地方国立大学という選択
受験校を選ぶ中で、国公立大学か私立大学かで進路を悩んでいる人もいるかもしれませんね。
大学へは、自分の将来のためや学びたい学問を学ぶために進むのだ、ということは理解しているものの、それだけではない様々な点を考慮しながら志望校を決定しなければならないこともあるでしょう。
具体的には、通学のしやすさや、場合によっては一人暮らしをしなければならないこと、さらには経済的なことなどがあげられるのではないでしょうか。
知名度が高い国公立大学や私立大学は、相対的に人気も高く、どうしても難易度が高くなりがちになっていまいます。
そんな中で、地方の国公立大学に目を向けてみると、地味でありながらも健闘している大学が多くあることに気づきます。
都市部の有名大学とは対照的に、そうした大学には共通する地方の大学ならではのメリットが多くあります。
地方国立大学ならではのメリット
そんなメリットのひとつに、地方国公立大学は全国的に知名度がそれほど高くない大学でも、その地元では圧倒的な存在感を放っていることが多いということがあげられます。
地元での知名度の高さや存在感は、その地方の大学の地元での就職を考える上では、とても有利に働きます。実際にそうした大学から、公務員や教員、地方銀行などへ就職する学生が多くいます。
また、国公立大学であるため、私立の大学に比べて学費が安いということも魅力的です。
大学4年間の学費のみを算出すると、国公立大学では以下のようになります。
入学料:28万2,000円、授業料:53万5,800円×4 合計:242万5,200円
≪公立大学の学費≫
入学料:39万3,426円、授業料:53万7,809円×4 合計:254万4,662円
それに対して、私立大学では4年間(医歯系学部では6年)の平均的な学費は以下のようになります。
入学料:24万2,579円、授業料:74万6,123円×4 合計:322万7,071円
≪私立理科系学部の学費≫
入学料:26万2,436円、授業料:104万8,763円×4 合計:445万5,488円
≪私立医歯系学部の学費≫
入学料:103万8,128円、授業料:273万7,037円×6 合計:1,746万350円
国立大学と私立大学の4年間の学費を比較すると以下のような金額差になります。
理系学部:203万288円
さらに、医歯系学部の6年間とすると、国立大学と私立大学での学費の差はさらに広がります。
私立医歯系学部6年間の学費:1,746万350円・・・②
→ ②-① =13,963,550円
特に理系学部や医歯学部へ進学を考えている人には、この金額差は大きいと言えるのではないでしょうか。
また、これ以外にも一人暮らしをする場合には、生活費や住居費なども考慮する必要があります。
一般的に、首都圏などの都市部よりも地方都市の方が、住居費や生活にかかる費用は安い傾向にあります。
更なるメリットとしては、純粋に学問を志すことを考えるうえで、地方ならではの環境の良さや外的刺激の少なさがメリットとしてあげられるでしょう。
地方国公立大学がある場所は、都会の大学と異なり、キャンパスのそばに繁華街があることは滅多にありません。
キャンパス周辺は、おかしな誘惑や刺激からシャットアウトされた、自然あふれる環境に位置することが多いと言えるでしょう。
地方大学ならではの広いキャンパスのゆったりとした環境や、アットホームな少人数制のゼミなどは、勉学に集中するのにふさわしく、こうした環境で、より学問に専念できたという声も少なくありません。
また国公立大学では入試の段階から、私立大学入試よりも科目数が多く、文系理系教科バランスよく受験勉強をしなければならないこと、出題形式に記述式問題が多いことから、より深く思考する力が必要になってきます。
こうした入試を経て大学で経験する学びは、より一層本質的な学びや研究へ近づくと言えるでしょう。
STARS大学とはどこの大学?受験難易度は?
そうした地方国立大学のグループの中に、「STARS」と呼ばれているものがあるのをご存知でしょうか。
STARSとは、大学グループの呼び名の1つで、以下の大学の頭文字を取って呼ばれるようになりました。
T:鳥取大学
A:秋田大学
R:琉球大学
S:島根大学
これらの大学は、国立大学の中でも比較的合格しやすい大学だと言われており、難易度的には、偏差値の平均が50前後と、国公立大学の中では比較的易しめです。
学力的にあまり自信はないけれども、経済的なことを考慮するとどうしても国立大学へ進みたい、というような学生に人気です。
STARS大学は、国公立大学の中では比較的入りやすく、特にそれぞれの地元の企業へ就職したい人にはおすすめの大学といえます。
STARS大学の知名度やブランド力といった面では、大学ごとの差はほとんどないので、STARS内で大学を選ぶのであれば、どの地方で就職したいのか、といった点を決めておくとよいでしょう。
基本的に地方の国公立大学はそれぞれの地方で高い知名度を誇っているので、特にどの地方で就職するのかという点は、志望大学を選ぶ上で大変重要といえます。
就職以外の点で、STARS大学のなかで大学を選ぶなら、興味のある研究をしている教授や研究室があるか、学びたい学問が勉強できるのか、といった、より実益的な面を考慮して決定するのが良いでしょう。
STARS大学は、首都圏の私立大学の日東駒専やMARCHよりも入りやすいといわれていますが、私立大学よりも国立大学の方が、受験科目数も多く、記述・論述式問題が多いという、国立独特の試験傾向があるため、単純な偏差値だけでは私立大学とのレベルの比較は難しいでしょう。
しかしながら、日東駒専やMARCHはその知名度やブランド力により、STARS大学の地元以外、特に全国規模の会社への就職を希望する場合には、STARS大学よりも有利になる可能性が多いようです。
こうした点も志望校選びの際には注意して、慎重に決定するようにしましょう。
STARS大学について
次に、STARSそれぞれの大学について詳しく紹介しましょう。
S:佐賀大学
佐賀大学は、地域と連帯する大学として地域貢献を積極的に実施しているのが特徴です。
中心市街地再生に向けた大学の活用や地域の棚田保全活動、ITを活用した未来型の教育環境システムを開発するなど、数多くの取り組みを実施しています。
芸術地域デザイン学部は、有田焼の技術や文化を継承する一環として、2016年に開設された新しい学部です。
医学部では循環器内科学教室が有名で、冠動脈インターベンション術症例数は全国の国立大学の中で3番目となっています。
また、九州では最も歴史ある看護学科を設置しており、看護師国家試験の合格率は毎年ほぼ100%と、高い実績を誇っています。
近年では全学で英語教育に力を入れており、学生全員が在学中に必ず受験するTOEICや、交換留学制度・短期の海外研修プログラムなどを通じて社会のグローバル化や国際交流に対応できる英語力を身につけられるようなカリキュラムが充実しています。
教育・経済・理工・農業学部は本庄キャンパス、医学部は鍋島キャンパス、芸術地域デザイン学部は有田キャンパスで4年間学びます。
・学部ごとの入試難易度は次のようになっています。
経済学部:共テ得点率 56%~62% 偏差値 47.5
教育学部:共テ得点率 54%~65% 偏差値 50.0~52.5
理工学部:共テ得点率 53%~60% 偏差値 47.5~52.5
農学部:共テ得点率 54%~60% 偏差値 47.5~52.5
医学部:共テ得点率 59%~84% 偏差値 65.0
芸術地域デザイン学部:共テ得点率 56%~62% 偏差値 50.0
(参考:第3回全統共通テスト・記述模試)
・主な就職先は次のようになっています。
教育学部―小学校教員、特別支援学校教員、高等学校教員、中学校教員、幼稚園教員など。
芸術地域デザイン学部−レベルファイブ、電通九州、ゼネラルアサヒ、ミスターマックスなど。
経済学部−佐賀県職員、西日本シティ銀行、福岡市職員、福岡出入国在留管理局など。
医(看護)学部−佐賀大学医学部付属病院、九州大学病院、福岡大学病院など。
理工学部−佐賀県職員、三菱電機インフォメーションネットワーク、九電工、高等学校教員など。
農学部−佐賀県職員、福岡県職員、ヴァーナル、ピエトロ、東洋新薬、伊藤ハムウエストなど。
T:鳥取大学
鳥取大学は、鳥取県鳥取市湖山町に本部を置く国立大学です。
理系学部がほとんどですが、全国でも珍しい地域学部を設置しているのが特徴です。
地域学部では特定の地域に限定することなく、それぞれの地域の公共的な課題について解決策を研究しています。
ここでは鳥取市との連携・貢献を行っているのはもちろん、中国やモンゴルなど世界中の地域との交流や各地でのフィールドワークを展開しています。
地域学部の卒業生は、地方自治体や警察機関、金融機関などに数多く就職しています。
将来地域に根差した活躍や貢献をしたいという人におすすめの学部です。
また、鳥取砂丘の近くに大学が位置することもあり、「鳥取大学乾燥地研究センター」という、国内では珍しい乾燥地での問題を研究する施設があります。
ここでは観光名所としても有名な、鳥取砂丘の砂漠化について研究しています。
米子キャンパスでは医学部医学科、生命科学科の学生と、保健学科2~4年生の学生が、鳥取キャンパスでは地域学部、工学部、農学部生物資源環境学科、農学部獣医学科、医学部生命科学科の学生と、保健学科1年生が学びます。
・学部ごとの入試難易度は次のようになっています。
地域学部:共テ得点率 55%~65% 偏差値 45.0~47.5
工学部:共テ得点率 51%~59% 偏差値 42.5~50.0
農学部:共テ得点率 56%~75% 偏差値 50.0~62.5
医学部:共テ得点率 59%~80% 偏差値 47.5~62.5
(参考:第3回全統共通テスト・記述模試)
・主な就職先は次のようになっています。
地域学部−鳥取県教育員会、鳥取県庁、兵庫県教育委員会、鳥取労働局、鳥取市役所など。
医学部(医学を除く)−鳥取大学医学部附属病院、鳥取県中央病院、京都大学医学部附属病院、神戸大学医学部附属病院など。
工学部−三菱電機、マツダ、アイシン・エィ・ダブリュ、東海旅客鉄道、京都府庁など。
農(生物資源環境)学部−島根県庁、鳥取県庁、兵庫県庁、神戸市役所、フジパングループなど。
農(共同獣医)学部−小動物臨床、地方公務員、民間企業、大動物臨床など。
A:秋田大学
秋田大学は、秋田県秋田市に本部を置く国立大学です。
秋田大学の中でも特徴的な学部は、国際資源学部です。
ここで学ぶ鉱山資源学は、地球を構成する岩石や鉱物の形成や保全について研究する学問で、100年以上の歴史があります。
資源に関する経済や国際情勢について、文系分野から学ぶことができ、レアメタルや燃料資源などの資源問題が深刻化している現代にこそ、必要な学部といえるでしょう。
ここでは、アラブ・パプアニューギニア・モンゴル・インドネシアなどにフィールドワークに行ける機会があり、大学が費用の一部を負担してくれます。
手形キャンパスには競技場や図書館といった共通施設と、国際資源学部、理工学部、教育文化学部の学生が学びます。
本道キャンパスは医学部の学生が学びます。
・学部ごとの入試難易度は次のようになっています。
教育文化学部:共テ得点率 52%~65% 偏差値 47.5~52.5
理工学部:共テ得点率 51%~61% 偏差値 42.5~50.0
国際資源学部:共テ得点率 52%~61% 偏差値 42.5~47.5
医学部:共テ得点率 55%~85% 偏差値 47.5~62.5
(参考:第3回全統共通テスト・記述模試)
・主な就職先は次のようになっています。
国際資源学部−太平洋セメント、東日本旅客鉄道、三菱電機ビルテクノサービス、石井鐵工所など。
教育文化学部−秋田県公立学校、秋田県職員、秋田市職員、千葉県公立学校、秋田地方検察庁など。
医(保健)学部−秋田大学医学部附属病院、JA秋田厚生連、秋田県職員、東京大学医学部附属病院など。
理工学部−秋田市職員、東日本旅客鉄道、秋田県職員、東北電力、青森県職員など。
R:琉球大学
琉球大学は、沖縄県に本部を置く国立大学です。
特徴としては、農学部では亜熱帯地域農学科や、亜熱帯生物資源科学科などが、理学部では海洋自然科学科が、人文社会学部には琉球アジア文化学科といった、沖縄という地域ならではの学問領域を数多く学べます。
また、国立大学では初の観光産業科学部が開設され、観光学について深く学ぶことができるというのも特徴的です。
琉球大学は、沖縄県内では昔から高いブランド力があり、県内の中での就職実績は良く、沖縄での生活に憧れている人にはおすすめの大学です。
沖縄発の教育機関として開校した当初、キャンパスは那覇市の首里城跡地に建設されましたが、首里城の再現に伴い、現在の場所(中頭郡西原町)に移転しました。
現在キャンパスは2か所あり、「千原(せんばる)キャンパス」には工学部、理学部、農学部、教育学部、法文学部、観光産業科学部の学生が学びます。
上原(うえはら)キャンパスでは医学部の学生が学びます。
・学部ごとの入試難易度は次のようになっています。
人文社会学部:共テ得点率 56%~64% 偏差値 45.0
国際地域創造学部:共テ得点率 52%~62% 偏差値 42.5~47.5
教育学部:共テ得点率 46%~60% 偏差値 45.0~50.0
理学部:共テ得点率 52%~60% 偏差値 45.0~47.5
工学部:共テ得点率 49%~60% 偏差値 42.5
農学部:共テ得点率 50%~60% 偏差値 45.0
医学部:共テ得点率 58%~83% 偏差値 50.0~65.0
(参考:第3回全統共通テスト・記述模試)
・主な就職先は次のようになっています。
法文学部*−民間、公務員、教員。
観光産業科学部*−民間、公務員。
教育学部−教員、民間、公務員。
理学部−民間、公務員、教員。
医(保健)学部−民間、公務員。
工学部−民間、公務員。
農学部−民間、公務員、教員。
(*=改組前の学部)
S:島根大学
島根大学は、島根県松江市に本部を置く国立大学です。
地球資源環境を学ぶことのできる総合理工学部をはじめ、法文学部、教育学部、医学部、生物資源科学部、人間科学部の6つの学部があります。
非常に幅広い学問分野を網羅しているだけでなく、学部の壁を越えて広く連携する教育体制が整っており、学部の所属に関係なく、人文・社会・自然科学のあらゆる授業を受講することができ、学びのフィールドが無限大に広がります。
2008年には、独立行政法人・宇宙航空研究開発機構(JAXA)との宇宙教育に関した協定を連携して締結しました。
地域コミュニティーとの結びつきが強く、島根県内での研修や、フィールド学習などを通じ、山陰地方での豊かな自然の中で学ぶことができます。
また、地域のなかで、地元高校との連携をしたり、一般の人を対象にした「サイエンスカフェ」を開催したりするなど、様々な活動やイベントを通して地域貢献をしています。
国際交流にも力を入れており、アジアを中心に留学・国際交流の制度が整っています。
出雲キャンパスでは医学部の学生が学び、他の4学部は松江キャンパスで4年間を過ごします。
・学部ごとの入試難易度は次のようになっています。
法文学部:共テ得点率 60%~74% 偏差値 50.0~52.5
教育学部:共テ得点率 50%~58%
総合理工学部:共テ得点率 52%~71% 偏差値 47.5~50.0
生物資源科学部:共テ得点率 52%~58% 偏差値 47.5~50.0
医学部:共テ得点率 60%~80% 偏差値 65.0
人間科学部:共テ得点率 60%~77% 偏差値 50.0
(参考:第3回全統共通テスト・記述模試)
・主な就職先は次のようになっています。
法文学部−山陰合同銀行、広島市役所、島根県庁、鳥取県庁、岡山県庁、和歌山県庁など。
教育学部−島根県公立小学校、島根県公立中学校、鳥取県公立小学校、広島県公立小学校など。
医(看護)学部−島根大学医学部附属病院、松江赤十字病院、神戸大学医学部附属病院など。
総合理工学部−島根県庁、中国電力、パソナテック、島根県公立高等学校、JR西日本など。
生物資源科学部−島根県庁、林野庁、兵庫県庁、山崎製パン、広島国税局、中国地方整備局など。
まとめ
STARSという大学グループは、地方国立大学の中でも比較的難易度が高くない大学のグループとされていますが、STARS各大学はそれぞれに特色があります。
その地方での就職実績の高さや、国立大学ならではの、より専門的な研究ができること、経済的なコストパフォーマンスの良さなどを考えると、偏差値以上にお得な大学と言えなくもありません。
知名度や偏差値だけで安易に志望校を決定せず、地味でも実力のあるSTARSのような大学も視野に入れて、志望校選びをしていくことをおすすめします。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。