中学校や高校は3学期制を採用していますが、大学は一般的に2学期制です。
3学期制とは1年を3つの期間にわけます。
2学期制は1年を2つにわけます。
ところが最近、4学期制を採用する大学も現れ始めました。
4学期制は、1年を4分の1にするのでクォーター制と呼ばれています。
4学期制は1期の期間が短くなるので、集中して学習することができます。
また4学期制は留学がしやすい仕組みでもあります。
ただ、北大を始めとする道内の大学は、あまり4学期制の導入に積極的ではありません。
この記事では、2019年度時点の全国の流れと道内のトレンドを紹介します。
なお、4学期制はクォーター制、3学期制はトリメスター制、2学期制はセメスター制という別名がありますが、あまりなじみのない言葉なので、記事では「2、3、4学期制」の表記を使います。
4学期制の導入の背景とメリット
2、3、4学期制の年間スケジュールは大学によって異なりますが、大体次のようになります。
1学期:4~8月、2学期:10~2月
1学期:4~7月、2学期:9~12月、3学期12~3月
1学期:4~6月、2学期:6~8月、3学期9~11月、4学期:12~2月
2学期制は1期5カ月、3学期制は1期4カ月、4学期制は1期3カ月となっています。
この章では、4学期制が導入された背景とメリットをみていきます。
デメリットは次の章で検証します。
学生の学習機会が増える
大学の講義は「ひとつの学期」の最初の日に始まり最後の日に終わり、その直後に試験が行われます。
そのため教授たちは「ひとつの学期」の長さに合わせて、講義の「起承転結」をつくっていきます。
2学期制の場合「起」から「結」まで5カ月かかります。
3学期制だと4カ月、4学期制だと3カ月になります。
学期数が増えると講義が早く「結」を迎えることにるので、教員は効率よく教えることができ、学生たちは効率よく学ぶことができます。
これが4学期制のメリットです。
例えば、A教授が講義Aを1学期も2学期も3学期も4学期も行うとします。
そうすると、他の講義とバッティングしたため、1学期も2学期も3学期も講義Aを受けることができなかった学生でも、4学期でようやく講義Aを受けることができます。
学期数が多くなると、学生の学ぶ機会も増えます。
留学に合わせることができる
4学期制は留学を考えている学生にも好都合です。
日本人学生に人気のアメリカは3学期制や4学期制を敷いていて、次のような年間スケジュールになっています。
アメリカの大学の1年間は9月に始まります。
1学期:9~12月、2学期:1~5月、サマースクール6~8月
1学期:9~12月、2学期:1~3月、3学期3~6月、4学期:6~8月
先ほど紹介した、日本の2、3、4学期制を並べてみます。
1学期:4~8月、2学期:10~2月
1学期:4~7月、2学期:9~12月、3学期12~3月
1学期:4~6月、2学期:6~8月、3学期9~11月、4学期:12~2月
日本の4学期制の「2学期:6~8月」は、アメリカの「3学期制のサマースクール6~8月」にも「4学期制の4学期:6~8月」にも一致します。
日本人の学生は、4学期だけを休んで、アメリカの「3学期制のサマースクール」または「4学期制の4学期」に留学することができます。
学生は時間を無駄にすることなく留学できます。
また、1学期分を休んでも、他に3学期分も残っているので、そこで休んだ分を取り戻すことができます。
留年しなくて済みます。
ただ、便利に見える4学期制もデメリットがあります。
4学期制のデメリット
4学期制のデメリットは、次の2点です。
- 教授たち教員が大変
- 期間が短くなるのでスピード講義になってしまう
4学期制のメリットは、同じ講義を1年間に4回開いて学生の学習機会を増やすことでした。
それは講義数の増加を意味し、教える教授たち教員の「労働」が増えることになります。
さらに、2学期制では5カ月かけてひとつのテーマを教えることができましたが、4学期制では3カ月で教えなければなりません。
講義は「短縮バージョン」になるので、「駆け足講義」になってしまい内容が薄くなってしまうでしょう。
4学期制を導入している大学
ベネッセによると、日本人学生の留学比率が高い大学ほど、4学期制または3学期制を積極的に導入しています。
留学比率が高い上位51大学のうち4学期制または3学期制を導入している14大学で27%になります。
14大学は次のとおりです。
日本人学生の留学率2位(20.3%)の東京外国語大、3位(19.8%)関西国際大、9位(15.7%)の福岡女子大も4学期制に移行しています。
留学しやすい環境をつくり、学生の海外体験の後押しをしているわけです。
広島大学の取り組み
先ほど紹介した14の大学は「留学比率が高い、かつ、4学期制を導入している」大学ですが、留学比率が高くない大学でも4学期制を導入している大学があります。
そのうちのひとつ、広島大学は、2学期制と4学期制を合わせた仕組みを導入しています。
伝統的な学期制である2学期制は前期と後期にわかれるわけですが、広島大学は前期を第1、2タームにわけ、後期を第3、4タームにわけました。
つまり、前期・後期で区切られる講義と、第1、2、3、4タームで区切られる講義の2種類用意しています。
前期・後期の講義は、週1回の講義を16週で完結させます。
タームの講義は、週2回の講義を8週で完結させます。
この仕組みの導入の狙いについて、広島大学では次のように説明しています。
・短期バージョンの講義を用意することで、教育効果が向上する
・週2回開かれる講義は、集中的な学習を可能にする
・区切りが4つに増えることで、履修計画に柔軟性が生まれ、ボランティアやインターンシップや留学など、学生の自主的な学習体験の機会が拡大する
神戸大学の「苦悩」
4学期制を導入するときに「苦悩」した大学もあります。
そのひとつが神戸大です。
神戸大は基礎教養科目で4学期制を導入し、専門科目は2学期制のままにしました。
内容は広島大と似ていますが、導入経緯が異なります。
スタートからつまずいた
神戸大が4学期制の導入の検討を始めたのは、東大が秋入学制の導入を検討したからです。
しかし諸般の事情から、神戸大は秋入学制を導入できないと判断し、その代替案として4学期制を導入しました。
神戸大が「苦悩」しているのは、このスタートにあったと考えられます。
自発的に4学期制の検討を始めたのではなく、大学ヒエラルキーの頂点に君臨する東大の意向をうかがうことからスタートしてしまったのです。
使いにくい、との声も
そして実際に4学期制を導入したところ、教員も学生も、メリットを実感しにくく、デメリットに敏感に反応する結果となりました(※)。
4学期制へのネガティブな意見としては次のようなものがありました。
・手続きが煩雑になって不便になった
・1回分の講義の重みが増し、教員は休講しにくくなり、さらに補講もしにくくなった
・1回分の講義の重みが増し、学生は数回欠席するだけで講義から脱落しやすくなった
・詰め込み型の講義になってしまう
・講義スピードが速くなり内容を消化しきれない学生が増えた
・非常勤講師を採用しにくい
4学期制で講義を行った教員にアンケートしたところ、「4学期制で教育効果が上がったか」の質問に対する回答は次のとおりでした。
・上がった6%
・上がっていない67%
・どちらともいえない27%
「教育効果は上がっていない」という回答が圧倒的多数を占めました。
また、学生の声はさらに切実です。
「講義の内容が薄くなった」
「すぐに次の学期が始まるので余裕がない」
「2学期制も残っているので、4学期制が導入されたからといって留学がしやすくなったわけではない」
「試験が増えて、自分の時間がなくなった」
アンケートの回答にはポジティブな意見もありましたが、ネガティブな意見の内容はご覧のとおり切実です。
※参考:http://www.iphe.kobe-u.ac.jp/kiyoh/kiyoh26/07.pdf
道内の大学は4学期制導入に慎重
道内の大学は4学期制導入に慎重な姿勢を取っています。
北大は「頓挫した?」
北大は、一時4学期制の導入を進める姿勢を示しましたが、2019年度現在、それほど導入は進んでいません。
例えば2017年度に「北海道大学の教育改革・学生支援に関する取組」という資料には、次のように書かれてあります。
全学部・研究科等において,積極的に4学期制の導入を推進し,平成28年度までに全学部に導入する
教育改革室では平成26年4月,各学部が4学期制科目を配置するなど柔軟な学事暦とすることで,学生がより海外留学しやすい環境を整備し,国際的流動性の向上を図ることを主眼とした「国際化の推進に向けた学事暦の見直しについて」をまとめました。平成28年度には,①全ての学年を4学期制とする,②留学しやすい特定の学年・学期のみ4学期制とするなど,全ての学部に加え10大学院において,それぞれの実情に応じた「柔軟な学事暦」を導入しました。
この文章を読むと「北大は4学期制導入に舵を切った」と読めます。
しかし2019年10月現在の北大公式サイトには次のように記されています。
総合教育部
学年および学期
1)学年は、4月1日に始まり、翌年3月31日に終わります。
2)学年は次のように2学期に分かれています。
第1学期4月1日~9月30日
第2学期10月1日~翌年3月31日
ここには2学期制のことしか書かれておらず、4学期制については触れられていません。
また法学部も工学部なども原則、2学期制のままです。
小樽商大は一部の講義に導入
小樽商大も学生向け「2019年履修の手引き」では2学期制について説明しています。
ただ、一部の講義で4学期制を採用しています。
学期の間に2日しかない大学も
星槎道都大は2019年度からは、広島大や神戸大同様、2学期制と4学期制の混合体制に移行しています。
星槎道都大は2019年度の2学期と4学期を次のようにわけています。
前期:2019年4月5日~8月7日
後期:9月27日~2020年2月6日
第1クォーター:2019年4月5日~6月10日
第2クォーター:6月13日~8月7日
第3クォーター:9月27日~11月26日
第4クォーター:11月29日~2020年2月6日
先ほど、神戸大の学生が「4学期制はすぐに次の学期が始まるので余裕がない」と訴えていることを紹介しましたが、星槎道都大でも第1クォーターの最終日と第2クォーターの初日の間には2日(6月11、12日)しかありません。
第3と第4の間も2日(11月27、28日)しかありません。
これでは、講義の終わりと始まりは感じられても、学期の終わりと始まりは実感できません。
まとめ~絶対的なメリットがみつからない
大学の4学期制(クォーター制)が定着しないのは、絶対的かつ圧倒的なメリットがみつからないからでしょう。
4学期制を導入しても「完全4学期制」ではなく2学期制との併用だと、留学のしやすさも損なわれます。
とはいえ教授たち教員は長年2学期制に慣れてきて、その時間感覚で講義を組み立てています。
いきなり「講義を短縮バージョンにしなさい」といわれても、困るでしょう。
4学期制の全国展開はまだまだ時間がかかりそうです。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。