国公立大を目指している受験生は、後期試験戦略をしっかり練っているでしょうか。
一般的には、国公立大の2次試験は「前期で本命大学を受け、中期と後期で滑り止め大を受ける」とするはずです。
しかし意外に「後期本命大」が奏功するかもしれません。
「前期本命大」の印象が強くなったのは、東大などの超難関国立大が後期試験を取りやめたことも影響しているでしょう。
東大が採用する方法は、受験の世界では「正」と考えられがちです。
しかし国公立大のなかには、後期で優秀な学生を取ろうと考えているところもあります。
そのような国公立大を狙うなら、むしろ「後期本命大」にしたほうが合格する確率が高くなるかもしれません。
この記事では、前期・中期・後期の基本的知識を紹介したうえで、全国の国公立大のトレンドと、道内の国公立大の傾向について解説します。
ここで紹介する数字は一般入試のもので、推薦入試やAO入試は除外しています。
そもそも前期・中期・後期とは
まずは、国公立大学の入試制度における前期・中期・後期の仕組みについて解説します。
最大3大学を受験できる仕組み
国公立大に挑戦する受験生は原則、センター試験(2021年からは大学入学共通テスト)を受けたのち、さらに各大学が実施する2次試験(正確には個別学力検査)を受ける必要があります。
そして2次試験を行う日時は各大学で異なり、早く行う2次試験を前期日程、遅く行う2次試験を後期日程と呼んでいます。
中期日程は公立大学が選択することがあります。
受験する大学の選び方によっては、前期、中期、後期で各1大学ずつ受けることができます。
すなわち国公立大には最大3回挑戦できるわけです。
前期と後期を実施している大学・学部なら、両方とも同じ大学・学部を受けることができます。
前期大学に入学したら中期・後期大学には入れない
2次試験を2回ないし3回挑戦する人が注意しなければならないのは、前期の2次試験を受け、それに合格して入学手続きをしてしまったら、中期と後期の2次試験を受けても中期と後期の大学に入学する権利を失ってしまう、というルールです。
そのため「前期本命大、後期滑り止め大」という形態が一般的になりました。
なぜなら、もし「前期滑り止め大、後期本命大」にすると、受験生は困ることになるからです。
前期の滑り止め大に合格して入学手続きをしたら、後期の本命大に入学できないことが確定してしまいます。
もし、前期の滑り止め大に合格したものの入学手続きをしなかったら、後期の本命大は受験できますが、それではそもそも滑り止め大を受けた意味がなくなってしまいます。
さらに、前期の滑り止め大に不合格になったら後期の本命大には挑戦できますが、本命大の2次試験のほうが難しいはずなので合格はあまり期待できません。
したがって、前期に本命大を受け、後期に滑り止め大を受けたほうが、合理的なのです。
後期を本命にする戦略とは
基本戦略は「前期本命大、後期滑り止め大」で問題ないでしょう。
ただし、前期定員より後期定員を多くしている国公立大もあり、その大学を本命にするなら「後期本命大」戦略は有効です。
なぜなら多くの受験生が「前期本命大」にしているので、いわゆる「裏をかく」ことができます。
シミュレーションをしてみましょう。
偏差値がいずれも55のAさんとBさんがいたとします。
Aさんは定石とおり、2次試験で「前期本命大(大学偏差値55)、後期滑り止め大(大学偏差値54)」を選択しました。
後期は滑り止め大にするので、自分の偏差値より低い偏差値の大学を選びました。
この場合、本命大に落ちたら、滑り止め大しか選択肢がなくなってしまいます。
Bさんは2次試験で「前期第2志望大(大学偏差値55)、後期本命大(大学偏差値55)」を選択しました。
前期には自分の実力と同じ偏差値の、第2志望大を選びました。
このようにしておけば、もし前期で合格して入学手続きをしても、本命大と同レベルの大学なのでそれほど後悔しないで済みます。
そしてもしBさんが前期で不合格になっても、元々後期を本命大にしていて試験対策も力を入れているのでそれほど不安はないでしょう。
後期のライバルの多くは前期に集中しているので、その人たちより、後期本命大のBさんのほうが有利です。
後期の定員が多い大学とは
旺文社によると、全国公立大の募集人員のうち、8割は前期で後期は2割です。
各大学前期を重視していることがわかりますが、前期を行わず後期だけを実施するところもあります。
山梨大医学部、静岡大理学部創造理学コース、国際教養大国際教養学部などは後期のみ実施します。
そのほか、茨城大理学部(数学・情報数理)や埼玉大理学部数学科、信州大繊維学部(機械・ロボット)などは前期と後期の定員が同じですので、こうした大学も「後期本命大」にすることができます。
道内の国公立大にも後期が多いところがある
道内の国公立大にも、後期の定員を多くしている大学があります。
北海道教育大釧路校(地域学校教育実践専攻)の定員割合は前期42.9%、後期57.1%です。
同じく北海道教育大の岩見沢校(美術・デザイン)は前期31.2%、後期68.8%です。
釧路公立大は前期34.2%、後期65.8%となっています。
また、北海道教育大岩見沢校と北見工業大は、後期の割合が35.7~47.6%と、前期のほうが多いものの、比較的後期にも力を入れています。
北大
ここからは、道内国公立大学の前期・中期・後期の状況を詳しくみていきます。
まずは北大をみてみましょう。
北大の場合、学部によって前期・後期の割合が異なりますが、全体をみてみましょう。
北大の全学部の前期の総定員は1,924人(79.6%)で、後期は492人(20.4%)です。
北大は、北大を本命にする受験生が多いので、この割合を選択したのでしょう。
そして医学部医学科(医師コース)は前期100%で、後期は行なっていません。
「強気」といってもいいでしょう。
北大の前期には総合入試と学部別入試があります。
総合入試は、文系または理系だけを決めて受験します。
総合入試で合格した人は、北大に入って2年生になってから学部に配属されます。
配属される学部は本人の希望と1年生の成績を合わせて選考にかけられて決まります。
一方の学部別入試は、学部を決めて入試を受けます。
後期は学部入試だけです。
ここで特筆したいのは、教育学部と法学部と経済学部の後期の試験は、小論文しか課されない、ということです。
この3部の前期試験の科目は数学、外国語、国語ですので、後期は「まったく別の能力が問われる」と言っても過言ではありません。
小論文が得意な受験生は、「北大の教育学部と法学部と経済学部の後期」はかなり狙い目です。
したがって「後期本命大」戦略を発動してもよいかもしれません。
以下の記事も合わせてご覧ください。
札幌医大
札幌医大の医学部医学科(医師コース)は前期しか行いません。
後期は募集していません。
保健医療学部の看護学科、理学療法学科、作業療法学科も前期のみです。
旭川医大
旭川医大の医学科(医師コース)の一般入試は、前期40人(72.7%)、後期15人(27.3%)です。
北大医学部医学科も札幌医大医学科も前期しかないので、道内で国公立医学部を目指す受験生は、旭川医大の後期は重要な滑り止めのチャンスといえるでしょう。
看護学科は前期40人(80%)、後期10人(20%)となっています。
小樽商大
小樽商大は前期280人(75.7%)、後期90人(24.3%)です。
前期重視ではありますが、後期の割合も少ないほうではありません。
ただ小樽商大を本命にする受験生は、大学選択が難しくなる可能性があります。
悩ましい「小樽商大A、北大経済B」の人
ベネッセの調べでは、北大経済学部の偏差値は68で、小樽商大は58です。
偏差値の差10は「相当広い」といえます。
東京圏であれば大学がたくさんあるので、偏差値の差が10も開くことはありませんが、北海道の場合は北大経済学部と小樽商大の間に入る文系大学は私立も含めて存在しません。
したがって、模試で「小樽商大:A判定、北大経済学部:B判定」になった人で、道内進学に限定されている人は、リスクを取って北大経済学部を本命にするか、安全を取って小樽商大を本命にするかでとても悩むと思います。
その解決策のひとつが、前期で北大経済学部を受けて、後期で小樽商大を受ける方法です。
北大経済学部でB判定が出ているうえでの小樽商大A判定なので、小樽商大は後期でも十分勝算があります。
小樽商大もよい大学ですが、ブランド力や全国的な知名度では北大経済学部のほうが強いでしょう。
北大経済学部でB判定が出ているのに、挑戦しないのは「もったいない」印象があります。
そして小樽商大の一般入試の後期は、2次試験がなく、センター試験だけで合否が決まります。
したがって「センター試験の自己採点で合格を確信できれば」という前提になりますが、小樽商大後期の合格を実質的に確保したうえで、前期の北大経済学部にチャレンジできるのです。
もちろん「センター試験の自己採点で合格を確信できれば」という前提は、100%実現するわけではありません。
したがって、前期の北大経済学部に落ちて、後期の小樽商大にも落ちてしまう可能性も十分あります。
その場合、前期、後期ともに小樽商大を受験すればよかった、と後悔することになるでしょう。
これも悩ましい選択ですが、「夢の北大」を手中に収めるには、このような手法もあることを覚えておいてください。
帯広畜産大
帯広畜産大の共同獣医学課程(獣医師コース)は前期25人(69.4%)、後期11人(30.6%)となっています。
前期重視型ですが、後期の割合も比較的高めといえます。
共同獣医学課程は6年制です。
4年制の畜産科学課程は前期115人(76.7%)、後期35人(23.3%)となっています。
前期の重視度が高まっています。
室蘭工大
室蘭工大の創造工学科の前期は133人(67.5%)、後期は64人(32.5%)となっています。
システム理化学科は前期96人(67.6%)、後期は46人(32.4%)となっています。
室蘭工大も、前期を重視しつつも後期の割合が比較的高めになっています。
北海道教育大
北海道教育大は札幌校、旭川校、釧路校、函館校、岩見沢校があります。
札幌校は前期181人(79.4%)、後期は47人(20.6%)です。
旭川校は前期172人(80.8%)、後期は41人(19.2%)です。
釧路校は前期54人(42.9%)、後期は72人(57.1%)です。
函館校は前期150人(69.1%)、後期は67人(30.9%)です。
岩見沢校は前期78人(60%)、後期は52人(40%)です。
同じ大学でも校舎によって比率がかなり異なります。
札幌校と旭川校は前期が約8割です。
一方で釧路校は後期が6割近くあり、岩見沢校の後期も4割とかなり高率です。
北見工大
北見工大の地球環境工学科は前期76人(53.5%)、後期66人(46.5%)でした。
地域未来デザイン工学科は前期88人(53.3%)、後期77人(46.7%)でした。
後期の割合が高めです。
札幌市立大
札幌市立大のデザイン学部は前期59人(80.8%)、後期14人(19.2%)。
看護学部は前期のみ48人(100%)です。
はこだて未来大
はこだて未来大は前期135人(84.4%)、後期25人(15.6%)となっています。
かなり前期重視が強いといえます。
名寄市立大
名寄市立大の栄養学科は前期21人(84%)、後期4人(16%)となっています。
看護学科、社会福祉学科、社会保育学科はいずれも同数・同率で、前期25人(83.3%)、後期5人(16.7%)となっています。
釧路公立大
釧路公立大の経済学科は前期45人(34.6%)、中期85人(65.4%)となっています。
経営学科は前期20人(33.3%)、中期40人(66.7%)です。
釧路公立大は「前期・後期」ではなく「前期・中期」なので2次試験の「3校目」に選びやすくなります。
そして中期重視タイプなので滑り止め大に選びやすくなっています。
受験生には喜ばれるでしょう。
※本記事で紹介している学校の外観写真は、Wikipediaより参照しております。
まとめ~戦略は早めに練ろう
国公立大の2次試験に前期・中期・後期があるのは受験生の選択肢を増やすためですが、それがかえって複雑な仕組みにしてしまっています。
そのため東大などの超有力大学の「後期離れ」を招いたといえるでしょう。
ただ、大学入試は、すべての受験生が同じルールで戦うので、複雑さによる不利の度合いは全員同じです。
したがって、ネガティブな状況をポジティブに反転させ受験生は勝利の確率を高めることができます。
後期に本命大を置く作成はまさに、ライバルたちの「裏をかく」戦術といえます。
メリットやリスクを考えながらどの組み合わせが最も第一志望大に近づけるのか検討してみてください。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。