「イクメン」という言葉が登場してから随分と経ちますが、未だに男性の育児参加には高いハードルが残されています。
2019年カネカの元男性社員が “パタハラ” を受けたと妻がツイッター上で告発、男性の育児参加を認めない会社であるとネット上では話題になりました。
パタハラという言葉を知っていますか?
世の中に「イクメン」という言葉が登場してから、育児に参加する男性に対する世の中の奥さんの高感度は非常に高くなりました。
育児に参加するためには育児休暇を取得する必要がありますが、この育児休暇取得を妨害する・復帰後に不当な扱いを行う等の行いをパタハラと言います。
パタハラについて詳しく
そもそも男性の育児休暇取得は認められているのでしょうか。
企業の就業規則に記載されている事がほとんどですが、ここでは企業の規則よりも上位である法律を参照して考える事にしましょう(世の中の規則は条例や法律が、条例や法律は憲法が上位の決まりとなっています)。
日本の法律には育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律、通称育児・介護休業法と呼ばれる法律があります。
平成29年3月に一部改正のもの公布がされたこの法律ですが、「育児休業は、子が1歳に到達するまでの間に取得することができる(第5条1項)」とあり男女を問うている文言は一切ありません。
つまり男性の労働者であっても育児休暇の習得は可能となるわけです。
育児休暇は子どもが1歳の誕生日を迎えるまでを限度に習得が可能で、配偶者の女性も「産後休業期間」を利用して夫婦で育児の為に仕事を休むことは法律上認められています。
更に条件を満たせば子どもが2歳になるまで育児休暇を延長することも可能です。
しかし現実社会は甘くありません。
上記のような法律を私達が知らない前提で「それは出来ない」と突っぱねるのが普通となっています。
また上司もこの法律を知っていない場合があり、その場合は説明する手間さえ生じます。
またカネカの一件のように、育休から復帰した社員が即時転勤と不当な扱いを受けてしまうケースもあり、世の男性は育児休暇を取得したくても取得しづらい状況となっています。
このような「育児休暇を取得することに関して、精神的・肉体的苦痛を与える行為」をパタニティハラスメントと呼びます。
パタハラに該当するケースの例
厚生労働省が2016年に発表した「イクメン宣言者の宣言後行動リサーチ報告書」によると以下のような事例がパタハラに相当するとされています。
・「(育休を取得する事が)時代に追いついていない、出世に響く」と言われる
・育児休暇の申請書を目の前で破られる
・育児休暇を申請すると、転勤を言い渡された
・「自身のキャリアに影響するぞ」と言われた
・「他の社員にしわ寄せが行く」と言われた
・同僚や上司からの嫌がらせがあった
・育児休暇中に「復帰はまだか」と何度も催促があった
・管理職への昇進を拒否できなくする
・「男が育児休暇などあり得ない」と言われた
・「仕事に影響するなら給料を減らす」と言われた
・前例がないため拒否された
・「男が休むのはどうなの?」と言われた
いずれの事例も育児休暇申請者が心身に苦痛を感じる内容ばかりです。
愛情込めて子どもを育てたいというお父さんの願いを無下にするような発言が目立っています。
このような言動であればパタハラと認定して良いでしょう。
男性が育児休暇を取得する重要性
では男性が育児休暇を取得する事のメリットは何でしょうか。
育児休暇を拒否されそうな際に反論材料となる事項をまとめてありますので参考にして下さい。
まず第一に考えられる事は「配偶者の負担軽減」です。
女性は出産をする際に想像以上の体力を消耗します。
そのため出産後の女性に対しては「産後休養期間」というものが保証されています。
これは出産後の女性の体力の低下を考慮して、心身の回復に努める期間とされています。
現代は医療の発達により出産に伴う妊婦の死亡率も低くなりましたが、以前の出産は命がけでした。
元々命を失うリスクを持った行為である訳ですから、体力の消耗に関してもご納得頂ける事と思います。
育児の為の期間ではなくあくまでも休養の為の期間です。
その期間中に男性が育児休暇を取得することが出来たら、配偶者は休養に徹することが可能となります。
女性が産後の疲労を癒やしている間に男性は育児。
これからはこのスタイルが主流となるでしょう。
パタハラに遭った際はどのようにすれば良いのか
パタハラと思われる行為を受けた場合はどう対処すれば良いのでしょうか。
会社内でのやり取りとなりますが、記録をつける事だけは忘れないようにしましょう。
理論武装をする
いくら上司だからと言って法律には敵いません。
正当な権利を教授するためには申請する側が率先して勉強する必要があります。
そもそも申請を受け取る相手が育休に関する法律を知っているかさえ分かりません。
そのため反論された際に間違った知識を主張しないためにもやはり勉強する必要があるでしょう。
法律を盾にする場合、覚えておいたほうが良い法律は以下の5つです。
- 育児介護休業法第5条(育児休暇の期間)
- 育児介護休業法第5条、施行規則第7条(育児休暇の申し出の方法)
- 育児介護休業法第6条(育児休業を拒否できない)
- 育児介護休業法第10条(不当な扱いの禁止)
- 育児介護休業法第17条(過多の残業の禁止)
育児休暇の申請に際してはこの辺りの法律を押さえておくとスムーズです。
また併せて「男女雇用機会均等法」についても学習しておくと良いでしょう。
平成19年の改正にて男性にも性差別を行ってはいけない事が明らかにされています。
「男だから…」の理屈は男女雇用機会均等法を盾に反論を行うと良いでしょう。
ボイスレコーダーで記録をつけておく
育児休暇を取得する際は必ずボイスレコーダーを用いて記録を残すようにしましょう。
トラブルに発展した際や相手が悪く裁判沙汰になった際に客観的な証拠として利用することが可能です。
ボイスレコーダーを用意することが出来ない場合はメモなどでも十分な証拠になります。
記憶が鮮明であるうちに書き残すことがポイントで、話し合いの場ではメモが出来ないにせよ、その日のうちにこっそりと記録を残しておきましょう。
労働監督署に相談をする
どうしても個人で対処ができない場合は、その地域を管轄している労働監督署に話を持ちかけることをお勧めします。
名の通り、労働監督署は労働環境を監督している公的機関です。
企業の法令違反によって不利益を被った際に、企業に対して助言や指導を行うことを業務としている施設です。
法的根拠を説明しても一向に相手が引く気配を見せないのであれば労働監督署に代理で伝えてもらったほうが話がスムーズに進みます。
復帰後のケアに関しても対応してくれるので、もし復帰後に嫌がらせが頻発する等の自体が起こった場合は迷わず駆け込みましょう。
これからどのような対策をすべきであるか
私達男性はこれからどのようにして「イクメン」を推進してゆけば良いのでしょうか。
以下にひとつの考えとして例を示します。
SNS等での情報公開
情報社会である現代はSNSの影響力が絶大です。
良からぬことを行えば瞬く間に拡散していくように、異論を唱える場合も比較的速いスピードで拡散されます。
発信した情報がどのようにして社会に影響を及ぼすのかですが、カネカを例にして考えると分かりやすいのではないでしょうか。
世の中の見解としては「イクメンは推進されるべき」というのが大多数でしょう。
対する現実社会では「イクメンはまだ時代が追いついていない」「子どもよりも仕事だ」という考えが根強いことが現実問題としてあります。
この考え方のギャップが共感を呼び、当該企業へのバッシングへと繋がりました。
SNSはもはや一つのメディアとして数えられるほどの影響力を持っています。
若者の積極的な発信
社会の認識を変えるには若者の発言が非常に重要です。
現在の幹部が引退し、その後の会社を引っ張るのは現在若い世代の人々です。
その若い世代の人々が声を大にして主張し続けないと、育児休暇制度の改善への積極的な姿勢も見られません。
育児休暇を取得したいのであれば、まずは自らが学習し、そして主張を続けるという活動が必要不可欠です。
またマスメディアにも取り上げられる事による社会の認識の変化も期待することが出来ます。
働き方改革を掲げる政党に投票する
パタハラはそもそも働き方改革の最中に問題提起のなされたものです。
比較的新しい問題のため、働き方改革を掲げる政党ではこのパタハラに関してのマニフェストを掲げている政党も存在します。
そのような公約を掲げている政党に投票することで世の中の価値観を変えてゆくという意気込みが必要となってきます。
以上の様なものが対策として挙げられます。
活動は個人単位で考えるととても地味です。
しかし同じ世代などの集団で主張を続けていると世論でも取り上げられ、全世代の意識が少しずつ変わるでしょう。
さいごに
今回はパタハラについてでした。
まだ社会的な知名度が高くない言葉ですが、これから徐々に世間へ浸透してゆく事が予想されます。
パタハラとは各ハラスメントと同様に「親となる男性が職場で心身に苦痛を感じる」事を意味する言葉です。
具体的なパワハラの内容としては「出世をちらつかせて諦めさせる」「暴言を吐く」など育児休暇申請者に対して負担を強いる言動を行う事が挙げられます。
パタハラの改善に向けては、かつてのセクハラと同様に主張を続けるしかありません。
権利を教授するものはしっかりと勉強し、法律を知らないかもしれない相手と交渉を行う必要があります。
本記事がパタハラに悩む男性の皆さんの参考になれば幸いです。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。