大学受験生はナーバスになっており、イライラして感情の起伏が激しくなっています。
保護者や兄弟姉妹が何気なくいった一言に傷つくことがありますし、過剰反応してしまうこともあります。
大人にとってみれば、実社会で遭遇するトラブルやピンチに比べたら、大学受験は、小さいといえないまでも、大事件というほどのことではありません。
受験生には浪人という再チャンスすら用意されています。
しかしまだ20年足らずしか生きていない受験生からすると、受験は人生最大のチャレンジであり、最大の危機です。
そのようなガラスのハートを持つ受験生に向かって、禁句やNGワードを言わないようにしてあげてください。
問題は言葉に込められた想い
受験生への禁句・NGワードといっても、放送禁止用語のような決まりごとがあるわけではありません。
問題になるのは、単語ではなく想いです。
放送禁止用語とは違う
放送禁止用語とは、テレビやラジオや新聞記事などにおいて、特定の単語の使用を禁じるルールです。
放送禁止用語であれば、その言葉を暗記すれば、事故は防げます。
そして放送禁止用語には、ほとんど同じ意味でありながら、使ってもよい言葉が用意されています。
例えば「足切り」という言葉は放送禁止用語ですが、「二段階選抜」なら使うことができます。
しかし受験生への禁句・NGワードには、放送禁止用語のような厳格なルールがあるわけではありません。
そのため保護者は、禁句・NGワード集をつくってそれを覚えれば受験生を傷つけないで済む、といった対応を取ることはできません。
なぜ「頑張ってね」がNGなのか
例えば、「頑張ってね」という言葉も、受験生への禁句・NGワードになる可能性があります。
2浪している受験生に、そのシーズン最初の入試の日に「頑張ってね」と声をかけただけで、イラつかせてしまうことがあります。
「頑張ってね」という言葉が悪いわけではありませんし、その言葉をかけた保護者に悪気があるはずがありません。
しかし2浪受験生には、「頑張ってね」という言葉が「今年受からなかったら、あなた3浪になるんだよ、そんなことになったらみっともないから頑張ってね」と聞こえてしまうかもしれないのです。
このような説明をすると、保護者のなかには「『頑張ってね』すら禁じられたら、子供と会話ができなくなる」と思う人もいるでしょう。
しかし会話を回避することは、ときに禁句・NGワードより受験生を傷つけることになりかねません。
言葉を選んでコミュニケーションを取りましょう。
曲解されてしまうかもしれない
受験生への禁句・NGワードで注意しなければならないのは、言葉や単語それ自体ではなく、そこに込めた想いや気持ちです。
人はナーバスになっていると、自分に向けられた言葉を曲解してしまいます。
「浪人しないように」という言葉が傷つけることもありますし、その真逆の「浪人してもいいよ」という言葉が傷つけることもあり、禁句・NGワードになるかどうかは受験生のそのときの感情次第のところがあります。
禁句・NGワードは、家族側に問題があるのではなく、受験生本人の問題です。
保護者や家族としては、あまり気にし過ぎると自分たちのストレスにもなり兼ねませんが、できるだけ受験生の心理を推測しながら言葉を選んであげてください。
「浪人しないように」が傷つける場合
保護者からの「浪人しないように」という言葉が受験生を傷つけてしまうのは、受験生が浪人するかもしれないと危機感を募らせているときです。
例えば次のようなシチュエーションが考えられます
札幌の高3生のAは、6月の模試で早速、小樽商科大の判定でAが出ました。北大経済学部もC判定で、「まずますの滑り出し」という手ごたえを感じていました。Aの父親もこれには大喜びで「うちの家から北大生が誕生するなんて、嬉しい。小樽商科大でも立派」と言って、Aをハグしました。
ところがAは、「このまま自宅学習で夏休みを乗り切れる」と考え、塾や予備校の夏期講習に参加しませんでした。しかし自宅にはクーラーがなく、暑さで勉強効率が上がりません。図書館の学習室は常に満室状態で、少し自宅を出る時間が遅れると、空席はありません。一般の人が使う机で勉強すると、職員に注意されてしまいます。だからといってAの小遣いでは、頻繁に喫茶店を使うこともできません。
夏休み学習に失敗したAは、9月に受けた模試の結果を受け取り、愕然としました。北大経済学部は圏外となり、小樽商科大もD判定まで落ちたのです。
この結果を聞いた父親はAに「でもまあ、浪人しないようにしてくれよな」と言いました。Aは悔し涙が出てきました。
このとき父親は、複雑な気持ちだったと思います。
「6月の段階で好成績をマークしていたのに、なぜさらに勉強を積み重ねた9月になって成績が落ちるのか。ライバルたちの頑張りより、我が子の頑張りが足りなかったからだろう。
Aが自分から大学に進学したいと言い出して、しかもしっかり勉強すれば成績を上げることができるのに、それなのになぜ受験で最も重要な夏休みにサボるのか」
そのように思うのは、我が子に期待しているからです。
しかし、この気持ちが「浪人しないように」という言葉に込められてしまうと、Aは傷つきます。
Aは大学に進学すると家計に負担をかけるからと考えて、お金を節約するために夏期講習を受講せず、自宅学習を選択しました。
しかし猛暑で学習効率が上がらずあせっていました。
そして9月の模試の結果によって夏休み学習の失敗が明白になり、これからどう立て直そうかと考えていた矢先に父親から「浪人しないように」と言われたわけです。
「そんなこと言われないでもわかっている!」と怒鳴りたくなる気持ちをグッと抑えたら、涙が出てきたのです。
「浪人してもよい」が傷つける場合
保護者が受験生に「浪人してもいいよ」と言って、受験生が傷つくシチュエーションを紹介します。
札幌の受験生Bは、高校を卒業して就職しようと思っていました。しかし両親から、大学ぐらいは行ってほしいといわれ、渋々高3生になってから受験の準備に取りかかりました。理系科目が苦手だったので、消去法で文系学部を志望することになり、さらに入試科目を減らしたかったので私立大を3校受けることにしました。
これも親からすすめられて渋々夏期講習に行きました。ところが気持ちが入っていないので、なかなか偏差値は上がりません。
本人は次第に、目的がないまま大学に行くより、「手に職」をつけるために専門学校に行ったほうがいいのではないかと思うようになりました。
それで父親がいないときに母親にその気持ちを伝えると、母親は「あなた(Bのこと)が受験勉強に身が入っていないことを心配していた。お父さんを説得できたら、専門学校でもいいと思う」と賛同しました。
父親が帰宅して、Bは母親にも同席してもらい専門学校に進路変更したいことを伝えました。
すると父親は「専門学校を出たって高卒だろ。私は大学に行きたかったけど、家庭の事情で行けなかった。でも君は行くことができる。浪人してもいいから、大学進学はあきらめるな」と言いました。
Bは、可能な限り短い期間でスキルを身につけて、1日も早く社会に出てお金を稼ぎたいと思っていました。それで「大卒至上主義」の父親の考えに強い違和感を覚えました。
嫌々勉強をしている受験生もいます。
もしくは惰性で大学受験に突入した人もいます。
そのような子供に対し、浪人してでも大学に行くようにと指示することは、子供の反感を買うだけです。
この父親は、もし自分が「専門学校でスキルを身につけて社会に出るより、4年間大学に通って学士になって社会に出たほうがメリットが大きい」と考えるのであれば、それを実例を交えて説明してあげる必要があるでしょう。
この事例の父親の言動では、専門学校や高卒者を下にみているように感じられます。
また、「大卒の称号」を得るために大学に行け、と言っているようにも聞こえます。
父親がどれだけBの将来を考えたとしても、進路について対立していると感じているBには伝わりません。
もっと丁寧に説明してあげましょう。
「そんな大学に入ったって」は相当傷つける
道内の場合、北大を出ている親は、そこまで高い学力を有していない我が子への言動に特に注意してください。
ブランド大学を出ている人は、意識的にも無意識的にも、非有名大学や低偏差値大学を低くみる傾向があります。
しかしブランド大学を出ているほとんどの人は「高学歴者の嫌味」を出さないように気をつけているはずです。
会社や仕事やプライベートの場所で、自分の出身大学をひけらかすことはしないでしょう。
学歴についての話題を避けているかもしれません。
ところが我が子の志望大学になると、そのような「たが」が外れてしまい「もっといい大学に入ってほしい」という気持ちが高まります。
北大卒の親が、道内私大を受けようとしている我が子に「そんな大学に入ったって」といったニュアンスの言葉をかけると、その子は猛烈に反抗するでしょう。
例えば、「予備校を変えたら、北大は無理でも小樽商科大くらいは入れるようになるんじゃないか」と言っただけで、受験生の我が子は自分を全否定された気持ちになります。
禁句を言ってしまったあとのリカバー
保護者が受験生の我が子に禁句やNGワードを発して傷つけてしまった場合、どうしたらいいのでしょうか。
まずは、子供が傷ついていることを素早く察知しなければなりません。
そして自分のどの言葉が子供を傷つけたのか教えてもらいましょう。
子供から気になったワードを聞き出せたら、悪気があったわけではないことを伝えてください。
親子なので、そのようなやりとりをするだけでわだかまりは消えます。
しつけに厳しい親のなかには「親は、少しくらい子供を傷つけることになっても、正しいことを言い続けるべきだ」と考えている人もいるでしょう。
それは間違っていないと思います。
しかし受験期間中だけでは、そのルールを少し緩めてあげてはいかがでしょうか。
1年くらいしつけを緩めても、子供が間違った方向に進むことはないでしょう。
保護者は、受験生にNGワードを発したことに気づいたら、早急にリカバーしましょう。
子供に不愉快感情や怒りが残っていると勉強効率が著しく落ちます。
子供に気持ちよく勉強してもらえば、栄冠を勝ち取る確率が高くなります。
それは保護者の最大の喜びになるはずです。
まとめ~闘っているので甘々対応で
受験期間は1年間です。長くても2年程度です。
それくらいの期間なら、子供を甘やかしてもいいのではないでしょうか。
しかも受験生は、これまでの人生で最も集中して勉強に取り組んでいます。
参考書や問題集に取り組む姿勢は、保護者としても誇らしいでしょう。
もちろん何でも買い与えたり好き放題に遊ばせるような甘やかしは受験生にとって好ましくありませんが、保護者が言動に気遣うのも受験生を甘やかすことのひとつです。
受験生は今、闘いの渦中にあるので、せめてこういった面では甘々対応でちょうどいいのではないでしょうか。
また、NGワードとは逆に「応援」することが期待できる「偉人達の名言」も記事にまとめています。
他にも、声かけによる「やる気」を出させる方法についても以下の記事で解説しています。
ぜひ参考にしてみてください。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。