高校3年生になり、本格的に受験モードに入った人のなかにも、大学入試で行われるAO入試について「よく知らない」という人がいるのではないでしょうか。
浪人生はすでに大学受験を経験しているわけですが、それでも「自分に関係ないことだから調べたことがない」という人もいるでしょう。
アドミッションズ・オフィス入試、通称AO入試は、大学や学部が、自分たちが「求める学生像」に合致した受験生を探す選考方法といえます。
例えばセンター試験は「1つのモノサシ」で60万人もの受験生の学力を計測しなければなりません。
したがってセンター試験の試験内容は、大学・学部が学生に求める内容の「最大公約数」にならざるを得ません。
しかし大学・学部の教授たちのなかには「普通の入試では測ることができない能力を持った学生にこそ、うちの大学・学部で学んでもらいたい」と思っている人がいます。
それを実現するために生まれたAO入試は、大学・学部と受験生をマッチングさせる仕組みです。
AO入試は浪人生でも受けることができます。
AO入試の仕組み
AO入試は、センター試験のようなペーパー試験を課さない点で、一般入試と大きく異なります。
センター試験を課すAO入試もありますが、その場合でも小論文や面接のほうをより重視します。
センター試験を課すのは最低限の学力があるかどうか確認するためです。
またAO入試は、受験生の母校である高校の推薦を必要としない点で、推薦入試とは大きく異なります。
AO入試は学ぶ意欲がある学生を採用する仕組みなので、自己推薦が求められます。
AO入試に挑む受験生は、自己PRスキルを磨く必要があります。
アドミッション・ポリシーに合致しているかどうか
AO入試の選考基準の大前提は、受験生が、その大学・学部が提示するアドミッション・ポリシー(受け入れ方針)に合致していることです。
例えば北大では理学部・地球惑星科学科や医学部・医学科などがAO入試を実施していますが、そのアドミッション・ポリシーは「北大の理念であるフロンティア精神、国際性の涵養、全人教育、実学の重視を実現し、地球社会の未来を拓くパイオニアとして活躍できる素質を持った人」となっています。
アドミッション・ポリシーはさらに学部・学科によって細かく設定しています。
それは後ほど紹介します。
小論文と面接で選考することが多い
AO入試のモノサシは、小論文と面接です。
ただ最低限の学力を持っていることを確認するために、ペーパー試験を行う大学・学部もあります。
AO入試は主に、対話重視型と書類・論文重視型の2タイプがあります。
対話重視型のAO入試
対話重視型ではまず、大学・学部がAO入試説明会を開き、受験生がそれに参加することから始まります。
その説明会ではアドミッション・ポリシーについて詳しく解説されるので、それに納得した受験生がエントリーをします。
大学・学部側はエントリーした受験生に対し予備面接をします。
受験生たちはそこである程度「ふるい」にかけられ、残った受験生が正式な出願に進むことができます。
続いて正式な選考面接を行い、合否を決めます。
学力試験やペーパー試験に慣れてきた多くの人は、「面接だけで決めて大丈夫なのか」と感じるかもしれません。
面接官の恣意的な判断を心配する人もいるかもしれません。
しかしこの面接は普通の面接とは異なります。
AO入試の面接ではいわば「大人の議論」が交わされます。
大学・学部側はすでに詳細なアドミッション・ポリシーを提示しているので、受験生はそれについて調べたり予習したりして、自分の考えを、合理的かつエビデンスを示して面接官に説明しなければなりません。
エビデンスとは証拠や根拠という意味です。
面接官は受験生に「あなたは~についてどう思いますか」と尋ねるでしょう。
受験生はそれに答えます。
すると面接官は「あなたがそのように考えるのはなぜですか」と尋ねます。
このとき受験生はエビデンスを示して「~だからです」と答えなければなりません。
そして面接官はその答えを予想しています。
それで「あなたが示したエビデンスについて否定する学説もありますが、それついてはどのように反論しますか」と尋ねます。
受験生はそこまで想定して、「この考えを否定する学説は~という点で正しいとはいえないと考えます」と答えなければなりません。
ここまで「がっちり」議論することで、面接官は受験生が持っている知識が本物なのか上辺だけのものなのか判定するわけです。
書類・論文重視型のAO入試
書類・論文重視型のAO入試は受験生による出願から始まります。
受験生は出願のときに、小論文またはエッセイを提出します。
これは自宅でじっくり執筆と推敲ができるので、対策は取りやすいでしょう。
本やインターネットで調べたことを書いていくことになります。
書類選考を通過すると、面接、口頭試問、論文などを課す2次選考が行われます。
ここで学力試験が課されることもあります。
ここでの面接も、大人の議論が展開されるでしょう。
そして論文はその場で出されるテーマについてその場で書いていくことになります。
論文の後に面接が行われる場合は、論文の内容について質問されるはずです。
このとき、論文の内容と口頭で述べる内容に一貫性を持たせる必要があります。
2次選考で合否が決まります。
AO入試に関するデータ
AO入試は500~600の大学が実施しています。
学部数で数えると1,500ほどになります。
私大の8割は何らかの形でAO入試を実施しています。
国立大は6~7割ほどです。
これだけ聞くと「AO入試は流行している」と感じるかもしれませんが、そうではありません。
全大学の募集人数の割合でみると一般入試6割、推薦入試3割、AO入試1割となっています。
つまり実施する大学・学部は多いものの、1つの大学・学部のAO入試の募集人数は多くないのです。
道内では北大や札幌大学などで実施
道内でAO入試を実施しているのは、北大、北海道教育大、札幌大、札幌大谷大、札幌学院大、札幌保健医療大、日本医療大、北翔大、北海道科学大、北海道千歳リハビリテーション大です。
それでは北大のAO入試について、章をあらためて詳しくみていきましょう。
北大のAO入試
北大でAO入試を行っているのは次の学部・学科です。
- 理学部 地球惑星科学科
- 医学部 医学科
- 医学部 保健学科 看護学専攻
- 医学部 保健学科 作業療法学専攻
- 歯学部
- 工学部 応用理工系学科(応用マテリアル工学コース)
- 工学部 環境社会工学科(社会基盤学コース)
- 水産学部
出願はネット経由、センター試験も
北大のAO入試に出願するには、専用サイトに登録する必要があります。
つまりインターネットを使えないとそもそも出願すらできません。
医学部医学科と水産学部は高校の教師が入力します。
その他の学部・学科は受験生本人が登録します。
1次選考は、受験生から送られてくる入学願書、調査書、個人評価書、自己推薦書などで行います。
1次選考を通過すると論文と面接を行う2次選考に進みます。
センター試験は学部・学科によって課されたり課されなかったりします。
理学部地球惑星科学科と歯学部と水産学部は、センター試験を課しません。
医学部(医学科、看護学専攻、作業療法学専攻)と工学部(応用マテリアル工学コース、社会基盤学コース)はセンター試験が課されるので、受験しなければなりません。
なぜ理学部地球惑星科学科はAO入試を行うのか
理学部地球惑星科学科がAO入試を課す理由が明確かつユニークなので紹介します。
この文章を読めば「AO入試とは」どのようなものかわかるでしょう。
現在の日本では、高校で「地学」を教えるところが少ないため、大学進学を目指す高校生の多くは地球惑星科学という学問領域を正しく理解していません。
そのため、興味のないまま地球惑星科学科に進学して学部教育でとまどう例も多くみられます。
そこで、このAO入試では、地球惑星科学の特性と可能性を十分に理解し、地球惑星科学を積極的に学ぶ強い意欲と資質を持った人材を選抜することを目的としています。求める学生像
・地球や惑星の自然現象に興味を持ち、地球惑星科学を積極的に学びたい学生
・基礎学力があり、将来、この分野の研究者や技術者になりたいという志望を持つ学生
・地球と惑星の構成と進化を学ぶため、野外での調査や観察及び室内実験等を積極的に行う学生
大学にまで進学した人が興味のない学問を修めるのは、学生本人だけでなく教授たちにも不幸なことのようです。
その気持ちが伝わってくる文面だと思います。
そして教授たちは、学生に積極的に野外の調査と観察に出てほしいと考えています。
「地球をよくみてほしい」ということなのでしょう。
つまり理学部地球惑星科学科は、AO入試で「地球と惑星について知りたくて仕方がない受験生」を採用したいと考えているわけです。
理学部地球惑星科学科の2次選考で課される論文では、これまでに次のようなテーマが出題されました。
- 狩人が石を投げて鳥を捕獲する試行の確率に関する考察
- 複素数の関係式と複素平面上の点列に関する考察
- 太陽内部の圧力に関する考察
- 元素間の結合に関する考察
どれも難解である以上にユニークです。
この論文は普通の受験対策では太刀打ちできないので、受験生は特別な訓練が必要になります。
まとめ~魅力もリスクも大きい
AO入試に挑戦するには、その道を究めたいという強い気持ちと、実際にその道についての深い洞察が必要になります。
その道は、高校が教える内容から遠く離れていることも珍しくありません。
したがって、受験生自身が自分で調べ、研究、考察しなければなりません。
それだけに、特定の受験生には、AO入試は魅力が大きい選考といえます。
しかしそのためには一般教科の学習を犠牲にすることになるかもしれません。
そうなると、もしAO入試一本に絞って受験対策をして、AO入試で不合格になってしまったら、一般入試は不利になる可能性があります。
リスクが大きい選択ともいえます。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。