子どもの語彙力の低下が叫ばれています。
ベネッセが実施しているLiteras(論理言語力検定)の結果では若者世代の語彙力が低下している事が判明しました。
現在は第四回試験まで行われていますが、回を重ねるごとに少しずつ数値が低下しています。
語彙力は国語力を構成する大きな要素で、この語彙力を伸ばすことは大変有意義なことです。
今回はその語彙力にフォーカスしてお話します。
子どもの語彙力が低下中
ベネッセの語彙力検定Literasの結果によると高校生の語彙熟知度(どれだけ言葉を知っているかの度合い)は全体で49.5%という結果となりました。
40代以降の68%と比較するとかなりの差が開いています。
辞書語彙の項目では高校生の語彙熟知度は47.7%と低い数値となっています。
大きな特徴はスラングをよく知っている事
高校生世代が他の世代と比較して高い数値にあるものが新語です。
30代以下の世代では高い水準となっています。
高校生の新語熟知度は44.3%となっている一方で40代以降の新語熟知度は40%となっています。
先程の辞書語彙68%と比較すると明らかに若者世代では新語に強いということが分かります。
高校生世代では「ディスる」「タピる」などの抽象的なスラングに強い一方で「こき下ろす」「未曾有」などの語彙に関しては非常に弱いという事も判明しています。
情報化の流れで小学生にも語彙力の低下が波及していると考えられ、幼少期からの語彙力教育は一層重要性を増しています。
読解力にも難を示している
2018年に実施されたPISA調査(※)では15歳日本人の読解力の国際順位が低下しました。
2015年実施の調査では国際順位が8位であったものの、2018年実施の調査では順位が下がり15位となっています。
国際的な水準としては平均点より高い結果となっていますが、マカオや韓国、中国に大きく順位を引き離された結果となりました。
語彙力の低下と同時に、読解力も低下している事から総合的な国語力が衰退の一途を辿っている事が予想されます。
現在発展途上国である中国やマカオの発展が著しく、伸び率を見ている限り、その差は益々開いていくものであると予想されます。
※PISA調査とはOECD(経済協力開発機構:国際機関)が3年おきに実施している学力調査のこと。義務教育終了段階の子どもを対象に加盟国ではテストが実施されている。各回ごとにテーマが決められており2018年は情報リテラシーをテーマに実施された。
原因は
語彙力低下について原因を語ることは簡単では有りませんが、皆さんの想像に容易いものとしては「スマートフォンの普及」が挙げられるでしょう。
YouTubeやニコニコ動画等の動画コンテンツが主となり、活字を読む習慣が失われつつあります。
また動画コンテンツ自体が若年視聴者に受け入れられやすいよう製作が行われており、擬音語やスラングを多用したものとなっている事も一つの原因です。
先程のベネッセ言語力検定Literasのアンケート調査では一日にスマートフォンを2時間以上触っている高校生の語彙力が低下しているという結果が見られました。
対する大学生では1時間以上スマートフォンに触れている受験生の語彙力が上昇しており、2時間以上でも低下は見られていません。
この結果に対して、どのような解釈を行うかは個人で異なりますが「高校生・大学生でスマートフォンで利用しているコンテンツに違いがある」と捉える事が最もでしょう。
幼児〜高校生では動画コンテンツやソーシャルゲームの利用が著しく、大学生以降では論文検索やネットニュース、SNS、まとめサイト(※)等の活字を読む機会が多いという予測が可能です。
私が指導していた小学生の殆どがYouTubeを日常的に利用していると答え、更に会話の内容もテレビ番組や漫画に関するものでは無く、YouTubeコンテンツに関するものが目立っていました。
従来漫画や読書など活字に触れていた時間が動画コンテンツ鑑賞へと変化し、語彙力習得の機会が失われていることが語彙力低下の大きな原因です。
※まとめサイトとは、インターネット掲示板2ちゃんねるに投稿された個人間のやり取りや、ネットニュースに対するSNSでの反応などを見やすいようにまとめたサイトの事。ゲームや車など特定のジャンルに特化したものもある。
語彙力について
これまで若年層の語彙力低下についてお話してきましたが、ここで一度「語彙力とは何か」について確認しましょう。
語彙力の定義
通常語彙力は「ことばをどの位知っているのか」に焦点を合わせて語られがちですが、それだけではありません。
むしろ「知っている言葉をどの程度使いこなすことが出来るのか」の側面が強いでしょう。
「知っている」と「使いこなす」の両側面から語彙力を分類するのであればパッシブ・ボキャブラリ(静止的語彙)とアクティブ・ボキャブラリ(活動的語彙)とする事が可能です。
真の語彙力獲得に向けては、ことばを知っているだけのパッシブ・ボキャブラリに留まること無く、その言葉を駆使することが出来るアクティブ・ボキャブラリを目指す必要があります。
例えば四字熟語「臥薪嘗胆」は苦労や苦心を重ねるという意味がありますが、この熟語単体では使用イメージが浮かびません。
そこで実際に使用してみると「臥薪嘗胆の末、志望校合格を勝ち取った」と実際の場面イメージが明らかになります。
苦心に耐え、勉強に励んだ結果の合格であることがはっきりと分かり、豊かな表現となっています。
「言葉は知っているが、使い方を知らない」という状態に留まっている以上はパッシブ状態、つまり使いこなすことは出来ませんが、一度例文を作成してみると語彙はアクティブ化し、実際の生活場面で使用することが容易となるという事です。
例文を作成する際は自身の経験や生活と関連させるとより理解が深まります。
どのような場面で語彙力が役に立つのか
語彙力には実用的側面と社会的側面が存在します。
実用的な側面から明らかにしましょう。
実用的側面とは「自分の思いを明確に伝える事が出来る」という点で意思疎通の役に立ちます。
例えば「関関同立は関西のヤバい大学達」と言うとあまり実感は湧きませんが「関関同立は関西にある難関大学の頭文字を取ったもの」と説明すると、大体のイメージを掴むことが出来るでしょう。
更に「頭文字を取ったもの」と説明することで4つの大学が方を並べているという構図までを汲み取ることが可能です。
このように説明の方法一つとっても、語彙力がある場合とない場合では一度に伝えることの出来る情報量は違います。
次に社会的側面を理解しましょう。
社会的側面の概要は「ことばを知っている事で、その人の教養を示す」事です。
無理に小難しい言葉を使う必要はありませんが、会話の要所で語彙力を発揮することで「この人はきちんと勉強している」と相手に知らしめる事が可能です。
同年代で流行りの語彙を使用する分には問題有りませんが、社会人になると異なる世代との交流も必要です。
年配世代の方に「ワンチャンいけるっすよ」と言ったところで、恐らく意味は分かって貰えないでしょうし「この子は教養が無いのかな」と評価に影響を及ぼします。
相手が理解できるように「恐らく可能です」と言葉を変更することによって「きちんとした言葉遣いが出来るんだな」と理解を得ることが可能です。
良い評価を期待することは出来ませんが、少なくとも「教養がある人だ」という認識を与えることが可能です。
「ことば」は変化し続ける
昨今「ら抜き言葉」が日本の文化を破壊するとして社会悪と扱われていました。
最近はあまり聞きませんが、一昔前まではまるで魔女狩りのように行われていました。
詳しくをお話すると長くなりますので多くを語るつもりはありませんが、実はら抜き言葉にも言語学的な根拠があると研究が進められています。
ら抜き言葉は元来近畿地方の方言として存在しており、また「〜られる」には様々な意味が含まれている事から混同を避けるように進化したとの見解が現在では最も有力です。
そもそも現代語となる以前では「〜ゆ、〜らゆ」など現代では使われない語彙も使用されていましたので、合理的に進化しているのであれば言葉狩りは野暮でしょう。
豊かな語彙力を身につけることは良いことですが「この語彙は間違っている、本来の意味はこれだ」などと厳しく指導することは避けたほうが良いでしょう。
特に小学生の間は学習に厳しい基準を設けると勉強嫌いの原因となりますので、子どもの価値観も尊重してあげましょう。
家庭で気楽に取り組める語彙力を伸ばすアクティビティ
小学生でも簡単に楽しく取り組むことが出来るアクティビティをご紹介します。
どれもゲーム形式となっているので楽しめる筈です。
高学年向けには語彙力カルタ
高学年の子どもには語彙カルタ なるものが発売されています。
近年の語彙力ブームに乗った商品ですが、これが実に上手に出来ており語彙力アップにはもってこいです。
例文も含まれているため、アクティブ・ボキャブラリの習得にも役立つのでお勧めです。
低学年にはしりとり
低学年の子どもであれば “しりとり” も効果があります。
保護者の方と一緒に行い、保護者の方から新しい語彙を提供するというアプローチで挑むと良いでしょう。
「端午の節句ってなに〜?」など子どもから質問したくなる言葉を選択すると尚良です。
多読ポートフォリオ
兄弟がいるのであれば、多読もお勧めです。
比較的内容の少ない本を可能な限り多く読む事で語彙力を身につけることが可能です。
さらにそれを記録させる事で、語彙力を身につけることが出来た実感だけでなく、同時に達成感を味わうことも可能です。
あまり多くの本を購入すると家計を圧迫しますので、図書館を利用すると良いでしょう。
なお現在は図書館で借りた本を記録する通帳が導入されている例もあるので、可能であれば利用すると良いでしょう。
おわりに
語彙力に関しては数値で低下が判明しており早急の対策が必要となっています。
社会全体でもそれを認知しており、語彙力カルタなどの教育製品が盛んに開発されています。
また図書館でも貸し出し件数を増やすための読書通帳導入など小学生の子どもが活字に親しむことの出来るように自治体単位でも活動が行われています。
ご自身の子どもが社会で立派な人材となるためには、全ての基幹となる語彙力を育成する必要があります。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。