大学入試で合格するために100の努力が必要だとしたら、そのうち33は眠る努力に費やしましょう。
受験生は1日24時間勉強することはできません。
少なくとも1日の3分の1は睡眠に使わなければならないからです。
学習能力が同じ2人が同じ大学を目指したら、よく眠ったほうが有利でしょう。
なぜなら、適切な睡眠は学習効果を高めるからです。
参考書や問題集を使った勉強が「脳の筋トレ」だとしたら、睡眠は脳にエネルギーを蓄える「脳の休息」です。
上質な睡眠を1日8時間取りましょう。
上質な睡眠とは、科学的に証明された睡眠のことです。
休む効果を考える
多くの受験生は、睡眠はロス(損失)だと考えています。
それは長く眠ると勉強時間が減るからです。
しかし今夜からは、睡眠は重要な休息であると考えてください。
睡眠に対する誤解を解くために、まずは休息について考えてみましょう。
休まないと働けないことは、誰もが体験的に知っていることです。
体を休めるとさらに働くことができる
2時間かけてスコップで地面に穴を掘る場合、自分は、次のどちらの方法がより深くて広い穴を掘れると思いますか。
A:1時間掘って10分休んでから残りの50分掘る
B:2時間休まず掘り続ける
日頃から穴を掘り続けている人であればBのほうが深くて広い穴を掘れるかもしれませんが、穴を掘り慣れていないほとんどの受験生はAのほうが効率よく掘れるのではないでしょうか。
それは10分休憩の間に体力が回復するからです。
1時間掘り続けると、手も足も疲労します。
次第に作業効率が落ち、1分当たりに掘ることができる量が減ってきます。
しかし休息すると体力が回復し、元のペースに近いペースで掘ることができるようになります。
確かに10分休んだ分のロスはありますが、休憩効果はそれを補って余りあるでしょう。
脳も疲れる
穴掘りの事例を踏まえて、次のCとDでは、どちらのほうが学力が上がると思いますか。
C:24時間のすごし方:勉強12時間、食事や入浴や娯楽など6時間、睡眠6時間
D:24時間のすごし方:勉強10時間、食事や入浴や娯楽など6時間、睡眠8時間
ここでは、どの受験生も、食事や入浴や娯楽などの時間として、1日6時間確保しなければならないとして考えます。
Cは勉強時間を増やすために、睡眠を2時間削っています。
Dは一般的に健康を維持するために必要とされる8時間睡眠を確保しています。
1日2時間の勉強量の差は大きなものです。
英単語ならゆうに30個は覚えることができるでしょう。
数学なら難問を2問解くことができます。
難関大学を狙っている受験生なら6時間睡眠、12時間学習はとても魅力的です。
しかし「6時間でしっかり脳を休めることができるのか」という視点を持ってください。
なぜなら睡眠は、体を休めるだけでなく、脳も休めているからです。
日中、体を思い切り動かしてスポーツをすると、夜ぐっすり眠ることができます。
これは脳が体を休める必要を感じているからです。
では日中、勉強だけをして、体はほとんど動かさなかった場合はどうでしょうか。
その日も、何も考えず1日中だらだらしてすごすより、夜ぐっすり眠ることができるでしょう。
勉強をして脳を力いっぱい使ったので、脳が休息を必要としているからです。
体を使ったら体を休めるように、脳を使ったら脳を休ませなければなりません。
6時間睡眠12時間学習は、高校の定期試験の一夜漬けには効果が出るでしょう。
しかし11カ月(4月~翌年2月)にもわたる長期戦が強いられる大学受験では、勉強をしているときの脳の回転効率を意識してください。
いくら勉強時間を長く取っても、脳の回転が悪い時間を長くしているだけでは知識は増えません。
地面の穴掘りを思い出してください。
1時間掘ったら10分くらい休んだほうが、次の作業を効率的に進めることができます。
10時間にわたって集中して勉強をしたら、8時間にわたって思いっきり眠りましょう。
快適に勉強したほうがよいのは当たり前
大音量の音楽が流れる暑すぎる部屋で勉強するのと、静かで適温に保たれている場所で勉強するのでは、どちらのほうが学習効率が高いでしょうか。
快適に勉強したほうが学力が上がるのは、当たり前です。
では、睡眠不足で常に睡魔と闘いながら勉強するのと、8時間睡眠ですっきりした状態で勉強するのでは、どちらのほうが学習効率が高いでしょうか。
勉強に取りかかる前に、まずは快適さを確保しましょう。
そのためには、しっかり8時間眠ったほうがいいのです。
睡眠は脳の老廃物を除去する
アメリカのロチェスター大学の研究チームが、良質な睡眠には、脳の老廃物を除去する効果があることを突き止めました。
老廃物が脳に溜まっていては、学習効果が上がるはずがありません。
受験生がこのメカニズムを知れば、「今日も早く寝よう」と思えるでしょう。
脳が老廃物を捨てるメカニズム
食べ物を食べると大便が出ます。
飲み物を飲むと尿が出ます。
これはエネルギーや栄養を獲得して活動すると老廃物が出るメカニズムです。
細胞でも同じことが起きています。
1個の細胞も、エネルギーや栄養を得て活動して老廃物を出しています。
細胞の場合、血液に老廃物を捨てる場合と、リンパ系に捨てる場合があります。
そして脳も、エネルギーや栄養を得て活動して老廃物を出します。
脳は「大食い」で知られています。
脳の重さは全身の2%しかないのに、酸素消費量は全身の20%を占め、ブドウ糖の消費量は全身の25%占めます。
そのため脳は大量の老廃物を出します。
それで脳には、特別な老廃物廃棄ルートがあります。
それをグリンパティック・システムといいます。
脳には無色透明の脳脊髄液という液体が循環していて、この液体が脳の細胞に栄養を与えたり老廃物を回収したりしています。
これがグリンパティック・システムです。
睡眠と「脳の掃除」の関係
グリンパティック・システムが順調に機能していると脳内の老廃物が効率よく除去されます。
つまり、脳の掃除です。
グリンパティック・システムを順調に機能させるには、脳脊髄液という液体を効率よく流し出す必要があります。
そのためには、脳のグリア細胞という細胞が縮まって、隙間をつくらなければなりません。
脳脊髄液はその隙間を流れていきます。
グリア細胞がリンパ系のような働きをするので、グリンパティックと呼ばれています。
ロチェスター大はマウスを使った研究によって、深い睡眠を取らせたマウスのほうが、そうでないマウスよりグリンパティック・システムが効率的に働くことがわかりました。
よく眠って脳を掃除してから勉強しましょう。
どのように良質な睡眠を確保するか
良質な睡眠が受験成功の3分の1を握り、寝不足が百害あって一利なしであることが理解できたところで、次はどのように眠ったらいいのか考えていきましょう。
取り組み方法を具体的に紹介しますので、ぜひ今夜から試してみてください。
目覚めてから1時間以内に5分間、朝日を浴びる
8時間睡眠を確保しても寝足りないと感じている人は、睡眠が浅いと考えられます。
朝目覚めたとき、1時間以内に5分間、日光を浴びるようにしてください。
ラジオ体操第1で3分ほどなので、5分は意外に長い時間です。
この行動で睡眠を促すホルモンのメラトニンが減ります。
メラトニンが減る状態が、脳の目覚めと考えられています。
そして朝、効率よくメラトニンを減らすと、夜眠るときに効率よくメラトニンが出てくるようになり睡眠を促します。
夜食に丼ものパスタを食べない
深夜型の学習スタイルになっている受験生は、夜食で糖質を摂らないようにしてください。
糖質が多く含まれているかつ丼やパスタは食べないようにしてください。
眠る前に糖質を多く摂ると、血糖値が乱高下します。
血糖値とは、血液のなかの糖の量のことです。
血糖値が乱高下すると全身が休まらず、よい睡眠になりません。
ただ、糖質が絶対ダメなわけではありません。
朝食、昼食、夕食でなら、糖質を摂っても問題ありません。
糖質は重要なエネルギーなので、むしろしっかり摂りましょう。
そして夕食と夜食の両方で、香辛料は控えましょう。
夕食に中辛程度のカレーであれば問題ありませんが、激辛カレーやトムヤムクンといった香辛料が多いメニューは神経を昂(たかぶ)らせてしまうので、避けてください。
スパイシー料理は昼食がおすすめです。
食事による脳の活性化については、以下の記事で詳しく解説しています。
眠る1時間以上前には入浴を済ませておく
入浴してさっぱりしてからベッドに入りたい受験生もいると思いますが、お風呂は就寝1時間以上前に済ませておいてください。
入浴して1時間以内に寝てしまうと、体の温かさがしばらく続いてしまいます。
体が温かくてもよい睡眠は取れません。
最初はうつぶせから
布団のなかに入ったとき、あおむけになりますか、うつぶせですか。
おすすめは、うつぶせです。
うつぶせになると腹式呼吸をしやすくなるので、呼吸量が増えます。
つまり多くの酸素を吸収できるようになります。
酸素は体と脳の疲れを取る効果があるので、睡眠によい効果を与えます。
自分の力だけで目覚めてみよう
朝型の勉強スタイルに変えようとしている人は、目覚ましに頼らない自己覚醒に挑戦してみてください。
人の「想いの力」は不思議で、「午前6時半に目覚める」と強く想って眠ると、アラームなしでその時間に起きられるようになります。
自己覚醒力の強化は、脳のコントロールに他なりません。
脳トレの一種と考えて、アラームなし睡眠を試してみてください。
まとめ~焦っているときこそ眠ってしまおう
睡眠にはリセット効果があります。
「嫌なことは寝て忘れちゃえ」とはよくいわれることですが、これは、眠ると心も体も整うことを意味しています。
受験中は、不安や嫌な気持ちがたくさん湧き上がってきます。
いずれも簡単には処理できず、コツコツ勉強を積み重ねることでしか解消できないでしょう。
しかし不安な気持ちでは勉強に手が付きません。
そこで、眠ってみてはいかがでしょうか。
気分転換で遊びに行くと、脳を疲れさせるだけです。
一方、睡眠には、脳によい効果を生み出す力があります。
他にも「筋トレ」が脳に良いという東大教授の説もぜひ併せて読んでみてください!
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。