2020年の新型コロナウィルスによる世界的パンデミックは、私たちの生活をガラリと変えてしまいました。
コロナウィルスによって、日本全国の学校の一斉休校という、かつてない想像もしなかった出来事もあり、大変な思いをした人も多かったのではないでしょうか。
これからの時代が、コロナ以前とは全く違う、別の時代に突入したことを、一番実感しているのは、学生のみなさんかもしれません。
これまでの常識や当たり前が通用しなくなる時代を迎え、これからどんな進路を選べばいいのか悩んでいる方も多いことでしょう。
そこで今回は、これからの世界がどのような時代を迎えるかという予想を立て、大学や学部、将来の仕事をどのように選んだらよいかについてのヒントをお伝えしたいと思います。
今の仕事はずっとなくならない?それとも…
「企業30年説」という言葉があることをご存知でしょうか。
この言葉が初めて話題になったのは、今から約40年前の1983年。
ビジネス誌「日経ビジネス」に掲載された記事が発端と言われています。
言葉通り意味するところは、企業の寿命は約30年程度、今現在安定して大手とされる有名企業でさえも、その寿命を考えると、10年後、20年後は衰退している可能性が高い、というものです。
これは、当時の日本社会では終身雇用が常識とされていただけに、とてもインパクトがあり、センセーショナルな内容で話題となりました。
その真偽については、当時は疑念を持っていた人も多かったかもしれません。
しかし、時が経ち2018年の東京商工リサーチが発表した統計は、まさにそれを裏付けるものといえるものでした。
集計によれば、倒産した企業の平均寿命は23.9年。
最も長い業種は製造業で33.9年、最も短い業種は金融・保険業の11.7年となっています。
倒産する企業の事情は様々であることが考えられますが、「30年」という年数に注目すれば、その企業の事業内容が、時代にそぐわなくなったためではないか、ということが考えられます。
それにしても最長が33.9年というのは、ややショッキングな結果ではないでしょうか。
AIの進歩も見過ごせない
つぎに、少し最近の話になりますが、「コンピューターの自動化やAIの進化により、現在ある仕事の中の47%の仕事が今後20年後までになくなる」という予測が大きなニュースとなったことを、覚えている人はいるでしょうか。
これは、2014年、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授らによって発表された論文「雇用の未来―コンピューター化によって仕事は失われるのか」示されています。
なくなる職種としてあげられたのは、タクシードライバー、銀行員、電話オペレーター、ネイリスト、弁護士助手、ホテルの受付、レジ係など多数です。
今までは人間にしかできなかった仕事でも、テクノロジーの進化によってコンピューターやAIで可能になるというニュースは、世界中の人たちに衝撃を持って受け止められました。
そして、2020年。
誰もが予想しなかった新型コロナウィルスの世界的パンデミックにより、私たちの置かれた状況は、以前とは、全く異なるものとなってしまいました。
コロナ後の世界「アフターコロナ」
呼び方は様々ありますが、新型コロナウィルスの発生以後の世界を、ここでは「アフターコロナ」と呼ぶことにします。
ウィルスの感染を防ぐために、アフターコロナでの労働環境は「レス」が当たり前となりつつあります。
「ペーパーレス」「ハンコレス」「通勤レス」「対面レス」「残業レス」…。
人と人との接触を、極力控えなければならなくなりました。
いわば強制的にこのような状況になってしまったのですが、アフターコロナでの働き方の特徴には以下のようなことがあると言われています。
・リモートワーク
国が首都圏などの大都市に勤務する従業員を抱える企業に対し、リモートワークを推進するよう働きかけ、企業もその要請に応じたことから、今ではリモートワークができる環境にある企業も増えてきました。
リモートワークのメリットは、自由に好きな場所で働くことができる、ということです。
もちろんこれには一定の自己管理能力も必要となります。
しかし、今までエリアや場所で限定されていた雇用が、これまでの縛りがなくなり、個人の能力を一層発揮できるチャンスが増えたとも言えます。
・フレックスタイム制の増加
リモートワークが進めば、場所を選ばず働くことができるようになることはもちろん、自分の好きな時間に働くこともできるようになります。
出社が必要な時には、勤務時間をずらして、通勤ラッシュを回避し感染リスクを抑える効果が期待できる、フレックスタイム制を導入する企業が増えてきました。
コロナ対策のみならず、今までの慣習に縛られずに新たな働き方を模索する中で、通勤や残業に囚われることがなくなりました。
これらのストレスがなくなることで、アフターコロナでは「働き方」の概念が変わりつつあります。
・AI活用の増加
コロナ対策として、人と人との接触を極力避けるために、企業でのAIの活用が増えています。
AIカメラで検温やマスクの着用を確認したり、通行する社員やお客さんの検温をしたり、劇場やスポーツ観戦チケット予約をしたり、他にも様々な用途で活用され始めました。
今後もこの流れはますます続くことが予想されます。AIの能力にさらに注目が集まり、様々な業務での活用を始める企業が増えていくことでしょう。
デジタルトランスフォーメーション(DX)によって未来は変わる
DXとは端的には「デジタル化による組織やビジネスモデルの変革」のことを指します。
AIやICT、IoT などの先端的なデジタル技術の活用も含まれます。
コロナ以前の世界でも、DXによる社会の変化について予想されていましたが、まだ遠い未来の話のように人々は捉えていたようです。
しかし、アフターコロナでは、一気にDXが現実味を帯び、いわば強制的にではありますが、社会全体がその必要に迫られることとなってしまいました。
本来であればもっと時間をかけて起こるはずだった変化が、コロナウィルスによって、今後一気に押し寄せてくると考えられます。
コロナの影響だけでなく、労働人口の減少や企業の競争力激化など様々な要素が相まって、DXは、ますます推進されるでしょう。
この大きな流れはうねりとなり、とどまることはありません。
DXによって、これまでにない劇的な変化が、加速度的に起こる未来がすぐそこまで迫ってきています。
DXや新たなテクノロジーによって、今後は古い業種が衰退し、そこで働く人たちが必要とされなくなるでしょう。
その反面、新たなテクノロジーによって、新たな雇用が創出されると考えられます。
そもそもテクノロジーとは何かといえば、人間の能力を拡張するものだといえます。
例えば、メガネは人の視力を拡張してもっと見やすくします。
自動車は移動能力を、センサーは感覚をそれぞれ拡張しているといえます。
テクノロジーが人間の能力を拡張するのであれば、テクノロジーは人間の仕事を代わりに行い、もっと高度に多角的なものにしていく、という未来が見えるのではないでしょうか。
今までの歴史を振り返れば、新しいテクノロジーは人間の仕事を奪うと同時に、常に新しい仕事を生み出してきたのですから。
古くは、第一次産業革命では、それまで人が手で紡いでいた糸を、人に代わり紡織機が紡ぐようになりました。
紡織の作業を機械が行うことで、以前とは比べものにならないほど紡織の生産性が向上、糸を紡ぐ仕事は、人から機械へと受け渡されます。
紡織機の機械技術は、その後の自動車産業などの礎となりました。
そして新たな産業へと受けつがれ、今でも多くの雇用を生んでいます。
最近では、インターネットやスマートフォンの普及により、ユーチューバー、エバンジェリスト、ドローンパイロット、コミュニティマネージャーなどが、新たな職業として注目を集めるようになりました。
少し前には存在しなかったこれらの職種も、今やすでに市民権を得ています。
今後AIテクノロジーが進化すれば、自動運転、遠隔医療、ギガスクール…と、生活するなかでのあらゆる物事の利便性が、今までよりも飛躍的に向上するでしょう。
その時に、人間の仕事は、人間にしかできない仕事とは、いったい何でしょうか?
ここで考えたいのは、私たちはどのようにテクノロジーと棲み分けをし、テクノロジーと協業をしながら仕事を発展させていくか、ということです。
今後も人間が優位になる仕事の領域は?
近い将来、どのような分野の仕事が、AIやテクノロジーと棲み分けることができ、人間にしかできない職業なのかということを考えてみようと思います。
未来のことは誰にもはっきりとはわかりませんが、今ある事実を材料にして未来を予想して想像することはできます。
すると、次のような領域については、今後も人間が行うことが多いのではないかと考えられます。
・マネジメント系
会社経営や、工場・店舗、会社の部署やプロジェクトやチームなどのマネジメント職は、今後も人間がその役割を担うことになると言えるでしょう。
業務の目的や方向性を定めたり、意思決定をする、責任を取る、人を育てるといったこれらのことは、人間ならではの「意思」や「判断」が問われる領域です。
・クリエイティブ系
新しいものや価値、芸術を生み出す「創造」の領域は、しばらくはAIに置き換わることがないと言われています。
そもそも、AIは既存の要素を組み合わせてアイデアを量産することは得意ですが、素材が全くない状況から何かを生み出すことはできません。
事業開発プロデューサーや発明家、映画監督やデザイナーなどが、これに該当する職業です。
・ホスピタリティ系
人間同士の感情の交換や、人間として基盤となる信用が求められる領域です。
これは、顧客となる私たち人間が、「人間」によるサービスの提供に価値を感じるならば、それに準じた職業は、人間が担うことでその価値は維持され続けることでしょう。
保育士や介護士、カウンセラーやコーチなどがこれに該当する職業です。
・クラフトマン系
人間の身体性の優位を活かした、まだまだ機械化が難しい作業の領域の仕事です。
人間の細やかな感覚は、私たちが想像する以上に強力な武器となり、まだまだAIや機械に置き換わることが難しいと言われています。
ピッキングやハウスキーパー、配達員、その他あらゆる分野の職人などがこれに該当します。
・テクノロジー系
テクノロジーと人間が、これから共存する世界を実現していくために必要な仕事です。
テクノロジーが仕事のコア部分となれば、その周辺には、新たに生まれる仕事があります。
総合的な視点でテクノロジービジネスを描ける人、DXを推進できる人、高度な技術を有するAIエンジニアなどがこれに当たります。
以上、これからも人間がテクノロジーに代替されにくい5つの仕事の領域をご紹介しました。
しかし、ここで頭に入れておいて欲しい事実があります。
それは、この5つの領域を含むすべての領域において、多少の差はあるにせよ、テクノロジーへの代替は必ず起きる、ということです。
なぜならば、テクノロジーは人間の能力拡張に向けて、進化し続けているからです。
ツールとしてのテクノロジーを使いこなし、さらに人間としての優位性を発揮できるキャリアの探求が、これからの私たちに求められています。
私たちは、テクノロジーを活用し新たな価値・仕事を創りだすことができるでしょうか。
私たちには、テクノロジーによって新たに創られた仕事を担う能力があるでしょうか。
先述したように、これからの世界では、「人余り」と「人不足」が同時に訪れる可能性があります。
変化に取り残された人々や、新たなテクノロジーによって仕事を代替された人々の仕事は、必要とされなくなります。
その一方で、変化に適応し、新たなテクノロジーを使って仕事を生み出し、新たな仕事を担える人々は必要とされ続け、人材の不足が起こるでしょう。
テクノロジーによる急速な業務の高度化は、残念ながら単純に仕事をシフトしたり、労働力を置き換えるということができません。
そのため今後は、ますます職種による所得の格差が大きくなることが予想されます。
私たちは、こうしたテクノロジーの進歩による労働環境の変化に、できるだけ早く備えなければならないということです。
アフターコロナで注目が集まる学部
将来の仕事を考えた時に、今後大学受験においては、どのような学部が注目されるのでしょうか。
コロナ以前は好景気だったため、しばらく文系人気が続いていましたが、2020年度入試では社会科学系を中心に文系の志願者が減りました。
近年の定員厳格化で大学が入学者を絞り、合格が難しくなったという影響もあります。
その一方で、工学系を中心に理系の人気は安定しています。
アフターコロナの世界では、学生の就職への不安から、文系から理系に志望がシフトするのではないかと予想されます。
医学部が高偏差値の学生たちに人気があるのは、以前からも変わりませんが、その割合が徐々に下がってきているようです。
最近そうした学生の一部は、AIやデータサイエンスなどの情報系に志望を移しているようです。
現在はまだAIやロボットによって自動化しにくい仕事もあります。
例えば、医師、看護師、助産師、介護士、芸術家、教員、保育士、カウンセラーなどの職業があげられます。
これらの職業に共通しているのは、どれも「人との深い交流やコミュニケーション」が必要となる点です。
子どもや生徒、患者さんと交流することが必要な医療従事者や教員、カウンセラーなどは、今後も人間の仕事であることが求められるでしょう。
またゼロから何かを生み出すクリエイティブな仕事も、人間の方が圧倒的に得意といえます。
これらのことをまとめると、
- 医療系
- 教育系
- 工学系
- 情報系
- 芸術系
の学部がアフターコロナでは、注目されるのではないかと予想されます。
就職した新社会人たちの今後は?
新型コロナウィルスが蔓延し始めた2020年以降に就職をした新社会人たちにとって、特にオフィスワークなど対面せずに仕事ができる職種の場合、就職面接から実勤務に至るまで全てリモートで採用された方も多く、現在のようなリモートワークやZoomを使った会議などが当たり前と認識してしまっている場合があります。
コロナが収束した後、リモートする必要がなくなり通常出社に切り替わった際、はじめて会社の人と対面しながら仕事を始めることになるため、このギャップによって強いストレスを感じてしまう懸念があります。
コミュニケーション能力がある方でも、これだけ長い期間リモートでお仕事をしていると対面して仕事をする感覚が鈍っていることも考えられます。
中にはリモートワークのままでも機能する職種であれば、コロナ収束後もリモートワークを続ける会社も多くあると思われますが、大半が通常勤務に戻ることを前提に現状の仕事を行うようにすると良いでしょう。
まとめ
古い価値観や慣習にとらわれすぎずに、テクノロジーを取り入れ、クリエイティブに挑戦を続けることで、人はこの先もっと新しいテクノロジーを創り出していくことでしょう。
何度も言いますが、世界のDX化の流れは止まることはなく、むしろこれからますます加速していきます。
これまでの100年の変化を、この先の数年で体感する未来がやってくるかもしれません。
これからどのような未来がやってくるか、期待もある反面、不安に感じる人もいるでしょう。
けれども、つねに世の中の流れに目を向け、新たなものに対し積極的に知ろうと取り組むことや、好奇心を持ち続けることで、今後の世界が一層興味深く見え、今までよりも、もっと楽しむことができるのではないでしょうか。
そのような視点から、この先の未来を見据え、志望大学、志望学部を決定できると良いのではないかと考えます。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。