本来、このようなことがあってはならないのですが、大学受験において女子の浪人は不利になってしまうことがあります。
この事実によって、次の疑問がわいてきます。
- 女子の浪人は、どのように不利になっているのか
- なぜ、女子の浪人が不利になることが本来あってはならないのか
- 女子の浪人が不利になると、女子にどのような不利益が生じるのか
この3つの疑問について考えていきましょう。
女子の浪人は、どのように不利なのか
女子の浪人は、どのように不利になっているのでしょうか。
現在における女子の浪人がどのようなものかを見ていきましょう。
女子の「浪人意欲」は男子より弱い
女子の浪人に関するデータはあまり多くないのですが、京大の医学部人間健康科学科の入学者の内訳が参考になります。
2019年度の京大医学部人間健康科学科の入学者の内訳
合格者数 | 現役合格 | 浪人合格 | |
男子 | 35人 | 13人(37.1%) | 22人(62.9%) |
女子 | 40人 | 27人(67.5%) | 13人(32.5%) |
人間健康科学科は医学部ですが、医者ではなく看護師や理学療法士などを養成する学部です。
医者を養成するのは、医学科です。
そのため、人間健康科学科は女子の入学者のほうが多い、珍しい学科になっています。
人気の京大のなかでも特に女子に人気の学科であるにもかかわらず、女子の合格者は、浪人合格者が少なく、現役合格者が多くなっています。
その理由はいくつか考えられますが、そのうちのひとつは「女子は浪人意欲が弱い」というものです。
「浪人意欲」とは「浪人してでも高い偏差値の大学に入りたい」という気持ちのことです。
それではなぜ、女子の浪人意欲は、男子に比べて低いのでしょうか。
この理由もさまざまあると思いますが、そのうちのひとつは「女子は浪人コストの元が取りづらく、男子は浪人コストの元が取りやすい」ということです。
女子は「浪人コスト」の元を取れない?
浪人コストとは、浪人にかかるお金や時間的なロスのことです。
浪人をすると塾や予備校に通うことになるので、現役合格者よりお金がかかります。
また浪人するとその分だけ社会に出る日が遅れます。
男子の場合、こうした浪人コストを支払ってでも、高い偏差値の大学に行く価値があります。
それは、高偏差値大学を出たほうが、生涯年収を多く獲得できたり、社会で高い地位に就くことができたりするからです。
女子も高偏差値大学を出たほうが、生涯年収や社会的地位には有利ですが、男子ほどには有利になりません。
日本では女性首相が誕生したことがなく、昨今変わりつつありますが企業の社長や副社長・専務などほとんどは男性であることが多いです。
そのため女子には「浪人して無理して高偏差値大学に入るより、現役で合格できる大学に入ったほうがよい」と考える人が多いのです。
多くの人が高学歴を求めるのは、そのほうが社会で有利だからです。
つまり、社会でそれほど有利にならないのであれば、高学歴を獲得するモチベーションは下がります。
内閣府によると、2016年度の大学進学率は、女子48.2%、男子55.6%でした。
女子のほうが、高学歴モチベーションが低いと推測することができます。
女子の大学進学率が低いのは、女子の意思だけではないでしょう。
保護者のなかにも「息子には高学歴を獲得してもらいたいが、娘にはそれほど強く高学歴を獲得してほしいとは思ない」と考えている人は少なからず存在します。
それが女子の大学進学率の低さや、浪人意欲の低下の原因になっていると推測できます。
そして、女子自身や保護者が、それほど強く「女子の大学進学」や「女子の浪人」を望まないのは、社会の影響です。
日本は、女性が高学歴を獲得しても、男性ほどには、大きなメリットが得られない社会なのです。
この点については、後段の「女子の浪人が不利になると、女子にどのような不利益が生じるのか」の章で考察します。
女子北大生は3割もいない
2007年度の北大入試(前期日程)の学部ごとの女性合格者の割合は以下のとおりです。
文学部・・・・50.3%
教育学部・・・・61.7%
法学部・・・・33.5%
経済学部・・・・28.4%
理学部・・・・19.9%
医学部(医学系)・・・・10.0%
医学部(保健学系)・・・・59.4%
歯学部・・・・34.3%
薬学部・・・・28.8%
工学部・・・・10.4%
農学部・・・・25.7%
獣医学部・・・・42.9%
水産学部・・・・33.9%
50%を超えている学部は、女子のほうが多い学部です。
医学部を「2つ」とカウントすると、全13学部中、女子が多い学部は、文学部、教育学部、医学部(保健学系)の3学部だけです。
総計では女子は27.4%にすぎません。
つまり北大は、7割以上が男子という「男子校」なのです。
もし「男子のほうが、女子より大学入試が得意である」というデータがあれば、北大が男子校であっても問題はないでしょう。
しかしそのようなデータは存在しません。
なぜなら、男子のほうが女子より大学入試が得意であるという事実はないからです。
むしろ、多くの人は「小学校や中学校では、平均して女子のほうが成績優秀者が多かった」と記憶しているのではないでしょうか。
それは、何の条件もつけずに、男女に同じ勉強をさせたら、ほぼ同じ結果が出るからです。
頭のよし悪しに、男女差はありません。
北大は、多くの道内生徒が「入りたい」と考える、憧れの存在です。
その北大で、女子学生が極端に少ないのは、「不思議なこと」であり「おかしなこと」であり、そして「いびつな現象」といえるでしょう。
なぜ、女子の浪人が不利になることが本来あってはならないのか
第2の疑問「なぜ、女子の浪人が不利になることは、本来あってはならないのか」について考えてみます。
女子の浪人が不利になることがあってはならないのは「男女は平等であるべき」だからです。
男子のほうが多く高偏差値大学に行くと、社会の重要な地位に就く男性が、ますます増えてしまいます。
日本の社会は多くの問題を抱えています。
そして、日本の社会の重要な地位に就いている人のほとんどが男性です。
つまり、日本の社会問題の多くは、男性が引き起こしている、ということができます。
だから男女の社会進出の機会を、少なくとも平等にすれば、社会は改善されるはずです。
もちろん、日本の経済力は世界3位であり、これは男性優位の社会がつくったものです。
しかし、女性がもっと日本経済で活躍していたら、世界2位から3位に転落しないで済んだかもしれません。
政府も、女性がもっと社会で活躍すべきだと考えています。
内閣府は、男女が対等になる社会になれば、「職場の活気」と「家庭生活の充実」と「地域力の向上」を図ることができる、としています(参考:男女共同参画社会 )。
今は到底、男女が対等とはいえず、長らく女性のほうが地位が低い状態が続いています。
つまり、職場に活気がなく、家庭生活が充実してなく、地域力が向上しないのは、女性の地位が低いからだと、政府は考えています。
なぜ、女子の浪人が不利になることは、本来あってはならないのでしょうか。
それは、女子が高偏差値大学に進学する機会が減り、その結果、社会の重要な地位に就く女性が増えず、「職場の活気」と「家庭生活の充実」と「地域力の向上」を図ることができないからです。
社会をよくするためにも、女子の浪人が不利になる現状は変えなければなりません。
女子の浪人が不利になると、女子にどのような不利益が生じるのか
最後の疑問「女子の浪人が不利になると、女子にどのような不利益が生じるのか」について考えてみましょう。
高偏差値大学に入るチャンスが減る
浪人コストを払ってまで浪人するのは、現役生より1年以上多く受験勉強をすることで、現役では入ることができなかったレベルが高い大学に入るチャンスを広げるためです。
そうであるならば、女子の浪人が不利であることによって、女子は「高偏差値大学に入るチャンスが減る」不利益を被っていることになります。
北大の合格者の現役生と浪人生の比率は、現役6割、浪人4割です。
この数字からは、北大は「浪人しないと入りにくい大学」であり「浪人してでも入る価値がある大学」といえます。
女子の浪人が不利になっている現状が改善されれば、もっと多くの女子が北大に入ることができるようになるでしょう。
高収入を獲得するチャンスが減る
女子の浪人が不利だと、女性は、収入が減る不利益も被ります。
「女性の賃金は男性より安い」と「高偏差値大学ほど高収入を得られる」は、いずれも事実です。
日経マネー研究所によると、大卒男性の50~54歳の平均年収は9,718,100円ですが、大卒女性の50~54歳の平均年収は8,111,100円でした。
その差は約160万円です。
55~59歳では、大卒男性の9,353,700円に対し、大卒女性は7,474,600円でした。
差は約190万円に広がっています。
50~59歳の10年間で、男女の収入差は1,600万~1,900万円になるわけです。
また、オープンワークという会社が、30歳時年収を、卒業した大学別に調べたところ、次のような結果になりました。
1位 東大:810万円
2位 一橋大:740万円
3位 京大:728万円
4位 慶応大:727万円
5位 東京工大:708万円
見事に超難関大がベスト5を占めています。
北大は16位(608万円)でした。
MARCHでは、中央大19位(596万円)、明治大21位(587万円)、立教大23位(584万円)、青山大28位(575万円)がトップ30に入りましたが、法政大は圏外(31位以下)でした。
以上のことから日本は、「高偏差値大学」を出ている「男性」のほうが高い収入を得やすい社会、ということができます。
女性は、高偏差値大学に入るチャンスが少ないだけでなく、高い収入を得るチャンスも少ないのです。
「女子の浪人が不利になる」現状は、変えるべきでしょう。
まとめ~すべてを変える価値はある
女子の浪人が不利になっていることの原因は、根深いところにあるのかもしれません。
例えば「男のプライド」です。
この言葉には「男子たるもの、女子に負けるわけにはいかない」という気持ちが含まれています。
「男のプライド」が強すぎる男性は、女性に命令されることを嫌います。
そのような男性は、女性が高い地位を獲得することを望みません。
このネガティブな気持ちが、めぐりめぐって、女子の浪人を不利にしているのではないでしょうか。
このように考えると、女子の浪人が不利になっている現状を変えるには、「男のあるべき姿」から変えていく必要があります。
それを実行するには、社会を大きく変える必要がありますし、それを実行できたら、社会は大きく変わるでしょう。
社会を大きく変えると「痛み」を受ける人が出現します。
しかし、いくら痛くても、男女は対等であるべきです。
すべてを変えることになっても、女子の浪人が不利になっている現状を変える価値は十分あるはずです。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。