帰国子女とは、海外で暮らしたあとに日本に帰国した子供たちのことです。
「子女」とありますが男子も含まれます。
親が海外に長期勤務するときに子供も一緒についていくと、帰国したときに帰国子女になります。
帰国子女の人は、日本での就職が有利になることがあります。
子供のころに海外にいると英語を自由に使えるようになるので、外国と取引のある企業では帰国子女の人は重宝されます。
その他にも、帰国子女の人たちは日本では体験できないことを経験しているので、ビジネスの即戦力になると期待されます。
ただ、よいことばかりではありません。
帰国子女の就職事情について解説します。
企業が帰国子女を求めるこれだけの理由
企業が帰国子女の人を採用するのは、自社のビジネスがグローバル化しているからです。
日本は人口が減っているうえに、景気もなかなか本調子にならないので、大きなビジネスがしにくくなっています。
そうなると日本の企業は、海外の人にモノやサービスを買ってもらわなければなりません。
しかし海外でも売りにくくなっています。
中国製品や韓国製品などの品質が向上し、日本製の優位性が小さくなっているからです。
「日本製のほうが少し性能がいいが、少しだけなら大幅に安い中国製を買う」という外国が増えています。
そして製品によっては、すでに中国製や韓国製のほうが高品質なこともあります。
海外でモノを売るには高い英語スキルが必要
日本製というだけではモノが売れなくなっているので、日本企業は売り方を工夫しなければなりません。
海外で広告を出したり、海外の消費者の意向を調べたり、海外の卸会社に販売したりするには、高い英語スキルが必要になります。
帰国子女の人たちの「本場仕込み」の英語は、海外のビジネスシーンですぐに役立ちます。
外国人の心理を知っているから「負けない」
日本で優秀な成績を収めていて、英語のスキルもある日本生まれ日本育ちのビジネスパーソンが、海外に出ると途端に力を発揮できないことがあります。
それは外国人の心理を理解していないからです。
日本では、相手に断るときに「考えさせてほしい」と言いますが、相手が日本人ならそれで「断られた」と理解してくれます。
しかし海外の人は、日本人から「考えさせてほしい」と言われたら「検討してよい回答をするつもりだ」と理解してしまいます。
こうした齟齬(そご、双方の食い違い)が起きると、ビジネスは進みません。
外国人はシビアな交渉をしてくる
日本人の営業担当者が自社製品を海外の企業に売り込みに行くと、まず製品説明のあとに値切られます。
それに応じて売買契約を結ぼうとすると「サインをするから値下げしてほしい」と、また値切られます。
そして製品を納品するときに、「値下げしないなら受け取らない」と値切ります。
さらに「次に発注するときはいくら値下げしてくれるのか」とも言います。
普通の日本人は、こうした無理難題にストレスを感じてしまいます。
しかし帰国子女の人たちは、外国人の心理や本音ややり方を熟知しているので、シビアな交渉を上手にいなす術を身についています。
例えば、無茶な値下げを要請してきたら、「その価格でも売ることはできるが、納品するのは後回しになるが、それでもいいか。高い値段で買ってくれるお客さんを優先しないとならないからだ」と切り返すことができます。
外国の人たちは、子供のころからこうした巧みな交渉術を自然に学んでいきます。
特にアメリカのように移民や異なる人種が多い国では、子供の生活スキルにすら他人に競り勝つ力が必要になります。
こうした荒波に揉まれてきた帰国子女の人は、日本企業の「海外切り込み隊長」としての役割が期待されます。
世界のことを知っている育ちのよい人
帰国子女は、同年代の日本生まれ日本育ちの日本人より世界を知っています。
海外の学校は子供たちに、外国のことをたくさん教えるからです。
そして海外で獲得する外国の情報は、日本でネットで入手する外国の情報より濃密です。
日本で得る外国の情報は、「和訳」という作業によって内容が薄まってしまいます。
しかし現地で現地の情報を得れば、純度100%の情報を手に入れることができます。
例えば日本企業は今、アフリカに注目しています。
アジアの市場が成熟してしまったので、利益が出にくくなったためです。
中国企業もアフリカ市場を虎視眈々と狙っています。
しかし日本には、アフリカ人の心理を知っている人があまりいません。
そのため、アフリカに住んでいたことがある帰国子女の人は、アフリカ進出を準備している企業で活躍できるでしょう。
そして多くの日本人は、帰国子女の人は育ちがよいという「逆偏見」を持っています。
偏見は根拠なく悪いイメージを持つことですが、逆偏見は事実かどうかを確認する前に勝手によいイメージを持ってしまうことです。
帰国子女の人は日本では、外交官や商社会社員やグローバルメーカー社員の子供であることが多い、と考えられています。
外交官や商社会社員たちは教育熱心なので、海外に居ても我が子に最良の教育を与えているはずだ、とも考えられています。
企業はそのような育ちのよい(イメージが強い)帰国子女の人を採用したいと考えます。
「英語だけ」なら翻訳家に頼む
ここまで、帰国子女のビジネスでの強みをみてきました。
特殊な経験を積み、高い英語スキルを持った帰国子女が、いかに日本企業に頼りにされているか理解していただけたのではないでしょうか。
しかし、すべての帰国子女が日本のビジネスシーンで活躍できているわけではありません。
帰国子女であれば必ず一流企業に就職できるわけでもありません。
ビジネスで使える特殊な経験を積んでいない帰国子女の人や、外国で日本人とばかり接触していたために英語がほとんどできない帰国子女の人は、企業の採用担当者に見抜かれてしまうでしょう。
企業は「単なる帰国子女」を採用したいのではなく、「英語でバンバン仕事ができる帰国子女」がほしいのです。
また「単に英語ができる帰国子女」も、企業は採用したがらないでしょう。
なぜなら、英語に困ったら翻訳家や通訳を雇えばいいからです。
また、一流企業に入社できても、「自分のスキルに見合ったポスト(社内での地位)を与えてもらえない」「英語を使った仕事を与えられない」と主張する帰国子女の人がいます。
もしかしたらその帰国子女の人は、「英語しか」できないからかもしれません。
取引先の外国人と英語で雑談して仲良くなっても、相手はビジネスになった途端に表情を変えます。
友達は友達、ビジネスはビジネスと切り替えるのです。
帰国子女の社員が、取引先の外国人と友達になるのは得意だが、ビジネスは苦手である場合、会社はその社員に重要な仕事を任せないでしょう。
「英語だけ」でグローバルな仕事をこなすことはできません。
帰国子女は強みをコントロールして
日本企業に勤める帰国子女の人が、仕事がうまく回らないと感じたとき、自分の強みが逆に弱みになっていないか点検してみてください。
また、これから日本企業に就職しようとしている帰国子女の人は、自分の強みが弱みと取られる可能性があることを知っておいてください。
海外で暮らした経験が、マイナスポイントになるのは不合理に感じるかもしれませんが、それが現実です。
日本の常識は世界の非常識、という言葉を聞いたことがあると思いますが、帰国子女の社員がその気持ちを持っていると、日本生まれ日本育ちのビジネスパーソンから反感を買うでしょう。
なぜなら、日本生まれ日本育ちのビジネスパーソンたちは「世界で非常識でも日本では常識」と考えて仕事をしているからです。
そして、そのように考えている人のほうが圧倒的に多いからです。
帰国子女の社員は、自分の強みをコントロールしてみてはいかがでしょうか。
「積極性を活かそう」でも「飛ばしすぎないで」
帰国子女の人が持っている積極性は、本来は強みにカウントされるべきです。
例えば上司から「この仕事を君に任せることはできるだろうか」と打診されて、成否が五分五分だと感じていながら「できます」と答えるのは、積極性を活かしたよい行動といえるでしょう。
しかし日本企業にはまだ、足の引っ張り合いや出る杭は打たれるといった風習が残っているので、帰国子女社員のチャレンジが少しでも失敗すると、「だから海外育ちは」と陰口を叩かれることになってしまいます。
そうならないように積極性をコントロールしましょう。
新しい仕事を打診されて成否が五分五分だと感じたら、次のように言ってみてはいかがでしょうか。
「『できます、任せてください』と言いたいところですが、正直できるかどうか五分五分だと思います。でも私にとってチャレンジングな仕事になると思うので、ぜひ、サポートをしていただきながら、やらせていただきたいのですが、それでは駄目でしょうか」
海外では「できない」と表明することは自信がない現れであり不利になりますが、日本企業では謙遜、謙虚と理解され高評価を得ることができます。
サポートを依頼することも同じです。
独立心を重視する海外では、まだ仕事を始めてもいないのにSOSを出している、と理解され仕事を嫌がっていると思われます。
しかし日本企業では「他人に迷惑をかけたくないという気持ちがある」と、よいほうに理解されます。
そして最後の言葉「それでは駄目でしょうか」が決め手になります。
日本企業の上司や先輩は、部下や後輩の上から目線はもちろんのこと、水平目線すら極度に嫌います。
そして、部下や後輩の下から目線を、異様なほど好みます。
「それでは駄目でしょうか」の言葉には「未熟な私ですが、それでも新しいことにチャレンジしたいので任せていただけないでしょうか」というへりくだった気持ちが込められています。
このように言い回しを工夫すれば、積極性をPRしながら職場で煙たがれずに済みます。
「合理的になろう」でも「根回しをしよう」
帰国子女の社員は、合理性が強みになっています。
プロジェクトや課題が持ちあがったら、最短ルートを進もうとするでしょう。
しかし合理的な手法には、日本人が嫌がる「排除」が含まれます。
悪い意味で仲間意識が強い日本人は、「多少の無駄があってもみんなが少しずつ得するならそれでいいじゃないか」という考える癖があります。
そのような人が多いチームのなかで、帰国子女の社員が「それは無駄です。これも無駄です。これはやる必要はありません。私はそれをやりません」と言い続けたら、たとえそれが最も合理的な方法だとしても拒絶されるでしょう。
そして、チームワークを乱す人、というレッテルを貼られてしまいます。
帰国子女の社員は、できるだけ早い段階で「根回し」を覚えたほうがいいでしょう。
根回しとは、関係者全員に、特に上司やリーダーなど上の人に、事前に了解を取っておく手法です。
海外の企業での会議は、みんなで物事を考えたり物事を決めたりするために開きますが、日本の会議は根回しで決めたことを確認する場です。
帰国子女の社員は「それなら会議を開く必要がない」と感じるでしょう。
また「そのような会議は時間の無駄」と思うでしょう。
しかし「根回し」と「根回しで合意した内容を決めるだけの無駄な会議」こそ、最短ルートになっている日本企業があります。
合理的な手法を押し通そうとするときこそ、この不合理な方法で上司の決済をもらうようにしましょう。
まとめ~変える力は持ち続けて
帰国子女の人の就職は、有利になることも不利になることもあります。
なぜなら、日本が、アジアの端っこにある島国なのに経済大国という、極めて異例な国だからです。
帰国子女の人は、日本ではいい意味でも残念な意味でも異質な人になります。
帰国子女の人は、この国に新しい風を吹かせることができます。
しかしその新風を迷惑に感じる日本人もいるので、その点は注意してください。
それでも帰国子女の人は、社会に出て「閉塞した状況から抜け出せない日本を変えたい」という気持ちは持ち続けてください。
その気持ちは、必ず日本をよい方向に向かわせるからです。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。