大学入試改革という言葉が知られてから数年経ちました。
当時は「入試の学力試験が無くなる」「英語の試験にスピーキングが加わる」など様々な意見が飛び交っていました。
特に英語のテストに関しては重要視されており、民間資格の成績を大学入試に転用するという方針となり準備が勧められてきました。
平成29年、30年にはプレテストが実施されようやく新テストが始まるかと思いきや、英語の試験に関しては従来どおりの形式で行われるようです。
大学入学共通テストからTOEICが撤退!?これからどうなる
大学入試改革が実現に近づいた2019年、文部科学省は英語の民間試験採用を見送ると発表しました。
大学入試センター試験は2020年を最後とし、2021年からは大学入学共通テストが実施されることになっています。
英語の民間試験が見送られた大学入試ですが、まずは全容からご覧頂きましょう。
大学入学共通テストは結局行われるの?
2020年実施分を最後に幕を閉じるセンター試験。
その一方で英語の民間試験利用を巡って混乱が続いている大学入学共通テストですが、ここで一度情報を整理することにしましょう。
大学入学共通テストは予定通り2021年から実施される見通しです。
そもそもセンター試験も大学入学共通テストも大学入試センターと呼ばれる行政法人が実施しているテストです。
そのため皆さんの認識としては「センター試験から共通テストに名称が変わる」と考えると難しい話ではありません。
当時は記述式の問題が加わると話題になっていましたが、採点基準が曖昧で更に検討が必要という理由から2021年実施の大学入学共通テストでは選択式の問題のみで実施される予定となっています。
すなわち2021年実施の大学入学共通テストに関しては出題内容以外は従来のセンター試験と大きく変わりません。
中でも現在は英語教育に力を入れており学校での授業の改革や英語資格取得の推進が活発に行われる中、大学入学共通テストに民間試験を利用する事が検討されてきました。
現在分かっている情報では英語の民間試験は導入見送り。
従来のセンター試験と大きく変わらない形で大学入学共通テストが実施されるという事です。
なお英語の民間試験利用を受け、成績提供に名乗りを挙げた民間試験団体はTOEIC、TOEFL iBT、GTEC、IELTS、英検、ケンブリッジ英検、TEAP、TEAP CBTの8試験です。
大学入試の英語試験で民間資格が見送られた理由
上記の8試験が立候補した大学入学共通テストですが、2019年の7月にはTOEICが大学入学共通テストへの成績提供から降板する事を発表しました。
理由は「受験申し込みから実施運営、結果提供までの処理が想定していたより複雑で、責任をもって対応を進めることが困難だと判断した」としています。
TOEICを実施しているIIBCでは代表的な試験として “Listening & Reading” “Speaking & Writing” の2種類が実施されています。
読む・書く・聞く・話すの4技能を試験に利用したいと考えていた大学入試センターは “Listening & Reading” “Speaking & Writing” の両方を高校生に受験させる方針でした。
その他の民間試験団体とも折り合いがつかなかった為、文部科学省は2019年11月に英語入試の民間試験利用を延期すると発表しました。
それではなぜ大学入試センターと民間試験業者の間で結論が出なかったのでしょうか。
教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏はラジオ番組で以下の6点を挙げています。
1)7試験(※)のスケジュールや会場など詳細が明らかにされていなかった事
2)問題の質の違う複数の試験で横並びに英語力を測定する事は無理がある
3)共通IDを利用して受験したもののみが大学入試に使われる事になり、既に持っている資格とは別に受験をしなければならない
4)大学ごとに対応がバラバラで混乱する
5)学校の授業がTOEICなどを意識する、いわゆる波及効果が現れてしまう
6)民間試験の採点の質が低いこと。大量の受験者により更に質の低下が懸念されること
※記事公開時点でTOEICの降板が明らかになっていました。そのため8試験から7試験へと記載されています。
大学の足並みも揃っていない
各大学で大学入学共通テストに対する認識が違っている事も見逃せません。
文科省の事前調査によると、大学入学共通テストの英語試験において民間試験を入試成績として扱う国公立大学の割合は4割ほどとなっています。
また私立大学でも導入を見送る大学が多く、大学入試センターの思惑とは少し違う結果となりました。
英語民間試験の導入に関しては先に説明した通り、採点者の質の低さや目的が違う英語試験を横並びにする、手間や出費の負担を強いられるなど決してフェアにはならない状態で議論がなされていました。
そのため大学側もむやみに導入は出来なかったのだろうと予想されます。
大学入試センター側としては学習指導要領の改訂と共にスタートしたかったのでしょう。
しかし十分な検討がないまま民間の試験を導入しようとした結果、現場の人間が反発しているという結果になっています。
ただしTOEICは受けておいた方が良い
大学入学共通テストの英語試験からTOEICが撤退した事によって、TOEICを受験する意味合いが薄れてきたと感じる受験生の皆さんも居られる事でしょう。
しかしTOEICは日本では英語力をはかるベンチマークともなっている試験であるため受験する価値は大いにあります。
詳細を以下に記載しています。
英語力を定期的に確認する事ができる
TOEICは得点のレンジが非常に幅広いです。
点数の幅は10点から990点までの5点刻みです。
これは完全な初心者からネイティブスピーカーまでをひとつの試験で測ろうとしているからで、初心者であれば基本的にはどれだけ頑張っても400点以上を取ることは出来ないように作られています。
そのため英語に自信が無い方でも成長を実感することが出来るひとつのスケールにもなります。
英語力の習熟度を確認するために定期的にTOEICを受験するとモチベーションが上がりますし勉強計画も立てやすくなります。
合否ではなく獲得スコアで英語力をはかられる
英検と比較したときのTOEICの大きな違いはボーダーレスな事です。
例えば英検の場合、1級から5級まで段階的に受験者レベルが分けられる事になります。
そのため自分がどのレベルに居るのか、またどの程度成長したのかが分かりづらいことが英検を受験するデメリットとして挙げられます。
対するTOEICはどのレベルの学習者も同一のテストを受験する事になるので、自分のレベルをボーダーレスに知ることが出来たり思ったよりも英語の学力が上がっていた場合でもそれ相応のスコアを得ることが出来ます。
具体的には英検準1級レベルの学力を持っているのに英検2級を受験した場合、合格したとしても英検2級しか取得することが出来ません。
一方でTOEICの場合は700点を取ることが出来る英語力を身につけていれば700点を取ることが出来るという事です。
一般的にはTOEIC700点と英検準1級は同等のレベルとして扱われます。
しかしこの場合、英検を受験する場合は準1級を選択しなければなりません。
TOEICには級の選択が無いため自分の学力を良くも悪くもダイレクトに知ることが可能です。
実は大学入試に利用する事ができる
大学入学共通テストから手を引いたTOEICですが実は大学入試に利用すること自体は可能です。
大学にもよりますが一定のTOEICスコアを取得しておくことで加点の対象になったり学力試験の免除要件になったりします。
また出願要件になっている大学も一部あり、例えば北海道教育大学の教育学部 国際地域学科ではTOEICスコアが520点以上の受験生に対し、英語学力試験の点数を加算する対応をとっています。
TOEICの加点を希望する場合は自分のTOEICスコアを大学に提出することになります。
現在は文部科学省の共通ID発行が停止されているので改めて申し上げる事では有りませんが、通常通りにTOEICを受験し、後日送付されてくるスコアの記載されたシート(通常はコピー)を出願時に同封するようにしましょう。
また出願する大学によって対応が異なる可能性があるため、受験要項を事前にしっかりと確認することをお勧めします。
大学入学共通テストに利用される予定の英語試験リスト
2024年からの大学入学共通テストに採用される予定の英語民間試験のリストを掲載しています。
以下の情報は文部科学省が2020年3月時点で認可している英語民間試験です。
最新の情報は文部科学省のホームページから御覧ください。
TOEFL
TOEFLはアメリカのETSが主催する英語の試験です。
英語圏への留学を想定している英語学習者を対象としておりスコアレンジは120〜0点です。
毎月3回程度実施されており、受験者はパソコンを使い受験申込を行う必要があります。
試験会場は北海道では札幌市のみとなっており、午前10時からの開始となっています。
遠隔地にお住まいの方は飛行機や鉄道、場合によっては前泊を行うほうが良い場合もあります。
4技能すべてをはかるTOEFLの難易度は高めですが、得点のレンジが狭いため高スコアはある程度望むことができます。
TOEFLは大学生になってからも留学をする際にスコア提出を求められる場合も多く、TOEICと並んで有名な英語民間資格として知られています。
受験料は235ドルとなっており、執筆時の為替では24,033円となっています。
円建てではない為、日本円価格は変動します。
申込時は注意するようにしましょう。
※参考:TOEFL公式HP
GTEC
GTECは進研ゼミでおなじみのベネッセが実施している英語の試験です。
小学生向けの「GTEC Junior」、中高生向けの「GTEC」、大学生以上向けの「大学生・社会人向けGTEC」を選択して受験することができます。
更にそれぞれのGTECにレベル分けがされており合計10段階レベルの問題を選択して受験することになります。
レベルが段階的に分けられている事から英検と似た試験だと捉えられる事が多いですがGTECはTOEICやTOEFLと同様にスコアが提示される仕組みとなっており、10段階あるレベルはあくまでも問題の難易度を選択するに過ぎません。
そのため皆さん自身のレベルにあった級を選択すればTOEICやTOEFLのように苦戦する事はないでしょう。
GTECは学校で開催されるものと一般会場で開催されるものに分けられ、学校で開催されるGTECは例年3回実施されています。
申込みは皆さんの通っている学校に直接尋ねる必要があります。
また受験料に関しても各学校で対応が異なりますので一緒に確認しておくことをお勧めします。
一般会場で開催されるGTECに関しては税込み9,900円が必要で全国の会場に出向いて受験する必要があります。
2019年実施のGTECでは北海道は札幌市のみの開催となっていました。
2020年の実施予定については2020年3月時点では未公表となっておりますので、詳しい情報は公式HPから御覧ください。
※参考:GTEC公式HP
IELTS
IELTSもTOEFLと同様に英語圏への留学を目指す英語学習者をターゲットとしたテストです。
基本的には毎月2回の開催で他のテストと同様に4技能を試験します。
申込みはオンラインか郵送によって行う事が可能でスコアレンジは1〜9です。
他の試験と違う点は運営が複数の団体によって共同運営されている事です。
後に紹介するケンブリッジ英語検定機構とブリティッシュ・カウンシル、IDPによって運営がなされており、日本では英検を運営している日本英語検定協会が運営に協力しています。
IELTSのスピーキングテストは英検の二次試験と同様に面接官との直接コミュニケーションを必要とします。
北海道では札幌のみの開催で他の試験と同様、長距離移動や前泊を必要とする場合もありそうです。
受験料は25,380円と少々高めで大学受験を控えている皆さんが進んで受験しようとは思わない金額です。
ただしIELTSはTOEFLと同様に海外留学をする際に海外の大学からIELTSスコアの提出を求められるなど海外からの認知率は大変高い資格であることも知っておきましょう。
注意すべき点は有効なパスポートを所有している事が受験資格の一つとなっている事です。
海外留学を視野に入れている人であればパスポートの所有率は高いですが、大学受験を控えている皆さんの場合、パスポートを持っている割合も低いでしょう。
またIELTSは英語上級者を視野に入れている節もありますので試験は相当難しいものだと考えて受験すると良いかと思われます。
※参考:IELTS公式HP
実用英語技能検定
皆さんおなじみの英検です。
正式名称を実用英語技能検定と呼び、運営は日本英語検定協会が行っています。
受験料は級によって異なり、最も安い5級で3,000円から最も高い1級では10,300円を支払う必要があります。
大学受験で使われる英検資格は2級、もしくは準1級で受験料はそれぞれ7,400円、8,400円となっています。
英検のメリットは日本国内での認知率の高さにあります。
アルバイトや就職などにおいて英語力を証明する最も分かりやすい方法である事に加え、日常的に自身の英語力をアピールする際に納得してもらい易い資格です。
ただしデメリットもあり、日本的な試験の造られ方をしている為に、実際のコミュニケーションの場面での英語力は英検ではかることは出来ないという側面もあります。
大学受験を考えている皆さんの殆どは英検を取得することになるでしょう。
その理由は受験可能地域の広さにあります。
他の民間英語試験では北海道での受験可能地域は札幌のみでした。
一方で英検は札幌をはじめ函館・旭川・帯広・名寄・室蘭・網走・苫小牧・小樽・北見・稚内・滝川・留萌・岩見沢で試験が実施されているため受験のハードルは最も低いと言えます。
また、当コラムを掲載している札幌のチーム個別指導塾「大成会」では、英検などの進学や就職に役立つ資格・検定の取得をサポートしています。
※参考:実用英語技能検定公式HP
ケンブリッジ大学英語検定
受験生の皆さんにとって馴染みの低い民間英語試験にはなりますが、ケンブリッジ大学英語検定も大学入学共通テストの英語科に利用可能な試験となります。
名前すら知らないという方も多いのではないでしょうか。
英国ケンブリッジ大学の非営利組織ケンブリッジ大学英語検定機構が運営する英語学習者の習熟度を測定する試験です。
先程のIELTSはTOEICやTOEFLと同様に一直線のスケールではかられる事になっていますが、ケンブリッジ英検は日本の英検と同様に段階別のレベル分けとなっています。
Pre A1からC2までのレベル設定となっており皆さんはA2 Key for SchoolsからB2 First for Schoolsまでのレベルを選択して受験することになります。
4技能をバランス良くはかられる為難易度は高めですがケンブリッジ大学が主導している英語試験のため信頼性は確かです。
受験費用と受験場所については受験場所とレベルによって異なります。
Key for Schoolsのレベルの場合ですと倶知安にあるスマイルニセコさんで取り扱いがあるようです。
※参考:ケンブリッジ大学英語検定公式HP
TEAP & TEAP CBT
TEAPは上智大学と日本英語検定協会が共同で主催している大学受験に向けた英語の民間試験です。
高校一年生以上のみ受験する事が可能で年間を通して3回の試験があります。
TEAPとTEAP CBTの違いに関してですが、TEAPはペーパーテスト、TEAP CBTはパソコンを用いておりTOEFLと似た形式で受験するというものです。
受験料はどちらも同様の15,000円で英検についで受験しやすい資格となりうるものです。
TEAPは北海道で開催されており開催都市については直接問い合わせる必要があります。
基本的には4技能で受験する必要があり配点は各100点の400点満点です。
レベルは英検と同等かそれ以上で比較的気楽に受験することが出来る資格で、スコアのレンジはA1からC2とケンブリッジ英検にあやかったものとなっています。
※参考:TEAP公式HP
さいごに:現時点では未確定な部分が多いが
大学入学共通テストは2021年2月の実施が幕開けとなりますが、現時点では未確定の部分も多くなっています。
特に英語はTOEICの降板や記述式問題の見送りなど受験生としては混乱の多いものです。
2020年3月時点ではまだ英語の民間試験結果を大学入学共通テストのスコアとすることは出来ませんが、早ければ2024年から上記の民間試験スコアを用いて受験することになるでしょう。
民間試験に共通する事は4技能すべてをテストする必要がある事です。
どれだけ読み書きを頑張っても英語でコミュニケーションを取ることが苦手であれば点数を稼ぐことは出来ませんし、逆もしかりです。
受験生の皆さんに心がけていただきたいことは4技能すべてを満遍なく伸ばすようにして欲しいという事です。
これからの社会が望んでいる皆さんは英語を喋って当たり前の人間です。
当然読み書きも出来るという前提の元期待されています。
毎日勉強に勤しみ、共通テストの導入に備えましょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。