「電農名繊」という大学群をご存知ですか?
全国的な知名度は比較的低いものの、電農名繊は理工系を目指す受験生の方にとって、ぜひ覚えてもらいたい大学群です。
それでは、電農名繊の大学群とそれぞれの大学の特徴を以下にご紹介していきましょう。
電農名繊とは?
電農名繊とは電気通信大学・東京農工大学・名古屋工業大学・京都工芸繊維大学の名称からそれぞれ一字をとった工学系の4大学群の略称です。
「東京6大学」や「関関同立」などと違い、同じ地域の大学をひとくくりにした名称ではないことに注意しましょう。
電農名繊は都市部にあり、レベルの似通った工学系の大学群を表しています。
いずれの大学も偏差値は比較的高く、国公立大学の中では難関の部類に入ります。
電農名繊の学生数はいずれの大学も4000-6000名ほどですが、理工系の大学のため大学院に進学する学生の割合が高いのが特徴です。
大学生の約3分の1(1000-2000名)ほどの大学院生が通っており、総合大学に比べると研究志向が高いキャンパスになっていることが特色です。
電農名繊は理工系の大学であるため、就職率は軒並み90%以上と高く、また大手企業の技術職などへの就職率が良いと言われています。
理系で安定した就職を望み、堅実な進学をしたい受験生にとっておすすめの大学群といえるでしょう。
電農名繊の全国的な知名度に関しては、東京農工大学と名古屋工業大学が知名度ランキングで70位前後となっており、それほど高くはないようです。
電気通信大学・京都工芸繊維大学の知名度は、東京農工大学と名古屋工業大学に比べるとやや落ちるようです。
ただ、知名度が低いということはそれだけライバルが少ないということでもあります。
大学のブランドイメージにあまりこだわらない方にとっては、電農名繊はおすすめの大学群といえるでしょう。
電農名繊の概要について
電気通信大学
電気通信大学は東京都調布市に所在する1949年に設置された国立大学です。
武蔵野の緑溢れる好環境に立地しています。
母体は1918年に創設された社団法人電信協会管理無線電信講習所が起源です。
英語の略称はUECとなっています。
キャンパスは「東地区キャンパス」「西地区キャンパス」「100周年キャンパス」の3ヶ所があります。
電気通信大学は名前の通り、電気分野と通信分野に特化している大学ですが、近年は機械工学や生命科学、材料科学やロボティクスにも力を入れています。
「情報理工学域」は情報系・融合系・理工系の3つの「類」に分かれているため、自分の興味から分野を選ぶことができます。
学内設備や教育環境が非常に充実しているのが特徴で、1日中自由に使うことができるパソコンが多く設置されています。
情報系で多用するプログラミング環境が整っており、創造性を高める教育プログラムである『楽力』教育を行うなど、多くの特色を持っています。
ただ、「電気+通信」と聞くと、どうしても男子学生が多めで男性優位なキャンパス環境を想像する方も多いかもしれません。
大学のそんなイメージを覆し、女子率の低さを改善すべく、2012年には「UEC保育園どんぐり」が開設されました。
このように、育児と学問を両立できる環境づくりにも力を入れているようです。
2017年にはオープンイノベーション拠点「UECアライアンスセンター」を核とする100周年キャンパス”UEC Port”も開設されました。
電気通信大学は“現場密着型のキャリア教育による全国トップクラスの就職力”を謳っており、産業界との強い繋がりを活用した現場密着型のキャリア教育を行なっています。
こうした就職支援の努力が実を結び、全国屈指の就職力をもっています。
東京農工大学
東京農工大学は東京都府中市に所在する1949年に設置された国立大学です。
1874年に設立された内務省勧業寮内藤新宿出張所に設置された学問所が前身です。
東京農工大学はその名の通り、農学部と工学部の2学部からなります。
農学部は府中キャンパス、工学部は隣の小金井市にある小金井キャンパスにあり、都心から離れた比較的のどかな環境に立地しています。
男女比がほぼ半々の農学部があるためか、国公立理系大学の中でも女子学生の比率は全国トップクラスとなっています。
工学部の女子学生の比率も比較的高いようです。
東京農工大学の教育の特徴としては、”教員1人に対して学生9人という徹底した少人数教育”をモットーに掲げているとおり、学生に対して手厚く丁寧な指導を行なっています。
また、教員当たりの民間企業との共同研究実施件数は第2位、外部資金比率は5位という高い実績を上げており、こうした研究力の高さも東京農工大学の魅力のひとつとなっています。
また、東京農工大学には共同獣医学科という獣医の道を目指す方にとっての学科があるのもユニークなポイントです。
獣医学部は全国的にも数が少ないため、おすすめの学科といえるでしょう。
名古屋工業大学
名古屋工業大学は愛知県名古屋市に所在する1949年に設置された国立大学です。
1905年中部地域初の官立高等教育機関として設立された官立の名古屋高等工業学校を前身としています。
「ものづくり ひとづくり 未来づくり」を憲章にし、新たな産業と文化を支えるべく、革新的な技術を身につけ、産業社会にふさわしい人材を育て、社会の平和と幸福に貢献することを使命に掲げています。
名古屋工業大学のキャンパスは「御器所キャンパス」(愛知県名古屋市昭和区)と「多治見キャンパス」(岐阜県多治見市)に所在しています。
立地の良さから、東海地方各地の高校から進学する学生が比較的多いようです。
また、海外事務所を中華人民共和国(北京化工大学内)、マレーシア(マラ工科大学内)、ヨーロッパ(ドイツのエルランゲン・ニュルンベルク大学)に展開しています。
工学部は生命・応用化学科分野、物理工学科分野、機械工学情報工学科分野、メディア情報社会工学科分野、経営システム創造工学教育課程に分かれています。
また、大学院はユニークな領域ごとに分かれており、それぞれ、おもひ領域(発想)、しくみ領域(設計)、つくり領域(制作)、ながれ領域(運用)となっています。
卒業生の約8割が大学院(博士前期課程)へ進学し、博士後期課程まで約1割が進んでいます。
名古屋工業大学の正門付近には音声言語処理技術で開発された双方向音声案内デジタルサイネージが設置されています。
大型ディスプレイに登場する3Dキャラクターが来校者の音声を認識し学内を案内してくれるようで、ユニークなアイディアと技術力が生かされています。
名古屋工業大学の卒業生の多くはトヨタなど県内の自動車メーカーやその関連会社に就職するなど、地元企業への就職に強い大学です。
また、輸送機器、電機、重工業、化学など様々な分野の産業にも就職しています。
京都工芸繊維大学
京都工芸繊維大学は京都市左京区に所在する1949年に設置された国立大学です。
前身は1899年に開設された京都蚕業講習所です。
かつての旧制官立高等蚕業学校の後身校の伝統から、同様の歴史を持つ信州大学と東京農工大学と併せて「三繊維大学」と呼ばれています。
キャンパスは京都市北部の松ヶ崎キャンパスと京都市西部の嵯峨キャンパスに分かれています。
「知と美と技を探求する」というキャッチフレーズを掲げ、「人間の感性を涵養し、精神的な潤いや自然との調和を強く意識した、普遍性のある科学技術の創生」を基軸に教育研究を行っています。
京都工芸繊維大学は工学から生命科学まで幅広い領域を扱っていることが特徴です。
「先端科学技術から造形美まで」というキャッチコピーを掲げており、科学領域からデザイン領域まで幅広く学ぶことが出来ます。
京都工芸繊維大学の特色としては、工学の中でも特にデザインや芸術といった分野に力を入れていることです。
そのため、テクノロジーをアート分野に応用したい受験生の方におすすめの大学です。
卒業生の進路としては、工業デザインの分野で活躍したり、ベンチャー企業を起業している人が比較的多いようです。
京都工芸繊維大学の英語名称は、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)や金沢工業大学(KIT)のように”Kyoto Institute of Technology”となっています。
また、略称は工繊大またはKITとなっています。
電農名繊の入学難易度
電農名繊の入学難易度はどのくらいなのでしょうか?
学部・学科や年度によっても異なるため、あくまで目安としてですが、以下のようになっています。
※筑横千:筑波大学・横浜国立大学・千葉大学
※MARCH:明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学
旧帝大や MARCHといった大学群は聞き馴染みがあるかもしれません。
大雑把に言えば、電農名繊は有名な国立大学ほど難しくはないものの、有名な都内私立大学(早慶除く)よりは難しいレベルにあります。
ですので、MARCHを受験しようと考えている方は、志望分野が合っていれば、目標とする志望校として電農名繊のいずれかの大学を据えることが可能です。
学校などの模試の順位でいえば、電農名繊は上位およそ20%程度が目安になるようです。
「電農名繊」を志望する、もしくは出願を検討している受験生の方は、そのようなイメージで難易度を捉えておくとよいでしょう。
電農名繊の偏差値
具体的に電農名繊の偏差値はどのくらいのものなのでしょうか?
予備校が出している最新の偏差値データは以下のようになります。
大学名 | 偏差値 |
電気通信大学 | 55~60 |
東京農工大学 | 68〜59 |
名古屋工業大学 | 61〜60 |
京都工芸繊維大学 | 61〜58 |
電農名繊のいずれの大学とも平均60くらいで同じようなレベルにあるため、学力がそのレベルに達すれば、どの大学も視野にいれることが可能です(東京農工大学の最大偏差値が68となっているのは、前述した共同獣医学科だけ難易度が突出していることが理由にあるようです)。
ですので、電農名繊の理工学系に進学したい受験生は、下宿か自宅かの選択を考慮しつつ、まずは通える地域内で選ぶのがまずは無難でしょう。
とはいえ、それぞれの大学で特徴・特色が細かく異なるため、自分の興味・関心がどの大学の強みと合っているかを見極めることも大切です。
それでは、各大学の学部ごとの偏差値と倍率の詳細を以下にみていきましょう。
※偏差値は河合塾の記述模試データより抜粋(2020年)
※倍率は2020年度入試のデータ(国公立大は前期日程のみ)
電気通信大学の偏差値と倍率
偏差値情報理工 前期:55.0
情報理工|I類(情報系) 後期:57.5
情報理工|II類(融合系) 後期:60.0
情報理工|III類(理工系) 後期:57.5
倍率情報理工学域 全入試合計:4.0
情報理工学域 一般入試合計:4.1
情報理工学域 推薦入試合計:2.5
東京農工大学の偏差値と倍率
偏差値(農学部)農|生物生産 前期:55.0
農|応用生物科学 前期:55.0
農|環境資源科学 前期:55.0
農|地域生態システム 前期:52.5
農|共同獣医 前期:62.5
農|生物生産 後期:60.0
農|応用生物科学 後期:60.0
農|環境資源科学 後期:60.0
農|地域生態システム 後期:60.0
農|共同獣医 後期:67.5
倍率(農学部)農学部 全入試合計:2.6
農学部 一般入試合計:2.3
農学部 推薦入試合計:4.7
農学部 AO入試合計:10.0
偏差値(工学部)工|生命工 前期:55.0
工|生体医用システム工 前期:55.0
工|応用化学 前期:52.5
工|化学物理工 前期:52.5
工|機械システム工 前期:55.0
工|知能情報システム工 前期:55.0
工|生命工 後期:60.0
工|生体医用システム工 後期:55.0
工|応用化学 後期:57.5
工|化学物理工 後期:57.5
工|機械システム工 後期:57.5
工|知能情報システム工 後期:57.5
倍率(工学部)工学部 全入試合計:2.3
工学部 一般入試合計:2.1
工学部 推薦入試合計:4.6
工学部 AO入試合計:3.6
名古屋工業大学の偏差値と倍率
偏差値工|生命・応用化学 前期:55.0
工|物理工 前期:57.5
工|電気・機械工 前期:57.5
工|情報工 前期:57.5
工|社会-建築・デザイン 前期:57.5
工|社会-環境都市 前期:55.0
工|社会-経営システム 前期:55.0
工|創造-材料・エネルギー 前期:52.5
工|創造-情報・社会 前期:52.5
工|生命・応用化学 後期:57.5
工|物理工 後期:60.0
工|電気・機械工 後期:60.0
工|情報工 後期:60.0
工|社会-建築・デザイン 後期:60.0
工|社会-環境都市 後期:57.5
工|社会-経営システム 後期:57.5
工|創造-材料・エネルギー 後期:55.0
工|創造-情報・社会 後期:55.0
倍率工学部 全入試合計:3.1
工学部 一般入試合計:3.1
工学部 推薦入試合計:2.5
工学部 AO入試合計:3.0
京都工芸繊維大学の偏差値と倍率
偏差値工芸科学|応用生物学 前期:55.0
工芸科学|応用化学 前期:52.5
工芸科学|電子システム工学 前期:55.0
工芸科学|情報工学 前期:55.0
工芸科学|機械工学 前期:55.0
工芸科学|デザイン・建築学 前期:57.5
工芸科学|応用生物学 後期:57.5
工芸科学|応用化学 後期:60.0
工芸科学|電子システム工学 後期:57.5
工芸科学|情報工学 後期:60.0
工芸科学|機械工学 後期:57.5
倍率工芸科学部 全入試合計:3.2
工芸科学部 一般入試合計:2.9
工芸科学部 AO入試合計:8.2
電農名繊の入試対策
電農名繊の入試対策はどのように進めていけばよいでしょうか?
電農名繊はいずれも企業への就職状況が良い工学系の難関大学だけに、いずれの大学をとっても受験対策は一筋縄ではいきません。
とはいえ、出題傾向としては非常に難解な問題が出題されたり、特別なセンスが問われるわけではなく、基礎を重視した良問が多く出題されるようです。
まずは学校や塾の授業の理解のために、予習・復習を怠らないことは必須です。
理数系科目を中心に、教科書に沿った基礎内容の理解をしっかり固めましょう。
そのうえで本番の一次試験(大学入学共通テスト)や二次試験に出題されるような応用問題にじっくり着手するのがよいでしょう。
同時に、理数系以外の科目が一次試験で足を引っ張ることのないように、大事な内容については繰り返し学習を心がけましょう。
2021年度から始まったばかりの大学入学共通テストに関しては、リーディングパートとリスニングパートに二分割された英語をはじめ、従来の旧センター試験と比べていずれの教科も難化したと言われています。
ですので、電農名繊を受験するにあたっては大学入学共通テストよりも、過去の何十年分もの知見が蓄積している旧センター試験から問題を解くことをおすすめしたいと思います。
理由としては、大学入学共通テストの情報や試験対策はまだまだ乏しいものであること、大学入学共通テストの内容は最初は難しいと思われること、そして旧センター試験はレベル的に必要十分であることです。
基礎内容が定着していないまま、応用的な問題やレベルの高い問題に取りかかると学習へのやる気を削いでしまう恐れもあります。
簡単な問題から順々に取り組み、学習に対するモチベーションを上げていきましょう。
また、旧センター試験には標準的な問題だけでなく、やや難易度が高めの問題も出題されるため、偏差値の高い学部・学科の対策にも適しています。
教科書レベルの基礎問題がある程度解けるようになったら、満を持して本番用の大学入学共通テストやその対策用模試を受験してみるとよいでしょう。
まとめ
電農名繊の堅実で個性豊かな各大学のイメージがくっきりと際立ってきたかと思います。
電農名繊のような工学系の大学の場合、入学後も履修する必修科目のレポートや卒論作成、それに伴う実験や研究などで要求される質は高く、作業量もとても多いです。
提出課題を締め切りまでに仕上げるために、日々夜遅くまで実験室や研究室に籠もることもあるでしょう。
ただ、そのような経験は必ずしも辛いばかりではありません。
専門的な学問を究めるための果てしない道のりの第一歩であると同時に、”同じ釜の飯を食う”というように気の置けない仲間たちとかけがえのない青春のときを過ごす楽しさも伴うからです。
近年の科学技術、とりわけコンピュータ技術の躍進によって工学分野は新たな技術が目白押しの時代です。
ロボット、AI、5G、ドローン、3Dプリンター、スマートフォン、バイオなど、日進月歩で進化している最先端技術を応用し組み合わせることで、世界中の人々の暮らしを大きく変えうる可能性が広がっています。
そうした日々の地道な努力がやがて大きな成果となって実を結ぶのが工学部の学問や研究、すなわち”ものづくり”の醍醐味です。
苦しい受験勉強はたしかに大変ですが、日本が世界に誇れる素晴らしい伝統産業を受け継ぎ、前途洋々な新しい未来へと踏み出すために必要なステップと捉えることが大切です。
自身の苦手な問題や科目と向き合い、目の前の課題をひとつひとつ着実に乗り越えていく。
そのような姿勢とたゆまぬ努力こそが、輝かしい未来を歩む電農名繊の受験生に求められることでしょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。