大学選びをしている高校生や浪人生は、大学の「知名度」だけでなく「学部や学科」にも注目してみてください。
大学は、いくつかの学部を開設していて、学部によって学ぶ内容が全然違います。
学部はさらに学科にわかれ、学科にも特色があります。
なかには「そんなことを学べるの?」と驚くような、マニアックな学部・学科もあります。
珍しい学問を紹介しますので、大学選びの参考にしてみてください。
ただし、マニアック学部・学科を選ぶときは、注意も必要ですので、それも併せて解説します。
尚絅学院大学の「表現文化」学科はプレゼンテーション力を身につける
宮城県名取市にある尚絅学院大学の総合人間科学部には「表現文化学科」という、珍しい学科があります。
表現文化学科長によると、この学科が育成する人物像は「表現できるキミ」です。
どういうことでしょうか、さらに詳しくみていきましょう。
学びの特徴
尚絅学院大学の表現文化学科(以下、同科)では、地域での活動を通して「伝わる」表現力を身につけることを目指します。
「地域」を強調しているのは、尚絅学院大学が地方にあるからでしょう。
表現力は、社会で必要になります。
いくら自分に能力や中身が備わっていても、それを周囲の人に知らせないと活用できないからです。
同科では、次の3項目を教えることで、学生に表現力を身につけさせます。
- 言語文化を学び、言葉を磨く
- 視覚文化を学び、映像で伝える力を鍛える
- 地域文化を学び、地域を見つめることで、表現すべき内容を把握する
同科の研究対象は、アニメ、映像、漫画、広告、物語、言葉、地域などさまざまです。
プレゼンテーション実務士とは
「伝わる」表現力は、「プレゼンテーション力」と言い換えることもできます。
表現文化学科で学ぶと「プレゼンテーション実務士」という資格を取得することができます。
プレゼンテーション実務士の資格は、一般財団法人全国大学実務教育協会(本部・東京都千代田区)が運営している民間資格です。
同協会に入会している大学・学部で指定の単位を取得することで取得することができます。
同協会では、この資格の保有者は、営業や販売の現場で活躍することができる、としています。
企業の社員となったプレゼンテーション実務士は、顧客のニーズに合わせて最適な製品やサービスを提案する仕事をします。
目指す就職先
尚絅学院大学・表現文化学科の卒業生たちは、次のような企業に就職しています。
東北銀行、杜の都信用金庫、東日本旅客鉄道、マイナビ、ピクス、エイチ・アイ・エス、日本旅行東北、パナソニックエコソリューションズテクノサービス、クリナップ、ドコモCS東北、今野印刷、くまざわ書店、宮城日産自動車、スズキ自販宮城、みやぎ生活協同組合、イオンリテール、南東北クボタ、ジーユー、福島交通
全国区の企業と地元企業に満遍なく就職できています。
「なんかすごそう」な東大の超域文化科学分科
東大の教養学部に、超域文化科学分科という科があります。
日本一入るのが難しい大学の、とても難しそうなことを学ぶ科、といえそうです。
とにかく「なんかすごそう」と感じます。
「要するになんなんだ」
超域文化科学分科(以下、同科)を理解するには、「要するになんなんだ」というところを押さえておく必要があります。
「超域な文化」とはなんなのか。
「文化を科学する」とはどういうことなのか。
こういったことを知らないと、超域文化を科学する世界は見えてきません。
同科は、
- 文化人類学
- 表象文化論
- 比較文学比較芸術
- 現代思想
- 学際日本文化論
- 学際言語科学
- 言語態・テクスト文化論
の7コースで構成されています。
よくわからないものを調べたら、さらによくわからない言葉が出てきました。
これではまだ「要するになんなんだ」は見えてきません。
同科は、公式ホームページで、ここでの学びの特徴を次のように説明しています。
- さまざまな学問領域を超えて、ダイナミックに勉強する
- 地域的境界や文化ジャンルも越える
- 伝統儀礼や民俗芸能から、マルチメディア・コミュニケーションまで幅広く扱う
- 常に開かれた視座で文科を考察する
- 新たな文化研究の領域を拓く
ここでようやく「要するにこういうことだ」というものが見えてきました。
同科では、「文化」と名がつくものを、過去から現在から、国内から海外から集めて、すべて研究するわけです。
「東大超域文化科学分科」と聞いて「なんかすごそう」と直感したことは間違っていませんでした。
すぐに仕事に役立つ立教大の「国際ビジネス法」学科
立教大の法学部には「国際ビジネス法学科」があります。
法律を学ぶ法学は、とても難しい学問です。
それは、世の中に無数の法律があるからです。
そこで、法律系の学科はかなり細分化、専門化しています。
では、国際ビジネス法学科(以下、同科)では、どのように細分化、専門化されているのでしょうか。
そもそもビジネス法とは
国際ビジネス法を考える前に「国際」を抜き取った「ビジネス法」について紹介します。
法律には「人を殺してはならない」といったルールや「自動車で時速100キロメートル以上出してはならない」という決まりが書かれています。
法律を破ると、罰が課されます。
ビジネスにもルールがあります。
ビジネスとは、事業を行なってお金を稼ぐ営みであり、実際はほとんど自由です。
しかし最低限、守らなければならないルールがあり、そのルールを破るとやはり罰を課されます。
社長が会社のお金を横領して贅沢な生活をすれば罰せられます。
芸能人が、税務署に「収入が少ない」と偽って報告して、本来支払うべき税金より少ない税金しか支払わなければ、罰せられます。
これらは、ビジネス法によって罰せられています。
ビジネス法という名前の法律はありません。
民法、刑法、商法、独占禁止法、所得税法、会社法など、ビジネスを規制している法律の総称を、ビジネス法と呼んでいます。
なぜ「国際」なのか
立教大はなぜ「ビジネス法学科」ではなく「国際」をつけて、国際ビジネス法学科という名称を使っているのでしょうか。
同科のコンセプトは、次のようになっています。
同科では、法律の視点で国際ビジネスのルールを考えて、日本のビジネスと世界のビジネスの架け橋となる人材を育てようとしています。
そのため同科の学生は、まずは国内のビジネス法を学ぶことになります。
その後、世界各国の企業買収や特許問題についての、契約書や裁判手続きの書面、判決文などを研究します。
日本を出て、世界で勝負したい人は、同科を検討してみてはいかがでしょうか。
北大にはロマンあふれる「地球惑星科学科」がある
「地球が生まれて46億年」といわれています。
この一言を聞いただけで、「46億年の間にどのように変わってきたのか」「なぜ46億年前に地球が誕生したといえるのか」といった疑問が、次々わいてくる人もいるでしょう。
そのような受験生は、北大理学部の「地球惑星科学科」を目指してみてはいかがでしょうか。
地球惑星科学科は受験生たちに「地球や惑星を探れば探るほど、ロマンが膨らんでくる」と、この学問の魅力をPRしています。
この世の「要素」をすべて調べる
北大の地球惑星科学科(以下、同科)では、この世を構成する「要素」のすべてを研究対象にしています。
要素とは具体的には、岩石、鉱物、資源、気象、海洋、陸水、地球史、地球環境、地震、火山、宇宙、惑星です。
こうした要素は、絶えず変動していて、それも研究します。
短期的な変動には、地震、火山の噴火、洪水、竜巻、オーロラなどがあります。
長期的な変動には、磁気変動、プレート運動、気候変動があります。
地球を惑星として考えると、宇宙のなかでの地球の位置づけも重要になり、それも調べます。
調べて「どうする」のか
この世のあらゆる要素を調べ上げると、何がわかって、どのようなよいことが起きるのでしょうか。
同科では次のように説明しています。
地球が生まれて46億年。
この惑星は、 どのような誕生と進化を経て現在に至り、 未来はどのような姿になっていくのでしょうか。
また長い時間の中でどのように生命を育み、私たち人類を生むに至ったのでしょうか。 人類はこの星といかに共存していくべきなのでしょうか。
このような問いに対して、地球深部から、大陸、海洋、大気、さらに惑星、 宇宙を領域として、あらゆる科学的手段を用いて答えを求めてゆくのが地球科学です。
地球科学の原動力は、他の理学分野と同様に、未知のものを見たい、本質を見抜きたいという好奇心と探究心です。
現代ほど多くの人々が「地球」に関心を寄せている時代はありません。 本学科で学ぶ正確な知識と科学的方法は必ずや活かされるものとなるでしょう。
この説明のポイントは2つあります。
- 地球の未来を探り、地球と人類との共存を考える
- 好奇心と探求心を満たす
温暖化や異常気象、廃棄プラスチックによる海洋汚染などについての報道を見聞きして「地球は危機的状況に陥っている」と感じている人は少なくないはずです。
現代人の生活が地球規模の問題を引き起こしているわけですが、しかし、現代人が今から、昔の人の生活を送ることはできません。
そうなると、現代人の生活と環境保護の両立を考えなければなりません。
そのためには「地球のこと」を知る必要があります。
それが「地球の未来を探る」研究になります。
同科で学ぶと「地球と人類が共存する」方法のヒントが見つかるでしょう。
そして、地球や宇宙や惑星について「知りたい」と思うことは、人類の根源的な知的欲求でもあります。
同科では、多くの人が知りたがっていることを学ぶことができます。
社会で役に立つのか
いくらロマンあふれる学問といっても、社会で役立つものでなければ、受験生は、その学科に進学することに不安を感じるでしょう。
しかし安心してください、地球と惑星の知識は、社会で大いに役立ちます。
同科を卒業した人たちは、次のような企業・団体などに就職しています。
株式会社野村総合研究所、関東経済産業局、気象庁、新日鉄ソリューションズ株式会社、住友商事、総務省、日本総合研究所、日立ハイテクノロジーズ、富士通、北洋銀行、丸紅情報システムズ、みずほフィナンシャルグループ、三菱マテリアル
同科が、日本を支えている組織に人材を送り込んでいることがわかります。
名古屋文理大学の「フードビジネス学科」を出れば食を仕事にできる
「名古屋」とついていますが、名古屋文理大学は愛知県稲沢市にあります。
この大学の健康生活学部に「フードビジネス学科」があります。
将来、食を仕事にしたい人に向いている学びの場です。
3つのコースから成る
名古屋文理大学のフードビジネス学科(以下、同科)の特徴は、同科にある3つのコースの内容を知ると、浮かび上がってきます。
「食品メーカーコース」は、加工食品や食品製造の特徴や専門知識を学びます。
「食品流通コース」は、食品卸売業や商品小売業を知ることで、食産業の構造を理解します。
「フードサービスコース」では、レストラン、カフェ、ケータリング、配食といった食の業態を学びます。
同科の学生は、この3つのコースから1つを選んで所属することになります。
同科では、栄養やエネルギー、生理機能や調理実習、メニューづくりといった、食に関する基本的なことの他に、経営やマーケティングの観点からもフードビジネスを学んでいきます。
自分でカフェやラーメン店を始めたいと考えている人、食メーカーに就職したい人、食ビジネスを立ち上げたい人が必要とする知識を身につけることができます。
マニアック学部・学科を選ぶときの注意点
ここまで、かなりマニアックな学部・学科をみてきました。
興味深い学びがたくさんあることを理解できたと思います。
ただ、進学先としてマニアック学部・学科を選ぶときは、注意点が必要です。
「本当にそこで学ぶべきなのか」と、慎重に検討してください。
マニアック学部・学科が、メジャー学部・学科になっていないのには、それなりの理由があるからです。
多くの人がメジャー学部・学科に進学し、少数の人しかマニアック学部・学科に行かないのは、メリットの量に差があるからです。
まずはメジャー学部・学科を検討しよう
大学の学部や学科を選ぶときは、まずはメジャー学部・学科を検討したほうがよいでしょう。
なぜなら、メジャー学部・学科は、社会のメジャーな課題を扱っているからです。
社会のメジャーな課題とは、解決するメリットも、放置するデメリットも、両方とも大きい課題のことです。
社会と大学は、「課題を抱える社会」と「その課題解決の道を探る大学」という関係にあります。
社会が「この課題を解決してほしい」と望んでいるから、大学が「よし、その課題の解決に取り組もう」と応じています。
社会がより深刻に困っているのは、マイナーな課題ではなく、メジャーな課題です。
そのため、メジャーな課題を扱うメジャー学部・学科を卒業した人のほうが、社会から歓迎されます。
例えば、日本社会は今、超高齢化というメジャーな課題を抱えています。
高齢者が多くなると、病気の人や障害者や介護が必要な人が増えるので、社会保障が必要になります。
社会保障のルールを決めるのは法律と政治です。
そこで社会は、法学や政治学の知識を求めます。
それで、法学部法学科や法学部政治学科を卒業した人は、社会で有益な人とみなされやすくなります。
また、病気や障害を解消することは、病気の人や障害者の人の幸福に直結します。
そこで、病気や障害を解決する医学が、社会で強く求められています。
それで、医学部医学科を卒業した人は、社会で有益な人とみなされやすくなります。
社会で有益な人間になるために大学に進学するのであれば、メジャーな学部や学科を、まずは検討しましょう。
メジャーな学部・学科とは
メジャーな学部・学科にも、驚くほど多くの種類があります。
その、ほんの一部を紹介します。
日本文学、児童文学、英文学、比較文化、史学、西洋史学、哲学、心理学
法律学、経営法学、行政学、政治学
商学、経済学、経営学、会計学
社会学、社会福祉学、児童福祉学、メディア学
数学、情報学、物理学、天文学、化学、生物学、動物学、植物学、生命科学、バイオ工学、地質学、地学、情報科学、環境生態学、生命化学
機械工学、精密工学、機械システム工学、ロボティクス学、コンピュータ応用工学、電気学、通信工学、電波通信学、電子工学、情報学、計算機科学、光システム工学、エレクトロニクス学、ソフトウェアサイエンス学、土木工学、建築学、交通工学、建設工学、社会環境工学、住環境デザイン、都市環境デザイン工学、工業化学、合成化学、石油化学、バイオ化学、ナノ化学、生命工学、原子力核工学、原子炉工学、鉱山学、資源工学、冶金学、金属学、金属材料工学、繊維工学、船舶工学、航空学
農学、園芸学、農業生産学、林学、獣医学、畜産学、水産学、栄養学
医学、歯学、薬学、看護学、栄養学、医療工学
絵画学、彫刻学、油絵学、産業デザイン、工業デザイン、音楽、声楽、作曲、映画学、演劇学、ファッション造形学
繰り返しになりますが、これらのメジャー学部・学科は、ほんの一部にすぎません。
メジャー学部・学科だけでも相当数の選択肢があるので、ほとんどの受験生たちのやりたいことは、このなかにあるでしょう。
このなかに学びたい学問がなかったときに、マニアック学部・学科を探すことをおすすめします。
就職には不利かもしれない
最初にメジャー学部・学科を検討し、その次にマニアック学部・学科を検討したほうがよいのは、メジャー学部・学科を卒業したほうが、就職に有利だからです。
企業や行政機関などは、まずはメジャーな課題を解決しようとします。
そのため、メジャー学部・学科を卒業した人を採用したがります。
自分が入りたい企業や行政機関に就職するには、採用担当者に認められなければなりません。
採用担当者は、メジャー学部・学科を卒業した人であれば、安心して採用することができます。
しかしマニアック学部・学科の場合、採用担当者がその学問を知らない可能性があります。
採用担当者は、「よくわからない学問」を学んだ人の採用に慎重になるでしょう。
しっかり調べる
マニアック学部・学科は、「なんとなく」や「イメージ」で選ばないほうがよいでしょう。
マニアック学部・学科は、マニアックな学問を教えることが多いので、自分の関心事とまったく異なる可能性が高くなるからです。
マニアック学部・学科の公式ホームページを読んでみて「ピン」とこなかったら、見送ったほうが無難です。
まとめ~汎用性が低い可能性が高い
マニアック学部・学科は、狭い学問領域にフォーカスを当てています。
それだけに、そこで獲得した知識を使える場所も限られてきます。
また、マニアック学部・学科は、新しい学問領域を研究します。
それだけに、そこで獲得した知識を必要とする会社は、それほど多くはありません。
マニアック学部・学科で獲得した知識は、汎用性が低いといえます。
大学で学んだこととまったく関係ない仕事に就く人は、日本では少なくなりませんが、マニアック学部・学科に入るとその確率が高くなるでしょう。
将来、自分が何をしたいのかをしっかり見据えてから、学部・学科を選んでください。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。