将来、自動車や家電などものづくりや、半導体やコンピュータやインターネットやAI(人工知能)などのITを仕事にしたい人は、大学受験では理系学部を目指さなければなりません。
しかし、高校で物理に出会って理系を断念してしまう人がいます。
また女性のなかには「女子には無理」と、最初から物理をあきらめてしまう人もいます。
物理は、大学入試のなかで最も嫌われている科目のひとつでしょう。
しかし、女性のほうが男性より物理が苦手になる科学的根拠はありません。
そして物理は「本当の世界を知る」学問です。
物理の世界に入ると、いきなり分厚くて高い壁にぶち当たりますが、それを乗り越えると「こんなに面白い勉強はない」と思えるはずです。
物理が苦手で理系を断念するのはもったいない話です。
物理が苦手で、文系受験生が国立大をあきらめるのは、さらにもったいない話です。
物理の学び方を解説します。
リンゴは落ちない、引っ張られている
物理が苦手な人でも、ニュートンが、木から落ちるリンゴを見て万有引力を発見した逸話は知っているでしょう。
万有引力とは、2つの物体が互いに引っ張り合う力です。
物理を知らない人は、リンゴが落下すると「リンゴが落ちた」と思います。
しかしニュートンには「リンゴが地球に引っ張られた」と見えたのです。
そしてリンゴも、地球を引っ張っています。
ただ、リンゴに比べて地球の大きさは膨大なので、リンゴのほうがより顕著に引っ張られてしまうのです。
「リンゴが落ちた」という見方は、「本当の世界」を見ていません。
物理を学ばないと本当の世界は見えません。
物理を学ぶと、電車のなかで人がジャンプしても、後部のドアに衝突しない理由がわかります。
津波のパワーも物理で計算できます。
さらに、静止している物体は静止し続け、動いている物体は動き続ける、という不思議な現象も物理で説明できます。
理系科目が得意な人のことを、「理系的思考がある人」や「理系あたまを持った人」ということがあります。
理系あたまとは、偏見や先入観を持たずに自然現象を忠実に捕らえることです。
理系あたまを持った人は、最初は物理を苦手にしていても、いつか好きになるはずです。
そして物理を学ぶと、理系あたまが形成されます。
物理を嫌って「理系あたま」を活かさないのはもったいない
「物理が苦手」という人のなかにも、理系あたまの人は多く存在します。
理系あたまの人が、物理が苦手というたったひとつの理由だけで文系に行ってしまっては、知的好奇心を満たせないかもしれません。
例えば歴史は、簡単に覆りますし、ある史実についていく通りも解釈することも可能です。
しかし物理の法則は揺らぎません。
文系の学問は、いい意味でも悪い意味でも人の考えが介入します。
しかし物理には、人の考えが介入する余地はありません。
理系あまの人は、理系の勉強を続けたほうが快適なはずです。
「自分は理系あたまだ」と思っている受験生には、物理を克服して理系にとどまることをおすすめします。
文系受験生も、物理を克服できると国立大を狙うことができます。
北大のような偏差値の高い国立大文系学部の場合、センター試験(2021年1月からは大学入学共通テスト)で物理基礎、化学基礎、生物基礎、地学基礎から2科目選ばなければなりません。
物理をマスターすれば、あと1教科修得するだけです。
ところが文系受験生の多くは、この「理科2科目」を回避するために、私大文系学部に流れてしまいます。
国立大は授業料が安く、親孝行ができます。
研究環境も、一般的に国立大のほうが優れています。
さらに就職でも、同じ偏差値であれば国立大卒者のほうが私立大卒者より有利になることが少なくありません。
理系の人も文系の人も、物理を嫌いにならないほうが「得」なのです。
興味のある分野から学んでみる
物理にはさまざまな分野があり、分野ごとに内容がガラリと変わります。
物理に挑戦するときは、興味が持てる分野から学習を始めてみましょう。
運動とエネルギーの概念が理解できない人でも、波については興味を持てるかもしれません。
例えば「光は波と粒の両方の性質を持つ」と聞いて「どういうことだ、面白そうだ」と思った方は、波から勉強することができます。
物理への興味を高めるには、インターネット情報も有効です。
カメラメーカーのキヤノンが公式サイトで光について解説しています。
「光って、波なの?粒子なの?」というタイトルで、内容は高度なのですが、文章の説明が平易なので高1レベルの学力があれば読みこなせます。
URLは以下のとおりです。
https://global.canon/ja/technology/s_labo/light/001/11.html
このサイトで光に興味を持てば、物理の授業が楽しみになるはずです。
物理基礎を学ぶだけでこれだけのことがわかる
文部科学省は、物理基礎を学ぶだけで以下の技術の基礎を理解できるとしています。
- 自動車や鉄道、船舶などの運輸機関に生かされている技術
- 港湾施設の大型クレーンなどに活用される重量物移動の技術
- 医療における放射線、MRI、レーザー、超音波の利用
- 情報通信技術及び人工衛星の利用
- 人工知能(AI)やロボットの開発と利用
- 橋の開発の歴史と設計を可能とする技術
- 大規模構造物や建築物の免震
- 耐震構造
- ヒートポンプを利用した空調システム
- エネルギー資源の開発や有効利用に活用される技術
- 植物工場、農業機械の自動運転など食料生産に関する技術
- 調理、スポーツ、介護など日常生活への物理学の応用
理系あたまを持っている人なら、このうちのいずれかを将来の仕事にしたいのではないでしょうか。
物理の学習は、将来の仕事に近付く手段でもあります。
物理基礎の全分野を把握しよう
物理のなかの興味のある分野を探すには、物理の全分野を把握しておく必要があります。
文部科学省は高校の学習指導要領で、上級者向けの「物理」と初学者向けの「物理基礎」を用意しています。
ここでは物理基礎の全分野を紹介します。
物理基礎で学ぶ全要素
物理基礎の全要素は、大きく(1)物体の運動とエネルギーと(2)さまざまな物理現象とエネルギーの利用の2つにわかれます。
その2つはさらに細分化されます。
最終的に17項目を学ぶことになります。
17は、下記の㋐や㋑などの数です。
「物理基礎は17項目を学習すれば終わる」と考えると、物理への苦手意識を減らせるのではないでしょうか。
(1)物体の運動とエネルギー
(ア)運動の表し方
㋐ 物理量の測定と扱い方
身近な物理現象について、物理量の測定と表し方、分析の手法を理解する
㋑ 運動の表し方
物体の運動の表し方について、直線運動を中心に理解する
㋒ 直線運動の加速度
速度が変化する物体の直線運動に関する実験などを行い、速度と時間との関係を見いだして理解するとともに、物体が直線運動する場合の加速度を理解する
(イ)さまざまな力とその働き
㋐ さまざまな力
物体にさまざまな力が働くことを理解する
㋑ 力のつり合い
物体に働く力のつり合いを理解する
㋒ 運動の法則
物体に一定の力を加え続けたときの運動に関する実験などを行い、物体の質量、物体に働く力、物体に生じる加速度の関係を見いだして理解するとともに、運動の三法則を理解する
㋓ 物体の落下運動
物体が落下する際の運動の特徴及び物体に働く力と運動との関係について理解する
(ウ)力学的エネルギー
㋐ 運動エネルギーと位置エネルギー
運動エネルギーと位置エネルギーについて、仕事と関連付けて理解する
㋑ 力学的エネルギーの保存
力学的エネルギーに関する実験などを行い、力学的エネルギー保存の法則を仕事と関連付けて理解する
(2)さまざまな物理現象とエネルギーの利用
(ア)波
㋐ 波の性質
波の性質について、直線状に伝わる場合を中心に理解する
㋑ 音と振動
気柱の共鳴に関する実験などを行い、気柱の共鳴と音源の振動数を関連付けて理解する。
また、弦の振動、音波の性質を理解する
(イ)熱
㋐ 熱と温度
熱と温度について、原子や分子の熱運動の観点から理解する
㋑ 熱の利用
熱に関する実験などを行い、熱の移動及び熱と仕事の変換について理解する
(ウ)電気
㋐ 物質と電気抵抗
電気抵抗に関する実験などを行い、同じ物質からなる導体でも長さや断面積によって電気抵抗が異なることを見いだして理解する。
また、物質によって抵抗率が異なることを理解する
㋑ 電気の利用
発電、送電及び電気の利用について、基本的な仕組みを理解する
(エ)エネルギーとその利用
㋐ エネルギーとその利用
人類が利用可能な水力、化石燃料、原子力、太陽光などを源とするエネルギーの特性や利用などについて、物理学的な観点から理解する
(オ)物理学が拓ひらく世界
㋐ 物理学が拓ひらく世界この科目で学んだ事柄が、日常生活や社会を支えている科学技術と結び付いていることを理解する
【克服法その1】理屈と公式を「行ったり来たり」する
大学入試の物理基礎の具体的な克服法を考えていきます。
物理を苦手にする人は、公式の暗記に拒絶反応を持っていないでしょうか。
もしそうなら、次のように考えてください。
「リンゴが地球に引っ張られる」物理現象は、文章表現では正確に伝えることができません。
そこで万有引力の大きさFを、全世界共通の数学で「F=G×(M×m)÷(r×r)」と表記しているわけです。
物理で重要なのは理屈です。
理系あたまを持っている人なら、理屈の学習は楽しく進められるはずです。
参考書を使って理屈を学習してください。
そのとき、公式を覚えるのは後回しにしても構いません。
なぜなら、理屈を覚えてから問題集を解き始めると、自然と公式を覚えたくなるからです。
公式は、理屈を超コンパクトにまとめたものです。
公式を覚えておけば、試験のときにいちいち理屈を思い出す必要がありません。
公式を使って楽に問題を解く「快感」を体験すると、公式を覚えたくなります。
物理の勉強では、理屈を学んだら公式を覚え、公式を覚えたら理屈を確認する、といったように理屈と公式を行ったり来たりしましょう。
【克服法その2】過去問を徹底的に解く
先ほど紹介した物理基礎の17項目を参考書で総ざらいできたら、センター試験の物理基礎の過去問を解いていきましょう。
教学社の赤本シリーズ「センター試験 過去問研究 物理 『物理基礎』『物理』対策用」(※)は、15年分の過去問が収載されているので、これを徹底的に解いていきましょう。
このなかには「物理」も含まれていますが、それは飛ばして構いません。
※参考:https://akahon.net/books/detail/2293800?link=Books/listDetail/2/1
過去問を徹底的に解くことで「物理基礎」の出題傾向と難易度がわかります。
出題傾向がわかれば、どこに集中して勉強すればよいのかがわかります。
難易度がわかれば、どこまで学習を深めればよいのかがわかります。
そして「そこまで深掘りしなくてもよい」こともわかります。
過去問を解いたら、必ず復習をしてください。
なぜ解けなかったのか、なぜ解けたのかを、参考書で確認しましょう。
物理基礎はこの繰り返しで合格点を目指すことができます。
まとめ~普遍の世界へのめり込もう
物理を「つらい学問」と考える人は少なくなりません。
しかし、物理には受験生をのめり込ませる魅力があります。
それは普遍の世界を知るための学問だからです。
入試で合格点を取ることだけを目的にしてしまうと、物理は無味乾燥の冷たい学問に感じるでしょう。
しかし物理現象に興味を持ってから学習を始めると、物理の勉強は「世界を知る手段」に変わります。
知的欲求を高めて物理に挑みましょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。