「夫婦仲が悪い」と自認している父親または母親は、子供の高校受験や大学受験などに悪影響を及ぼしていることを知っておいてください。
受験生は、とても神経質になっています。
普段なら大抵のことに動じない子供でも、受験を控えていると動揺しやすくなり、ちょっとしたきっかけで勉強が手につかなくなることがあります。
そして両親の仲の悪さは、子供のメンタルに大きな悪影響を与えます。
両親の夫婦仲が悪いと、子供の心を動揺させることになり、受験失敗を招くことになるかもしれません。
昨今、新型コロナウイルスの感染拡大により学校が休校になったことで、ご家庭で過ごす時間が多くなったことも背景にあります。
夫婦喧嘩を子供に見せることも子供の睡眠不足や成長ホルモンに悪影響があると言われており、夫婦が仲良くしている様子を見て育った子供のほうが心身ともに健康な子に育ちます。さらに、受験に失敗した子供が「家庭環境が悪かったから、高校に(または大学に)落ちた」と考えるようになるかもしれません。
夫婦の不仲は、子供に、努力しないことの口実を与えることにもなりかねません。
夫婦仲の悪さをすぐに解消できない両親も、子供の受験期間だけは「休戦」したり「仲のよさ」を演じたりしてみてください。
その結果、子供の受験がうまくいき、さらに、夫婦仲も取り戻せるかもしれません。
「仲が悪い夫婦」の定義
「夫婦喧嘩は犬も食わない」ということわざがあります。
昔の犬は、道端のものを何でも食べていました。
その犬ですら、夫婦喧嘩には興味を示さないという意味です。
夫婦仲は、世の中のさまざまな「仲」のなかで、独特なポジションにあります。
そのため、夫婦仲の受験への影響を考える前に、「仲が悪い夫婦」を定義しておきましょう。
なぜ夫婦仲が独特なのか
夫婦仲が独特なのは、夫婦が、友人どうしであり、恋人どうしであり、家庭の共同運営者であり、子育ての共同責任者であり、運命共同体の一員だからです。
夫婦は関係性が複雑です。
恋人としての関係が良好でも、家庭の運営について揉めるかもしれません。
それは、それぞれの関係性において、価値観が異なることがあるからです。
夫婦が恋人としての価値観を共有できても、家庭運営に関する価値観では対立するかもしれません。
すべての関係性が良好になる「仲がよい夫婦」のほうが、珍しいのかもしれません。
子供視点での「仲が悪い夫婦」とは
夫婦仲の悪さはとても複雑なので、この記事ですべてを紹介することはできません。
そこでここでは、子供の視点で見た「仲が悪い夫婦」を5レベルにわけてみます。
・レベル1:子供があまり気にならないレベル。夫婦仲は良好とはいえないが、夫婦ともに子供の前では取り繕うことができている。
・レベル2:子供が薄々「うちの両親は不仲なようだ」と感じるレベル。夫婦で時々軽い嫌味は言い合うが、口喧嘩には発展しない。夫婦ともに離婚は考えていない。
・レベル3:子供の不安が募るレベル。嫌味を言い合う程度が頻繁。時々口喧嘩にもなる。夫婦だけのとき、離婚について話すことがあるが、その本気度は低い。
・レベル4:子供が動揺するレベル。夫婦で相手の人格を傷つける嫌味を言ったり、口喧嘩が激しくなったりする。子供の前でも離婚を口にする。夫婦のいずれか、または両方が、離婚を真剣に考えている。
・レベル5:子供に実害が及ぶレベル。夫婦で相手に暴言を吐いたり暴力をふるったりする。夫婦のどちらかは、強く離婚を希望しているが、相手がそれを許さない。夫婦の関係性はほぼ崩壊している。
夫婦仲の悪さのレベルが上がるほど、子供の受験への悪影響は強まります。
レベル4、5では、子供が「受験どころではない」と感じたり、実際に受験を放棄したりする事態も想定されます。
なぜ夫婦仲が悪いと受験に悪影響が出るのか
夫婦仲が悪いからといって、子供の受験が必ず失敗するわけではありません。
特別な子供はむしろ、親を反面教師にして、「学歴を積んで、よい家庭を築く」と決心して勉強に取り組むでしょう。
しかし、両親は、そのような子供は例外であると考えるべきでしょう。
ではなぜ、夫婦仲の悪さが、子供の受験に悪影響を及ぼすのでしょうか。
家庭環境と子供の成長の関係
国立社会保障・人口問題研究所が公開している「親の行動・家庭環境がその後の子どもの成長に与える影響」という論文によると、家庭環境と子供の成長には次のような因果関係があります。
・母親が若い年齢で子供を産むと、その子供の学歴が低くなる傾向がある
・母親が若い年齢で子供を産むと、その子供の初めての就職が非正規雇用になる確率が高くなる
・1人親家庭で育った子供は、学歴が低くなる傾向がある
・母子家庭で育った子供が成人したとき、身体的精神的苦痛を味わうことが多くなる傾向がある
母親が若い年齢で子供を産む場合、家庭内に複雑な事情があることが少なくありません。
1人親家庭や母子家庭でも、解決困難な問題を抱えることが多いでしょう。
このことから家庭環境が、子供の成長に深刻な影響を与えることがわかります。
この論文は、夫婦仲を考察したものではありません。
しかし夫婦仲の悪さは、確実に家庭環境の悪化を招くでしょう。
そうなれば、子供の受験に悪影響を与えることになることが、この論文から推測できます。
昔ながらの典型的な「よい家庭」が望ましい
別の研究結果を紹介します。
国立教育政策研究所が公表している論文「親の所得・家庭環境と子どもの学力の関係」によると、家計(その家のお金)と子供の学力は、大きな関係があります。
この論文では、次のような結論を導いています。
・小学6年生と中学3年生の国語・算数・数学の成績を計測したところ、家計の所得が多いほど上昇する傾向があった
・特に小学6年生の成績は、学校外教育支出が増えると顕著に上昇する
・高学歴の両親の子供は高学歴になりやすい
・父親が常勤で働いている家庭では、子供の学力は高くなりやすい
・父親が無職の場合、子供の学力が低下しやすい
・父親の失業は、子供の学力に影響する
・母親が非正規で働いていたり無職だったりしたほうが、子供の学力は上がりやすい
・母親が子供との接触時間を増やすと、子供の学力は上がりやすい
・子供のころ、絵本の読み聞かせをしてもらった子供ほど学力を高めやすい
・1人親で育った子供は学力が低い傾向にある
父親が常勤・正規で働いてお金を稼ぎ、母親が専業主婦で子供の面倒をしっかりみると、子供の学力は向上しやすくなることがわかります。
昔ながらの典型的な「よい家庭」のほうが、子供の学力に有利に働くわけです。
この結論は「考え方が保守的すぎる」と批判されるかもしれませんが、専門家たちの研究成果として紹介しました。
家庭の経済状況が悪化すると、夫婦仲は悪くなりがちです。
また、夫婦仲が悪く、夫婦で協力できないと、家庭の経済問題を改善することは難しいでしょう。
子供の学力を高めたいと考える夫婦は、夫婦仲を良好に保ち、家計を安定させる必要があります。
ここまでの考察から、「夫婦仲」「家庭環境」「親の所得」「子供の学力」の4つは、一体として考えていかなければならないことがわかります。
夫婦が「子供の学力を高めたい」「受験を成功させたい」と思ったら、夫婦仲をよくして、家庭環境を安定させ、お金を稼ぐことが、成功の近道になります。
受験と子供の心理
夫婦が自分たちの子供に学歴を積ませたいと思ったら、子供の受験を成功に導いてあげる必要があります。
子供の受験は、幼稚園受験、小学校受験、中学校受験、高校受験、大学受験と、最大5つありますが、高学歴に影響するのは高校受験と大学受験です。
どうしても本当の仲のよさを取り戻せない夫婦でも、高校受験と大学受験の期間は、関係性を安定させましょう。
受験期間中の子供の心理を知れば、その重要性が理解できるはずです。
つらい
受験勉強はとてもつらいものです。
なぜなら、受験勉強に一生懸命取り組んでいる子供は、自分の実力以上のことをしようとしているからです。
自分の実力の範囲内で活動することは、とても楽です。
やることはわかっていますし、やれば必ず成功します。
しかし、自分の実力以上のことへのチャレンジは、そうはいきません。
まず、やることがわかりません。
例えば、道内の高校生Aさんの偏差値が40だったとします。
Aさんが、北大受験に挑戦しようとしたとき、「何をしたらいいのか」ということにつまずくでしょう。
なぜなら、偏差値40のAさんの周りには、北大受験に詳しい人が少ないからです。
それどころか、北大に関心を持っている人すらいないかもしれません。
そのようなAさんが北大受験に挑む場合、自分でいちから情報を集めなければなりません。
では、Aさんが塾に入ったり、ネットで受験情報を集めたり、参考書や問題集を買ったりして、北大受験の準備を整えたとします。
しかしAさんは次に、「成功するかどうかわからない」という不安と闘わなければなりません。
もし、猛勉強して北大入試に落ちたら、損した気持ちになるでしょう。
損をする確率が高いのであれば、最初から努力をしないほうがよい、という気持ちになります。
受験生は、そういった誘惑に打ち克たなければなりません。
北大より偏差値が低い大学への挑戦でも、そして高校受験でも、自分の今の実力以上の学校に入ろうとしているすべての受験生は、このつらさを感じています。
受験生の子供のこのつらさを想像できれば、両親は「夫婦仲を悪化させている場合ではない」と思えるのではないでしょうか。
受験生は「自分は被害者だ」と思っている
少なからぬ受験生は、自分を被害者だと思っています。
つらい思いを強制させられている、と感じているからです。
「つらい受験を乗り切れば、高校合格または大学合格という栄冠を獲得でき、明るい未来が見えてくる」と考えることができる子供は少数でしょう。
多くの子供は、つらい受験について次のように考えています。
- 数学や物理、世界史などを勉強して何の役に立つのか
- 高学歴になれば本当に幸せになれるのか
- 高学歴な人のほうが有利になる社会は、おかしくないか
- 大学を卒業しているのに不幸な人はたくさんいる
- 自分は本当は、美容師になりたい(または、理容師になりたい、パティシエになりたい、世界中を放浪したい、ユーチューバーになりたい)のに
そして受験を頑張らせようとする親には、こう思っています。
- 両親はなぜ無駄な勉強を強要するのか
- 親は自分の価値観を押しつけている
- 自分たちだってこれほど勉強していないのに
受験生は、つらい勉強を自分に課そうとする社会や親に不満を持っています。
その受験生の両親が不仲だったら、受験生はどう思うでしょうか。
両親の不仲によって、家庭の雰囲気が悪くなり、受験で塞がった自分の気持ちがさらに塞がります。
受験生は、自分は「受験と不仲な両親の両方の被害者だ」と思うでしょう。
そして、「仲のよい夫婦の子供に生まれたかった」と思うかもしれません。
仲が悪い夫婦は、自分たちの不仲が、受験生の被害者意識をさらに強めていることを自覚しましょう。
「よい夫婦仲」の受験生へのよい影響とは
不仲な夫婦は、夫婦仲がよい夫婦が、どれだけよい影響を受験生に与えているのか知ってください。
それを知れば、不仲を続けるより仲よくしたほうが「お得」であることがわかります。
夫婦で共通の「お得」がみつかれば、仲よくするモチベーションが芽生えてくるはずです。
仲のよい夫婦は「叱咤役」と「激励役」にわかれることができる
両親が、子供を高校合格や大学合格などに導くには「叱咤激励」が必要です。
勉強はつらいものであり、嫌なものでもあるので、子供に強く「勉強しなさい」と命令する叱咤が必要です。
しかし、子供が勉強ストレスに押しつぶされたら、元も子もないので、受験中の子供には「優しく励ます」激励が必要です。
1人の親が、叱咤も激励もしてしまうと、子供はそのどちらかを信用しなくなります。
子供が叱咤のほうを信じると、「激励は嘘」と思ってしまうでしょう。
そうなると、受験ストレスが高まる一方です。
子供が激励のほうを信じると、「叱咤は嘘」と思ってしまうので、「本気で叱っているわけではない」と、親を見くびるようになります。
そのため夫婦は、例えば、父親が叱咤役に徹して、母親が激励役に徹するという、役割分担をしたほうがよいのです。
父親が次のように、受験生の子供を叱り飛ばしたとします。
仕事やお金だけが幸せではないが、やりがいのある仕事と多額のお金は幸せを増やすことができる。だから、泣き言いってないで、勉強しなさい」
この言葉に子供が落ち込んだら、母親が次のように激励すればよいのです。
お母さんは、一生懸命勉強した結果、第一志望の大学に落ちたら、それでいいと思っている。やれるところまでやった結果、第2志望や第3志望の大学に合格したら、それはそれでいいからね」
もちろん、母親が叱咤役、父親が激励役でも構いません。
叱咤役が子供を奮起させ、激励役が子供のストレスを低減させれば、子供はプレッシャーにさいなまれることなく、勉強を続けることができます。
叱咤役と激励役を明白にわけるには、夫婦のチームプレイが重要です。
そうでないと、「叱咤夫と叱咤妻」や「激励夫と激励妻」「叱咤激励夫と叱咤激励妻」といったように、キャラクター破壊が起きてしまいます。
夫婦は、子供がいないところでよく話し合って「子供の受験支援戦略」を練ってください。
また、夫婦は子供に関する情報を交換して、ときに叱咤を強め、ときに激励を強めるようにしないとなりません。
子供の気持ちが緩んできたら「叱咤を強め」にします。
子供が落ち込んできたら、叱咤を一時中断して「激励中心」でいきます。
夫婦は、受験に関する情報も共有したほうがよいでしょう。
受験制度は目まぐるしく変わるので、夫婦で効率よく情報を集めていき、子供に適切なアドバイスをしましょう。
夫婦仲がよいほど、受験戦略の精度が確実に高まります。
仲のよい夫婦は子供の最良の道を探すことができる
父親と母親と子供は、それぞれ異なる価値観を持ちます。
そのため、子供の将来像は、3者で異なることがあります。
例えば、次のように考えている親子があったとします。
母親「大学ならどこでもいいし、好きな道があれば大学に行かなくてもいい」
子供「大学で遊べるのは嬉しいけど、大学受験は面倒、専門学校に行ければよい、将来はなるようにしかならないし」
人生の成功・失敗も、人の幸・不幸も、結果論にすぎないと考える人がいます。
しかし、実際は、努力や取り組みや戦略などによって、人生の成功率や幸せになる確率は、確実に高まります。
もちろん、確率が高まるだけなので、努力して、より取り組みをして、最良の戦略を練ってそれを実行しても、失敗したり不幸になったりするかもしれません。
こうした人生観に立つと、親が子供にしてあげられることは、人生の成功率や幸せになる確率を高めてあげることしかない、とわかります。
先ほどの3人家族の場合、両親はまずは、子供の「将来はなるようにしかならない」という考え方を修正してあげる必要があるでしょう。
夫婦で話し合って、どのようにアドバイスしたら、子供が、努力や取り組みや戦略などによって、人生の成功率や幸せになる確率が高まることを理解するのか、考える必要があります。
そのうえで夫婦は、夫婦の考えの違いを擦り合わせていけばよいのです。
つまり、「子供にいい大学を目指させるのか」それとも「子供が選んだ道なら、それが大学進学でなくても応援するのか」を、考えていきます。
こうした価値観の違いが生じたときに、冷静に、子供の幸せにだけにフォーカスして話し合うには、夫婦仲がよくなければなりません。
価値観が異なる案件について話し合うとき、衝突が生じやすいからです。
夫婦が互いに信頼し合っていれば、価値観が異なることについても、「最高の妥協の道」を探ることができます。
この夫婦が、普段から仲がよく、お互いに尊敬し合っていれば、次のような打開策を打ち出すことができるかもしれません。
- 子供が、自分が進みたい道を見つけられないうちは、大学進学を夫婦ですすめ、その目標大学は難関大学にする。
- 子供に難関大学をすすめるのは、そのほうが人生を有利に進めることができ、将来が安泰になる可能性が高まるから
- しかし子供が、真剣に大学進学以外の道を検討し始めたら、「大学進学ありき」をいったんやめて、子供の話をしっかり聞く
- 子供が自分で描いた将来設計に合理性があれば、例え大学進学をしない道であっても、両親ともども全面的に支援する
これは「最高の妥協の道」のひとつにすぎず、それぞれの家庭によって答えは違ってくるでしょう。
しかし夫婦仲がよくなければ、「最高の妥協の道」を導き出すことは難しいでしょう。
まとめ~子供の受験をきっかけに夫婦仲を改善する
受験という困難な挑戦をしている子供を尻目に、夫婦が口喧嘩していることは、シンプルに「よくないこと」といえます。
それが、受験の結果に悪影響を及ぼしたとしても、なんの不思議もありません。
子供が受験で苦しんでいるときくらいは、夫婦は休戦をして、協力し合って子供をサポートしてあげてください。
そして、その協力した経験が、夫婦の仲を修復するかもしれません。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。