保護者は子供に「自尊心を持たせる」ようにしたほうがよいでしょう。
なぜなら、自尊心は「強く生きよう」という気持ちや、「正しく生活しなければならない」という決意をつくるからです。
子供に勉強させたいと思ったら、毎日ガミガミ勉強しなさいと言うより、自尊心を植えつけたほうが早いかもしれません。
強く正しく生きたいと思えば、自然と勉強の重要性を理解できるようになるからです。
自尊心とは
子供に自尊心を植えつけるには、保護者自身が自尊心を理解して、自尊心の重要性を知り、そして自尊心を持つ必要があります。
自尊心をさまざまな辞書で調べると、次のような意味が載っています。
・自分の存在を価値あるものとして肯定する気持ち
・自分の人格を大切にする気持ち
・自分の思想や言動に自信を持つ
・他人からの干渉を排除する態度
・自分を優秀だと思う気持ち
・自分の品位を保とうとする心
・他者に受け入れられようとする態度
・自分を高く評価しようとする言動
これらの定義からわかることは、自尊心を持てるようになると、自分のことを好きになれる、ということでしょう。
そして自尊心を持つと、自分を高めたいと思うことができます。
自尊心の定義のなかに「人格」「優秀」「品位」という単語が入っていることにも注目してください。
例えば泥棒や詐欺師などの悪人でも、自分のことを好きになり、悪事のスキルを高めたいと考えています。
しかし当然ながら、悪人が悪の道を究める気持ちは、自尊心とは呼びません。
正しい自尊心は、自分の人格、優秀さ、品位を守って高めることであり、人格と優秀さと品位のない状態は自尊心とは呼べません。
なぜ子供に自尊心が必要なのか
保護者が子供に自尊心を植えつけることに成功すると、子供は自分自身の欲求として、人格を磨こうとしますし、優秀になろうとしますし、品位ある行動を取ろうとします。
稀(まれ)に、保護者が勉強しなさいと指示していないのに、自分で進んで勉強をする子供がいます。
その子は、自尊心に芽生えている可能性があります。
子供が自発的に勉強を始めるのですから、保護者としてはこれほど嬉しいことはないでしょう。
自発的に勉強するようになるから
ではなぜ、自尊心が身につくと、子供は自発的に勉強を始めるのでしょうか。
それは、自尊心が強い子供は、次のように考えるようになるからです。
- 自分はこんなもんじゃない
- 自分は偉くなるんだ
- 自分はすごいものを開発するんだ
- 自分は人の上に立つ人間なんだ
- 問題だらけの現代社会を変えるのは自分だ
- 自分が勉強して優秀になることは社会のためになる
このように考えたら、誰でも勉強しようという気持ちが高まるはずです。
そして、同じ勉強量であっても、保護者から叱られてやる勉強より、自発的に取り組む勉強のほうが、成績や学力を高める効果が上がります。
それは、「なぜこうなるのか知りたい」「知識を獲得したい」という気持ちが強いほうが、勉強に深みが増すからです。
教育心理学者で早稲田大学教授の小塩真司氏は、自尊心が高い人は心理的に健康で社会に適応しやすく、そうでない人は心理的に不健康で社会に適応しにくい、という特徴があると指摘しています。
自分を大切にすることができるから
自分を大切にすることの真逆の行為は、自殺です。
自殺にはさまざまな理由や動機がありますが、自尊心の欠如もその理由になり得ます。
なぜなら、自尊心が欠如した人の心は、次のようになっているからです。
- 自分の存在を無価値であると考える
- 自分の人格を大切にしない
- 自分の思想や言動に自信がない
- 自分は優秀ではないと思う
- 自分に品位は要らないと考える
- 他者に受け入れられなくても平気だ
- 自分を低く評価しようとする態度を取る
これらは、先ほど紹介した自尊心の定義を「否定した」ものです。
自尊心を否定すると、その先には暗闇しかないことがわかります。
これでは自分で自分を大切にすることはできません。
自分を大切にしない行為とは、欲望に任せた行動、無謀な行動、迷惑行動、アルコール中毒、ギャンブル中毒、犯罪行為などです。
そして究極の自分を大切にしない行為が、自殺です。
自尊心を持つことは、自殺予防につながる可能性があります。
だから保護者は子供に、自尊心を持たせる必要があるわけです。
自分の子供が学校でひどいいじめに遭っているとします。
子供に自尊心がないと、いじめられているうちに「自分はいじめられても仕方がない人間なんだ」と思ってしまうかもしれません。
自尊心があれば、「自分がこのような仕打ちを受けるのはおかしい。自分はいじめられてよい人間などではない」と考え、対策を検討するようになるでしょう。
勇気を出して、自分をいじめる同級生に立ち向かうようになるかもしれません。
もしくは、勇気を出して、親や教師に相談するかもしれません。
そもそも保護者に自尊心はあるのか
ここまでの説明を読んでも、「自尊心はそれほど大切なものなのか」と感じている保護者もいるでしょう。
保護者自身の自尊心が薄いと、「子供に自尊心が必要」と言われてもピンとこないでしょう。
自尊心が希薄な保護者は、実は少なくありません。
日本は世界一自尊心が低い?
先ほど紹介した小塩氏によると、2005年にRosenberg氏という研究者が、「自尊心尺度」を用いて53の国・地域の17,000人を調べたところ、日本の平均値は最も低かったそうです。
つまり日本は、世界一自尊心が低い国といえます。
自尊心尺度とは、「他者と比較して自分がどれくらい優れているか」や「他者と比較して自分がどれくらい価値のある人間か」を調べるツールです。
この調査結果から、日本に「自尊心はそれほど重要な価値観なのか」と疑問に思う保護者が多くいたとしても不思議ではありません。
子供の自尊心のために自尊心を尊重しよう
子供は、自尊心を持っていたほうがよいと考えます。
もしこの意見に賛同できるのに、自分では自尊心をそれほど強く持っていない保護者がいましたら、やはり保護者自身が、自尊心の重要性をしっかり把握したほうがよいでしょう。
学問の重要性を理解できない保護者が、子供に勉強する理由をうまく説明できないのと同様に、自尊心が希薄な保護者がいくら子供に自尊心を持ちなさいと言っても、説得力は生まれないからです。
自尊心を培う方法
子供の自尊心を培う方法を考えていきましょう。
「君は価値がある」「君は優秀だ」と言い続けよう
自尊心とは、「自分に価値があると、自分で思うこと」です。
これを保護者の視点から考えると「子供に、自分に価値があると思わせること」になります。
そのためには、保護者がその子の価値を認めてあげなければなりません。
子供の価値を見出したら、それを口に出しましょう。
子供に「君には価値がある」「君は優秀だ」と言い続けましょう。
1日3回言ってもいいくらいです。
朝食を食べながら1回言い、夕方から夜にかけて2回言えば、無理なく1日3回「君には価値がある」と言うことができます。
保護者が1日3回言えば、子供は1年で1,068回も「君には価値がある」と聞くことになります。
それだけ聞けばその言葉は脳裏に焼きつき、「自分には価値がある」と思えるようになります。
成功体験をさせよう
人の価値の高さと低さは、言動で左右されます。
価値あることを言い、価値ある行動をする人は、周囲から価値ある人とみなされます。
保護者は子供に、価値あることを言うように指導してみてください。
例えば子供が、自分の友達のことを無邪気に「チビ」や「デブ」と呼んでいたとします。
保護者がそれを聞いたら、「友達のことをそのように言うものではない」と叱るだけでなく、人の欠点に注目することがいかに下卑た行為であるかを教えてあげてください。
そして、人の長所に注目すれば、素敵な人間関係を築くことができることも教えてあげてください。
子供自身が「チビ、デブ」と言ったことを恥じ入り、友達の長所を保護者に紹介するようになるかもしれません。
それは、子供が価値あることを言い始めたことになります。
価値ある行動の体験を積ませるには、ボランティアがよいでしょう。
災害被災地での復興支援ボランティアは、子供に次のことを教えてくれます。
- 災害の恐さ
- 人間の無力さ
- 自分の無力さ
- 本当に必要とされる「助け」
- 人を助けることができる能力
- 協力することの意義
大規模災害を前にすると人は無力ですが、それでもすべての人が少しずつ力を提供すれば、驚くほど速く復興することができます。
そして、「自分の無力さ」と「わずかでも役に立てたこと」の両方を実感できると、自分の能力や価値を高めたいと思えるようになるでしょう。
例えば、被災地では、医師や看護師たち医療従事者の能力がとても必要とされます。
ボランティアとして被災地に赴いた子供が、彼らの仕事ぶりを見たら、「自分もああいう人物になりたい」と思わないわけがないでしょう。
自己否定から救ってあげる
保護者がネガティブに育てたわけではないのに、自己否定が強い子供がいます。
そのような子供は、保護者が一生懸命褒めても、「本当はそう思っていないのに、自分を勇気づけようとそう言っているだけなんだ」と思ってしまいます。
このような状態では、自尊心を植えつけることはできません。
この場合、まずは、自己否定の気持ちを取り除いてあげて、その後、自尊心について考えていくという、2段構えの取り組みが必要になります。
保護者は、我が子が自分を否定するようになった原因を探しましょう。
次の項目のなかに、当てはまるものはないでしょうか。
- 勉強ができないから無価値だと思っている
- 運動ができないないから無価値だと思っている
- 何事もうまくできない自分は必要とされていないと思っている
- 自分は他人から嫌われていると思っている
- 自分は容姿が悪いと思っている
- 努力しても報われないと思っている
- 他人からどう思われようと気にしない
子供がこのように思うことは、珍しいことではありません。
子供は「本物の価値」を知らないので、自分が知っている価値がすべての価値だと思っています。
ある子供が、勉強ができることに価値があると思い、その他のことには価値がないと思っていたとします。
その子の学校の成績が悪ければ、その子は自分を無価値であると考えます。
子供がそのように考えていたら、保護者は、勉強以外の行為にも価値があることを教えればよいわけです。
保護者と子供で、価値ある行為について考え、子供がそれに取り組むことができれば、子供に「自尊心の下地」ができます。
下地ができれば、あとは子供の得意分野を伸ばしていけば、少しずつ自尊心が芽生えていくはずです。
保護者は「勉強だけが価値あること」と思っていませんか?
勉強ができることは、価値のある行為です。多くの保護者は、自分の子供の学力が上がることを願っています。
子供が勉強の価値に気がつき、勉強に励んで学力が上がれば、保護者も子供も幸せになります。
自尊心も満たすことができます。
しかし、すべての子供が、勉強が得意なわけではありません。
現在の学校制度では、どうしても子供たちを学力で順番づけてしまいます。
そのため、必ず「勉強ができる子供」と「勉強ができない子供」が生まれてしまいます。
もし自分の子供が、一生懸命努力しているのに勉強ができなければ、勉強以外の価値ある道を、保護者と子供が一緒に考えていきましょう。
このとき、保護者の「偏見」が邪魔になるので注意してください。
例えば、ほんの5年前まで、テレビゲームは単なる娯楽でした。
しかし今は、テレビゲームはeスポーツと呼ばれ、プロ選手を輩出する競技になっています。
勉強が苦手な我が子が「eスポーツのプロ選手になる」と言ったとき、保護者は、テレビゲームのプレイをする仕事に、価値を見出すことができるでしょうか。
もし保護者に、「テレビゲームは所詮は娯楽。eスポーツといったって単なる流行であり、そこに有益な価値はない」という偏見があると、テレビゲームに熱中する我が子を、頭ごなしに否定してしまうでしょう。
それではその子は、自尊心を持つことはできません。
確かにeスポーツのプロ選手になれるのは一握りの人にすぎません。
しかし、テレビゲーム業界やeスポーツ事業は、とてつもなく大きな市場を築いています。
テレビゲーム関連の会社に入社できれば、やりがいのある仕事や高収入を期待できます。
eスポーツで活躍できなくても、テレビゲームの知識や経験が豊富なら、いわゆる「一流会社」に入ることも可能です。
このように、保護者が偏見を取り除けば、子供の価値を見つけることは簡単です。
「プライドが高すぎる」ことは問題か
ここまで、自尊心の重要性と、子供に自尊心を持たせる意義と、自尊心の獲得の仕方をみてきました。
保護者はぜひ、我が子の自尊心を培ってください。
そのうえで、注意すべきことがあります。
自尊心が「高すぎるプライド」をつくってしまうことがあります。
自尊心は、よい概念ですが、高すぎるプライドは悪い概念です。
高すぎるプライドは、次のような弊害を生みます。
- 他人を下に見る
- いつも注目されていないと気が済まない
- 他人と調和できない
- 他人と協力できない
- 努力を避けたがる
こうした弊害が顕在化すると、その人は嫌われてしまいます。
成長もできません。
保護者は、我が子に自尊心を教えるとともに、
- 他者を敬う気持ち
- 弱者を助ける正義感
- 努力の尊さ
の3つも同時に教えましょう。
冒頭で紹介した自尊心の定義のなかに、次の項目がありました。
・他人からの干渉を排除する態度
これも自尊心の特徴のひとつなのですが、これは、悪い言動を引き起こす可能性があります。
自尊心は自分を肯定する考え方なので、他者が自分を否定すれば、その他者を排除することになります。
自尊心を身につけるなかで「他人からの干渉を排除する態度」まで身についてしまうのは仕方がないことです。
先ほど紹介した3つのことは、我が子が「プライドが高すぎる嫌われ者」になることを予防します。
1)他者を敬う気持ちがなぜ必要か
自尊心と一緒に「他者を敬う気持ち」を教える必要があるのは、自尊心が利己主義を強めてしまうからです。
他者を敬う気持ちを持てば、利他主義になり、利己主義を中和できます。
自己主義とは、自分の利益と快楽だけを追求することです。
利他主義とは、他人の利益を尊重することです。
保護者は、我が子の利己主義が強すぎると感じたら、「自分の利益を大きくしたら、他人に親切にしなければならない」と教えてあげてください。
2)弱者を助ける正義感がなぜ必要か
人が成長したり成功したり強くなったり、多くのお金を得たりするのは、弱い人を助けるためでなければなりません。
お金や力を自分のためにしか使わないのは、間違った行為です。
しかし、子供が「成功意欲」と「弱者保護の気持ち」の両方を持つことは簡単なことではありません。
むしろ、成功意欲が強くなると、弱者を否定するような考えが芽生えることがあります。
保護者は、成功したり強くなったりした人が、弱い人を助けることで、健全な社会がつくられることを教えてあげてください。
3)努力の尊さがなぜ必要か
子供はどうしてもサボりたくなります。
自尊心が強くなり「自分は優秀だ」と思いすぎると、努力を怠るようになります。
ただ、保護者はこれまでずっと、子供に自尊心を植えつけるために「君は優秀だ」と言い続けてきたはずです。
子供の成績が落ちたときに「本当は君は優秀ではない。だから努力しなさい」と言うべきではありません。
そこで、次のように言ってあげてはいかがでしょうか。
そして、優秀な素質を持っているのに、努力を怠ったばかりに優秀な人になり損ねた人は、たくさんいる。
イチローさんも、孫正義さんも、オリンピックの金メダル選手も、ノーベル賞受賞者も、エリート官僚も、優秀な素質に努力を加えて、ようやく成功しています。
こうした人たちの偉人伝を子供に教えれば、子供は、自尊心と努力の両方の重要性を理解できるでしょう。
まとめ~幸せの欲求の源
日本人は自尊心をあまり重視しないので、保護者が意識的に教育していかないと、子供に自尊心が芽生えるのは難しいかもしれません。
しかし自尊心は、子供の勉強モチベーションや成長意欲や成功欲求をつくるのに欠かせません。
勉強モチベーションと、成長意欲と、成功欲求は、幸せにつながります。
勉強をすれば、よい高校やよい大学やよい会社に入ることができます。
成長したいと思い続ければ、社会人になっても努力や勉強を続けることができます。
成功したいと思えば、成功を呼び寄せられるかもしれません。
つまり自尊心は、いわば「幸せ欲求の源」といえます。
自分を大切に思う気持ちと、幸せになりたいという気持ちは、とても似ています。
幸せは簡単にはつかめません。
最低でも、幸せになりたいという気持ちが必要です。
「自分のような人間は、幸せになってよい」と思えると、幸せを手繰り寄せることができるかもしれません。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。