今回は脳が記憶する仕組みや、そこから分かる暗記のコツについて解説していきます。
大学受験は暗記で決まる
結局のところ、大学受験においては勉強すべき量が決まっています。
この大学ならこれぐらいの勉強をすれば受かる、という方程式があるわけです。
同時に、勉強する量とは憶えるべき量を指しています。
大学受験ではもちろん現場思考もありますが、そのほとんどが知っているかどうかが問題です。
長文読解なら単語をたくさん憶えている人のほうがやはり有利ですし、数学なら公式を知っている人のほうが解くのが速いです。
問題演習を繰り返して慣れることは大事です。
しかしその基礎となるのは知識の記憶であり、重要事項の暗記です。
大学受験においては日本史に限らず、ほぼ暗記で片がつきます。
必要な知識を憶え、これを的確にアウトプットする練習に励む、このシンプルな流れで、日本の大学は全て攻略可能です。
暗記でつまずく人が多い
シンプルとはいえ、それを完璧にこなすのは難しいです。
こと暗記の局面でつまずく人が多いです。
憶えたと思ってもすぐに忘れてしまう、そもそも全然憶えられない、というケースがあります。
以下では特に脳の仕組みから、どのように人間は物事を記憶しているのか、そこから効率的な暗記方法をみていきます。
情報の取捨選択を行う海馬
脳のなかでも、海馬(かいば)という部分が記憶を司っています(※)。
名前を聞いたことがある人も多いでしょう。
※参考1:Adult Neurogenesis Conserves Hippocampal Memory Capacity(生後の神経新生は海馬の記憶容量を保つ働きがある)
※参考2:富山大学医学部論文
海馬は、耳の奥にあります。
比較的に小さな部位です。
長さは5cmで幅は1cmしかありません。
しかし人間が記憶をするにはなくてはならない存在です。
海馬は、記憶の取捨選択を行っています。
人間はただ生きているだけで、膨大な量の情報を受け取っています。
その全てをいちいち記憶していたら、無駄なエネルギーといえます。
そこで海馬が、本当に大事な情報だけを大脳皮質に送ります。
大脳皮質に送られた情報は、長期記憶と呼ばれてそれこそ試験の際にぱっと出てくる記憶となります。
受験勉強のときだけではなく、大学入学後にもずっと残り続けるのが長期記憶です。
すぐに忘れてしまう一夜漬けの知識ではなく、真の意味での勉強で得た知識と言いうるものです。
繰り返しで記憶が定着する
大事なのは、海馬に重要な情報だと思わせることです。
そうすれば、長期記憶としていつでもすぐにアウトプットできるようになります。
重要な情報だと判断させるには、何度も同じ情報を送り続けることが良い方法です。
前述のように、日々の情報は膨大でパンクしないために脳はほんの一部の重要な情報だけを選び取り、長く残します。
しかしながら、どうしても今すぐ暗記しないと間に合わない!という場合もあるでしょう…
当記事でも紹介したように本来なら時間をかけて覚えることが大切ですが、明日が試験の当日!といった場合には何としても短期記憶だけでも暗記したい時があります。
そんな時は以下の記事を参考にしてみてください。
脳は忘れるのが基本機能
つまり、情報のほとんどはすぐに忘れてしまうようにできているわけです。
良いことも悪いことも平等です。
良いことはなるべく憶えておきたいものですが、嫌なことはすぐに忘れしまいたいです。
忘れることが基本動作たる脳だからこそ、良いことを忘れるリスクを抱えながら、悪いことを忘れられるというメリットも享受できるわけです。
よく嫌なことが起こると、「時が忘れさせてくれる」、「時間が解決させてくれる」と助言する人がいます。
その理由のひとつが、上記のような脳の基本構造にあるといえます。
反芻で長期記憶に
悪いことは忘れたいが、良いことを忘れないようにしたい場合、どのようにしたら良いでしょうか。
これは、何度も良いことを頭のなかで反芻すれば良いです。
頭のなかで何度も繰り返して、同じ情報を脳に送り続ければ、海馬が重要な情報だと判断して、長期記憶として保存します。
逆に嫌なことはなるべく考えないようにしていれば、やがて時が解決して(=忘れさせて)くれます。
勉強も同様
これと同じことが、もちろん勉強で得た知識にも適用されます。
憶えたはずのことを忘れてしまったからといって、いちいちストレスを感じる必要はありません。
人間が人間である以上、得た知識は忘れるのが基本だからです。
忘れたらもう一度その情報を脳に送れば良いだけです。
それでもまた忘れるかもしれません。
そうしたらもう一度復習します。
この復習が重なることで、海馬が重要な情報だと認識する瞬間が来ます。
そこを超えれば、後はいつでも容易に引き出せる長期記憶として、それこそ長期的な意味での知識の財産となります。
東大生は陰で繰り返している
確かに、なかには記憶力の良い人が存在します。
しかし、そのような人は本当にごくごく一部の人です。
一度見ただけで写実的に記憶できる人が稀にいますが、このような人がすべからく東大に行くかというと、そうでもありません。
個性が強かったり、独自の人生観を持ったりしていて、大学受験をしない人もいます。
何が言いたいかというと、受験勝者たる東大生が、全て記憶力が人並みはずれているわけではないということです。
むしろそのほとんどは、他の平均的な大学生と変わらない記憶力です。
では何が違うのかというと、勉強量です。
口では「昨日もずっとゲームしてたよ~」などと言っていても、陰で膨大な努力をしています。
東大生ほどそういう人が多いです。
努力をしていることを隠しながら、普通の人がする何倍も勉強にエネルギーを費やしています。
記憶は復習の回数次第
勉強量が多いというのは、つまり復習の回数が多いということです。
ある人が2、3回復習したぐらいで全然覚えられない……、と嘆いている一方で、東大に受かる人は10回繰り返して知識を明確に自分のものとしています。
つまり記憶ができない人は、単に復習の回数が少ないだけです。
記憶力が特別悪いわけではありません。
東大に入るのに普通より良い記憶力が必要なわけでもありません。
途中で投げ出さずに憶えるまで繰り返すことが、脳の仕組みからいって不可欠ですし、そうすれば誰でも必ず憶えることができます。
潜在的記憶の活用
以上の繰り返しが長期記憶につながる、というのが脳の仕組みを理解するうえでの基本原則です。
以下ではこの基本からの応用原理をみていきます。
一度憶えた情報は、忘れてしまっても再度の記憶が容易になります。
これは経験したことがある人も多いはずです。
試験勉強で蓄えた知識を、その後、使う機会がないと忘れてしまいます。
再度必要に迫られて同じ事項を勉強すると、忘れているはずなのに前回より理解が早まり、記憶のもちも良くなります。
これは海馬の潜在的記憶が関係しています。
忘れているというのは、自覚的に思い出せないことです。
一度脳に入った情報は、自発的に取り出せないけれど、奥底に残っています。
そのため、一度勉強したことはたとえ忘れてしまっても、次にやるときには容易に記憶できます。
復習のスパンを空けすぎない
この潜在的記憶は、一度情報が入ったときから時間の経過とともにどんどんと薄らぎ、底に沈んでいきます。
つまり、復習のスパンを空けすぎるのは禁物です。
試験勉強中ならば、限度は1ヶ月です。
1ヶ月以上経つと、復習のときのスピード感の違いを認識しづらくなって、ほとんど初見の印象になります。
そうなれば前回やったことが無意味に感じられてストレスが溜まります。
復習は期間を空けすぎないことを意識するべきです。
脳への刺激の種類を増やす
海馬に重要な情報と認識させるための良い方法として、単に繰り返すのではなく、刺激の形を変えるのも有効です。
それこそ英単語なら、黙読だけではなく声に出してみる、ノートに少し書いてみる、音声を聞いてみる、といった具合です。
このように口や手や耳を使うことで、色々な刺激の形で同じ情報が伝わり、よって記憶が定着しやすくなります。
一冊の参考書・問題集を使う
以上の流れからお分かりの通り、色々な参考書や問題集に手を出すのは脳の仕組みからして明らかに効率が悪いです。
全然憶えられなくてやる気がしなくなる人で多いのが、このケースです。
同じ情報を何度も繰り返して初めて脳はしっかりと記憶します。
しかし参考書を一冊読んだら次の、それも読んだら次の、としていては、入ってくる情報が増えるだけで長期記憶として残るものはほぼありません。
そうではなくて、信頼できる参考書や問題集を選んだら、完全にその内容が定着するまで一冊を何度も反復したほうが良いです。
もしも復習がつらくて全然憶えられない、と嘆いているなら、取り組んでいる参考書や問題集の量がキャパオーバーである可能性があります。
はずせない一冊を選び取り、何冊も同時にやるのをやめると、解決の糸口となりえます。
アウトプットの回数を増やす
さらに海馬が重要な情報と認識するのは、アウトプットの回数も関係しています。
確かにインプットが増えることでも判断しますが、どれくらいその情報が必要とされ、実際に引き出されたか、も影響します。
客観的に考えても、蓄えられても使われない情報より、何度も引き出されて運用される情報のほうが、大事だと認識するのは当然です。
前項とも関連して、だからこそ問題集の冊数をこなすことに固執するのはNGです。
同じものを繰り返すことで、やはり同じ情報がアウトプットされますから、それだけ重要な知識・情報として定着されやすくなります。
シータ波と記憶
脳の基本構造からして繰り返しが記憶において重要です。
ただし、繰り返す回数が少なくても、長期記憶として保存されることがあります。
これは、海馬から出されるシータ波という脳波が関係しています。
シータ波が出ている状態で得た情報は、長期記憶として格納されやすくなります。
それこそ、本来なら10回の繰り返しが必要な情報も、2、3回で同様の水準に達することがあります。
シータ波は感情と連動
あたかも超サイヤ人になったかのようなこのスペシャルな状態になるには、感情が関係しています。
穏やかな心を持ちながら激しい怒りが必要なのではなく、楽しいや面白いといったポジティブな感情がシータ波を発生させます。
たとえば、好きなゲームのキャラの特性やそのバックグラウンド、攻略のための細かい知識など、非常に詳しい人がいます。
そのエネルギーを勉強に使ったら、などと親などに言われがちですが、それは難しいわけです。
つまり、好きなゲームだからこそシータ波が出て、スペシャルな状態でストレスなく情報を容易に記憶しています。
一方で、つまらない勉強をしていても、もちろんシータ波は出ませんから、原則通り、むしろつまらないと思っているならマイナスがかかるレベルで知識の定着が悪くなります。
楽しみながら勉強する思考形成
このことから分かるのは、いかに勉強に対してポジティブな姿勢で臨むかが大事、ということです。
歴史を勉強しているなら、ある出来事についてその背景ではこんな面白いことがあったんだ、と独自に妄想して楽しむのもアリです。
明智光秀は実は織田信長のことが好きで、秀吉を可愛がっていることに嫉妬した、などとBL好きな人は色々と妄想しながら勉強するのも良いでしょう。
楽しみながら勉強することでシータ波が出てスピーディーに記憶が定着するようになります。
つまらない、かったるいと思いながらするよりも、遥かに憶えやすくなりますから、どんな思考的アプローチでも良いので、楽しいと思いながら勉強するのが有効です。
脳が記憶する仕組みについてまとめ
情報は何度も繰り返しインプットされることで、海馬が重要性を認識し、長期記憶として保存されます。
脳は忘れることを基本としていますから、いかに繰り返す回数を増やして定着させるかがポイントです。
インプットだけではなくて、アウトプットも大切です。
同じ情報を使う回数が増えれば、それだけ重要性が増すからです。
とにかく参考書・問題集は浮気をせずに、一冊にこだわって同じ情報に触れることを重視します。
独自のアプローチで良いので、楽しみながら知識を取り込むと、シータ波の影響で忘れにくくなります。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。