子供に読書をさせたい保護者はたくさんいます。
しかしそれ以上にたくさんいるのは、読書をしたがらない子供です。
- なぜ保護者は子供に本を読ませたがるのでしょうか。
- なぜ子供たちは、本を読みたがらないのでしょうか。
- 子供に本を読ませるにはどうしたらいいのでしょうか。
さらに、「本を読まなければならないことはわかっているけど、活字を目で追っているとどうしても飽きてしまう」と悩んでいる子供は、どうしたら本を好きになるのでしょうか。
そして、そもそも本は読んだほうがいいのでしょうか。
この記事で扱う「本」は、活字が大半を占める本のことで、教養を高めたり、学習効果が期待できたり、社会的であったり、難しい概念を説明したりしている本のことをさします。
漫画やライトノベルや雑誌など趣味用や娯楽用の本は、この記事の「本」には含めていません。
本を心の底から愛することは難しい
子供が自発的に、自分のお小遣いを使ってでも本を買いたいと思うことはまれでしょう。
子供は心の底から「スマホがほしい」「ゲーム機がほしい」とは思いますが、それと同じくらい強い気持ちで本を求めることは、一部の子供を除いて、ないでしょう。
なぜかというと、子供にとって本はつまらない物体だからです。
本を読むくらいなら、大嫌いな勉強をしていたほうがましと考える子供もいます。
勉強をすればテストの点がアップしますが、読書は勉強と同じくらい苦痛なのに何の特典もありません。
本は昔から本のままなのに、なぜつまらなくなったのでしょうか。
それは、本がつまらなくなったのではなく、もっと面白いものが現れたからです。
漫画、アニメ、ゲーム、インターネット、スマホアプリ…等など。
いまから150年前の明治時代は、夏目漱石の小説ですら、子供たちの娯楽になっていました。
それは当時の子供の教養レベルが高かったからではなく、漱石の小説くらいしか娯楽作品がなかったからです。
漱石の「こころ」や「行人」を現代の子供に読むようすすめても、途中で飽きてしまうでしょう。
テレビもゲームもインターネットもスマホも漫画もライトノベルもあるのに、なぜ本を読まなければならないのか――子供たちは真剣にそう考えています。
さらに、本が伝える情報のほとんどは、(今見ているこのコラムのように)インターネット上の無料の文章がカバーしています。
ジャンルによっては本よりネットのほうが情報量が多いことがあります。
情報収集ツールとしても、ネットのほうが断然優れています。
それでも保護者が子供に本を読ませる意義はあるのでしょうか。
「あきらめないで」本も読書習慣も重要
本を嫌っているのは子供だけではありません。大人もかなり本から遠ざかっています。
現代は本が売れない時代です。
しかしそれでもなお、本が出版され続けているのはなぜでしょうか。
本の著者の立場からすると、本でしか伝えられない情報があるからです。
読者側の視点に立つと、本でしか得られない情報があるからです。
先ほども申しましたが、本が伝える情報のほとんどは、インターネット上の無料の文章(ブログやコラムなど)がカバーしています。しかし、すべてをネット情報でカバーできているわけではありません。
有益な情報を持っている著者は、本にしか書かないことがあるからです。
本に収まりきらないほどの膨大な量の情報がネットに掲載されたことで、本の人気が下がりました。
しかしネットは、情報量が多すぎるうえに、嘘の情報も大量に含まれるようになったので、情報の質が低下しました。
そのことが、本の価値を高めることになりました。
ではなぜ本は情報の質を維持できているのでしょうか。
なぜ本の情報は、価値が高いのでしょうか。
それは本は何重にもチェックされているからです。
本をつくるには著者と編集者が必要です。
編集者は出版社の社員で、著者が書いた文章をチェックします。
出版社には、編集者がチェックした内容を再チェックする上司がいて、再々チェックする校閲担当者がいます。
そして本は書店に並び、立ち読みという形で読者にチェックされます。
立ち読みが最終チェックとなり、それに合格した本のみが売れます。
ではなぜネットは、本と同じようにチェックをしないのでしょうか。
なぜ質の低い情報のまま、ネットで公開してしまうのでしょうか。
それは、ネットで情報を提供しても、閲覧者やユーザーからお金を徴収できないからです。
本と同じくらい情報をチェックするには、本と同じくらいコスト(お金)がかかります。
本は簡単に1冊1,000円くらいしますが、ネットの情報はほとんどが無料です。
本の情報の価値が高い理由はまだあります。
それは、活字で伝えることに徹しているからです。
もちろん本でもイラストや写真を使うことがありますが、それでも情報を伝えるツールはあくまで文字がメーンです。
難しい概念や複雑に入り組んだ関係性は、文章でしか伝えることができません。
つまり、最も価値が高い情報は、本のなかにしなかいということもできます。
だから子供に本を読む習慣を持たせることは重要なのです。
親が読んでいないと難しい?
子供に本を読ませたいと思っている保護者が普段から本を読んでいないと、読書を習慣化させることは難しいでしょう。
それは「本は人生を豊かにするから読みなさい」や「本には真実が書かれてあるから読みなさい」というアドバイスに説得力がなくなってしまうからです。
子供に本を読ませるのであれば、まずは保護者自身が読書を習慣化させる必要があるでしょう。
完読しなくても「よし」とする
子供に読書をすすめるとき、完読しなくても許してあげてください。
保護者が先に完読して、「これは我が子に読ませたい」と思ってすすめて、なのに子供が途中で投げ出してしまうと、悲しいような悔しいような複雑な気持ちになるでしょう。
そして子供のためを思って「いいから頑張って読みなさい」と言ってしまうかもしれません。
しかしそのように強要した途端に、その本は単なる本ではなく、教科書や参考書のような存在になってしまいます。
我が子であろうと、読書の強要はしないほうがいいでしょう。
読書は「趣味以上、勉強未満」と考えてはいかがでしょうか。
難しい本は、ゲームや漫画よりは人生に役立ちます。
したがって読書は単なる趣味よりは高度な知的活動といえます。
しかし読書を勉強にしてしまうと、勉強と一緒に読書も嫌いになってしまうかもしれません。
それでは読書の習慣を身につけさせる目的を達成できません。
そこで、次の2つのことを提案します。
- 「読んでもいいし読まなくてもいいけど、この本面白いよ」とすすめる
- 「完読しなくてもいいから、なんとなく気に入った本を毎月3冊買いなさい」と、毎月の小遣いとは別に本代を渡す
本を完読しないのはもったいない気もしますが、しかし本は、冒頭部分にも濃密な情報が記載されているので、そこを読むだけでもためになるはずです。
そして、完読していない本がたくさん溜まれば、さすがに子供も「1冊くらいは完読してみよう」という気持ちになるはずです。
それが読書習慣のスタート地点です。
子供が自主的にその地点に立つまで辛抱強く待ちましょう。
本を読むことは格好いいと思わせる
子供が「本を読むことは知的で格好いい」と思い始めると、進んで読書をするようになるでしょう。
例えば登山では、山に登る前に登山グッズを買い集める人がいます。
登山グッズはとてもおしゃれで格好いいからです。
登山道具を使ったり、登山用の服や靴を着用したりしたいから山に行くという人もいます。
もし自分の子供が、友達とは一味違うことをやりたい、と考える性質の場合、友達が漫画やライトノベルを読んでいるときに、村上春樹や大江健三郎や太宰治の小説を読むことの格好よさを理解できるかもしれません。
機械好きな子供には電子書籍を買い与えよう
機械や新しい技術が好きな子供には、電子書籍を買い与えてみてはいかがでしょうか。
アマゾンのキンドル(Kindle)と楽天のコボ(Kobo)がよく知られています。
どちらも小説、ビジネス書、新書、そして漫画を読むことができます。
漫画を読むことができるのであれば、子供の関心も高まるはずです。
まずは漫画で電子書籍の便利さを体験させて、徐々に活字だけの本をすすめていけばいいのです。
読み聞かせは本当によい
子供がまだ小さい場合、本の読み聞かせが将来の読書習慣につながるかもしれません。
子供が、本に対してよい印象を持つようになるからです。
また、読み聞かせた本は、保護者と子供の共通の話題になります。
しかもその話題は10年後、20年後に復活するかもしれません。
子供に自分の子供ができたとき、「この本はお母さんのお母さんがお母さんに読んでくれたんだよ」と読み聞かせるかもしれません。
夏目漱石や森鴎外のような日本の代表的な小説だけに限らず、子供の教育という点では「洋書」の読み聞かせも良いでしょう。
以下の記事で詳しく解説しています。
朗読は本当によい
小説を朗読したDVDなどが売られています。
これを聞けば、子供が一気に名作好きになるかもしれません。
例えば「ユーキャン 聞いて楽しむ日本の名作」は専用のプレイヤーで聴くタイプで、日本文学169作品が録音されています。
プレイヤー代込みで29,700円です。
作品の一部を紹介すると、「浮雲」(二葉亭四迷)、「たけくらべ」(樋口一葉)、「舞姫」(森鷗外)、「羅生門」(芥川龍之介)、「風立ちぬ」(堀辰雄)、「濹東綺譚」(永井荷風)などとなっています。
いずれも保護者が「いつか読まなければならない」と思っていたものではないでしょうか。
そして朗読しているのは市原悦子さん(故人)、大和田伸也さん、川原亜矢子さん、林隆三さん(故人)、草刈正雄さんなど、有名な俳優・女優たちです。
抑揚のある臨場感あふれる語り口で、ぐいぐい作品のなかに引っ張られることでしょう。
漱石は「娘に『土』を読ませる」と言っていた
夏目漱石が、長塚節の「土」という小説をぜひ娘に読ませたいと述べています。
日本最高峰の小説家が自分の娘に推薦する小説とは、どのような内容なのでしょうか。
そして、なぜ漱石は、娘にこの本を読ませたいと思ったのでしょうか。
「土」は、明治時代の貧農の生活を描いた長編です。
漱石は「土」について次のように述べています。
「これは到底、余に書けるものではないと思った。次に今の文壇で長塚君を除いたらだれが書けるだろうかと物色してみた。するとやはりだれにも書けそうにないという結論に達した」
「『土』を読むものは、きっと自分も泥の中を引きずられるような気がするだろう。余もそういう感じがした」
大絶賛しています。
そして娘に読ませたい理由として、次のように述べています。
「余の娘が年ごろになって、音楽会がどうだの、帝国座がどうだのと言い募る時分になったら、余はぜひこの『土』を読ましたいと思っている。娘はきっといやだというに違いない。より多くの興味を感ずる恋愛小説と取り換えてくれというに違いない。
けれども余はその時娘に向かって、おもしろいから読めというのではない。苦しいから読めというのだと告げたいと思っている。参考のためだから、世間を知るためだから、知っておのれの人格の上に暗い恐ろしい影を反射させるためだからがまんして読めと忠告したいと思っている」
まとめ~世間を知ることができ人格形成も
漱石の読書教育はかなり強烈ですが、苦しいから読ませる、世間を知るために読ませる、人格に大きな影響を与えるから読ませるという考え方は、大人が子供に本をすすめる理由としては極めて率直であるといえそうです。
現代の保護者は、明治時代の家長のように振る舞うことはできないと思いますが、子供に本をすすめる意義は漱石のいうとおりだと思います。
本は楽しさだけでなく苦しさも味わわせてくれます。
そして本でしか知り得ない世間があり、本を読み続けることは人格形成に必ず貢献します。
子供が読書習慣を身につけるまで、本を読む喜びと意義を伝え続けましょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。