読書感想文は多くの子どもにとって苦手意識をもつ課題です。
保護者の方にとっても中々課題が進んでいないと不安になります。
今回は読書感想文を書く際に押さえておきたいポイントと保護者としてどのように指導したら効果的かについてを解説していきます。
読書感想文が苦手になる理由
夏休みの宿題の中でも最も子どもが苦手としている読書感想文。
いわゆる夏休みの宿題は、一学期に学んだことの復習であるため一度取り組みだすと案外すぐに終わります。
一方で読書感想文は「課題図書の選定」「実際に読んでみる」「作文を書く」という他の宿題とは比較にならない量の作業を行う必要があります。
腰が中々上がりにくい読書感想文が更に苦手となる理由をいくつか挙げることにしましょう。
読書感想文を書かせる学校の目的
ではなぜ学校は読書感想文を課題とするのでしょうか。
「将来に必要な能力になってくる」など漠然とした理由ではなく、説得力のある理論で考えてみることにしましょう。
まず、学校が想定している「読書感想文を経て得られる能力」から考えてみます。
読書感想文の作成を経て得られる能力は「論理的な考え方」「文章作成能力」「読解力」の3つに分類することが出来ます。
それぞれ言い換えると「効率的に自分の考えを伝えることの出来る能力」「文章を書く力」「文章を読み取る力」とする事が出来ます。
「論理的な考え方」について。
論理的な考え方とはつまり「科学的な考え方」です。
自分が積み重ねてきた経験や情報を整理して脳の中に整頓する力や、それらを適切に取り出すといった考え方をそのように呼びます。
読書感想文では「なぜこの本で感想文を書こうと考えたのか」「実際にその本を読んでみてどのように考えたのか」「実際にどのようにして文章を構成するのか」と子ども自身が主体的に物事を考える必要があります。
学校ではこのような技術を身に着けた人材を世の中に送り出したいと考えている為に読書感想文を課題として出しているというわけです。
読書感想文が苦手な理由は「0から1を作り出すことに慣れていない」から
子どもがなぜ読書感想文を苦手とするかについてですが、それは「0から1を生み出す」という行為に慣れていないからです。
我々大人でも作文を苦手とする人はいますが、このようなクリエイティブな思考は幼少期から鍛える必要があります。
小学生の子どもにとっては読書感想文を1枚仕上げるだけでも大仕事です。
「誰でも最初は苦労するものだ」と寛大な心で応援してあげることが大切になります。
現在記事をご覧の皆さんも一度作文にトライしてみてください。
もしスラスラと書くことが出来なくても問題ありません。
多くの方はこのように文章を書くことに慣れていません。
皆さんにとって大変な事は子どもにとっては余計に大変な事です。
そのことに気づくためにも保護者の方が一度作文に取り組んでみるという事は大変有意義かと思われます。
家で指導にあたる際もまた違った視点から見ることが出来るでしょう。
本に慣れていない子どもは課題図書を選ぶ際にも苦労する
読書に慣れている子どもでも少し大変なのが課題図書の選定です。
読書に慣れていても「本を選ぶことに慣れていない子ども」は大勢居ます。
保護者の方に「本を読め」と言われるままに与えられた本を読んでいる子どもにその傾向は多く見られます。
私の出会った子どもにも読書が好きな子は大勢居ますが、自分から読みたい本を選ぶことが出来る子はそのうち3割ほどしか居ません。
クリエイティブな経験を積み重ねていない事と少し被りますが、自発的に自分が読みたい本を選んで読むという経験もまた大切です。
教育熱心な保護者の方ほど子どもに本を与えがちですが、ある程度読書の習慣がついたら図書館で子どもに好きな図書を選ばせることが大切です。
自分で一歩を踏み出すことは近年特に強調されています。
知識を詰め込む時代は終わった
これまでの受験観ですと「とにかく知識を詰め込め」と言われてきたものですが、現在は事情が少し違います。
読書感想文は時代に沿った能力を身につけるには丁度良い課題です。
少し話が脱線しますが、補足させていただきます。
これからの時代は「クリエイティビティが大切に」
新しい学習指導要領が平成30年に改定されました。
その中で「思考力・判断力・表現力」が学校教育の中心に据え置かれました。
これまでの知識詰め込み型の教育から欧米的な「子どもが主体的に考える学習」にシフトする事になります。
この指導方針の転換と読書感想文がどのように関わってくるのでしょうか。
読書感想文では現在の教育目標である思考力・判断力・表現力の総合的な発達に大きく役立つ事になります。
本を読んで考えや感想を整理する思考力、正しい言葉を選択しどのような構成にするか考える判断力、そしてその考えを実際に文章にする表現力をフルに使うことでクリエイティビティの高い(=柔軟な発想が出来る)子どもに成長させることが可能になります。
もやしと慶應
ダイヤモンド・オンラインの記事に以下のようなものが掲載されていたので紹介します。
『慶応の中学入試では「もやし一袋」の値段が問われる』
「慶応普通部では、過去に、「もやし」一袋の値段や「牛乳」1パックの値段を知ってないと答えられないような問題が、実際に出題されています。スーパーに日常的に行く子、買い物のお手伝いをしている子が有利でしょう」
上記の記事ではほかに「東京の区の名前」や「場所」などを答えさせる出題もあったと記されています。
慶応大学と言えば難関私大として知られていますが、中学入試ではいわゆる「教科書の知識」が問われる問題は多くありません。
想像に容易い、いわゆる詰め込み型の受験勉強はむしろ不利に動いてしまいます。
これを難しいと感じますか。
保護者の皆さんにとっては難しい問題では無いと思いますが、生活の知識を持っていない子どもにとっては難問です。
「教科書に載っていない」知識が今の時代は求められているという事です。
そのためには作文などを通して自分の様々な感情をアウトプットする必要があるという事です。
適性検査の受検に読書感想文は効果的
中高一貫校を受験する際には適性検査の受検は避けては通れません(適性検査では検査を受けるので「受検」と表記します) この適性検査の受検にも読書感想文など自分の考えや知識をアウトプットする能力が役に立ちます。
知識はむしろ重視しておらず、必要十分の基本的な知識を身に着けておくだけで大丈夫な場合が殆どです。
適性検査の問題を見てみるとテキストで学ぶような知識は殆ど出題されず、生活を営む上で身につける知識や日常のシーンを科学的に見る力、それらを説明するための表現力が必要となる問題が殆どです。
よくわからない場合は書店などで適性検査の過去問をご覧いただけます。
北海道の場合は開成中等教育学校が適性検査を実施している学校です。
参考にしてください。
子どもに読書感想文を書かせる際の指導ポイント
では家庭で読書感想文を指導する際の注意点を実際に確認しましょう。
本の選び方について
本の選び方についてですが、保護者の方から「この本を読みなさい」という指定はしてはいけません。
子どもの主体性を損なうばかりではなく、上下関係を意識しすぎた結果、指示を待つ大人に育ってしまいます。
だからと言って子どもに任せきりにする事もできません。
通常学校から指定される読書感想文の課題図書は文学作品が殆どで、子どもの興味関心にそぐわないタイトルが多いです。
「文学作品に慣れ親しむ」という大義名分のもと、大人が読むにも難しい書籍を指定してくる学校もある程です。
そこで保護者の方におすすめしたい事が「一緒に図書館へ足を運んでみる」という事です。
共働きをされているご家庭では少しむずかしい部分があるかもしれませんが、課題図書を一緒に選ぶだけでも読書感想文への熱意は変わります。
「お父さんやお母さんと一緒に選んだから最後までやり抜きたい」と考える事が大切です。
独りよがりではなく、誰かと一緒に物事をやり遂げるという社会生活の基本を学ぶ事が出来ます。
成長してある程度能力がついてくると、何でも無理をすれば一人で出来るようになります。
学校の中ではそれで良いかもしれませんが、実際に社会人になる事を考えると独りよがりの考え方はあまり良くありません。
一人で出来ることに制限があるうちに他人の力を借りて物事をすすめるという考え方を身につけるようにすると良いでしょう。
また普段から色々な本を読む習慣を身につけるという事も有意義でしょう。
漫画から少し難しい本まで幅広く本に慣れ親しんでいるうちに、課題図書にあげられるような小難しい本も抵抗なく受け入れられるようになります。
簡単なものや受け入れられやすいものから入るのは学びの基本です。
時間があるのであれば少しずつ難しいものにトライする予防的な学習方法も有効です。
フレームワークを用意して書かせる
作文をはじめクリエイティブなものに取り組むという事は大きな負担が強いられます。
そこで保護者の方がある程度構成を決めて作文を取り組ませるという方法も良いでしょう。
このフレームワーク、言い換えれば型ですがこれは別の分野でも多く用いられているものです。
例えばプログラミングでは開発を効率的に行う為にフレームワークを用いる場合もあります。
皆さんも御存知のツイッター社が開発したフレームワークは多くのWEBサイトの開発に用いられています。
それほど型を作るという事は重要かつ物事を効率よくすすめる為に重要なものです。
見た目も綺麗に仕上がり悪いことは一つもありません。
ただしこの方法は一回限りの作文の場合、悪く傾く可能性もあります。
毎年毎年、読書感想文の時期にだけ作文をするという場合、その毎回で決まったフレームワークを用意すると「作文で困ったらお母さんが教えてくれる」と思い込むようになり大変危険です。
この方法を使う場合は一定の感覚で文章を書くトレーニングをさせると効果的です。
毎日日記を書いたり夕飯のレシピを記録させたり、何なら書評を書かせるとそれがそのまま読書感想文の練習になります。
子どもに無理のないように文章を書かせましょう。
出来るだけ一文を短くする
具体的な作文指導としては「一文を短くする」という点を強調しておけば多くの場合キレイな文章を書くことが出来ます。
作文の基本はコンテンツよりも文面の綺麗さが多くを占める場合が多く、体裁さえしっかりしていれば拙いコンテンツでもそれなりに成立した文章であるといった印象を持つことが出来ます。
私が作文添削をする際にはこの一点を集中して指導するようにしています。
読書感想文であるか否かを問わず子どもに指導を行う際はこの点以外は重要視していません。
それほど文章を書く際の一文の長さは重要となります。
多くの場合子どもは文章が冗長になります。
我々のような大人とは違い、子どもは文章の全体を十分に見切れていないため、目の前の文章を書くことにしか集中することが出来ません。
そのため句読点が三行も向こう側にある非常に読みにくい文章となる訳です。
接続詞を多用した無駄に長い文章が多い中で、テンポよく文章を区切った作文があるとそれだけで目に付きやすいものです。
他の子どもに一歩リードするという点では見出しにある通り「一文を可能な限り短くする」という事に熱を注ぐ事です。
あとは子どものブレインストーミングや着眼点のセンスに気をつければ綺麗な文章を比較的効率的に書くことが出来るでしょう。
一段落ワントピックが原則
作文を行う際は一つの段落にトピックは一つであるという事にも注意しないといけません。
例えば電車の乗り方について作文をすることを考えてみましょう。
その場合作文には大きく分けて「チケットの買い方」「改札の通り方」「電車内でのマナー」3つのトピックが必要になると予想されます。
一段落ワントピックの考え方を使うと段落は少なくとも3つ、導入文やまとめ文を使って文章を整える事を考えると5段落は必要です。
子どもの場合、全体のバランスを考えながら文章を書くことが非常に苦手ですので上に紹介したトピックをすべて1段落で収めようとしてしまいがちです。
こうすると文章が非常に読みにくくなります。
私達は文章を読む際には段落ごとに要旨を捉えながら筆者の主張を掴んでいます。
そのため段落内で取り扱うトピックは1つに絞るということが必須です。
子どもに段落意識を根付かせるためには事前のブレインストーミングが欠かせません。
事前に書きたいことを単語で良いので紙に書き出す。
似たような主張ごとに分類してクラスター化する。
そうすることで一つの読書感想文にも多くのトピックがあることに気づかせることが出来ます。
あとはそのトピックごとに段落を分けて書きすすめるのみです。
読書感想文が学業に与えるメリットについて
では実際に読書感想文を書くことで学業にどのようなメリットがあるのでしょうか。
もちろん学校教育として施されているため利点は多く存在します。
ここでは読書感想文を通じて得られる能力を3つご紹介します。
具体的な理屈を併せてご紹介していますのでどうぞ御覧ください。
国語力が底上げされる
読書感想文は実際に文章を読み、文章を書くため国語力に関しては言うことが無いでしょう。
読書を通じて日本語を書く能力が格段に上がります。
国語と言えば日本語文法や語彙などが学力として分かりやすいものではありますが、作文力や読解力に関しては測ることが非常に難しいものです。
せいぜい作者の気持ちを読み取ることであったり作品の本旨を捉えるなど曖昧なものでしょう。
皆さんは真の国語力をご存知ではありません。
真の国語力とは「自分自身で日本語を使いこなして自分の考えている事を相手に伝える事」です。
国語は学問とは言え、実際にコミュニケーションで用いないと真価を発揮できない強化です。
つまりコミュニケーション能力が高ければ国語の問題も多くの場合勉強無しでも解答が可能と言うことです。
日頃から日本語に慣れ親しんで使用していれば国語の問題を難しいと感じることはありません。
本質を理解してれば、あとはその応用です。
読書感想文を通じて日本語を使用する機会を増やす事で国語力を底上げする事が可能です。
中学校数学の学習準備になる
意外に思われるかもしれませんが読書感想文を通じて中学以降学習する数学の考え方の素地を養うことが出来ます。
読書感想文を作成するには数学的思考が必須となります。
どのように文章を組み立てるか、読書を通じて感じたことをどのように表現するか。
読書感想文には数学的思考が必要です。
文系科目であるため国語力が全てと思われがちですが、作文は意外にも論理的な思考力が必要となってきます。
整理すると作文は「科学的に事物を観察する→それを文章を使って表現する」という流れで出来ています。
読書感想文の場合は「本を読んで得た知識と自分の経験や感情をベースにどのような文章を書くか整理する」いわゆるブレインストーミングを行い、実際に何を書くかについてを考えます。
そして吐き出したアイデアをクラスター化(トピックごとに括る)させ、段落や文字数の配分を考えながら書きます。
このように読書感想文を書く際に科学的思考を意識する事で中学数学の学習準備を無意識の中ですすめることが出来るという事です。
コミュニケーション能力が上がる
先程の国語力の側面とかぶる部分がありますが、読書感想文を熱心に書くことでコミュニケーション能力が育ちます。
読み手を意識して綺麗な文章・言葉遣いを考えたり話の流れを意識して作文を書いた場合、コミュニケーションの素地である言語力が飛躍的に上がります。
実際のコミュニケーションの場面を想像していただければお分かりかと思われますが、コミュニケーションは相手の地位や親密度によって話の内容や言葉遣い、また文章構成そのものが変わる場合もあります。
読書感想文では誰を相手に書いているのかを意識する事で、コミュニケーションに必要な「相手を理解する能力」を育む事が可能であるという事です。
想定する相手は誰でも良いでしょう。
先生や友達、あるいは読書感想文コンクールの審査員でも構いません。
読む人が誰であるかを意識するだけで、ただの感想文から「相手に伝わる読書感想文」へと様変わりします。
さいごに
読書感想文は小学生にとって永遠のテーマです。
子どもが読書感想文に苦戦している事は保護者の方が最も理解している事でしょう。
そのような背景から中にはフリマアプリやオークションサイトで読書感想文自体を販売している業者もあるそうです。
ですが読書感想文には子どもの発達に必要である様々な要素が散りばめられています。
子どものうちに文章を書くことに慣れているとクリエイティブな思考力や科学的な物事の見方などが身につきます。
小学生のうちは苦労するでしょうが、粘り強く取り組んでみてくださいね。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。