皆さんは「メタバース」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
メタバースとは、インターネットの中に広がる仮想空間のことを指す言葉で、「meta(超越した)」と「universe(宇宙)」を組み合わせた造語です。
一つの大きな仮想空間が存在するというよりは、いくつかの空間がそれぞれ銀河のように数多く併存しているというイメージと考えてみてください。
皆さんにはお馴染みのFacebookやInstaglamを運営するアメリカの企業が、2021年10月に「meta(メタ)」に社名を変更したことも記憶に新しく、それによってメタバースへの注目と期待が高まったことでも話題となりました。
仮想空間であるメタバースの中のユーザーは、メタバース内で自身の分身のアバターを操作して自由に動くことができます。
そのほか、他のアバターと交流したり、ショッピングをしたり、仕事をしたりすることもできるのです。
メタバースは、インターネット技術の拡張であり、さまざまなアクセスポイントからメタバースの中の世界にアクセスすることができます。
まだ一般的に実用化に向けて動き始めたばかりのメタバースですが、今後どのような分野で広がりを見せるのか、大注目の分野です。
特に今後影響が大きい市場として予想されているのが、「社会的つながり」「仕事」「娯楽」「ショッピング」「デジタル経済」、そして「教育」の6つ分野です。
「メタバース」の登場はいつから?
近年にわかに注目を集めるようになった「メタバース」という言葉ですが、実はこの概念はかなり以前からあったものでした。
初めて登場したのは今から30年ほど前の1992年だと言われています。
SF作家のニール・スティーブンソン氏による「スノウ・クラッシュ(Snow Crash)」という小説の中で、初めて仮想の三次元空間を意味する「メタバース」という言葉や「アバター」という概念が生み出されました。
それから約10年後の2003年、仮想の世界でさまざまな体験を楽しむことができる「セカンドライフ」というバーチャル空間が話題になりました。
セカンドライフの世界では、アバターや景観・建物・ファッションなど、ありとあらゆるものをユーザー達が制作することができ、さらにそれらを譲渡したり販売することができました。
このサービスは、その当時大人気で、月1回以上アクセスするユーザーが100万人以上もいたといわれています。
メタバースという言葉はまだあまり聞き慣れないかもしれませんが、エンタメの分野ではアバターを使ったコミュニケーションは以前から行われていました。
例えば「あつまれ どうぶつの森」や「Minecraft(マインクラフト)」「Fortnight(フォートナイト)」といったゲームなどは皆さんも知っていることでしょう。
そんななか、VR(バーチャルリアリティ)とブロックチェーン技術を組み合わせた仮想空間プラットフォームとして進化を遂げ、最近注目を集めているのが「Decentraland(ディセントラランド)」というメタバース構想です。
「Decentraland(ディセントラランド)」の世界は約90,000区画のLAND(ランド)と呼ばれる仮想空間上の土地で構成されています。
その世界を見学するだけなら誰でも無料で楽しむことができます。
また、バーチャル空間上に流通する仮想通貨「MANA(マナ)」を使えば、その世界のモノやアバターなどを売買することもできます。
この「Decentraland(ディセントラランド)」は2020年一般向けにリリースされるや否や、瞬く間に世界最大規模のエコシステム(経済圏)を持つメタバースプロジェクトの一つになりました。
そして2021年Facebook社が会社名を「Meta(メタ)」に変更すると発表したことをきっかけに、「メタバース」という言葉が一般の人たちにも一気に広がったのです。
メタバース・VRとはどういうもの?
前述の通り、Facebook社が会社名を「Meta(メタ)」に変更した影響は日本にも広がり、多くの人々がVR(仮想現実)やメタバースに興味を持つきっかけとなりました。
「メタバース」「VR」という言葉が出てきましたが、これらの言葉の意味について再度確認しておきましょう。
メタバースとは、多人数参加型の仮想空間のことを意味します。
従来はオンラインゲームの域を超えることがなかったメタバースですが、今ではその仮想空間を通してさまざまな人とコミュニケーションができる「バーチャルSNS」として、サービスが徐々に増えつつあります。
そのメタバースへのアクセスする方法の一つがVRです。
VRは、コンピューターによって作られた仮想的な世界を、あたかも現実世界のように体感できるテクノロジーを指すものです。
VRを体感するにはVRヘッドセットを装着して没入する必要がありますが、VRを利用しなくても、スマートフォンやパソコンなどでバーチャル空間に入ることもできます。
実はメタバースに関しては全ての企業がVRヘッドセットの装着に賛同しているわけではありません。
MetaのザッカーバーグCEOは「未来では常に装着していられるデバイスによってコミュニケーションは改善される」と、VRヘッドセットやそれに類するアイテムによってメタバース世界を体感できる未来について語っています。
一方、ポケモンGOなどを開発しているスタートアップ企業Nianticの見解では、VRヘッドセットに拘束されるようなメタバースを「ディストピアの悪夢」と呼び否定的です。
Nianticでは、VRのような没入型デジタル環境の仮想世界ではない、AR(拡張現実)技術を使って現実の世界とデジタルの世界を融合させ、人々を直接結びつけるという「現実世界のメタバース」を提唱しています。
実際「ポケモンGo」はVRヘッドセットを使わず、スマートフォンだけで楽しむことができることができますよね。
教育の場に広がるVRとメタバース
エンタメ業界では比較的歴史があるメタバースやVRですが、教育の場では現在どのように活用されているのでしょうか。
2020年を境としたコロナ禍以降、教育の場でのメタバースへの期待が高まりました。
実際に、現在ではさまざまな形での活用が始まりつつあります。
アメリカのスタンフォード大学では、Metaの一部門「Facebook Technologies」が開発したVRヘッドセット「Oculus Quest 2」とVR環境を活用して行われるコース「Virtual People」が開始されました。
これまでは教科書やディスプレイなど二次元画面でのインプットしかできなかったため、どうしても理解が及ばないような領域については生徒の想像力で補完して学習するしかできませんでした。
けれども、VRヘッドセット「Oculus Quest 2」を利用することができれば、より直感的に学習できるようになります。
また、「Virtual People」は、ほぼ全てでVRを利用する授業です。
この授業の中で、VRがこれまでどのように社会へ浸透し技術的な進化をしてきたかを、バーチャルの講義の形式で学びます。
それだけでなく「課外学習」として提供されているコンテンツを通じて、従来の授業とは異なるさまざまなことを、さまざまな観点から学ぶことができます。
例えば、VR内で人種的不平等に直面した男性の人生を体験することで、人種的寛容さを学ぶ授業などがあります。
アメリカだけでなく日本でも、教育にVRとメタバースを取り入れる動きが広まりつつあります。
oVice株式会社は、子どもたちの孤独感を解消するために、メタバースでの新たなコミュニケーションを増やすサービス「oVice(オヴィス)」を提供しています。
「oVice(オヴィス)」は、アバターで交流することができる2次元のバーチャル空間で、全国の公立・私立の小学校、中学校、高校(高専含む)に対して無償提供を行ないました。
oViceの中では、アバター同士が近づくと声が大きく聞こえるようになり、遠くにいるアバターの声は小さく聞こえます。
そのため会話をしたい人の近くに移動して話しかけたり、近くから聞こえてくる会話に参加することができ、まるで学校などのリアル空間と同じような会話をごく自然に始めることができます。
京都橘大学ではこのoViceを使ったオープンキャンパスを実施し、新棟をイメージしたバーチャル空間の中で、在学生と参加者がアバターを介して自由に交流するという試みを行いました。
また角川ドワンゴ学園では2021年に開催されたオンライン文化祭の実行委員のコミュニケーションにoViceを活用しました。
アバターで自由に動きまわり、さまざまな人と会話ができたり、たまたま同じ空間にいることで偶発的にコミュニケーションが生まれるといったこともありました。
こうしたサービスを使うことで、離れた場所にいる生徒同士の交流をさらに広げ、これからの学びにつなげていきたいと角川ドワンゴ学園の担当者は話しています。
大ブームを巻き起こした「ポケモンGo」のように、VRやARテクノロジーを使ったゲームを教育の導入として活用するのも有効かもしれません。
これまでは「勉強」と難しくとらえられていたことでも、VRやARを取り入れることで、体験化・ゲーム化されて今までよりもずっと取り組みやすくなるでしょう。
ゲームのように、自分の成果や成長がスコアで数値化されるようになると、学習そのものをより楽しく取り組むことができ、モチベーションも維持しやすくなる可能性が高いといえます。
「失敗しない教育」から「失敗して学ぶ教育」へ
バーチャル体験学習で一番のメリットは、「自分自身で考えたことや失敗の中から学ぶ環境を作りやすい」ということです。
従来の教育では「間違えることは悪いこと」という考えが一般的でした。
通常の学校教育では、問題に対する答えが必ず存在し、試験では「制限時間内でいかに正確な解答を導き出すことができるか」によって、生徒達の学習成果が測定されていました。
そのため生徒たちには失敗する機会を与えらず、堂々と間違えることができません。
特に日本人は、失敗や間違いをすることへの抵抗感や羞恥心が強い傾向にあります。
一方、バーチャル空間での学習体験では、どんどん間違えることができ、ゲームのように何度でもリトライすることができます。
むしろ逆に、生徒たちが学習体験をする中であえて間違えさせて、その都度新しい気づきを得られるような設計にすることも可能といえます。
例えば、バーチャル空間での化学の実験の授業では、実際に扱うことのできない危険物質を使った実験も行うことができます。
あらかじめ実際に調合すると爆発が起こるような演出をプログラムしておけば、バーチャル空間内で危険物質の実験を学生が実体験することで、なぜその物質を混ぜると危ないのかを学ぶことができます。
このように、実際の世界でミスをすれば致命的な結果を引き起こすような実験でも、バーチャルの世界であれば何度でもトライすることが可能です。
化学の授業だけにとどまらず、バーチャル空間は日本人が特に苦手と言われる外国語学習でも大いに活用することができそうです。
実際に外国人を目の前にして外国語のコミュニケーションを行うよりも、アバターを使ってアバター同士で外国語のコミュニケーションの練習をする方が取り組む時の心理的ハードルがグッと下がるのではないでしょうか。
このように、アバターを使ったバーチャル空間では、いくら間違えたとしてもやり直しができるので、生徒たちは試行錯誤しながらそれぞれの特性を生かした体験学習をすることができるようになることに期待ができます。
余談ですが、自尊心の低い人がアインシュタインのアバターを使うと、普通のアバターを使った時よりもテストの点が上がったという報告があるそうです。
また、メタバースでグループディスカッションをする際に、参加者のアバターの表情をにこやかに設定しただけで、アイデアの生まれる数が1.5倍になったという報告もありました。
アバターについてもこれから研究を進めていくことで、さらに効果的な活用方法が見つかるかもしれませんね。
メタバースは教育を変える?これからの教育はどうなる?
コロナ禍やGIGAスクール構想もあり、全国の小中学校の生徒たちに1人1台の端末導入がされました。
けれども運用面でのノウハウが未だ充分に確立されていないため、さまざまな現場で課題も浮き彫りになってきているようです。
現在のICT教育には何が不足しているのでしょうか。
また、近未来における教育のあり方とはどのようなものなのでしょうか。
VRやARを含む、現実世界と仮想世界を融合することで、現実にはないものを知覚できる技術の総称をXR(クロスリアリティ)といいます。
さまざまな企業では、このXR技術を活用できる未来の教育を見据え、すでに動き始めています。
2021年11月に行われた「Edvation x Summit 2021 Online 〜Beyond GIGA〜」はEdTech分野の国内最大級の祭典です。
そこで行われた「20xxの未来の教育にXR(VR/AR)テクノロジーがどのように寄与するか?」と題したセッションでは、テクノロジーは未来の教育をどのように変えるのか、有識者たちにより議論されました。
このセッションの中で飛び出した意見では、次のようなものがありました。
例えば、メタバースやAI技術で本人の動作や表情をリアルタイムにシンクロさせることで、極限まで実在感を高めたアバターを教育現場に導入することが重要だとする意見。
またそのアバターは、コントローラーによって操作するのではなく、無意識でアバターを動かせることも重要です。
このようなリアリティが非常に高い空間は、学校現場だけでなくさまざまな教育の現場でも応用ができるのではないか。
また、メタバース・VRのその先には、「VRによるバーチャル空間ではなく、よりリアルに近いナチュラルな世界」が既に見据えられています。
不特定多数同士のコミュニケーションの場や、3Dオブジェクトを使った楽しさのあるコンテンツを作りだすことが、未来の教育では重要となりますが、それにはPCのキーボードを叩いてVR空間に入っていくのではなく、自然な形で入れるような技術開発が必要です。
現在、高速大容量通信や膨大な計算リソース等を提供できる端末を含むネットワーク・情報処理基盤「OWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想」が、そうした世界を実現するため推進されています。
未来の教育に必要なものは、次の3つの価値をVRやARによって見出すことだとこのセッションで述べられていました。
- 体験によるアクティブラーニングの定着
- アバター変身によるインクルーシブ教育の実現
- 時空を超越した教育の実現
XR技術の発展による大きなメリットとして、教育に対する参入障壁が下げられ、平等な教育機会を全ての人に与えることができるようになることが考えられます。
XR技術を使うことで、例えば、学校に行けない子ども達が、授業を受けることができるようになります。
体が不自由な学生や人間関係に不安を感じている学生でも、アバターを作って自宅から学校の仮想空間に参加することでVR空間の中でリアルな学校へとインタラクティブにアクセスすることができます。
ARやVRを活用しながら位置情報と時間軸を組み合わせることで、教育の「ダイバーシティ&インクルージョン(性別、年齢、障がい、国籍などの外面の属性や、ライフスタイル、職歴、価値観などの内面の属性にかかわらず、それぞれの個を尊重し、認め合い、良いところを活かすこと)」が実現できるといえるでしょう。
近い未来には、性別や年齢、上下関係も問わず、誰でもどこでも勉強できる環境になっていくのはないでしょうか。
XR技術を活用することで、教育の可能性をさらに拡張することができるでしょう。
まとめ
教育だけにとどまらず、医療、ファッションなど、これからメタバースはさまざまな分野において、私たちの生活をより便利で豊かにしてくれるテクノロジーになると予想されます。
メタバースは現実世界の代わりにはなり得ないかもしれませんが、未来の世界を現在よりも、より豊かで自由なものにしてくれる可能性に満ちたテクノロジーといえるでしょう。
メタバースやXR(VR・AR)などがどのような世界を見せてくれるのか、未来の学校や未来の世界への期待が高まります。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。