家庭教師を自宅にお呼びする際は、いったいどのような環境で教わるのが良いのでしょうか?
この記事では、家庭教師をお呼びする前にチェックすべき部屋のポイントや、 勉強に最適な環境などについて解説します。
勉強に最適な部屋とは?
まず、お子さんの勉強に最適な部屋というと、どんな環境が思い浮かぶでしょうか?
- 騒音や雑音が少ない
- 学習に必要なもの(教科書・ノート・参考書など)がきちんと用意されている
- 日光が適度に当たり、温度・湿度がちょうどよい
- 整理整頓されており、清潔感がある
- ほこりやハウスダストがない
- 居心地が快適
これらの条件を満たす部屋であればお子さんも思う存分、集中することができ、家庭教師の先生も不快な思いをされないでしょう。
更には成績アップにつながることも大いに期待できます。
準備が楽な部屋がおすすめ
アパート、マンション、一戸建て、平屋、二世帯住宅。
さまざまな様式の家や間取りがありますが、どのような部屋を学習部屋としてあてがえばよいのでしょうか?
特に決まったルールはありませんが、先に挙げた「勉強に最適な部屋」の条件をなるべく多く満たす場所が望ましいでしょう。
もし、候補となる部屋が2部屋あり、どちらも同じくらい条件に当てはまる場合は、準備が楽な方を選びましょう。
今後毎週のように家庭教師が訪れるたびにその部屋を使用するため、いちいち準備に手間取る部屋は避けたほうがよろしいでしょう。
干渉が少なく、集中できる部屋を選ぶ
たとえば、子ども部屋とダイニングルームが有力候補だとします。
ところが、家庭教師が訪れる時間帯は夕方で、ちょうど夕食を準備する時間帯と重なっています。
隣のキッチンでは、ごきょうだいのお子さんと夕食の支度に取りかかりたいところです。
このような場合、ダイニングルームで学習指導を行うとキッチンの作業と干渉し、音がうるさく、お子さんの気が散るため、子ども部屋に軍配が上がります。
別の例は、同じく子ども部屋とダイニングルームが有力候補であるものの、ごきょうだいが幼く、まだ手がかかるケースです。
子ども部屋はつねにごきょうだいの遊び場として占拠されており、指導を受けるお子さんが集中しづらく、ダイニングルームに軍配が上がります。
同様に、 二世帯住宅で祖父母の方がお住まいの場合も、学習部屋と居住空間と近接しないよう配慮する必要があります。
「環境」に備わる力
そもそも、お子さんの学習のために環境にこだわるのはなぜでしょうか?
人間の能力は置かれた環境によって大きく左右されます。
19世紀アメリカの心理学者ジョン・ブローダス・ワトソンは「環境優位説」を唱えました。
ワトソンは環境からの刺激に対する子どもの反応と条件づけが“発達の要因”だと考えました。
生まれもった遺伝的要素とは関係なく、然るべき環境さえ整えば「さまざまな人間に育て上げることが可能」だというのです。
ある種、極端ともいえますが一理ある考え方です。
ここでいう「環境」を決める要素は多岐にわたります。
たとえば、住んでいる国や地方といった大きな要素以外に、ビルに囲まれたエリアか、自然の多い田園地帯か、人口の多い地区か少ない地区か、騒音が多いか少ないか、雨が多いか少ないか、といった色々な細かい要素も含みます。
環境を選ぶことは生きるうえでたしかに大事ですが、そうはいっても、住む場所となるとお子さんはおろか、大人でもなかなか自由に決められるものではありません。
学校や仕事など人間関係やしがらみがあるからです。
作家やアーティストの部屋に学ぶ
逆に、誰でも自由にアレンジできるのは、環境の最小単位である部屋や身の回りのスペースです。
これらの環境を最適化すれば、手軽に能率を上げることができます。
ひとつ参考になるのは、類まれなる集中力が要求される著名な創作家の部屋です。
雑誌やテレビなどで「有名な作家やアーティストは普段どんな作業部屋で仕事を行っているか?」という興味深い特集が組まれることがあります。
誰もがその名を知るような昭和の文豪・川端康成、漫画の神様・手塚治虫、ノーベル文学賞に毎年候補が上がる村上春樹、米アカデミー賞を受賞した宮崎駿などです。
独創的で面白い小説や映画などの作品のアイディアをひねり出すために長時間苦しみ、煩悶することは創作家にとって日常茶飯事です。
彼らの作業環境をみると、特徴的なレイアウトで目を引く小物が配置してありながら、無駄な物が少なく整然とし、しかも独特で個性的です。
写真をみると一目瞭然ですが、どこにでもあるようでいて不思議なオーラを放つ佇まいなのです。
彼ら自身の非凡な能力もさることながら、潜在的な能力を奥底から引き出す環境の力は大きいのではないかと思わされます。
オリジナリティが際立つ彼らの書斎や作業部屋は、装飾や雰囲気はまるで違えど「居心地がよく、集中力を高めることに特化している」点で共通しています。
言い換えれば、集中を削いだり、余計な事を考えさせない工夫がなされているのです。
お子さんの勉強部屋の選び方
このように上手な環境づくりはお子さんの能力をさらに高め、余すことなく潜在能力を引き出すことに一役買います。
能力が最大限発揮できるような部屋づくりは優先されるべき事項です。
以下では、それぞれの勉強部屋の特徴や注意点について解説します。
①子ども部屋
選択肢が特段ない場合、多くのケースで落ち着くのはやはり子ども部屋です。
ただし、ひとりっ子の場合と、ごきょうだいがいる場合で少し異なります。
お子さんとごきょうだいの年齢差が近い場合は、ごきょうだいの行動パターンに合わせて、学習や遊びの邪魔にならないルールづくりが必要です。
年齢差が大きい場合は、たいてい生活時間や行動パターンが異なるため、ひとりっ子と同様に考えればよいでしょう。
たいていの子ども部屋は散らかっていますので、具体的な環境改善としては、机の上の整理整頓や衛生面での掃除や換気が主です。
片付いていなかったり、空気が淀んでいてはひと目で悪印象になり、無意識のうちに集中を妨げる要因になるでしょう。
時間的な余裕があれば、ぜひ大掃除や模様替えをして気持ちを入れ替えましょう。
古い物やプリント、配布物、おもちゃなどを捨て、シンプルなレイアウトにすることです。
お子さんも気分新たに、リフレッシュして学習に打ち込めるでしょう。
②ダイニングルーム
子ども部屋以外のおすすめはダイニングルームです。
学習机は広いほうが良いとされますが、種類によらず、ダイニングテーブルは大きめに作られているからです。
スペースがあるダイニングテーブルは、場合によっては学習机より優れています。
広いテーブルであれば、教科書・ノート・参考書・予習復習用のノート・文房具など必要なものを同時に広げることができ、効率よく学習できます。
国語や英語の辞書、算数・数学の計算用紙や定規、社会の地図、理科の観察・実験用具など補助用具も役立てやすくなります。
また、ダイニングルームは指導中や指導後に親御さんとコミュニケーションが取りやすいのも利点です。
③リビングルーム
多くの家で最も広い部屋はリビングルームです。
日当たりがよく、リラックスできるなどの利点から、「リビングルーム学習」は定番のひとつです。
ダイニングルーム同様、コミュニケーションをとるうえでも最適です。
ただし、日常的に勉強部屋として使用する場合、リビングルームのテレビは大敵です。
観る気がなくても、あると何となくつけてしまうのが人間の習性です。
このような事態を防ぐには、テレビが見えない場所にあるのがベストです。
ただ、別の部屋に運ぶとしても配線があり、最近のテレビは大型で重量があるためそうもいきません。
おすすめなのは、使用していない際は布などをかけて視覚的に隠してしまうことです。
テレビが目に入らなくなるだけで、気が散らなくなり、自然と集中力がつくでしょう。
④応接間
何らかの理由で、子供部屋・リビング・ダイニングを利用できない場合、次の候補となるのは応接間(客間)です。
ただ、ソファーやローテーブルは姿勢が悪くなりがちです。
いくぶん雰囲気もかしこまってしまうため、長期的には考え直す方がよいかもしれません。
⑤和室
応接間と同様、緊急時に使用するのは問題ありません。
ただ、体の小さい小学生はともかく、大きい中高生ですと座り疲れが出る恐れもあります。
また、落ち着いた雰囲気になってしまい、学習する気分になりにくいかもしれません。
学年によって学習場所を変える
当然ながら、お子さんが成長するにつれて「勉強に最適な学習部屋」も変化するため、柔軟な変更が必要です。
たとえば、勉強にまだ慣れない幼い年頃の子は親御さんがそばにいる方が心強いでしょう。
学校に入りたての1年生の頃は学習のやり方が分からず、アドバイスが必要になるため、やる気を出すにはダイニングやリビングの方がよいかもしれません。
次第に学年が上がり、3年生くらいになると受験もあり、自然にやる気が出ているでしょう。
物音や話し声などが聞こえてくるリビングルームよりも、集中できる子供部屋に移るとよいでしょう。
掃除や照明などの環境整備
家庭教師は他所様のお宅で緊張しており、環境に慣れないものです。
そんな講師とお子さんのために環境整備が必要です。
ひとくちに掃除といっても、ごみやほこりの吸引、乾拭き、水拭き、窓拭きとやることは色々あります。
たった一度ならともかく、家庭教師が来るとなると、頻繁に大掛かりな掃除をしなければなりません。
掃除にかける労力や時間の省力化にあたり、おすすめなのはロボット家電の有効活用です。
吸引から窓拭きに至るまで、あらゆるタイプの全自動掃除機が年々進化を遂げています。
また、夏場や冬場は温度差が激しいため、温度調節ができるエアコンやヒーターのある部屋が望ましいでしょう。
澄んだ空気は気分をリラックスさせ、学習に必要な集中力をみなぎらせます。
窓を開けて換気するほか、空気清浄機や乾燥対策の加湿器もあるに越したことはありません。
十分に明るい照明も重要です。
専用照明が備え付けの学習机でない限り、ほとんどの部屋は手元が薄暗いものです。
室内灯の点検、及び学習用のLEDランプや蛍光灯を準備しましょう。
壁に貼る学習ポスターなど
勉強部屋に、学習漢字一覧・英単語・九九の表・世界地図など、学習に関係あるポスターを壁に貼るのは一計です。
「絶対合格」「必勝」など、昔ながらの活を入れる張り紙も効果があるかもしれません。
こうしたものは学力向上効果と共に、気分を高める雰囲気づくりとして役立ちます。
逆にお子さんがリラックスできず、余計なプレッシャーを与えるようであれば取り去るほうがよいでしょう。
自宅外の指導が可能な場合も
共働きも増える中で親御さんも忙しく、なかなか自宅にいる時間がとれないことがあります。
まわりの目を気にする必要がありますが、そうした場合、自宅外のカフェやファミレスにお呼びすることも可能です。
※家庭教師サービスごとに差があり、実施してない場合もありますので事前に確認してください
「自宅だと集中して勉強できない」というお子さんは一定数います。
完全に静寂な環境よりも、適度な雑音がある環境の方が集中力が上がることが知られているため、お子さんによってはカフェの方が成果を発揮できることでしょう。
親は見えないほうがいい?
他に多くの親御さんが気にすることは、指導時間中に近くにいる方がよいか、お子さんから見えない位置にいるべきか、という問題です。
リビングやダイニングで指導を行う場合、部屋をまるまる使わないわけにもいきませんが、親御さんが常時同じ部屋にいると講師も気を遣うかもしれません。
そのつもりがなくても監視されているように感じるからです。
この問題は一概に言えず、お子さんの年齢・学年・性格・親御さんの関係性によってケース・バイ・ケースです。
お子さんが小学生の場合、親御さんが見えない場所にいると初対面の教師と2人きりになるため、慣れないうちは当然不安になります。
なので、見える場所にいつでも待機しておくのが望ましいでしょう。
中高生になると状況は変わり、周りの目を気にするようになります。
親御さんがいない方が好ましく、気が散らず集中できるお子さんも多いのではないでしょうか。
基本的には部屋から退出し、指導が終わる頃に戻るくらいが丁度良いでしょう。
また、中高生でも親御さんとの関係性が近く、友人のごとく付きっきりで非常に親しい場合もあります。
必ずしも避ける必要はなく、集中を邪魔しない程度でよいでしょう。
年齢を問わず、内向的で不安になりがちなお子さんの場合は、つねに見える場所でなくても声の届く範囲にいるとよいでしょう。
勉強部屋に適しているのはどっち?
勉強部屋の王道は子ども部屋ですが、”リビングルーム vs. 子ども部屋”という論争があります。
事の起こりは、10年ほど前に「有名中学校や有名大学に通う子どものうち、リビングルームで勉強していた人の割合が高い」という厳然たるデータが示されたことです。
このデータを根拠に「リビングルームで子どもを勉強させると成績が上がる」という話がまことしやかに語られました。
話題のとっつきやすさ、試しやすさから教育界隈で賛同の流れが巻き起こり、テレビなどメディアでも取り上げられた結果、実際にこの方法を試すご家庭が急増したのです。
ただし、現在の見解ではそれほど信憑性がないとされ、意見は二分しています。
少なくとも「必ずしも正しいとはいえない(=多くのお子さんに当てはまるとは限らない)」という見方に落ち着いたようです。
本当の原因を見極める
この手の話題にありがちですが、ある2つの現象に何らかの関連がみられた場合、「必ずしも片方の現象がもう一方の現象の原因になっている」とは限りません。
いわゆる「相関関係と因果関係は違う」というものです。
つまり、ひょっとすると「リビングルームで勉強することが成績向上の原因になっている」かもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。
むしろ「成績が良いお子さんは、得てして広いリビングルームがあるような家で勉強していることが多い」と考える方がよりもっともらしいでしょう。
家に十分な大きさのリビングルームがなければ、そもそもリビングルームで勉強することはままなりません。
だとすると、この”リビングルーム神話”は「経済的に余裕のある家庭のほうが有名校への進学率が高い」という身も蓋もない事実を強めるだけの話に過ぎません。
成績が上がった本当の原因は「リビングルーム学習」ではなく、それ以外の本質的な学習面への金銭的サポートだと考えられるからです。
理論どうこうより、実践が大事
とはいえ、「リビングルーム学習には意味がない」と言いたいわけではありません。
ある結果の原因が考えられる場合、その原因が唯一絶対の要因と思い込んではいけないという教訓です。
つまり、「リビングルーム学習」を実際に試してみて、お子さんの集中力が増し、成績向上に結びつけば言うことはありませんが、仮にそうならなくてもがっかりしないことです。
どちらかといえば、少しでも可能性のある手段やジンクスを思いつくたびに、いっぺん全部試してみるような心がけが大切です。
極端に言えば、試した99個の手段が失敗しても、残りのたった1個のやり方がお子さんにピッタリはまれば、それでよいのですから。
まとめ
人間は無意識のうちに環境から影響を受けるため、最適な環境づくりはとても重要です。
家庭教師をお呼びする日はもちろん、日頃から意識して整った勉強部屋を維持・改善する心がけがモチベーションと学力向上の第一歩になります。
お子さんがどうしても集中できない様子であれば、集中を妨げるモノを極力片付け、掃除・照明・学習用ポスターに気を配るなど、細かい環境改善を行いましょう。場合によっては、大胆な模様替えや、部屋を替える、自宅外で行うなど、あの手この手で模索するだけの価値はあります。
家庭教師の指導にあたっては、適切な日時を選び、ごきょうだいや祖父母などの同居者に配慮しつつ、お子さんの年齢・学年、要望に応じた部屋選びが大事です。子ども部屋・ダイニングルーム・リビングルームが有力ですが、条件に沿えばどこでも勉強部屋になります。「蛍雪の功」の故事のとおり、学習意欲さえ高まれば、蛍の光と雪明かりで本来十分なのです。
視覚的・心理的・衛生的観点から居心地の良く、快適な室内空間を作り上げることができれば、お子さんも家庭教師もすべきことに集中でき、目標達成へ向けて飛躍がみえてくることでしょう。