「記憶力さえよければ、学力が上がるのに」と思っている人はいませんか。
「記憶力は先天的に備わったものだから、今さらどうしようもない」と思っている人はいませんか。
そのような方々は、「脳のシナプス」を鍛えることで、記憶力が向上することがある、ことを知っておいてください。
記憶力が向上すると、理論上は、勉強時間が同じでも、学力が上がります。
日本では、学力は筆記試験で測られることが多いので、勉強で記憶したことをテストのときに思い出すことができれば、よい点数を取ることができるからです。
シナプスを鍛えて、記憶力をアップして、学力を上げましょう。
過去にも記憶力UPに役立つ勉強法を紹介していますので、こちらも合わせて御覧ください。
記憶のメカニズムとシナプスの関係
まずは、記憶とは何なのかを紹介します。
そして、脳のシナプスがどのような役割を持っていて、記憶にどのように関わるのか解説します。
シナプスとは
記憶を理解するには、神経細胞とシナプスを知っておく必要があります。
手の指が熱湯に触ったとき、「熱い」と感じると同時に手を引っ込めることができるのは、指先の感覚がキャッチした温度情報が、神経を通じて脳に届き、脳が「手を引っ込めろ」という指令を出し、その指令が神経を通じて手の筋肉に伝わり、手が動くからです。
人が、外の環境から情報を得て行動する、という点では、記憶も、熱湯に触れた手を引っ込めるのも同じ行為です。
この経路を使うことで、人は、外の環境の情報を得て適切な行動を取ったり、考えたりすることができます。
脳の働きも、感覚の働きも重要なのですが、この記事では「神経」に注目していきます。
神経は「感覚」や「脳の判断や命令」を伝達していて、インターネットで使われる光回線のようなものです。
光回線は、A地点にあるスマホでつくった電子メールを、B地点にあるスマホに送信し、B地点のスマホからの返信を、A地点のスマホに送ります。
光回線も神経も、情報のやりとりをするための「線」です。
神経の動きをさらに注目すると、神経のなかの無数の神経細胞が電気信号を伝えあうことで、感覚や脳の判断といった情報が伝達されます。
そして、神経細胞と神経細胞の間にある「つなぎ目」が、シナプスです。
運動神経のよい人と悪い人がいます。
また、記憶力がよい人と悪い人がいます。
人によって運動神経や記憶力が異なるのは、神経細胞の電気信号の送受信状況や、シナプスの状況が異なるからです。
能力の差を「個性」と呼びますが、人の個性とは、神経細胞と電気信号とシナプスの在り方で決まっている部分もあります。
記憶とシナプスの関係
人があることを覚えると、記憶に関係するシナプスが興奮します。
シナプスが興奮していると、そこに情報があることを認識できるので、「記憶している」状態になります。
例えばある男性が、街中で、かねてより好意を抱いている女性と偶然会ったとします。
会釈しただけで別れても、シナプスが興奮するので、記憶することができます。
同じ男性が街中で、なんの感情も抱いていない女性と目と目が合ったとします。
しかし男性は、その女性の名前すら知らないので、一瞬で忘れてしまいます。
これは、シナプスが興奮していないからです。
つまり、シナプスを強く興奮させると、簡単に記憶することができます。
そして、何度覚えようとしても記憶できないのは、なかなかシナプスが興奮しないからです。
この2つのことは、誰しも一度は経験があると思います。
英単語の記憶が苦手な人でも、テレビアニメの100個のキャラクターの名前を記憶することができたりします。
英単語をいくつも目の前に並べても、一向にシナプスが興奮しません。
それで記憶できません。
しかし、新しいキャラクターが登場すると、途端にシナプスが興奮して、簡単に覚えることができてしまいます。
シナプスは鍛えられる
記憶力は、シナプスの能力や状態によって変わることが理解できたと思います。
シナプスの能力によって記憶力が決まってしまうなら、「どうしようもないではないか」と考えてしまう人も出てくると思います。
シナプスは目で見えるものではなく、自分のシナプスですら触ることができません。
しかし、東洋大学生命科学部の児島伸彦教授は、シナプスの通りをよくすることで記憶力が向上する可能性がある、と指摘します。
つまり、シナプスは鍛えられるわけです。
自転車に乗れるようになるのと同じ
自転車に乗れなかった人が、練習を繰り返すことで乗れるようになるのは、シナプスが変化して、情報が伝わりやすくなるからだと、児島教授は説明します。
自転車の操縦に失敗して悔しく思ったり、うまく乗れるにはどうしたらいいのかと考えたりすると、脳は、神経細胞と神経細胞の間の電気信号の伝達方法を工夫したり、シナプスを大きくしたり小さくしたりします。
このように「神経細胞、電気信号の伝達、シナプス」を変化させることにより、情報伝達スピードが、練習前より格段に向上します。
それにより、右に倒れそうになったら体重を左に傾けたり、ペダルをこぐ強さを調整したり、ブレーキを少し早めにかけたりといった、体の動きの微調整ができるようになります。
自転車に乗れなかった人が、練習によって乗れるようになるのは、シナプスを鍛えることに成功したからです。
勉強したことの記憶も「神経細胞、電気信号、シナプス」によって生じる現象である点では、自転車の操縦と同じです。
テストに失敗して悔しく思ったり、テストの点数を上げたいと強く思ったりすることで、「神経細胞、電気信号、シナプス」に変化が生じれば、記憶できるようになるわけです。
「忘れること」は「記憶の敵」ではない
記憶には、短期記憶と長期記憶があります。
人はまず、短期記憶で記憶します。
短期記憶のうち、必要なものは長期記憶に回し、必要でないものは忘却(忘れる)に回します。
短期記憶を「小型冷蔵庫」、長期記憶を「大型冷蔵庫」、忘却を「廃棄処分」と思ってください。
スーパーで買ってきた食材を小型冷蔵庫に保管して、これから使う食材は大型冷蔵庫に移して、もう使わない食材は捨ててしまうのと同じです。
このとき、次の2つの問題が生じます。
- 短期記憶から長期記憶に移す情報を、すべて自由に選べるわけではない
- 忘却(忘れること)は悪いことではない
この2点は重要なので、さらに詳しく解説します。
自由に長期記憶に移動させられるわけではない
まず「短期記憶から長期記憶に移す情報を、すべて自由に選べるわけではない」についてですが、この問題はとてもやっかいです。
「勉強したことは長期記憶に回したい、嫌なことは忘却したい」と、いくら強く思っても、必ずそのようにいくわけではありません。
しかし、「記憶の訓練」や「気持ちの持ち方の練習」や「学習方法の工夫」によって、それが可能になる人もいます。
忘却は悪いことではない
勉強したことはすべて短期記憶から長期記憶に移設したいと、誰もが思うでしょう。
そのように考えると、脳に備わっている「忘却する機能」が余計なものに思えてきます。
忘れなければ、長期記憶に保管できなくても、短期記憶で覚え続けることができるからです。
しかし、忘却機能がなかったら、精神が参ってしまうでしょう。
先ほど、好きな女性と会ったことは覚えていて、気にならない女性のことは会った瞬間に忘れてしまう例を紹介しました。
もし、忘却機能がなかったら、気にならない女性だけでなく、街中で会ったすべての人のことを覚えてしまうことになります。
それだけではありません。
街中でハンバーガーを食べたときのテーブルの様子や店内に流れていた音楽や隣の席のグループの会話など、すべて覚えてしまいます。
これだけ大量に覚え続けると、大きなストレスになります。
このように考えると、実は、覚える能力よりも、忘却機能のほうが、人の健康にとって不可欠な存在であることがわかります。
なぜなら、忘却できないと、ずっと記憶を持ち続けなければならないからです。
一方で短期記憶は、それを忘れても、また覚えればよいだけです。
シナプスは「このように」鍛える
児島教授は、シナプスを鍛えて記憶力を高めて、それによって学力を上げる方法として、次の行動をすすめています。
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
- 興味を持つ
- 人とコミュニケーションを取る
- 質のよい睡眠を取る
「これだけ?」と思う人がいるかもしれません。
そうです、シナプスを鍛えるといっても、することは「健康によいこと」だけです。
シナプス訓練と一緒にしなければならないこと
ただ、これだけでは、シナプスが鍛えられるだけです。
ここまでの説明で、「記憶力を向上させるにはシナプスの改善が必要だが、シナプスの改善だけでは勉強に必要な記憶力が強化されるとは限らない」ということは理解できていると思います。
英単語とアニメキャラクターを同時に覚えようとしたら、英単語は短期記憶になったあとに忘れてしまうのに、アニメキャラクターは短期記憶から長期記憶に移行します。
つまり、シナプスが鍛えられるだけでは、より多くのキャラクターを覚えられるようになるだけです。
学力を上げるには、シナプスを鍛えると同時に、勉強に取り組む必要があります。
また「学力を上げなければならない」という危機感を持つ必要もあります。
「絶対あの大学(または高校)に入るんだ」という気持ちを強く持たなければなりません。
河川の護岸工事をしても、土砂や汚染水が流入してきては、川の水を活用できません。
河川の護岸工事をするとともに、土砂の流入を食い止める土留めを設備したり、浄化装置を設置したりしなければなりません。
まとめ~記憶は勉強のツールにすぎない
記憶力が強化されれば、学力向上に有利に働きますが、それだけでは試験の成績は上がらないでしょう。
記憶力は勉強ツールのひとつにすぎません。
つまり、記憶力が劣っていても、勉強方法を工夫することで十分成績を上げることはできますし、記憶力がよくても、油断すれば簡単に追い抜かれます。
記憶力は便利グッズではあっても、万能ではありません。
ただし、勉強意欲があって、学力を上げることに貪欲な人が、強い記憶力を身につければ「鬼に金棒」状態です。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。