東京大学に石井直方教授という方がいます。
専門は生命環境科学で、生物学とスポーツ科学の研究をしています。
この石井教授が「筋トレは脳を賢くする可能性がある」「筋肉が知性に影響を及ぼす」と断言しています。
文武両立が科学的に証明された形です。
運動系の部活を続けてきた受験生には朗報といえるでしょう。
どのような理屈で、筋トレが賢い脳をつくるのでしょうか。
石井理論を中心に筋トレと賢さの関係を紹介します。
石井教授とは
石井直方先生は、東京大学総合文化研究科・広域科学専攻・生命研究科学系の教授です。
石井教授は、力学的環境への筋の適応機構の解明と、その応用としての新たなトレーニング法の開発、さらに生命の基本的メカニズムの解明を研究しています。
つまり、筋(筋肉のこと)の役割を探りながら、生命の不思議を明らかにしようとしているわけです。
出典:朝日新聞デジタル&M(アンド・エム)
(肩書は2019年8月現在のものです)
かつては「知的でない」と言われていた
筋肉ムキムキはかつて、賢くない人の象徴でした。
アメリカではボディビルをする人は「Least Intelligent(最も知性が少ない人)」と呼ばれていました。
日本にも「空手バカ一代」という漫画がありました。
また、ネットスラングにも「脳まで筋肉になっている」と揶揄する「脳筋(のうきん)」という言葉まであるほどです。
またこれもアメリカの研究ですが、筋トレを一生懸命やっている人は余命が短い、という結果も出ていました。
それは、過度な筋トレが高血圧や高血中資質を発症させてしまうからだそうです。
しかし研究というのは不思議なもので、最近はまったく逆の研究結果が出てくるようになりました。
情報量が多くなって賢くなる
先進国では2000年以降、高齢化と健康が重要課題になりました。
そのなかで、筋肉が発達している高齢者のほうが健康なのではないか、ということに気がつき始めました。
医学や医療の分野でも、筋肉と健康長寿に関する研究が進むようになりました。
筋肉量が少ない人は寿命が短いという研究結果も現れ始めました。
ただこれだけなら「筋肉量が多い→運動量や活動量が多い→体が丈夫になる→健康になる→長寿」ということであり、新しさは感じません。
ところが、日常的に活動量が多い高齢者は、そうではない高齢者より認知症の発症率が低い、という研究結果も出てきました。
認知症は脳に関係する病気から発症します。
こうしたことから「活動量が多い→筋肉の増強→脳によい影響?」と推測できるようになったのです。
石井教授はこの現象を、「体を動かすことで脳にさまざまな情報が送られ、脳が活性化される」と説明しています。
脳は、全身に張り巡らされた末梢神経から情報を集めています。
体を動かせば末梢神経が集める情報が多くなるので、脳はフル回転で動くことになります。
この理論でも十分「筋トレ=賢くなる」を説明できていますが、石井教授は「これだけではない」と話しています。
マイオカインという物質が、筋肉と脳に関係しているというのです。
次にそれをみていきましょう。
マイオカインが賢くする
マイオカインは、筋肉を動かすことで分泌される生理活性物質(ホルモン)です。
「分泌」や「生理活性物質」「ホルモン」という言葉の説明はここでは省略しますが、要するに「筋トレをするとマイオカインが体内で増える」ということです。
運動すると神経細胞が増える
このマイオカインが、脳の神経細胞を増やしたり、神経細胞の減少を防いだりします。
神経細胞とは、神経組織の細胞です。
神経組織は、神経をつくっています。
脳と神経はつながっているので、神経細胞が増えたり減らなかったりすれば、神経が多くの情報を脳に送ることができます。
石井教授はこのことを、ネズミを使った実験で証明しました。
ネズミに麻酔をかけて筋肉に電気刺激を与え「筋トレ」させました。
その結果、ネズミの脳のなかで、神経細胞を増やす物質、マイオカインが増えました。
この実験によって「筋トレ=賢くなる」ことが実証されたわけです。
石井教授は、一定量の筋肉を維持して活動させることが、脳を賢くすることにつながる、と明言しています。
アメリカでも一変、エリートほど体を鍛える
さらに、かつては筋トレする人は知性が少ないと考えられていたアメリカでも、最近は180度変わりました。
エリートであることの条件に健康が加わったことで、賢い人ほどエアロビクスやランニングに取り組むようになったのです。
こちらは「運動→賢くなる」という流れではなく「賢い人→運動」という流れではありますが、それにしてもエリートたちがこぞって生活のなかに運動を積極的に取り入れているということは、知的な活動によい効果をもたらしているからです。
頭を冴えさせるから勉強が進む
筋トレが賢さを促進することは明らかなようですが、だからといって筋トレをすればテストの点数がよくなるわけではありません。
「筋トレ→勉強→賢くなる→点数が上がる」というメカニズムになります。
筋トレをすることで頭が冴え、その状態で勉強をすると知識の吸収と記憶の定着が効率化され、賢くなって点数が上がるというわけです。
筋トレは賢くなりやすくするのであって、筋トレをしても勉強をしなければ賢くなりません。
筋トレの「副産物」も学力向上につながる
筋トレの学習効果が科学的に証明されたわけなので、受験生こそ運動に励みましょう。
そして運動系の部活をしている人は、部活と勉強を両立させることで相乗効果が期待できます。
そして筋トレや運動には、学力向上につながる副産物も多くあります。
次にそれらを紹介します。
成し遂げる経験が生きる
運動系の部活も筋トレも、日々の習慣としての運動も、努力と結果の確認を繰り返します。
勝負に勝つにも、筋肉をつけるにも、毎日運動を続けるにも、継続する強い意志と覚悟と実行力が必要です。
そして結果にこだわる貪欲さも欠かせません。
努力をして結果を出す経験を一度でもすると、「努力は裏切らない」ことを学習することができます。
これを知っているかどうかは勉強の結果を大きく左右するでしょう。
なぜなら学校の勉強は、どれだけ時間をかけて勉強しても成績が上がらないことがあるからです。
例えば、100個の英単語を理解していないと解くことができない英語長文の問題があったとします。
すると90個しか覚えていない人は、この問題を解くことができません。
しかし90個の英単語を覚えるのにも、相当な時間と努力が必要です。
「努力は裏切らない」ことを知らない人は、「90個を覚える努力をしたのに、正解できなかった」と嘆くでしょう。
しかし「努力は裏切らない」ことを知っている人なら、90個を覚えた時点で「あと10個だ頑張ろう」ともうひと踏ん張りできます。
運動系の部活のリーダーが高3の夏まで部活に励んでいても、翌年2月の入試で難関大学に合格するのは、努力の仕方を知っているからでしょう。
健康になる
筋トレを含む運動をすると、健康になります。
体を動かすと細胞が活性化されるので、抵抗力がつき病気になりにくくなります。
勉強は脳の仕事であり、受験は脳の格闘技です。
したがって勉強にも受験にも健康が必要になります。
学校の定期テストの直前に風邪を引いて普段の実力を出せなかった経験をしている人は、健康と勉強が密接不可分であることを理解しているはずです。
筋トレやハードな運動が苦手な生徒も、勉強に必要な最低限の体力を身につけるために、軽めの運動を習慣化しておいたほうがいいでしょう。
食欲がわく
筋トレなどの運動をするとお腹が空くので、食べるものがすべておいしく感じるでしょう。
賢くなるには、食べ物の好き嫌いをなくしてください。
次の食材を苦手にしている人は、運動をして空腹にして強い食欲をテコにして克服してみてください。
- クルミ
- リンゴ
- 紅茶、緑茶
- セロリ
- カレー
- ブルーベリー
- ルッコラ
- 卵黄
- オリーブオイル
- カツオ
- イワシ
- サバ
これらは脳の活性化や、脳細胞の強化、記憶力の増強が期待できる食材です。
ただ食事による健康法では、「これだけ食べればよくなる」という食材は存在しません。
バランスよく栄養を摂ることが大切です。
したがってこれらの食材も、集中して食べ続けるのではなく、他の栄養食品を織り交ぜながら、満遍なく食べるようにしてください。
上記の食材を、アレルギー以外の理由で苦手としている人は克服に努めましょう。
お腹が空いていれば何でもおいしく食べることができます。
ストレス解消
筋トレやスポーツをすると脳がすっきりするという人は、受験に突入してもその習慣を中断しないほうがいいでしょう。
受験に集中すると、「すべての時間を勉強に振り向けなければならない」という強迫観念に駆られることがありますが、極端な取り組みはかえって学習効果を下げてしまいます。
勉強しすぎると、脳は疲労します。
疲労した脳ではひらめきを生み出せませんし、参考書や問題集の理解力も低下します。
記憶にも定着しにくくなります。
そのようなとき、あえて勉強を放り投げて筋トレや運動をすればリフレッシュできます。
リフレッシュすれば集中力も回復するでしょう。
疲れてよく眠れるようになる
筋トレや運動は身体を疲れさせるので、質のよい睡眠が取れるようになります。
勉強と睡眠は深い関係にあります。
記憶の定着は眠っている間に進むという研究結果もあります。
そして質のよい睡眠ほど、脳をリフレッシュさせるものはありません。
もちろん身体の健康にも睡眠は不可欠です。
まとめ~心身の健康を
筋肉が増えると、賢くなる物質マイオカインが体内に出現するので、勉強がはかどります。
したがって筋トレして勉強すると賢くなりやすくなるわけです。
運動習慣がある人は、学力を上げたいときこそ運動をして勉強効率を上げましょう。
運動が嫌いな人は、学力を上げるために、軽めでいいので定期的に体を動かしましょう。
健全な精神は健全な体に宿ります。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。