます。
他にも2017年に新たに施行された国家資格「公認心理師」の資格取得ができる教育体制が整っています。
また、同志社大学大学院の心理学研究科臨床心理学コースを修了したのち、所定の条件を満たしている修了生は、「臨床心理士」資格審査を受験する資格を得ることができます。
※参考:同志社大学心理学部
明治学院大学
心理学部には、心理学科と教育発達学科があります。
心理学科のカリキュラムでは、基礎領域と臨床領域の科目をバランスよく配置し、4年間の学びを通して「心理支援力の育成」を目指しています。
教育発達学科では、基盤である心理学に加え、教育学(初等教育)、障害科学を融合させた「教育発達学」をもとに、現代の子どもをめぐる心理的課題や、心の発達を支える専門性を身につけることを目指しています。
ここでも、「認定心理士」「臨床心理士」といった資格取得のためのカリキュラムが整っています。
※参考:明治学院大学心理学部
中京大学
心理学部では、基礎的な心理学全般の知識を習得したのちに、以下の4つの専門領域について深く学ぶことになります。
心の情報処理と脳の働きの研究をする「実験心理学」。
現実社会における心の働きの理解である「応用心理学」。
心の多様性と諸問題の研究である「臨床心理学」。
心の発達と変化の研究をする「発達心理学」です。
※参考:中京大学心理学部
愛知淑徳大学
心理学部では以下の4つの領域について学ぶことができます。
人間がものごとを認識するメカニズムを探究する「生理・認知心理学領域」。
さまざまな人間関係の力学を研究する「社会心理学領域」。
子どもが大人になり、年を重ねていく生涯の心の変化を見つめる「発達心理学領域」。
「生きづらさ」を抱える人を支える「臨床心理学領域」。
ここでは、すべての学生が幅広い心理学の専門知識を身につけるために、あえてコース分けをせず、「人のこころ」を総合的に理解できるようなカリキュラムを構成しています。
また、愛知淑徳大学大学院 心理医療科学研究科 臨床心理学コースとの連携を強化し、「公認心理師」や「臨床心理士」の資格取得のサポート体制が整っています。
※参考:愛知淑徳大学心理学部
追手門学院大学
2021年に新しい理工系分野の学びである、「人工知能・認知科学専攻」がスタートします。
ここでは、これまで長年培ってきた心理学の知見や実績を活かし、人の暮らしの中で人のために働くAIの発展と、AIを使いこなせる人材の育成を目的としています。
従来の「心理学専攻」コースでは、心理学の専門分野に関わる「社会・犯罪心理学」「認知・脳神経科学」「発達・教育心理学」「臨床心理学」の4つのコースと、自分の生き方に応じた「ビジネスリサーチ」「メンタルケア」「チャイルドサポート」の3つのプログラムを設けています。
国家資格である「公認心理師」資格取得のためのサポート体制も充実しています。
※参考:追手門学院大学心理学部
帝塚山大学
人の知覚や認識のメカニズムを研究する「実験心理」、人の行動やより優れたパフォーマンスを研究する「社会・応用心理」、成長段階に応じた心のケアとより良い人生設計を探る「臨床・発達心理」といった心理学を多角的に学びます。
また、体験や実践にて、カウンセリングなどに役立つコミュニケーションスキルを身に付けていきます。
ここでの所定の単位を取得することで、資格取得可能または受験資格を得られる資格は、「公認心理師」「臨床心理士」「産業カウンセラー」「児童指導員任用資格」「心理相談員(要専門研修受講)」「認定心理士」があります。
「心理学部」がある大学はほかにも、立正大学、駿河台大学、東京福祉大学、吉備国際大学などがあります。
※参考:帝塚山大学心理学部
「心理学部」を受験したい!どんな勉強をしておくといいの?
希望進路として「心理学部」を候補の一つに決めたら、次に受験科目や入学後に必要になる教科について調べましょう。
高校生のうちに、具体的にはどのような科目に力を入れて学習を進めたらよいのでしょうか。
「心理学」とは、統計を用いてできるだけ自然科学的に妥当な手法で、人の心を明らかにしようとする研究です。
したがって、基礎的な数学の知識、特に計学の基礎的理解は、どの専門領域でも必須といえます。
高校で学ぶ程度の基礎的な数学の知識を修得していることは、最低条件と言えるでしょう。
また、どの学部、専門分野でもいえることですが、重要な情報・知見の受信・発信などを英語で行うことは一般的になっています。
また、日本語の読解・作文・会話についての高度な運用スキルは、提示された課題を行う上でも不可欠なものです。
実践的な国語・英語のスキルも必ず必要となります。
以上に加え、「心理学」では、人間に対する興味と、さまざまな活動に関する知的好奇心、偏見を持たずに人間の多様性を受け入れる柔軟性と想像力が必要です。
幅広く教養を身に付けることや、様々なことに挑戦する意欲を持って学習に臨んでください。
参考までに、主な大学の2021年一般入試科目は、以下のようになっています。(一例です)
明治学院大学心理学部は、国語・地歴公民/数学・外国語の3教科。
中京大学心理学部は、国語・地歴公民/数学・外国語の3教科。
それぞれ大学によって受験科目が異なりますので、希望する大学が決まったら、受験に合わせた学習計画を立て、対策を練るようにしましょう。
心理学部以外でも心理学は学べる!
ここまで、「心理学部」について紹介をしてきましたが、心理学という学問は、最初に述べたとおり、とてもスケールが広い学問になるため、様々な他の領域と重なる研究が多いのが特徴です。
したがって、「心理学部」という独立した学部にこだわらなくても、心理学を学ぶことができる大学は実は数多くあります。
以下に、主に心理学を専攻することができる大学をご紹介します。
国公立大学
- 筑波大学 人間学群 心理学類
- 東京大学 教育学部 総合教育科学科 心身発達科学専修 教育心理学コース
- 東京大学 教育学部 総合教育科学科 心身発達科学専修 身体教育学コース
- 千葉大学 文学部 行動科学科 心理学講座・認知情報科学講座
- 千葉大学 教育学部 小学校教員養成課程 教育心理選修
- お茶の水女子大学 文教育学部 人間社会科学科 心理学コース
- お茶の水女子大学 生活科学部 人間生活学科 発達臨床心理学講座
- 横浜国立大学 教育人間科学部 学校教育課程 人間形成コース 心理発達領域
- 首都大学東京 都市教養学部 都市教養学科 人文・社会系 心理学・教育学コース
私立大学
- 早稲田大学 文学学術院 文学部 心理学教室
- 慶應義塾大学 文学部 心理学専攻
- 上智大学 総合人間科学部 心理学科
- 日本大学 文理学部 心理学科
- 法政大学 文学部 心理学科
- 法政大学 現代福祉学部 臨床心理学科
- 国際基督教大学 教養学部 心理学
- 東海大学 文学部 心理・社会学科
- 東洋大学 社会学部 社会心理学科
など。
このような大学・専攻コースがあることも踏まえ、進路決定の参考にしてみてください。
「心理学部」卒業後の進路は
「心理学」を専門で学んだ先、どのような進路につくことが多いのでしょうか。
もちろん、心理学といった専門にこだわらず、一般企業や公務員などに就職する卒業生も多くいますが、ここでは、一般的に心理学を学ぶことで取得できる資格や、専門の職業について紹介します。
公認心理師
年収約300~400万円
「公認心理師」は、文部科学省・厚生労働省共管、日本初の心理職国家資格で、心理師と記載できる唯一の資格となります。
「公認心理師法」は2015年9月に可決成立、2017年度施行された新しい資格になります。
「公認心理師」の資格試験を受験するためには、大学で4年間学び、さらに大学院で必要な科目を履修する必要があります。
大学院へ進学しない場合には、文部科学省・厚生労働省の指定する施設で2年以上の実務経験があれば受験ができます。
「公認心理師」国家試験に合格すると、「公認心理師」「心理師」の名称を用いて仕事をすることが可能になりますので、心理学を学び研究する上での目標として高く掲げてみるのはどうでしょうか。
もし、国家資格である「公認心理師」資格取得を目標にするならば、大学の履修カリキュラムが「公認心理師」に対応しているかどうかを、大学のホームページやパンフレットで個別にしっかり確認しましょう。
臨床心理士
年収約300~400万円
「臨床心理士」の資格は、臨床心理士指定大学院を修了する必要があります。
大学の卒業学部を問わず、「臨床心理士」指定の大学院を受験することができます。
「公認心理師」が国家資格であるのに対して、「臨床心理士」は民間資格になり、5年ごとの更新が必要になります。
「臨床心理士は、人(クライエント)にかかわり、人(クライエント)に影響を与える専門家です。しかし、医師や教師と異なることは、あくまでもクライエント自身の固有な、いわばクライエントの数だけある、多種多様な価値観を尊重しつつ、その人の自己実現をお手伝いしようとする専門家なのです。」
クライアントの多様な心理的悩みに寄り添い、ともに解決への方向性を示してクライアントとともに伴走していくことが「臨床心理士」の役目です。
「臨床心理士」の資格取得をすることで、心理アセスメントや心理カウンセリングなどの業務ができるようになります。
教育、医療、保健、福祉、司法、産業など活動領域は多岐に渡り、幅広い分野での活躍が期待される職業です。
学校心理士
年収220~560万円
幼稚園や小中高等学校、特別支援学校などで、児童や生徒、保護者や教員の相談業務にあたるのが「学校心理士」です。
地域によっては、スクールカウンセラーや相談員として任用されることもあります。
認定心理士
年収約300~400万円
日本心理学会認定の民間資格です。
「認定心理士」は、資格試験などはなく、4年制大学で一定数の心理学の単位を修得すれば資格取得が可能です。
大学院卒業を必須とするものでも、職業名として扱われるものでもなく、あくまでも「心理学の基礎資格」として位置づけられている資格です。
代表的な心理学系の資格を紹介しましたが、このほかにも、音楽療法士、認定カウンセラー、産業カウンセラー、臨床発達心理士、ガイダンスカウンセラー、ケアストレスカウンセラーなど、実に様々な心理に関する資格や職業が存在します。
社会人になってから、こうした資格を新たに取得するという人も多く、それだけカウンセリングや心理学の専門知識は、世の人々にとってのニーズが高まっているあかしといえるでしょう。
もし、カウンセラーなどの心理専門の職業に就くことがなくても、大学や大学院、もしくは独学でも、「心理学」という、人の心について学び得た知識は、日常生活をスムーズにおくり、良好な対人関係を築くことや、子育てや家族・職場の人間関係、今後の人生の中で様々な悩みを乗り越えていくうえで、大いに役に立つことでしょう。
その他、社会福祉士、精神保健福祉士など様々な資格があり、病院・クリニック・企業など活躍の場もたくさんあります。
上記では年収もご紹介しましたが、経験やその他の資格などの条件で異なるため、あくまで目安としてお考え下さい。
まとめ~進学先の選択肢のひとつに~
以上が心理学部とその後の進路・就職先についての解説でした。
将来、身に付けた心理学を生かして仕事をしてみたい!というあなたは、心理学部のある大学を目指すという進路があることを知って頂けたなら幸いです。
まだ進路が決まらず、心理学に少しでも興味がある方は、進学先の選択肢のひとつに加えてみてはいかがでしょうか。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。