英語教育に関わっている人や、英語のスキルアップに力を入れている人は「とうとう、この時代が来たか」と思っているのではないでしょうか。
日本の英語教育はかつて、「読む」ことと「書く」ことだけに集中していて、批判を受けていました。
それで2006年度の大学入試センター試験から、英語の試験にリスニングが登場しました。
「聴く」英語の指導を始めたわけです。
そして令和の時代になり、ようやく「話す」英語にスポットライトが当たり始めました。
東京都は2022年度の都立高校入試から、英語の試験にスピーキングの問題を出すことにしました。
それで今、一般の人が挑戦するスピーキングテストに注目が集まっています。
この記事では「スピーキングテストの実態」を紹介したうえで、スピーキング・スキルを獲得する意義と、そのスキルを向上させる方法を解説します。
スピーキングテストとその他の英語検定の違い
スピーキングテスト(「話す」)が、その他の「読む」「書く」「聴く」テストと決定的に異なる点は、「元の英文」がまったくないことです。
「読む」テストは、目の前に英文が書かれてあります。
「書く」テストは、「この日本文を英文にせよ」と指示されるので、頭のなかで、日本語を英単語に置き換えていくことができます。
「聴く」テストは、英語を聴いて、頭のなかで英字を綴っていくことができます。
しかしスピーキングテストでは、口頭で英語で質問され、それに口頭で英語で答えなければなりません。
質問される英語は頭のなかで英文にすることができますが、自分が答える英語は、自分がいちからつくり出さなければなりません。
いちから英語をつくる作業は「読む」「書く」「聴く」テストにはありません。
そのため、スピーキングの練習は、独特の方法が必要になります。
スピーキング対策については、後段で解説します。
スピーキングテストはどのように行なわれるのか
スピーキングテストがどのように進むのか解説します。
スピーキングテストはいくつかあって、それぞれ多少異なりますが、大体次のような内容になります。
- 書かれてある英文を読み上げる
- 写真や絵を見せられるので、その様子を口頭で英語で説明する
- 試験官が口頭で英語で質問するので、口頭で英語で答える
- まず、英語長文の資料が渡され、それを読み込む。そのあと、試験官が資料の内容について口頭で英語で質問するので、資料の内容に沿って、口頭で英語で答える
- シーンが設定され「役」が与えられる。試験官が「相手役」になり口頭で質問するので、その「役」になりきって口頭で英語で答えていく
スピーキングテストは、試験官が口頭で英語で質問するところから始まります。
そのため、リスニング力は基礎力として必要になります。
スピーキングテストでチェックされる項目
スピーキングテストでチェックされるのは、次の項目です。
- 流暢か
- 必要な情報を伝えられているか
- 発音は正しいか
- すぐに答えられたか
- 正しい文章になっているか
- 質問を理解できているか
- 適した単語を使っているか
英語の知識と積極性がチェックされます。
英語の知識は「読む」「書く」「聴く」のスキルである程度カバーできますが、「伝えられているか」「すぐに答えられるか」といった積極性は、従来の英語の勉強では身につきません。
あとで解説する「スピーキング上達方法」を実践してみてください。
スピーキングテストに挑戦する意義
スピーキングテストに挑戦する意義は、「時代の要請」といえます。
都立高校が、入試の英語でスピーキングを課すのは、時代がそのスキルを必要としているからです。
入試で出題されれば、高校受験に挑戦する中学生たちは勉強せざるを得ません。
そうなると、幼い子供向けに英語を教えている教室も、スピーキング指導を強化するようになるでしょう。
文部科学省が動いた
文部科学省の「英語教育の在り方に関する有識者会議」は2014年に、「今後の英語教育の改善・充実方策について報告~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~」を公表しました。
そのなかの「中学校・高等学校」の章で、「読む」「書く」「聴く」「話す(スピーキング)」の4技能を総合的に育成するために、大学での教職課程を改善する必要がある、と指摘しています。
つまり、英語の教師を養成する大学のカリキュラムを、生徒の4技能を向上させられる内容に変更せよ、と提案しているわけです。
日本の英語教育ではこれまで、「読む」「書く」「聴く」を重視してきたので、実質的に、子供たちのスピーキング能力を高められる指導スキルを、英語教師に身につけさせようというわけです。
考えや判断を英語で伝えよう
ではなぜ文部科学省や英語教育の専門家たちは、最近になって、スピーキング教育に力を入れることを決めたのでしょうか。
それは、各国のグローバル化が進展するなかで、日本人の英語スキルは日本の将来にとって極めて重要な能力になるからです。
「英語教育の在り方に関する有識者会議」は、アジアのなかでトップクラスの英語力を目指すべきだ、と提言しています。
しかし、いわゆる「日本人英語」は、なかなか進化していません。
同有識者会議が懸念しているのは、英語でのコミュニケーション能力です。
コミュニケーションには、「読む」「書く」「聴く」だけでは不十分で、情報発信のための「話す(スピーキング)」がどうしても必要になります。
スピーキング力がなければ、日本の歴史や文化を相手に伝えることができませんし、自分の考えていることや判断したことを理解させることもできません。
日本人が世界に情報発信するには、スピーキングしなければなりません。
「なぜ今」スピーキング力が注目されたのか、というより、「今ごろ」になってようやくスピーキング力に注目が集まった、と理解したほうがよいでしょう。
一般の人が受けられるスピーキングの特徴
一般の人が受けることができるスピーキングテストについて紹介します。
ここでは、権威があるとされる「TOEIC Speaking Test」と、スマホを使って自宅で受験できる「VERSANT」を紹介します。
「TOEIC Speaking Test」の特徴
TOEIC Speaking Testは、ビジネス上の英語スキルを測定する「トーイック」のスピーキングテスト版です。
試験時間は20分です。
点数は0~200点の間でつきます。
評価は「1~8までの8段階評価」と「発音評価」「イントネーション評価」「アクセント評価」の4項目になります。
150点ほど取得すれば、仕事で通訳ができるレベルといわれています。
TOEIC Speaking Testの受験料は税込6,930円です。
年48回実施され、試験会場は、東京、神奈川、埼玉、愛知、大阪です。
「VERSANT」の特徴
VERSANTは試験内容が詳しく公表されていて、次のとおりです。
・用紙に書かれた英文を読み上げる(8問)
・音声で流れる英語を、聞こえたとおりに繰り返す(16問)
・口頭で英語で質問されるので、質問で使われた英単語を使って、口頭で英語で答える(24問)
・3つの英単語が伝えられるので、それを使って英文をつくり口頭で英語で答える(10問)
・英語の物語を聴き、自分の意見を口頭で英語で答える(3問)
・口頭で英語で質問されるので、「自由に」口頭で英語で答える(2問)
質問に口頭で英語で答え、答えがわからないときは「I don’t know.」と答えると、次の質問に進みます。
テスト時間は20分です。
VERSANTの最大の特徴は、自宅で自分のパソコンまたはスマホで受験できることです。
試験会場に行く必要はありません。
インターネットと自動採点システムを使っているため、24時間365日、いつでも受験することができます。
スマホで受験する場合、専用のアプリをダウンロードして、アプリにIDを入力して行ないます。
パソコンで受験するには、指定されたサイトを開き、画面にIDを入力します。
IDは、受験料を支払うと受け取ることができます。
試験が終わったら数分後に結果がわかります。
これほど速く結果がでるのは、音声認識技術を搭載した自動採点システムを使っているからです。
点数は20~80点の間でつけられます。
評価は「総合」「文章構成」「語彙」「流暢さ」「発音」になります。
ビジネスで通用するレベルは、47点以上になります。
日本人の平均点は38点で、これは、仕事、経歴、家族、余暇など、基本的な情報を相手に伝えられるレベルです。
70点を超えると、流暢で、自由な表現方法を使いこなすことができ、適切な構文で明確に話すことができるレベル、となります。
VERSANTの料金は税込5,500円です。
スピーキング上達方法「正しさはあとからついてくる」
スピーキングの能力を上達させるには、とにかく話すことです。
「とにかく話す」とは、間違いを気にせず話すことです。
例えば、「あー、頭が痛い。誰か、頭痛薬持ってないかい。いないか。じゃあ、薬屋に行ってくるよ」を、英語で話してみてください。
このとき、英作文(「書き」)を意識してはいけません。
頭のなかで、正しい英語をつくろうとしないでください。
次のように言うことができれば十分です。
アメリカ人が、何かにぶつかったとき、「アオチッ」と言うのを聞いたことがあると思います。
思い出したら、どんどん使っていきましょう。
「誰か、頭痛薬持ってないかい」は、正しくは「Does anyone have a headache medicine?」と翻訳します。
しかしこの正しい英文をつくるには、次のような知識が必要です。
「疑問文で『誰か』の意味を出すにはanyoneを使う」
「medicineは数えられる名詞で、ここでは『1個』の薬だからaをつける」
こうした英文法のルールを思い出すのは大変です。
それで「フー、サムバディ、メディスン、ハブ?」でいいのです。
スピーキング・スキルを高めるには「正しさはあとからついてくる」と割り切って、さくさく勉強を進めていくことが大切です。
なぜ間違ってもいいのかというと、「正しさはあとからついてくる」からです。
なぜ、正しさがあとからついてくるかというと、スピーキング(「話す」)を学ぶ前に、すでに「書き」「読み」「聴く」の勉強をしているからです。
正しい英語は「書き」「読み」「聴く」の学習で確保すればよいのです。
スピーキングの度胸と覚悟ができたら、具体的な勉強方法をみていきましょう。
4つのスキルのうち唯一「能動的」
「書き」「読み」「聴く」「話す(スピーキング)」のうち、能動的な行動はスピーキングだけです。
「書き」「読み」「聴く」は、相手の表現を正確に理解するスキルです。
しかしスピーキングだけは、自分の頭と心のなかにあるものを、外に出して、相手に伝えて、理解させるスキルです。
つまり、スピーキングで最も重要なのは、「頭と心のなかにあるもの」です。
まずは、これをつくりましょう。
「自分はこれを伝えたいんだ」というものを決めましょう。
「外に出して、相手に伝えて、理解させる」のはその次の行動です。
そして「正しい英語を話す」を実施するのは最後で構いません。
話したいことを見つけよう
自分でスピーキングの練習をするときは、まずは、自分が最も話したいことを見つけてください。
すぐに思いつかない人は、例えば次のようなものはいかがでしょうか。
- 去年の京都旅行のこと
- 妻の料理のこと
- 会社の上司の駄目な点
- なぜ今年からキャンプを始めようと思ったか
- 芸能人の不倫報道について思うこと
「身近な話題を誰かに聴いてもらう」「友達とカフェで雑談をする」というシーンを想定して、話したいことを見つけましょう。
話す、話す、とにかく話すこと
話すことを決めたら、次々英語にして、音声にして口から出してください。
適切な英語が思い浮かばなかったら、それに代わる英語を考えてください。
先ほど紹介した「フー、サムバディ、メディスン、ハブ?」の要領で、次の日本語を英語にしてみてください。
「マイワイフ、クック、ネバー、ラーンド、バット、ホワイ、シー、クック、ベリー、ウェル」
これくらいでOKです。
これは正しい英語ではありませんが、イギリス人にもアメリカ人にも十分通じます。
「話して話して、とにかく話す」方法に慣れないうちは、話したいことを、日本語で書いていきましょう。
その日本語を黙読しながら、次々英語を当てはめていってください。
ちなみに、先ほどの日本語を英文にすると、次のようになります。
街中を実況中継しよう
「話して話して、とにかく話す」方法に慣れてきたら、街中で英語で「実況中継」していきましょう。
街の様子を、見たまま、次々英語にして話すのです。
街中を歩きながら英語実況中継をしたら、行き交う人たちに怪しまれてしまいます。
1人で車を運転しているときや、ガラガラの電車内で、やってみましょう。
自転車に乗っているときでもいいでしょう。
自転車なら、歩いている人とすれ違っても一瞬で離れるので、何を言っているのか聴き取られずに済みます。
英語実況中継の事例を紹介します。
これは、ある道路を自動車で走っているときに、外の風景を見たままを伝えようとしています。
この英語は、文法も語彙も決して正確ではありません。
しかし、奇妙な英語でありながら、じっくり読み込むと「街の様子」を想像できると思います。
バット、ラーメン、イズノット、テイスティ。
チャーハン、イズ、デリシャス。ソー、アイ、リコメンド、ユー、チャーハン。
ザット、トラフィック、シグナル、イズ、ノット、LEDライト、イェット。
ソー、フェン、ウエスト、サン、ストロング、アイ、キャント、シー、ザ、シグナル、ウェル。
アイム、ユーストゥ、ターン、ライト、ディス、ロード。
バット、トゥデー、イズ、ノット、ジョブ、デー。
ソー、アイ、ゴー、ストレート、ディス、ロード。
アイ、ドント、ライク、ディス、ロード。
ディス、ロード、ワイド、ソー、ラン、イーズリー。
バット、ゼア、ラー、ソー、メニ、トラフィック。
イット、フィアー、ミー」
大体、次のような意味をつかめたでしょうか。
あの信号機はまだ、LEDになっていません。だから西日が強い日は、見にくいんです。
普段はここを右折しますが、今日は仕事に行くわけではないので、まっすぐ進んでみます。
私は、この道路はあまり好きではありません。道幅が広いので、自動車で走りやすいのですが、交通量が多くて、ちょっと怖いからです」
こうした英語実況中継を続けていると、正しい英語を使いたくなります。
その気持ちがわいてきたら、自宅に戻ったら、正しい英語をつくっていきましょう。
例えば、次の日本語は、どのように正しい英語にしたらよいでしょうか。
先ほどはこれを、次のように言ってみました。
バット、ゼア、ラー、ソー、メニ、トラフィック。
イト、フィアー、ミー」
正しい英語は、このようになります。
「自動車で走る」は「ラン」ではなく「drive by car」であることがわかります。
「交通量が多い」は「ゼア、ラー、ソー、メニ、トラフィック」ではなく「this road has a lot of traffic」であることがわかります。
「私は怖いです」は「イット、フィアー、ミー」ではなく「I feel scary on busy roads.」であることがわかります。
また「a lot of traffic」と「busy roads」がほとんど同じ意味であることもわかります。
街中を、とりあえず「デタラメ英語」でいいので、とにかく大量に実況中継していきましょう。
そうすれば、「言いたいことをとりあえず英語にする」習慣が身につきます。
そして、どうしても上手に正しく美しく表現したい部分だけ、辞書などを使って、正しい英文をつくっていけばいいのです。
まとめ~話さないことには聴いてもらえない
日本の英語教育に、ようやくスピーキングが加わります。
日本が、海外から学ぶだけでなんとかやりくりできた時代は、かなり昔に終わっています。
今は、海外に学ぶと同時に、日本から情報発信をしていかなければなりません。
そのためには英語のスピーキング力が必要です。
最近になってようやくスピーキング力の強化に乗り出すのは、遅すぎたといえます。
しかし、後悔しても前進しないので、子供も保護者もスピーキング力の獲得に、真剣に取り組みましょう。
下手でも、間違っていてもよいので、とにかく英語で話しましょう。
日本人は「RとL」の発音が苦手と言われています。
しかし、「Rは、舌を口のなかのどこにも触れず、ラと言う」「Lは、下を前歯の裏につけて、ラと言う」と覚えるだけでは、いつまで経っても発音できるようにならないでしょう。
ネイティブ(英語を母国語にする人たち)の前で英語を話して、間違った発音をすれば、直してもらえます。
話さないことには聴いてもらえません。
スピーキング・スキルの獲得は、話さないことには始まりません。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。