教育困難校という言葉が、昨今ではよく聞かれるようになっています。
言葉を聞いたイメージからすると、いわゆる学級崩壊と考えがちです。
間違ってはいないですが、正しいともいえません。
そこで今回は、社会問題にもなっているこの教育困難校についてフィーチャーしていきます。
教育困難校とは
教育困難校は、その名の通り、学校教育が困難になっている学校のことです。
学級崩壊は、この教育困難校の原因の1つです。
つまり、学級崩壊を始めとして、いじめや貧困、授業態度、校内暴力、暴走族、少年犯罪、性の乱れ、など様々な事情で発生するのが、教育困難校です。
偏差値の低い高校に多い
教育困難校は、想像に難くなく、偏差値40以下の高校に多いです。
もともと親に言われたから、本当は中卒でいいけど働き口がないから、など嫌々通っている子が偏差値の低い高校では相当数います。
彼らは彼女らは、特に良い大学に行きたい、良い企業に就職したい、といった願望がなく、あるいはあったとしてもそのために努力をする気がないので、授業は聞かず、やがて学校に行くこと自体が面倒になって不登校になります。
不登校になれば、そのまま退学してしまう可能性が高くなります。
中退者が段違いに多い
文部科学省のデータでは、全体の高校中退者は2000年頃の2.5%をピークとして、2015年頃には1.5%に下がっています(※1)。
しかし、教育困難校では依然として高い中退率を記録しています。
大阪府のある普通科高校では、入学から卒業までに全体の約半数が中退します(※2)。
定時制では中退者が多い傾向がありますが、普通科高校でこの数字は極めて特殊です。
※参考2:法政大学 教育社会学研究第92集(2013)「教育困難校」におけるキャリア支援の現状と課題
教育困難校となる原因
教育困難校だから、教師の質が特別に低いことはありません。
同様に、偏差値の高い公立高校だから教師も優秀な人が集まる、ということもありません。
平等な人事制度によって配属されるに過ぎないからです。
当然、配属後、数年経てば進学校から教育困難校へいくこともありますし、その逆もまたあります。
生徒側に問題がある
つまり、教育困難校は、えてして生徒側の属性や質に問題を抱えています。
では、普通の高校の生徒と、入学者の半分も中退する子は、何が違うのでしょうか。
教育困難校には、大きく2つのタイプの生徒がいます。
1つは、とても大人しく、コミュニケーション能力が著しく低い子、発達障害を抱えている場合もあります。
もう1つは、クローズなど不良漫画に出てくるような生徒です。
コミュニケーションができない子
前者のタイプの場合、最初の頃は授業にしっかり出て、ノートを取り、掃除や部活もさぼることなく真面目に取り組みます。
しかし人と上手くコミュニケーションができません。
会話ができないので段々と本人のなかでストレスが溜まり、やがて教室からフェードアウトしていきます。
このタイプの生徒は、小学校や中学校でもともと不登校やひきこもりであったケースが多くみられます。
高校は親に勧められて知っている人のいないところに行ったけれど、やっぱり馴染めずダメだった、という流れです。
不良の生徒
不良タイプの生徒の場合、授業妨害をします。
学校に持ってきてはいけない物を持ってきた生徒に注意をした若い教師が、生徒から殴りかかられている動画がネットに出回って話題になりました。
教師は、生徒に手を挙げようものなら即刻、業務停止になるか解雇されます。
それを生徒も分かっていますから、教師に罵詈雑言を投げかけ、果ては出回った動画のように暴力を振るうこともあります。
家庭の問題もありうる
生徒自身の問題というよりは、家庭の事情によることもあります。
つまりは、貧困です。
教育困難校の生徒には、片親などで経済状況が厳しい子がよくいます。
親は働きづめで、しかし非正規なので生活に余裕がありません。
すると、修学旅行費が払えなかったり、果ては授業料も払えなくなって、除籍、退学となるわけです。
教育困難校に必要な対策
少人数教育を徹底
教育困難校における対策としては、まず、少人数教育を実施することが挙げられます。
実際、先に例に挙げた大阪府の普通科高校では、この施策を実施しています。
生徒一人ひとりと向き合う
大阪府教育委員会には教員加配の措置があります。
これを利用して、生徒に対する教員数を増やし、一人ひとりと向き合えるようにします。
集団で大騒ぎになって授業にならないクラスも教員の加配で、グループずつの生徒と対面できます。
想像できるように、30人の難しい生徒を1人で相手にするより、10人を1人で相手にするほうが遥かに授業を実現しやすくなります。
さらに大阪府では就職支援員の制度が設けられます。
これを利用することで、やはり生徒一人ひとりに対して、丁寧な進路指導が可能になります。
教師の負担を少なくする
教育困難校では、担任の先生に生徒の指導、進路相談、親の対応など、全てを押し付けるのは極めて負担が大きく、現実には立ち行かなくなります。
GTOのようになれ、と全ての教師に言うのは無茶な話です。
そもそも、教職採用試験では、そのような人材を選別する選考がなされていないのですから、これは当然といえます。
生徒と関わる人材を増やしていくことが、教師1人あたりの負担を減らし、より効率的な対処へとつながります。
面白い授業を展開
教育困難校では、授業中に話を聞いてくれる時間が5分程度といわれています。
もちろん、クラスによってはそれが0かもしれませんし、10分などもう少し長い時間かもしれません。
いずれにせよ、教科書の内容をただ板書して説明するだけの授業では、何も面白みがありません。
聞いていてもつまらなければ、スマホでゲームをしたり、友だちと大声で私語を始めます。
最近では、全国的に教育改革によってアクティブラーニングやタブレットを使ったIT系の授業が導入されるようになっています。
教科書の内容を伝えるのが目標ですが、それを違ったアプローチからなしえるスキルが教師には求められています。
アクティブな授業の実施例
たとえば、物理の授業なら、実際に校庭に出て、野球ボールを上に投げる授業を展開すると、それこそアクティブな要素が加わって面白くなります。
同じ強さで真上に投げた場合と、斜め上に投げた場合では、どちらが地面に着くのが早くなるか、といった内容です。
生徒は実際にボールを投げて楽しみます。
実際、同じ強さで投げるのは難しいので、生徒からは色々な意見が出ます。
真上のほうが地面との距離があるから遅い、真上だろうと斜め上だろうと同じ強さなんだから同じだ、などです。
このように、生徒の興味や関心と、実体験、対話、といった要素を絡めると授業が格段に面白くなります。
生徒を肯定する仕組みを整える
さらに、生徒を肯定する、褒める仕組みを整えておくと良いです。
先にも指摘したように、教育困難校の生徒はもともと不登校であったり、不良で親や社会から白い目で見られてきた子が多いです。
このような子は、人から認められたり、褒められたりすることがほぼなく、だからこそそのような体験が、人生において大事な思い出になります。
その思い出が、自信へとつながり、進学や就職へ向けてのモチベーションにもつながります。
教育を施すために怒鳴り、生徒を抑えつけるのではなく、対話のなかでその子を肯定できる側面を見出すことも、教師には求められます。
教育困難校と大人しい子
親の立場からすると、教育困難校は、特に大人しい子に注意が必要です。
上記で教育困難校の有効な対策を述べましたが、まだまだ充分になされていない学校が多いです。
そういった学校では、とりあえず生徒を席に着かせ、授業を展開するために教師は大声を出したり、叱責をしたりします。
不良系の生徒に、この方法がよく取られます。
しかし、これを傍で聞いている大人しいタイプの子は、内心ビクビクしています。
怒鳴り声が飛び交う教室は相性が最悪
自分が怒られていなくても、怒鳴り声が響き、今にも暴力沙汰になりそうな光景は、見ているだけで怖く、ストレスが溜まります。
さらに大人しいタイプの子は、えてして厳しいいじめの標的にされます。
不良グループからパシリにされたり、カツアゲされたりします。
大人しい子は教育困難校を避けるべき
小学校や中学校で学校に馴染めず、不登校であったがために教育困難校に行かざるを得ない、というケースの場合、他の選択肢を考えるのが有効です。
偏差値が平均以上の高校へ行けるように
当然、まずは教育困難校に行かざるを得ない状況にならないことが必要です。
高校入試は確かに内心点が大事です。
そのため、不登校になるのは避けたほうが良いです。
どうしてもクラスに馴染めず、あるいはいじめを受けているなら、保健室登校という手があります。
登校時間をずらし、下校時間をずらすなど工夫をすれば、クラスの人と顔を合わせないことも可能です。
担任と相談して、このような解決策を見出しましょう。
そして必ず勉強をサボらないようにします。
そうすれば、たとえ勉強ができない子でも、偏差値30代の教育困難校へ行かざるを得ない、ということはあり得ません。
私立や専門学校などの選択肢も
このような対処ができず、教育困難校に行くしか公立高校では選択肢がなくなったときには、私立や専門学校、定時制という進路もあります。
入りやすいから必ず教育困難校というわけではありません。
ちゃんと授業がなされて、それぞれに進学や就職といった目標を持っている子が集まる学校はあります。
教育困難校は、今の時代、少しその高校名で調べればすぐに分かります。
特にコミュニケーション能力が乏しく、引っ込み思案な子の場合には、教育困難校に軽い気持ちで進学させないようにすることが重要です。
教育困難校についてまとめ
今回は、特に社会的に問題になっている教育困難校について紹介してきました。
そこに集まる子は、極めてコミュニケーションを苦手としていたり、暴力を平気でふるう不良であったり、家庭に経済的問題を抱えていたりします。
対策をして1人でも多くの子を卒業させ、進学や就職に向かわせる高校はあります。
しかし、まだ充分な対策ができていない学校のほうが多いです。
教師の立場からは生徒に対応できる人員を増やすことが重要です。
生徒や親からすると、教育困難校へ入らないようにすることが大切です。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。