受験の燃え尽き症候群、スチューデント・アパシー(学生無気力症候群)とは何でしょうか?
春から大学生になるあなたも「自分には関係ない」と感じているかもしれません。
けれども、この記事を読んで頭の片隅に知識をとどめておけば、いざ自分や身近な人が同じようなケースに陥った場合、素早く対処することができるでしょう。
スチューデント・アパシーとは?どんなタイプの人がなりやすい?
学生なら誰しも陥る可能性のある「無気力症候群」にはどのようなケースがあるのか、代表的な例をご紹介します。
A君の例A君は、必死に勉強して大学に合格。
厳しい受験勉強を乗り越え、これからはやっと自分のやりたい勉強や遊びを充実させようと意気揚々と入学しました。
ところが、期待していたよりも退屈な学生生活に目的を失ってしまいます。
サークル活動やアルバイトには熱心になるものの、大学へ通う意義が見いだせなくなり、大学の授業に対しては、つまらないからと無関心な状態となってしまいます。
だんだんと生活習慣が乱れ、大学の授業も休みがちになってしまいました。
ところが本人としては、生活自体は楽しく、特に不安や焦りを感じているわけではないようです。
ここでは仮にA君という例を挙げてみましたが、ひょっとしたら、A君のような大学生はどこの大学にも少なからずいるかもしれません。
A君は、普通に食事ができ、精神的な焦りや不安もなく、夜も普通に眠ることが出来ます。
ただ、学生の本分である学業や進路選択にだけ無気力な状態になっているようです。
A君のように、遊びや恋愛、アルバイトなどには関心を示し活動的であることが多いものの、学生の社会的役割(学業・進路選択)に対しては無関心となってしまう症状、つまり学生(主に大学生)が、学生としてやるべき学業や進路選択に対して、選択的退却・回避、無気力、無感動となる症状を「スチューデント・アパシー」といいます。
この概念は、アメリカの精神科医であるウォルターズ(Walters. P)によって初めて提唱されました。
このスチューデント・アパシーに陥った場合、当の本人はどのように感じているのでしょうか。
A君の例にもあるように、食事や睡眠、趣味や遊びなどは普通にできるので、本人に「何かおかしいかもしれない」という自覚症状はありません。
また、自覚症状がないので、進級や就職の時期になるまで精神的不安も特にありません。
身体的な異常もなく、現在の状況に肯定的で、特に本人が困っている様子もありません。
学業以外には、むしろ熱心に関心を示すことも多いため、周囲の人間からは「さぼりがちの学生」として映るだけで、その異常性を指摘されることはほとんどありません。
スチューデント・アパシーの人は、現実的に問題を自覚することはなく、症状を認めることもありません。
それどころか無関心に対して認知バイアスを発生させ、自己を正当化させようとしてしまいます。
そのため、周囲の人にも気づかれにくいのが特徴です。
スチューデント・アパシーは、男性が発症するケースが圧倒的に多く、女性にはあまり見られないようです。
真面目で頑張り屋、負けず嫌いの男子学生がスチューデント・アパシーになりやすいとの見立てもあります。
もしも「うつ病」であれば、抗うつ剤が有効であるとされていますが、スチューデント・アパシーの場合、残念ながら現在のところ有効な薬は存在しません。
- 不登校または学業不振
- やりたいことが見つからない
- 将来に対する漠然とした不安がある
- 強制されることに対して反発する
- 疲れることや面倒なことを回避しようとする
- 自分の好きなことだけしようとする
- その場しのぎの生活を送っている
- 言っていることと行動が一致しない
- 眠りすぎて朝起きられなかったり、夜更かしばかりしてしまうなど、生活習慣が乱れている
- 他人や社会への不信感を持っている
- 社会的参加の欠如
これだけを見ても、人はそれを「病気」だとはとても思わないでしょう。
ただ単に、「現状に対する反発と現実逃避とが重なって引き起こされた精神状態」というように見えてしまうだけかもしれません。
なぜ人は、スチューデント・アパシーに陥ってしまうのでしょうか。
一番の原因として挙げられるのが「目標の喪失」です。
これまで大学合格という明確な目標を持って熱心に受験勉強に取り組んでいたのに、大学合格後には同じ熱量を注げるだけの新たな目標を見つけることが出来ず、結果、無気力な状態になってしまった…。
特に大学生のスチューデント・アパシーに陥る人には、そのようなケースが多いようです。
また、人格形成が発展途上で、どちらかといえば主体性に欠ける人が発症しやすいといわれていることもあり、本人の資質にも関連があるようです。
例えば、高校までは親や先生に言われるまま、与えられた目標に沿って行動し、結果を出してきた大学生。
主体性を求められる大学生活に意義を見出すことができず、無気力状態に陥ってしまう人がいます。
高校までは、周囲の声に従って受動的に行動していてもそれなりの結果を出すことが出来ますが、大学生になると将来を考え、自ら主体的に行動しなければならなくなります。
受け身で動く状態から能動的に動くことへのシフト、そのギャップを埋めることが出来ない人が陥りやすいようです。
また、本来やらなければならない学業や就職といった重要な事柄から逃げてしまうのは、人格形成が未熟だからに他なりません。
言動不一致やひきこもりなどを引き起こしてしまい、本来やるべきことに対してしっかりと向きあうことができず、その結果、場当たり的な生活を送ってしまいます。
このような人格形成の未熟さは、これまでの人生で挫折経験が乏しいことにも原因があるようです。
スチューデント・アパシーの人は、目の前の問題から逃げることで「やれば本当はできるけれど、いまはやらない・やりたくないだけ」と、自己万能感を維持しようとします。
これは、物事に真剣に取り組んだ結果として、負けてしまったり失敗してしまうことが怖いからです。
特に、他人との比較や競争によって優劣が決まる学業・就職に対して、真剣に取り組んだにも関わらず、望んだ結果が得られないという状態になることはどうしても避けたいと思うようです。
スチューデント・アパシーの学生は、他人に対する劣等感を避けることで、自己万能感を維持しようとします。
無気力・無関心状態となることで、自尊心が傷つくリスクを回避するのです。
遊び・アルバイト・恋愛などの競争のない分野では意欲的になりますが、学業や就職などの絶対に取り組まなければならない事柄に対してだけ無気力状態になることからこのことが分かります。
以上のことなどから、スチューデント・アパシーの学生には、次のような性格的特徴があるようです。
真面目で完璧主義である
スチューデント・アパシーになる学生は、平均以上に努力家で真面目、そして完璧主義です。
敗北と屈辱を極端に嫌がり、自己完全性を維持するために、時に勝負をする前に降りてしまい、敗北や失敗から逃れようとします。
嫌われるのが苦手である
自己愛が強く、自尊心が高い人に多く見られる傾向のようです。
他人に否定されることを極度に嫌がります。
挫折経験がなく受動的である
今までに大きな挫折を経験したことが少なく、そのためリスクを極端に恐れ、回避したがる傾向にあるようです。
また、自分から行動を起こすことが苦手で、様々な選択に対して受け身の判断を行う人に多く見られるようです。
他人に教えてもらうことを嫌がる
自分のカッコ悪い姿を人から見られたくないと思うため、わからないことやできないことを人に教えてもらうことが苦手な人が多いようです。
昔から手のかからない、いわゆる「いい子」だった
子供のころの話を聞くと、いわゆる「いい子」であった人が多く、親の手をほとんど煩わせたことのない人が多いようです。
他人になかなか心を開くことができない
それほど親しくない友人や顔見知り程度の人といった他人との関わり合いに対して消極的な人が多いようです。
なかなか自分から心を開いてコミュニケーションをとることができないので、異性との付き合いが苦手だったり、友人と表面的な会話はできるものの、どちらかというと社交的ではない人が多いようです。
反省的・自責的ではない
意外なことですが、スチューデント・アパシーの人は自己肯定的で前向きに行動しているように見えます。
それでは、もしも自分や身近な人がスチューデント・アパシーに陥った時には、どのように対処すればよいのでしょうか。
考えられる例を紹介します。
生活習慣を見直す
学生の場合は特に、大学生となりスチューデント・アパシーを発症する人が多いようです。
高校までと異なり、授業・アルバイト・遊びなど、自己裁量でタイムマネジメントできる範囲が広がることで、生活のリズムが乱れ、スチューデント・アパシーを発症しやすくなります。
大学生になって自由な時間がたっぷりあるからといって怠けてしまうことなく、規則正しい生活を行うようにしましょう。
目標を決める
「受験で合格する」という、わかりやすい目標があった受験生とは異なり、大学生になると急に目標を失ってしまう人もいるでしょう。
そこで、将来の目標もなく目先のことばかり考えていると、何が必要で何が不要なのかの判断ができなくなってしまいます。
もしもまだ将来の目標が定まっていないのであれば、せめて学生として最低限やらなければならない課題にだけは取り組んでおいたほうが良いでしょう。
また、具体的な目標や将来のビジョンが浮かばなければ、「こんな人になりたい」と思う憧れの人を見つけ、そこに近づくためにできることを考えてみてはどうでしょうか。
こんな風に、少しでも「理想の未来の自分」のイメージを形成し、そこに近づくにはどうすればよいか、現実的に考えることで改善することが出来ます。
本業に一緒に取り組んでくれる人との人間関係を構築する
もともとまじめで優秀な人が、不幸にも周りの環境に流されてしまい、本来取り組むべき学業などが出来ないのであれば、一緒になって取り組んでくれる友人を見つけることが最良の手段です。
周りの友人も巻き込んで、本業を一緒に頑張れることが出来るといいでしょう。
問題を正面から受け止め、失敗を恐れないことが大切
学業などの本業に対して無関心な状態になってしまうと、大学生の場合は留年や就職先が決まらないといった現実的な課題に直面することになります。
このような目の前の課題に向き合うことなく逃げてしまうと、時間が経つにつれて精神的・時間的な余裕がなくなってしまいます。
こうしたことを防ぐためには、なるべく早く問題を直視してきちんと認識すること、そして失敗を恐れずに本業と向き合うことが大切です。
スチューデント・アパシーは「うつ病」とは異なる?
これまでスチューデント・アパシーについて紹介してきました。
これとよく似た症状に「うつ病」がありますが、スチューデント・アパシーはうつ病とは異なり、病気ではありません。
うつ病とスチューデント・アパシーの違いとしてあげられるのは、以下のような点になります。
スチューデント・アパシーには有効な薬がない
うつ病には「抗うつ剤」など有効な薬が存在しているので、病院へ行き診断されれば薬を処方してもらえますが、スチューデント・アパシーには有効な薬というものが今のところ存在していません。
無気力の範囲が異なる
スチューデント・アパシーは、特定の対象に対してのみ無気力になります。
例えば、スチューデント・アパシーの学生は、学業や就職活動などには無気力・無関心となるものの、友人と遊んだりアルバイトや恋愛を楽しむことは可能です。
無気力の範囲が限定的であるのに対して、うつ病は慢性的に無気力な状態が続き、精神不安を抱えてしまっています。
うつ病の場合、本業はもちろん遊びなどすべての事柄に対して無気力となってしまいます。
現れる症状が異なる
スチューデント・アパシーは、無気力になってしまうものの、焦りや不安といったものはなく、食事・睡眠のような普段の生活には、特に支障をきたすことはありません。
それに対してうつ病は、不安や焦りが精神を支配してしまいます。
具体的には、ふさぎ込む・やる気が出ない・食欲がない・不眠・身体に力が入らない…というように、精神的・身体的不安定な状態になってしまいます。
本人の自覚の有無
本人に自覚があり、「今の状態をなんとかしたい」と感じるかどうかも、大きく異なります。
スチューデント・アパシーの人は、本業に対して無気力・無関心であることに本人の自覚がなく、困っていないことが特徴的です。
それに対してうつ病の人は、一般的に自分の症状をはっきりと自覚していて、「つらい」「治したい」と思っています。
このように、スチューデント・アパシーはうつ病とは異なり病気ではありません。
本人や周りの人たちが早く気付き、適切な対処をすれば比較的早く立ち直ることが出来ます。
ところが、「うつ病」に関しては、場合によっては医療機関に頼らなければならないケースも少なくなく、悪化して最悪な状態になると、「死」を選んでしまうこともある、決して軽く見てはならない恐ろしい病気です。
では、中高生や大学生はうつ病にはならないのでしょうか。
あるデータによれば、中学生の10人に2人が抑うつ状態であるとの結果もあり、決して他人ごとではありません。
ストレスの多い現代社会では、大人だけでなく中高生や大学生でもうつ病を発症する可能性があるといえます。
特に受験期には「受験うつ」、受験後には、「受験燃え尽き症候群」という病を発症する人もいるなど、受験生や受験終了後の大学生がうつ病になるケースも少なくありません。
受験燃え尽き症候群(バーンアウト)はうつ病の一種?
長い受験を終えて、ようやく大学生活が始まったと思ったら、なんだか虚無感や意欲低下を感じてしまった…という人の話をきいたことはないでしょうか。
これは、受験勉強やこれまでの学生生活によって燃え尽きてしまう「燃え尽き症候群(バーンアウト)」と言えます。
受験期を終え「合格」という目標を果たした後は、今までのような明確な目標がなくなってしまいます。
そのため、自分が何をやりたいのかがわからなくなってしまい「授業に行きたくない」「やる気が出ない」といった症状が現れるのです。
この「燃え尽き症候群(バーンアウト)」は、それまでの生活の中で蓄積されたストレスが原因となって発症するもので、うつ病の一種であると考えられています。
適切なうつ病治療に取り組まないと、症状が悪化してしまうこともあります。
症状燃え尽き症候群(バーンアウト)は、それまでに取り組んできた物事に対して、長年蓄積された極度の疲労やストレスによって発症するものです。
発症のきっかけは些細なこととですが、それ以降様々なことに対して意欲をなくしてしまうので、その後の社会生活に大きく影響を及ぼしてしまいます。
その言葉通り、まるで「燃え尽きた」ように意欲をなくしてしまうことが特徴的です。
「抑うつ症状」「集中力低下」「イライラ」「不眠」など、症状は様々で、人によっては学校に行けなくなったり、人間関係を避けてひきこもってしまうようになります。
さらに悪化すると何事にも悲観的になり、最悪は自殺を考えるようになることもある恐ろしい病気です。
この燃え尽き症候群(バーンアウト)は、一見すると突発的に発症するように見えるかもしれません。
けれども注意深く振り返ってみると、ある日突然発症したわけではなく、過去にいくつかの段階を経ながら、徐々に悪化していったことが分かるでしょう。
初期段階では、なかなかうつ病であると気付きにくいのが難しい点ですが、本人や周りの人たちが早めに気づいて、気づいたその時から対処することが何よりも大切といえます。
大事なことは「抑うつ症状」「集中力低下」のような初期症状が現れた時に、自分自身の気の持ちようや疲れなどと考えてしまわないようにすることです。
予防法大学合格という目標に向かってチャレンジする受験勉強は長期戦なので、ストレスが蓄積してしまいがちです。
「受験うつ」のような症状にならないためのストレスケアも重要ですが、受験後に燃え尽き症候群(バーンアウト)にならないようにすることも、同じように注意したい点です。
そのためには、大学入学前の受験生のうちから、次のような対策をしておくことをおすすめします。
「なにかおかしいな」と感じたら、生活リズムを見直しセルフケアを行いましょう。
燃え尽き症候群(バーンアウト)の症状は、「気分が落ち込む」「集中力がなくなる」「イライラする」といった精神症状だけではなく、「食欲不振」「不眠」のような身体的不調も併発することがあります。
そのようなサインが現れた時は、自分自身の今までの生活リズムを見直して、セルフケアをすることが大切です。
具体的には早寝早起きや、規則正しい生活を心がけましょう。
時折適度な運動なども取り入れ、「いま・ここで」できることに集中するようにします。
苦しいときは一人で抱え込まずに友人や家族などに相談する
受験勉強が苦しい時、成績が伸び悩んでいる時など、つらい気持ちを一人で抱え込むことはせず、信頼できる友人や家族などに相談するようにしましょう。
胸の中の苦しい思いをどんどん吐き出すと良いでしょう。
つらい症状が改善しない時には、早めに精神科・心療内科に相談する
つらい思いはセルフケアだけではなかなか改善できないこともあります。
そんな時は、早めに精神科・心療内科に相談することをおすすめします。
ここで強調したいことは、燃え尽き症候群(バーンアウト)は、決して自分の甘えや怠けによる症状ではありません。
気の持ちようで症状が改善するものではないのです。
気になる症状が2週間程度継続しているのであれば、うつ病の可能性も考えられます。
我慢して悪化させることのないよう、早めに治療に取り組むようにしてください。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。