モンテッソーリ教育やシュタイナー教育など、聞き慣れないカタカナの教育方針を耳にする機会が近年増えています。
これらの外国由来の教育方針は、旧態依然とした日本的な教育に代わるもの、補うものとしての期待から育児雑誌や育児本などで盛んに紹介され、脚光を浴びています。
日本の幼稚園・保育園、あるいは学校教育と比べて、どんな点が違うのでしょうか?
また、多くの教育方針の中からどのようにふさわしいものを選べばよいのでしょうか?
この記事では各教育方針の特徴と、夫婦で考えたい5つのポイントについて解説します。
フレーベル教育
「〇〇教育」と呼ばれる教育方針はたくさん存在します。
まずは理解を深めるため、登場した時系列に沿って各方針の特徴に触れていきましょう。
フレーベル教育は、1837年に世界で初めて「幼稚園」を創設したドイツの教育者フリードリヒ・フレーベルが考案した教育方針です。
日本でも幼稚園の指導方針となっており、「人間が自然界の一員であると理解する」ことを目指します。
その特徴は、命令や干渉をせず、遊びを重視することです。
また、キンダーガーデン(子ども達の庭)と言われる通り、庭が広いのも特徴です。
フレーベルは積み木やブロックなど、今では当たり前にある玩具の考案者としても有名です。
ごく普通の幼稚園に通っていた方、お子さんを通わせた方であれば、すべからくフレーベル教育の恩恵にあずかっているといえるでしょう。
オルタナティブ教育の登場
教師が生徒に一方的に伝達する集団教育に対し、20世紀に入ると「オルタナティブ(代替)教育」が登場します。
広義にはホームスクーリングなども含まれますが、ここでは伝統的な教育以外のユニークな特徴をもつモンテッソーリ教育、シュタイナー教育などを「オルタナティブ教育」と呼ぶことにします。
独自の理念に基づくオルタナティブ教育はもともと学校外での教育と同義で、日本でいえば文科省の認可を受けていないフリースクールの扱いでした。
現在でも幼稚園・保育園を除くと、多くはフリースクールやアフタースクールになりますが、少数ながら文科省の認可を受けている学校も存在します。
以下、さまざまな種類のオルタナティブ教育をご紹介します。
モンテッソーリ教育
1907年頃にイタリアの精神科医マリア・モンテッソーリが創始した教育方針です。
知的障がい児や貧困児童の知的水準を上げる効果を見出したモンテッソーリはその方法を一般にも広めました。
世界110か国以上に実践園が存在しており、オルタナティブ教育の筆頭格といえます。
輩出した著名人は多く、とりわけアメリカIT企業を興した名だたる起業家が目立ちます。
- マイクロソフト社のビル・ゲイツ
- アップル社の故スティーブ・ジョブズ
- アマゾン社のジェフ・ベゾス
- グーグル社のラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン
- フェイスブック社のマーク・ザッカーバーグ
- テスラ社などを率いるイーロン・マスク
- 前アメリカ合衆国大統領バラク・オバマ
など
また、日本では将棋の最年少タイトル保持者の藤井聡太さんや、卓球選手の平野美宇さんがモンテッソーリ教育(いずれも幼稚園)を受けていました。
共通点には「集中力が高く、一芸に秀でている」ことが挙げられるでしょう。
子どもがもつ自立しようとする力を伸ばすように導き、ユニークな玩具の使用も特徴です。
日本では認定校が東京都と神奈川県に存在しています。
シュタイナー教育
20世紀初頭にオーストリアの思想家ルドルフ・シュタイナーが創始した、自由を重んじる教育方針です。
「現代の人間はスズメバチのようである」というシュタイナーの言葉の通り、 当時は頭脳ばかり発達して意志が伴わない人が多いことが問題視されていました。
「心と体」の両方の発達を大切にし、勉学や体の修練だけでなく、神様や自然などを崇める気持ちが高い倫理観に結びつくとします。
人生を7年ごとに区分けし、0-7歳、7-14歳、14-21歳の各時期に違った教育の仕方が必要になると提唱しています。
著名人では作家のミヒャエル・エンデ、俳優のジェニファー・アニストン、日本では俳優の斎藤工さんなどが知られ、培われた自由な発想が活躍の源になっているようです。
ドルトンプラン教育
1908年にアメリカで生まれ、実践内容はモンテッソーリ教育に影響を受けています。
ヘレン・パーカストが創始し、「ドルトン」は街の名前に由来します。
自主性と創造性を育む「自由」と、社会性と協調性を育む「協同」を教育指針に掲げ、違う学年の子供たちと自主的に学んでいくのが特徴です。
日本では認定校が東京都と愛知県に存在しています。
イエナプラン教育
1924年にドイツの教育学者ペーター・ペーターゼンが創始した教育方針です。
モンテッソーリ教育に影響を受けており、子どもを尊重しながら自律と共生を学びます。
オランダで特に盛んに取り入れられています。
異年齢のグループでクラスを編成するのが特徴です。
日本では認定校が長野県と広島県に存在しています。
フレネ教育
1935年にフランスの学校教師セレスタン・フレネが創始した教育方針です。
教育理念に「自由」を掲げ、自由作文や自由研究の実践のうえで内面の力を引き出すことを重視します。
スペイン、ドイツ、ブラジルなど世界38か国に広がっています。
日本における教育機関は東京都・大阪府・埼玉県に存在しています。
サドベリー教育
1968年にアメリカで生まれた4~19歳対象の教育法です。
「サドベリー・バレー・スクール」の試みを広げるために生まれました。
子どもの意志を最大限に尊重し、信頼と責任を与え、「自分が何をしたいのか」「なぜそれをしたいのか」を自身で学ばせます。
時間の使い方さえ自由に決めさせるので、時間割もなく、ずっと休み時間ともいえます。
また、スクール・ミーティングも行われ、学校運営や自治を主体的に行います。
アメリカでの追跡調査によると卒業後は教育・アート・経営に従事する人が多いようです。
認可制ではありませんが、日本では全国に17校存在しています。
レッジョエミリア教育
1950年代にイタリアのローリス・マラグッツィが創始した教育方針で、北イタリアの都市が名前の由来です。
1991年には「幼児教育における国際的なロールモデル」に挙げられました。
「子どもは100の言葉を持っている。けれど99は奪われている」という言葉のとおり、従来型の教育を「冷たい」と非難し、色々なやり方を押しつける方法は子どもの無限の可能性を奪うとします。
実践内容はプロジェクト活動や美術活動に重点をおき、創造性を重んじます。
米グーグル社の保育施設でも取り入れられているようです。
オルタナティブ教育:まとめと注意点①
以上のように、オルタナティブ教育は盛んな海外とは違い、その多くは幼稚園・保育園で通うケースが大半です。
日本ではわずかな学校でしか行われておらず、モンテッソーリ教育を受けた棋士の藤井さんや卓球の平野さんも公立小学校に通っています。
あるモンテッソーリ校の設立者は、文科省主導の教育は「競争心をあおる」のに対して、モンテッソーリ教育は「個々の良いところを認める」と両者の違いを端的に表現しています。
この指摘はおそらく他の教育方針にも当てはまるでしょう。
文科省が定める学校はいわゆる「一条校(学校教育法第1条に定められた学校)」とされ、現状ではオルタナティブ教育の一条校もわずかに存在するものの、基本的には両立しないものです。
言い換えれば、オルタナティブ教育を学校で受ける場合は一部を除き、小学校・中学校・高校の卒業資格は原則得られません。
したがって、進学を希望する際は海外校を視野に入れるなどの手段が必要になるでしょう。
このように、オルタナティブ教育の最大のデメリットは、従来型の日本的なキャリアを歩ませたい場合には相性が悪いことです。
小さいうちはともかく、学年が上がるにつれ、学力重視の指導要領についていけなくなるでしょう。
そもそも目指すゴールが違うので当然ですが、中高の受験など日本のスタンダードな教育方針に沿ったレールとは良くも悪くも適合しないのです。
競争主義の是非はおくとして、オルタナティブ教育に不登校のお子さんの受け皿的なイメージがあるのもこのためです。
逆に言えば、こうした自由闊達な環境こそが、俳優や作家のような型にはまらない才能を生み出す土壌になるといえます。
もっとも、「日本型の学力と、型にはまらない自由な精神を両立させる」という強い気概をお持ちであれば、検討してみる価値は大いにあるでしょう。
オルタナティブ教育:まとめと注意点②
オルタナティブ教育はもともと欧米で生まれ、それらの国々の文化に強く紐づいていることに注意が必要です。
理念や内容は優れている部分もある反面、日本社会や文化と直接結びついていないという問題があります。
お子さんが一生欧米で暮らすつもりはなく、日本でかなりの時間を過ごすライフプランの場合、自国の文化・知識・言葉への理解が浅いままになる可能性はあります。
たとえば、モンテッソーリ教育ではイースターなどキリスト教の行事を積極的に行いますが、一方で日本の伝統行事の学びをしっかり取り入れていなければ本末転倒です。
常識知らずに育たないためには、日本で暮らす人間として当然の文化や知識を学ぶことも大事です。
なぜなら、真のグローバルな人材を育てるには、逆説的に特定の国のアイデンティティを強固にもつことが不可欠だからです。
国際化が進むほど、英語圏の文化や言葉は誰もが知っている時代になり、固有の文化価値への深い理解がむしろ強みに変わるからです。
半端な国際人にならないよう、お子さんのアイデンティティ形成にも留意が必要です。
オルタナティブ教育:まとめと注意点③
みてきたように、多くのオルタナティブ教育の発祥時期は世界大戦前であり、約100年前の古い時代です。
当時、批判対象に挙げられた「従来の教育」は19世紀のものです。
また、日本を含め、世界のあらゆる国々で軍隊式の教育が盛んな頃で、「上から押しつける」方式に反発する形で育ってきたのがこれらオルタナティブ教育でした。
自由や主体性を謳う教育方針が多いのはそのためです。
20世紀後半に欧米で浸透したのち、ようやく日本でも認知されてきたのが現在であり、その大きなタイムラグを念頭に置く必要があります。
名残はあるとはいえ、日本の公立校でもすでに「上から押しつける」形の教育はずいぶん減り、子どもの意志や意見が尊重されるようになりました。
総合学習やICT教育の導入など、内容面でも現場の改善がみられているのはたしかです。
つまり100年前と違い、当時目指していた”自由”な教育や社会はすでに実現されているともいえます。
そのうえで、未だ残るオルタナティブ教育ならではのメリットは何か、吟味する必要があるでしょう。
教育方針を選ぶうえでの5つのポイント
続いて、教育方針を決めるうえで夫婦で考えたい5つのポイントについて解説します。
ポイント①お子さんをよく観察する
ふさわしい教育方針を考えるうえで最も大事なことは、お子さんをよく「観察する」ことです。
絵を描くのが好きだったり、しょっちゅうボール遊びをしていたり、言葉遊びが好きだったり、ひとり遊びが好きだったり…
「三つ子の魂百まで」ということわざ通り、1~4歳くらいの時期にすでに形質や才能の片鱗が現れているものです。
才能を伸ばすための能力や適性は、子どもによってそれぞれ違います。
目立った個性があればオルタナティブ教育が適しているかもしれませんが、個性は特になく、協調性に長けていれば日本型の教育が良いかもしれません。
早いうちに適性を見抜ければ、それに合った教育法を選択でき、才能が開花する可能性が高くなります。
また、ヒントはお子さんだけでなく、親御さん自身にもあります。
ご両親の血を受け継いでいる以上、能力や性格の基盤は親譲りだからです。
ご自身の幼少の頃を思い出したり、配偶者や一族のルーツも探ってみましょう。
さらに、友人や年長者など、第三者の意見も大事です。
「この子は〇〇に向いていそう」という客観的な意見を集め、参考にしてみましょう。
ポイント②教育方針の特徴を吟味する
教育方針の宣伝文句に惑わされず、各方針の本質をよく捉えましょう。
たとえば、多くのIT起業家が受けていたモンテッソーリ教育。
ITの素養は本当に教育方針によって育まれたのでしょうか?
実はアメリカではそれほどモンテッソーリ教育は珍しいものではなく、若いIT起業家がたくさん生まれた本当の理由は20年以上前からIT教育が普及していたからです。
また、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズの生まれ育った頃はアメリカでもまだIT教育が少ない時代でした。
つまり、モンテッソーリ教育以上に、ITに触れる個人的経験が青少年期にあったかどうかがより重要なのです。
今となっては、日本でもGIGAスクール構想が始まり、一人一台タブレットが配布されるなど、公教育も変わりつつあります。
著名人の実績をみる場合、本当に教育方針の賜物か、今後も有効か、などを総合的に考慮しましょう。
ポイント③現実的に考える
お子さんに施したい理想の教育やこだわりのプランがみえてくるなかで、そうはいっても現実的な選択肢から絞らなければなりません。
多くの方にとって、住むエリアや仕事を柔軟に選ぶことはできず、可能な範囲から選ぶことになります。
日本のオルタナティブ教育は一般的に学費も高いうえに、選択肢も大変限られています。
となると、可能な予算内で送迎がしやすい場所から決めることになります。
無理な「教育移住」にならないよう、ライフプランに沿った園や学校を探しましょう。
ポイント④環境面も大切
園や学校を選ぶ際は、教育方針以外のファクターも大事です。
すなわち、玩具の種類や先生の質などソフト面だけでなく、園の広さなどハード面も大事になります。
子どもの精神的な成長は物理的な環境に大きな影響を受けるからです。
たとえば、
- モンテッソーリ教育を行っている、交通量の多い都心の狭い園
- 教育方針は普通でも郊外にあって森林や田畑、牧場に囲まれた空気のおいしい園
を比べてみるとどうでしょうか?
スペースの狭さや空気の悪さはイライラにつながるため、心身がのびのび育つような環境を理想とすると、後者に軍配が上がるでしょう。
というのも、モンテッソーリ教育が盛んなアメリカは国土が広く、園庭や校庭も広いので問題になりませんが、日本の都心は狭いところが大半です。
このように前提条件が少し変わると、優れた教育方針も台無しになり、結果が大きく変わりかねません。
逆に言えば、必ずしも横書きの名称でなくとも、素晴らしい理念に基づいた教育を実践している園や学校はたくさんあります。
欧米に比べ、日本の長所は森林や自然が豊かな点です。
手つかずの自然が比較的保たれており、高温多湿な気候から虫の種類も多く、そうした豊かな環境を活かしている園や学校はおすすめです。
オルタナティブ教育にこだわらず、優れた取り組みをしているところを探してみるとよいでしょう。
ポイント⑤良いとこ取りを考える
教育の本質を考えたときに、どのような方法が理想になり得るでしょうか?
さまざまな人間で構成される社会では、育ちや考え方、人種が異なる人々と付き合わなければなりません。
また、変化の激しい時代、子供の頃の常識や価値観が末永く続くことはそうありません。
こう考えると、カギになるのは「柔軟性」をもたせることです。
国や時代が変わり、出会う人々や常識が変化しても、柔軟性があれば対応できるからです。
柔軟性はいろんな人と出会い、考え方のバラエティを見知ることで培われます。
つまり、いかに優れた教育法でも偏りすぎるとバランスを欠く恐れもあります。
自由の理念に基づいた教育は素晴らしいことですが、理想が高くなりすぎるのも問題です。
現実との乖離が大き過ぎると、まわりの人に合わせづらくなり、別の学校や職場で適応が難しくなることも予想されます。
ゆえに、オルタナティブ教育で注意したいのは「特定の教育方針に偏りすぎない」ことです。
理想の教育プランは良い方針がうまく混合されたものです。
オルタナティブ教育を受けたのちに日本型の学校に通ったり、日本型の学校に通いながらオルタナティブ教育の体験コースに参加してみるのも良いかもしれません。
まとめ
旧態依然とした教育界の状況から、外に救いを求める人が増えた結果、新たな教育方針が持て囃されています。
20世紀初頭に生まれたオルタナティブ教育は優れているものの、本来的には輸入文化です。
日本の産業構造と対立するため、産業の中心から離れた特異な分野で才能が育ちやすい面があり、将来根付くかどうかは今のところ未知数です。
また、幼少期に得たことは失われるのも早いため、継続が大事です。
オルタナティブ教育のさらなる浸透には一条校の認可など、義務教育の改革が待たれますが、現在進行形といえます。
今回取り上げた外来のオルタナティブ教育以外にも、独自路線の教育方針は次々登場しています。
いずれの教育方針にしても、見かけを重視し過ぎず中身を見定めること、そしてお子さんを日々観ることが何より大切です。
教育方針の長短やライフプラン、目指す地点がお子さんの適性と合致するかなどについて、夫婦でよく話し合われるとよいでしょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。