有名芸能人が、自分の子供をインターナショナルスクールに通わせていることがよく報道されます。
そのためインターナショナルスクールについては、次のような華やかなイメージを持っている人が少なくありません。
- セレブたちに選ばれる高級・高等な教育を行う学校
- 同級生は外国大使館や外資系大企業の外国人駐在員の子供
- 教師が外国人なので国際感覚を磨くことができる
- 卒業するころには英語がペラペラになっている
これらがすべて間違っているわけではありませんが、期待しすぎないほうがいいでしょう。
インターナショナルスクールに通うメリットはありますが、世界的にみても優れている日本の学校教育を受けられないというデメリットがあるからです。
インターナショナルスクールは学校ではない
インターナショナルスクールは、スクールと付いていますが学校ではありません。
インターナショナルスクールは、小学校や中学校や高校に通う年代の子供を集めて、小中高校で教えることを教えていますが、小学校・中学校・高校ではありません。
インターナショナルスクールを卒業しても、小学校卒、中学校卒、高校卒にはなりません。
小学校は特別な手続きを踏めば卒業できるかもしれない
文部科学省は、「小学相当」のインターナショナルスクールを卒業しても中学校に入学できない、との見解を示しています(※)。
また、「中学相当」のインターナショナルスクールに通っている子供が、途中から中学校に編入することもできない、としています。
ただ、例外的に「小学相当」のインターナショナルスクールに通っていても小学校を卒業できることがあるようです。
「ようです」というのは、実際に、子供を小学校に在籍させながらそこにはほとんど通わせず、「小学相当」のインターナショナルスクールに通わせているのに、在籍している小学校を卒業できることがあるからです。
この場合、インターナショナルスクールで勉強していることを小学校の校長に認定してもらい、小学校を卒業したことにしてもらいます。
このような手続きを踏めば、「小学相当」のインターナショナルスクールを卒業しても、小学校卒の学歴は残り、中学に進学することもできます。
ただこれはあくまで例外ケースなので、保護者は事前に小学校の校長に確認しておきましょう。
さらにその校長が転任しても「卒業ルール」が変わらないように、教育委員会にも確認を取っておいたほうがいいでしょう。
中学校の卒業は難しいかもしれないが「中卒認定試験」がある
中学校に在籍させながらほとんど通わせず、「中学相当」のインターナショナルスクールに通わせる場合、中学卒業の認定を受けることは難しいかもしれません。
中学を卒業しないと、高校入試の受験資格は得られません。
ただ、中学校に在籍させず、「中学相当」のインターナショナルスクールを卒業させて、高校入試の受験資格を取得する方法もあります。
それは文部科学省の「中学校卒業程度認定試験(中卒認定試験)」を受ける方法です(※)。
この試験に合格すれば、高校入試を受験する資格を得ることができます。
ただし中卒認定試験に合格しても「中卒」にはなりません。
あくまで「中学校を卒業した人と同程度の学力を有する」ことが証明されるだけです。
また文部科学省は、中卒認定試験の対象者を「病気などやむを得ない事由によって保護者が義務教育諸学校に就学させる義務を猶予または免除された子」としています。
保護者は、自分の子供が中卒認定試験を受けることができるのかどうか確認しておいたほうがいいでしょう。
※参考:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/sotugyo/1263188.htm
高校には「高卒認定試験」がある
「高校相当」のインターナショナルスクールを卒業しても「高卒」にはなりません。
学歴は中卒になります。
中卒のままでは大学入試を受けることはできません。
ただ、大学によっては、「高校相当」のインターナショナルスクールを卒業した生徒の受験を認めています(※)。
その大学に入って卒業すれば、「中卒、インターナショナルスクール卒、大卒」という学歴になります。
また、大学が認可していない「高校相当」のインターナショナルスクールを卒業しても、「高等学校卒業程度認定試験」(高卒認定試験)に合格すれば大学入試に挑戦することができます。
ただし高卒認定試験に合格しても「高卒」とはなりません。
※参考:http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111319.htm
なぜインターナショナルスクールは「いびつ」なのか
インターナショナルスクールでの教育は、いい意味でも悪い意味でも「いびつ」です。
文部科学省は、日本の義務教育を受けさせることを、子供教育の標準にしています。
それで、仮にインターナショナルスクールのほうが日本の義務教育より優れていたとしても、いびつになってしまうのです。
なぜインターナショナルスクールがいびつになっているのかというと、日本にあるインターナショナルスクールは元々、日本人用につくられたわけではないからです。
日本にあるインターナショナルスクールは、日本で暮らす外国人用につくられました。
そこに日本に住む日本人の子供が通うので、どうしてもいびつさが生じてしまうのです。
ではなぜ、日本にある外国人用のインターナショナルスクールに、日本人の子供が通うようになったのでしょうか。
それは「インターナショナルスクールは、日本の教育をはるかにしのぐ、国際的で優秀な教育を提供している」と思われているからです。
ただ、のちほど紹介するように、日本の教育を上回る教育を提供することは簡単ではありません。
保護者は、自分の子供をインターナショナルスクールに通わせるメリットと、「いびつさ」が生むデメリットをしっかり見極める必要があるでしょう。
海外のインターナショナルスクールに通うことは「いびつ」ではない
親の海外転勤に同行した子供が、海外にある日本人用のインターナショナルスクールに通うことは、文部科学省は標準的な教育とみなしています(※)。
つまり「いびつ」ではありません。
海外にあるインターナショナルスクールで9年間学び、卒業すれば、日本の高校を受験することができます。
ただし、保護者は事前に、その国の在日大使館に問い合わせをして、子供を通わせようとしているインターナショナルスクールが正規の教育機関であるかどうか確認する必要があります。
不正規の教育機関に9年間通わせても、日本の高校を受験する資格は得られません。
※参考:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kaikaku/sikaku/1311012.htm
インターナショナルスクールに通うメリット
ここまで読んだ方は「そうまでしてインターナショナルスクールに通わせるメリットがあるのか」と感じるのではないでしょうか。
保護者と子供が、インターナショナルスクールの教育方針をかなり気に入ればメリットは上回るかもしれません。
例えば、近く父親または母親がアメリカのシリコンバレーに行って起業するので、子供に「アメリカンな教育」に慣れさせておきたいといった事情があればインターナショナルスクールは向いているかもしれません。
例えば札幌に「I.S.K札幌インターナショナルスクール」(豊平区)という「小学相当」のインターナショナルスクールがあります。
ここにはネイティブの英語教師や、バイリンガルの日本人英語教師がいて、「小学6年相当」の学年までに中3レベルの英文法まで教えてくれます。
英語の授業はほとんど英語で行われます(※1)。
I.S.K札幌インターナショナルスクールの学費は次のとおりです(※2)。
- 入学金:216,000円(入学時のみ)
- 授業料:月70,200円(6年で約500万円)
- 教材費:6カ月分32,400円(6年で約40万円)
- 行事費:6カ月分32,400円(6年で約40万円)
6年で総額約600万円になります。
※参考1:http://www.isk-international.jp/school/education/
※参考2:http://www.isk-international.jp/school/price/
日本の義務教育を受けさせないデメリット
インターナショナルスクールの教育に大きなメリットを感じなければ、「いびつさ」によるデメリットのほうが大きくなってしまうかもしれません。
「小学相当」や「中学相当」のインターナショナルスクールに通わせると、日本の義務教育を受けさせないことになるからです。
確かに日本の小学校・中学校には、いじめ問題や体罰問題、過度な平等主義など課題もあります。
しかし日本の義務教育は、素晴らしい人材を無数に輩出し続けている、世界的にも珍しい優秀な教育機関です。
経済協力開発機構(OECD)が2000年に、65の国と地域の15歳の学力を調査したところ、日本の子供たちは「数学的理解力1位」「科学的応用力2位」「読解力8位」という優秀な成績を収めました。
日本はその後、ゆとり教育を始めたため成績を落としますが、脱ゆとりに転換したことでまた盛り返します。
2012年には「数学的応用力7位」「科学的応用力4位」「読解力4位」になりました。
まとめ~日本で外車に乗るようなもの
インターナショナルスクールを否定しているわけではありません。
子供の性質にマッチすれば、日本の教育を受けるより伸びる子供いるでしょう。
しかしインターナショナルスクールの教育は、特殊な教育と考えてください。
そして、標準的な教育である日本の義務教育は、とても優秀であることもあわせて覚えておいてください。
「あの芸能人が自分の子供を通わせているから」という安直な理由で、自分の子供をインターナショナルスクールに通わせないほうがいいでしょう。
さらに、子供に英語力を身につけさせることは重要ですが、英語のためだけにインターナショナルスクールに通わせるのも疑問です。
インターナショナルスクールに子供を通わせることは、日本の道路で外車を走らせるようなものです。
外車はデザインがよく走りも優れていますが、日本には日本の道路事情にマッチした低燃費でよく走り、デザインもよい日本車がたくさんあります。
「うちの子には、他のことは違う特殊な教育を受けさせたい」という明確な理由があれば、インターナショナルスクールは有効な存在になるでしょう。
しかしそうでなければ「日本の学校に通っていればよかった」となってしまうでしょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。