コミュニティ・スクールをご存知ですか。
北海道内にはコミュニティ・スクールが409校あります。
「知っている」という方は、コミュニティ・スクールが優れた仕組みであることを実感しているのではないでしょうか。
地域社会(コミュニティ)が学校と一緒に子供を育てるので、いろいろな人の英知が集まり、よい教育が生まれます。
しかし「知らない」という人は、コミュニティ・スクールについてまったく知らないのではないでしょうか。
コミュニティ・スクールをしていない学校に通う子供やその親は、コミュニティ・スクールを知る機会はほとんどありません。
コミュニティ・スクールの仕組みを概観したうえで、先進事例や道内での取り組みを紹介します。
コミュニティ・スクールの現状と道内の状況
コミュニティ・スクールとは、「地域とともにある学校づくりを進める法律」で定められた仕組みで、既存の幼稚園、小学校、中学校、高校などが希望すると、文部科学省にコミュニティ・スクールとして登録されます。
2018年4月1日現在、コミュニティ・スクールは全国に5,432校あり、道内には409校あります。
道内409校の内訳は次のとおりです。
- 幼稚園:9園
- 小学校:246校
- 中学校:139校
- 義務教育学校:3校
- 高校:12校
- 特別支援学校:0校
道内の幼稚園から高校までの「スクール」は約2,400校あるので、コミュニティ・スクールの普及率は今のところ17%(=(409÷2,400)×100)となります。
コミュニティ・スクールは新設された学校ではなく、既存の学校が「コミュニティ・スクールという機能」を持つことで成立します。
コミュニティ・スクールのコンセプト
コミュニティ・スクールのキー・コンセプトは「地域とともにある学校づくり」です。
キーワードは「連携と協働」「社会総がかり」「共有」です。
学校での教育内容を、地域全体で決めていこうという取り組みです。
これまでの教育内容は、校長、教師、教育委員会、文部科学省だけで決めてきましたが、そこに地域の声を色濃く反映させよう、というわけです。
コミュニティ・スクールになりたい学校は「学校運営協議会」を設置します。
学校運営協議会は保護者の代表や地域住民などで構成します。
校長は学校運営協議会に、学校運営の基本方針を説明し、学校運営協議会はそれに承認を与えます。
校長は定期的に学校運営協議会に学校の様子を報告し、意見をもらいます。
また保護者や地域の人たちは、学校運営協議会に意見をすることができます。
そして学校運営協議会は保護者や地域の人たちに、学校の情報を提供します。
従来のPTAも学校運営に関わってきましたが、学校運営協議会は「保護者だけでなく地域の人たちも加わる」点と「学校と対等の立場で学校運営に承認・意見できる」点が、PTAとは異なります。
そのため学校運営協議会には「力」も与えられています。
学校運営協議会は都道府県教育委員会に対し、教職員の任用について意見することができます。
教職員の人事に関与することになるので、学校や教師たちは、学校運営協議会を尊重するようになります。
学校運営協議会を「単なるお飾り」にしない仕組みといえます。
何をしてもよい
さて、ここまで読んできて「要するにコミュニティ・スクールは何をするのか」と疑問を持った人もいるでしょう。
それもそのはずで、文部科学省は「コミュニティ・スクールになったら○○をしなさい」とは示していません。
コミュニティ・スクールは、地域を巻き込んで子供たちのためになれば、何をしてもいいのです。
熊本県は防災態勢を構築
例えば熊本県は、特別支援学校を含むすべての県立学校をコミュニティ・スクールにしました。
それは学校運営協議会を防災のベースにしようと考えたからです。
熊本県は2016年4月14日に震度6強の大型地震に複数回見舞われ、甚大な被害を受けました。
そこで各学校に学校運営協議会をつくり、学校と地域が一体となった防災態勢を築くことにしました。
コミュニティ・スクールによって、地域ぐるみで災害から子供たちを守ることができます。
また学校の体育館は地域住民の避難場所になるので、普段から地域の人たちが学校運営に関わっていれば、万が一のとき連係プレーが取りやすくなります。
熊本県立多良木高校は2017年に、生徒と住民で合同避難訓練を実施しました。
大地震で近隣住宅に大きな被害が出た、との設定で、生徒が逃げ遅れている人がいないか地域を見回りました。「逃げ遅れた人役」の80歳の男性が、高校生に手をつながれて、自宅から学校まで移動する光景もみられました。
神奈川県は子供たちを地域に出す
コミュニティ・スクールは「地域から学校へ」という動きを想定していましたが、神奈川県は「学校から地域へ」の動きを進めています。
神奈川県教育委員会は2019年度末までに全高校に学校運営協議会を設置して、高校生たちに主体的に地域に関わらせていきます。
高校生たちが地域を知れば、地元にとどまる動機になります。
神奈川県としては人口流出を食い止める一助になります。
また生徒たちも、地域に出ることで学問への探求心や職業観を身につけることができます。
神奈川県のこの取り組みは、新しい学習指導要領のポイントを先取りした内容になっています。
新学習指導要領では「社会に開かれた教育課程」を実現すると定められています。
生徒と地域の関わりは、まさに社会に開かれた教育です。
障害への理解を深める効果も期待
コミュニティ・スクールには、特別支援学校も対象になっています。
特別支援学校とは、障害者が幼稚園、小学校、中学校、高校に準じた教育を受けることと、障害者が学習上または生活上の困難を克服して自立することを目指す学校です。
地域の人たちが特別支援学校の運営に関われば、その地域に障害者を受け入れる土壌が醸成されるでしょう。
そうなれば障害への無理解や偏見が消えるので、障害を持っている子供たちが地域に出やすくなります。
地域が、バリアフリー社会やノーマライゼイションを実現した社会に生まれ変わるきっかけになります。
また、特別支援学校としても、地域が「近く」なることで、子供たちを社会に送り出すときに安心できるでしょう。
コミュニティ・スクールになった特別支援学校は2018年度までに全国で106校ありますが、道内は残念ながら1校もありません。
北海道内での取り組み
道内のコミュニティ・スクールの取り組みを紹介します。
斜里町立知床ウトロ学校
オホーツク管内の斜里町立知床ウトロ学校では、毎週水曜日に「地域サポーター」が未来塾という特別授業を行っています。
さらに学校が学校運営協議会に子供の学力と体力のデータを提供し、教育に必要な支援を仰いでいます。
ウトロ学校はコミュニティ・スクールになったことの成果として、教員業務の効率化を挙げています。
地域の人たちがかなり学校運営に「食い込んでいる」事例といえます。
壮瞥町立壮瞥小学校
後志管内の壮瞥町立壮瞥小学校は「将来の地域の担い手の育成」を目的として、コミュニティ・スクールを導入しました。
学校運営協議会には、地域の人たちに授業補助に入ってもらったり、地域での体験活動を企画してもらったりしています。
壮瞥小学校の校長は「地域の歴史や文化が子どもたちに継承される仕組みができた」と成果を強調しています。
また壮瞥小学校でも教員業務を効率化できました。
地域の人たちが子供たちの登下校の見守りをしてくれるようになったため、教員が本来業務に集中できるようになったそうです。
教員が変わった事例
コミュニティ・スクールは、教員の意識も変えています。
十勝管内の小学校の校長だった方は、同校にコミュニティ・スクールを導入しようとしたときに、教員が負担増を懸念した、と振り返っています。
コミュニティ・スクールになると、教員たちが自分たちの考えだけで学校運営することができなくなるからでしょう。
また「地域の人たちの相手」も、教員たちがしなければなりません。
そこでこの校長は、学校だけでは解決できない課題を教員から聞き取りすることにしました。
教員では手に負えない課題を学校運営協議会に託せば、教員の負担が減るわけです。
一連の取り組みをとおして、教員たちの学校経営への参画意識が高まったそうです。
地域に「どういう子供を育成したいか」を尋ねた事例
十勝管内の広尾町教育委員会は、学校教育の本質を丸々学校運営協議会と共有することにしました。
学校運営協議会に「子供たちに育成した資質と能力についての熟議」を依頼したのです。
熟議とは、十分によく議論する、という意味です。
学校が子供たちの資質や能力を伸ばせていない、と不満に感じている保護者は少なくなりません。
しかし大抵の場合は、「保護者が求める資質や能力」が伸びていないだけです。
つまり「子供に身につけさせたい資質と能力」について、学校と保護者の間にギャップがあるわけです。
そこで地域の代表者が集まる学校運営協議会に「子供たちに育成した資質と能力についての熟議」をしてもらえば、そのギャップを埋めることができます。
広尾町教育委員会は、その熟議の結果を学校運営の基本方針に生かしています。
地域とのギャップを埋める
学校と地域とのギャップを埋めるためにコミュニティ・スクールの仕組みを利用する学校は多いようです。
以下の3校は次のようなテーマでコミュニティ・スクール事業を進めています。
◆登別市:富岸小学校:学校と地域のニーズの融合
◆知内町:湯の里小学校:ふるさとへの愛着を深める世代間交流の充実
◆東神楽町:東聖小学校:新興住宅地における地域との連携
学校と地域のニーズの差を埋めたり、世代間ギャップを埋めたり、新しい住民との意識ギャップを埋めたりするのに、コミュニティ・スクールの仕組みが使われています。
まとめ~少子化だからできること
保護者のモンスター化や教員の不祥事など、学校関連でありながら「子供に関係のない」問題が多発しています。
一部の保護者は学校に不信感を持ち、一部の教員は保護者たちの無理解を嘆いています。
少子化になると教育すべき子供たちの数が減るので教育が充実すると思いきや、実際は逆の現象が起きています。
少子化になって、子供に関与しない大人が増えたことで、無責任な言動が増えたのでしょうか。
それとも社会に携わらない教員が増えているのでしょうか。
コミュニティ・スクール構想は、保護者を含む地域の人を学校に引き込む機会と、学校の教師を社会に触れさせる機会を増やします。
子供が少なくなったことは寂しい限りですが、その代わり子供が減ったからこそ、1人ひとりに充実した「教え」を提供できるようになった、と考えることができます。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。