福祉関係の資格や福祉関係の職に就く人材のニーズは、今後ますます高まっていくことが考えられています。
福祉関係の資格、といっても、その内容はさまざまです。
真っ先に思いつくのが、現在の高齢化社会において、もっとも必要とされる、高齢者のケアを行うための資格。
高齢者福祉の関係は求人件数も多く、これからもニーズが絶えることがないと考えられる業種です。
ほかにもあげられるのが、子育てのサポート役として欠かせない、「保育士」という資格。
共働き世帯が標準化しつつあることからも、今後も一定のニーズが見込まれる職業です。
それ以外にも様々な福祉関係の資格がありますが、ここでは福祉関係の資格や仕事についていくつかピックアップし、その職業に就くためにはどんな資格が必要か、そのためにはどこでどのような勉強をすれば良いかをご紹介します。
福祉関係の仕事にはどんなものがあるの?資格は必要?
福祉関係の仕事には、次のようなものがあります。
介護(ケアワーク)系の仕事
介護職にあたる人は、利用者の体に直接触れ、身の回りのお世話をする「身体介護」や、掃除・洗濯・調理といった、身の回りのお世話の「生活援助」を行います。
そのほかにも、リハビリや余暇活動のためのレクリエーションの提供、メンタルケアを行うのも介護職の仕事です。
代表的なものとしてあげられるのが、国家資格の専門職である「介護福祉士」。
おもにホームヘルパー(訪問介護員)や、特別養護老人ホーム、身体障害者施設などの社会福祉施設にて、介護にあたる職員が持つ資格です。
「介護福祉士」は、福祉施設にて介護業務にあたるほか、利用者が在宅介護の場合は、介護方法や生活動作に関する説明をしたり、利用者やその家族の介護に関するさまざまな相談にも応じています。
介護利用者の自立支援を目標においた介護の実践や、医師・看護師との連携が求められる現在、介護の専門知識・技術をもつ「介護福祉士」の重要性はますます高まっています。
保育系の仕事
「保育」と聞いて真っ先に思い浮かぶ職業は「保育士」ではないでしょうか。
保育士は、保育園で子どもを預かってお世話をする仕事、と漠然と理解しているかもしれませんが、保育士の仕事は、単純にそれだけではありません。
子どもたちの生活全般のお世話をしながら、心身の発達を促し、社会性を養わせることが重要な役割としてあげられます。
さらに、食事や睡眠、排せつや清潔さ、衣類の着脱などの基本的な生活習慣を身につけさせることも大切な役割です。
子どもの成長にとって重要な役割を担っており、非常にやりがいのある仕事といえます。
保育園の他にも、乳児院、託児所、社会福祉施設、児童館、学童クラブ、児童養護施設、児童自立支援施設、障がい児施設、母子生活支援施設、これら以外にも、保育士としての専門知識を活かせる場所はたくさんあります。
「認定子ども園」は、幼稚園と保育園の良い面をあわせて作られた新しい施設です。
ここでは、「保育士資格」とあわせて「幼稚園教諭二種免許状」も持っている人材が求められます。
ソーシャルワーカー(相談・援助・調整系)の仕事
病気や障害、老化による機能低下などによって、生活に問題を抱える人やその家族に対して適切な助言や支援を行うのが、ソーシャルワーカーの仕事です。
ソーシャルワーカーという呼称は、主に国家資格の「社会福祉士」や「精神保健福祉士」の資格を持つ人のことを指しています。
ソーシャルワーカーという職種名で働く人は少なく、介護施設であれば「生活相談員」、病院であれば「医療ソーシャルワーカー」など、働く職場によって呼び方も変わります。
「生活相談員」は、特別養護老人ホームやデイサービスなどの介護福祉施設を利用する高齢者や障害者など、利用者やその家族からの相談にのることが主な仕事です。
他にも入退所の手続きや関係各所への連絡・調整を行うことなど、施設の窓口的な役割を担っています。
介護老人保健施設では、「生活相談員」ではなく「支援相談員」と呼ばれることがありますが、仕事内容は同じです。
生活相談員・支援相談員になるには、「社会福祉士」「精神保健福祉士」「社会福祉主事任用資格」といった、社会福祉法・厚生労働省令で認められた資格が必要です。
事務系の仕事
福祉施設や保育園などでは専門的な資格を持つ職員だけでなく、事務的作業を行う職員の存在も施設の運営のために欠くことはできません。
施設事務職については、特に資格要件はありませんが、福祉団体の事務職員や、事業・法人運営、経営を担当する職員の場合は、福祉系の学校で学んだ経験があることが必要となるだけでなく、強みにもなります。
どの仕事にもいえますが、事務職はPCスキルが求められることが増えていますし、経理系の仕事をする場合には、経理を勉強している方が就職には有利といえます。
その他
施設にて利用者の生活を支えたり、利用者に向けたサービスを提供したりする際には、今まで紹介した社会福祉の仕事の他に、調理員、栄養士、施設管理などの仕事もあります。
また、医師、看護師、理学療法士など、医療系の資格を持った人は、福祉施設と連携して医療面から利用者を支えるのに欠かせない役割を担っています。
福祉関係の資格取得を目指すためには
福祉施設では、さまざまな職業のプロフェッショナルが力を合わせて利用者を支えています。
将来自分がどの仕事に就きたいかをイメージすると、取得しなければならない資格が見えてくるのではないでしょうか。
ここでは、福祉関係の職業に就くために必要な資格について、どんな勉強をしたら良いかを含めて紹介します。
介護福祉士
介護福祉士は、「社会福祉士及び介護福祉士法」にもとづく国家資格。
介護福祉士資格を取得する方法は主に2種類です。
一つは福祉系高校や指定養成施設(大学・短期大学など)にて福祉について学び、既定の単位を取得後、介護福祉士国家試験を受験する方法。
福祉系特例高校を卒業後、9か月以上の実務経験を積み、介護福祉士国家試験を受験する方法。
もう一つの方法は、主に社会人についてのケースですが、3年以上福祉施設にて介護などの業務に従事し、実務者研修を受け、介護福祉士国家試験を受験する方法です。
学生のみなさんが介護福祉士の資格取得を目指すなら、福祉系高等学校や福祉系特例高校入学や、4年制大学または短大などの社会福祉学科にて学び、介護福祉士国家試験受験資格を獲得するようなイメージを持つと良いでしょう。
社会福祉士
「社会福祉士」は、「社会福祉士及び介護福祉士法」によって位置づけられた、社会福祉業務における国家資格です。
福祉系の4年制大学・短大などの養成施設や、一般の養成施設などを卒業、修了することで国家試験の受験資格が得られます。
詳しくは次のようになっています。
4年制大学卒業の場合、福祉系大学にて指定科目を履修・卒業すること、または福祉系大学にて基礎科目を履修・卒業し、短期養成施設などで6カ月以上必要な知識や技能を修得すること。
福祉系大学ではなく一般大学の場合、卒業後一般養成施設などで1年以上必要な知識や技能を修得することが受験資格を得る条件となります。
短期大学卒業の場合は次のような条件となります。
福祉系短大(3年)にて指定科目を履修・卒業し、相談援助実務を1年以上経験すること。
福祉系短大(3年)にて基礎科目を履修・卒業し、相談援助実務を1年以上経験し、短期養成施設等などで6カ月以上必要な知識や技能を修得すること。
一般短大(3年)を卒業し、相談援助実務を1年以上経験し、一般養成施設等で1年以上必要な知識及び技能を修得すること。
福祉系短大(2年)にて指定科目を履修・卒業し、相談援助実務を2年以上経験すること。
福祉系短大(2年)にて基礎科目を履修・卒業し、相談援助実務を2年以上経験し、短期養成施設等で6カ月以上必要な知識及び技能を修得すること。
福祉系短大ではなく一般短大(2年)の場合は、卒業後相談援助実務を2年以上経験し、一般養成施設などで1年以上必要な知識や技能を修得することが条件になります。
社会福祉士国家試験では、正解率60%程度が合格ラインといわれており、合格率は30%程度。難関試験といっても過言ではありません。
精神保健福祉士
「精神保健福祉士」と「社会福祉士」、この2つの資格は名前も似ているため、詳しくないと混同してしまいがちですが、仕事の内容は異なります。
社会福祉士は、高齢者や児童など幅広い世代を支援対象者としているのに対して、精神保健福祉士は、メンタル面で困難を抱えている人の支援が主な業務になります。
支援対象者に違いがあるものの、試験では共通科目も多いため実際に両方の資格を持って活躍する人も多くいます。
福祉の仕事につくこと考えていて、将来幅広く活躍したいという人は、精神保健福祉士と社会福祉士の両方の資格取得を考えてみてはどうでしょうか。
国家試験の受験資格を得るためには、次のようなコースがあります。
4年制大学卒業の場合、福祉系大学にて指定科目を履修・卒業すること、または福祉系大学にて基礎科目を履修・卒業し、短期養成施設などで6カ月以上必要な知識や技能を修得すること。
福祉系大学ではなく一般大学の場合、卒業後一般養成施設などで1年以上必要な知識や技能を修得することが受験資格を得る条件です。
短期大学卒業の場合は次のような条件となります。
福祉系短大(3年)にて指定科目を履修・卒業し、実務を1年以上経験すること。
福祉系短大(3年)にて基礎科目を履修・卒業し、短期養成施設等6ヶ月必要な知識や技能を修得すること。
一般短大(3年)を卒業し、実務を1年以上経験し、一般養成施設等で1年以上必要な知識及び技能を修得すること。
福祉系短大(2年)にて指定科目を履修・卒業し、相談援助実務を2年以上経験すること。
福祉系短大(2年)にて基礎科目を履修・卒業し、短期養成施設等で6カ月以上必要な知識及び技能を修得すること。
福祉系短大ではなく一般短大(2年)の場合は、卒業後実務を2年以上経験し、一般養成施設などで1年以上必要な知識や技能を修得することが条件になります。
社会福祉士の資格をすでに持っているという人は、短期養成施設などで6ヶ月必要な知識や技能を修得することで、受験資格が得られます。
合格基準点は90点程度、近年の合格率は55~65%前後となっており、約3人に2人は合格となっています。
ホームヘルパー
ホームヘルパーとして働くには、「介護職員初任者研修」や「介護職員実務者研修」資格を取得する必要があります。
所定の講義や演習を受けた後、筆記試験による修了評価を受けます。
保育士
保育士として働くためには、「保育士」の資格が必要となります。
「保育士」の資格を取得する方法は、主に2つあります。
一つは、大学、短大、専門学校など、保育士養成施設に学び、定められた課程を修了する方法。
学生のみなさんが「保育士」の資格を取得することを考えるなら、「保育科」などの保育士養成のための学部がある短大や大学へ行くことをおすすめします。
なせなら、厚生労働省の指定する養成校の指定の学部・学科を卒業すると、自動的に「保育士」の資格を取得することができるからです。
学校の卒業には、短大や専門学校であっても2年、または3年間学校に通い、実習や試験勉強などをこなす必要があります。
もう一つは、専門の大学・短大ではなく自分に合った勉強方法で学び、保育士国家試験を受験し合格する方法です。
主に社会人になってから資格取得を目指す人に多い方法ですが、独学や夜間の学校に通ったり、通信教育を受けるなどをして勉強し、保育士国家試験を受験することが可能です。
保育士の試験内容はとても難しいということはありませんが、合格率は10~20%となっており、やはり対策は必要となってきます。
科目によっては、細かな部分まで問われることもありますので、時間をかけてていねいに勉強しなければなりません。
児童福祉司
保育士と同じように、「子供のための福祉の仕事がしたい」「児童福祉についてもっと幅広く学び、仕事に生かしたい」と考えるなら、「児童福祉司」という資格取得を目指すのもおすすめです。
「児童福祉司」になるためには、児童福祉司の任用資格が必要となります。
この資格は大学で心理学・教育学・社会学のいずれかを専門で学び卒業した後、厚生労働省指定の福祉施設などで1年以上実務経験を積む方法と、専門学部以外の大学を卒業後、都道府県知事指定の養成機関を卒業する方法のいずれかがあります。
また、医師や社会福祉士などの資格を持っている人も児童福祉司の任用資格を得られます。
任用資格は、そのまま仕事に使えるものではなく、地方公務員試験に合格し、児童相談所に配属されて初めて「児童福祉司」と名乗ることができるものです。
児童福祉司の任用資格というのは、実際に公務員にならなければ使えることのできないものですが、「児童福祉司」に興味のある学生のみなさんは、まずは大学で専門の分野について学び、任用資格を取ることを目指すと良いでしょう。
福祉系の大学・学科紹介
さて、それでは、実際に主な福祉系の資格を取得するためには、どのような大学を選べばよいのでしょうか。
「介護福祉士」「社会福祉士」「精神保健福祉士」「保育士」「児童福祉司」、それぞれの資格を入力して大学を検索すると、数多くの大学名があがってきます。
それぞれの大学によって特徴があり、なかには複数の資格を目指せるような大学もありますので、自分の希望進路や、住んでいる地域、進学希望地域などと照らし合わせながら、一番良い進路先候補を考えるのが良いでしょう。
福祉系の資格を取得することにフォーカスするのならば、以上のような方法で良いと思います。
しかしながらもっと幅広く、福祉と社会について、保育と教育について、といった、総合的な学びをしたいと考えるなら、専門の研究をしている大学への進学を考えてみるのが良いでしょう。
一つには大学の「社会福祉学」系の学部があげられますが、ここでは、自立生活の実現にあたって生じた欠損・不足・停滞を補い、援助するための方法を学びます。
「社会福祉学」は、自立困難な人の要因を多角的に分析し、問題解決の方針と計画を設計したうえで、直接の対人援助、グループ援助だけでなく、間接的な地域組織化などを行うといった、分析科学と設計科学を統合した実践科学を行う学問です。
具体的には対人援助だけではなく、生活環境や街づくり、国際社会などより大きな視点で社会福祉を捉え新しい社会福祉を考えて実践することを目指します。
障害者や高齢者に対する支援や介護などの具体的なサポートだけでなく、その基盤となる基礎的な研究も行なっています。
主な「社会福祉学」系分野を研究している大学・学部は以下の通りです。
- 筑波大学 人間学群障害科学類 社会福祉学履修モデル
- 京都府立大学 公共政策学部福祉社会学科 社会福祉学群
- 大阪府立大学 地域保健学域教育福祉学類
- 大阪市立大学 生活科学部人間福祉学科 社会福祉コース
- 早稲田大学 人間科学部健康福祉科学科
- 上智大学 総合人間科学部社会福祉学科
- 同志社大学 社会学部社会福祉学科
- 立命館大学 産業社会学部現代社会学科 人間福祉専攻
- 関西大学 人間健康学部人間健康学科 福祉と健康コース
- 関西学院大学 人間福祉学部社会福祉学科、社会起業学科
- 龍谷大学 社会学部生活福祉学科
- 京都女子大学 家政学部生活福祉学科
- 武庫川女子大学 文学部心理・社会福祉学科 社会福祉コース
- 神戸学院大学 総合リハビリテーション学部社会リハビリテーション学科 社会福祉士コース、生活福祉デザインコース
また、児童福祉司の任用資格を取得するために、心理学・教育学・社会学の研究をしている大学・学部を目指すのも一つの方法です。
また、もっと幅広く教育について研究したいという人には、国立大学や国公立・私立の教育大学でも、それぞれの視点から福祉について学ぶことができます。
そのような大学では、社会福祉主事や保育士などの資格取得ができるところも多いようです。
福祉業界の今後について
2025年は団塊の世代が75歳を迎える年にあたり、介護問題を考える上での一つの節目としてとらえられていましたが、実際にもうすぐそこまで迫ってきており、日本の高齢化問題は待ったなしの状態が続いています。
今後はさらにケアが必要な人が増えると予想され、それに対しての対策が様々な分野で現在考えられています。
介護人材の不足という点についてですが、単純に人を増やすことだけ考えれば、介護現場に外国人就労者を受け入れるべきかどうかという議論がされています。
賛否あるなかで、もしこれが仮に段階的にでも実現することがあれば、介護の現場には様々な国から来た従業員が活躍することになります。
そんな中で障害の一つとなるのが言葉の問題です。
来日する外国人就労者は日常会話に不足はないとしても、日々の日誌を記入したり、介護される人の細かな状態を記録するのには時によって微妙なニュアンスまでも伝えなければならないことが多々あります。
また、介護利用者が抱える個別事情をくみ取って、きめ細やかなケアプランを作成することも大変手間がかかる業務です。
そんな業務をAIで解決しようといった動きが現在すすめられています。
最新技術では、個別事情に配慮する煩雑なケアプランを、AIにより短時間で作成したり、外国人の介護士にとってハードルが高い介護日誌を、AIが自動翻訳することなどが可能になってきています。
また、介護や保育の現場では、専用のロボットが使われている施設も増えています。
介護現場では五感のセンサー機能をもつAIカメラが生体情報を読み取り、24時間365日介護施設利用者を見守ったり、保育現場では、登園時の体温チェックや声かけなどをロボットで行う、といった実験がされています。
最新のAIやロボットの技術が、近い将来どんどん介護の現場で使われるようになれば、現在の職場環境と大きく変わってしまうことになるかもしれません。
学生のみなさんは、これから進む進路や、就職する業界の変化にもすぐに対応できるように、常にアンテナを張って社会を見据えながら、自分の将来について考えてみてくださいね。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。