大学入試のすべての科目のなかで、世界史ほど「無理」な内容はないでしょう。
高校の世界史の教科書にはさまざまな国と地域が登場しますが、本来はひとつの国の一時代だけで教科書1冊分の説明が必要です。
それでも世界史の試験で高得点をあげる受験生がいるのは、入試では難しいことを問われないことを知っているからです。
ところが世界史を苦手にしている受験生は「世界史は難しい」と考えてしまっています。
世界史を難しく考えると、勉強は「永遠に」終わりません。
世界史は試験範囲が驚異的に広い代わりに、試験で問われる内容はそれほど深くありません。
センター試験の世界史Bでも、ほぼ教科書だけでクリアできるでしょう。
世界史の勉強は、どれだけ広く薄く勉強できるかにかかっています。
広大な試験範囲の確認はマスト
世界史で高得点を稼ぐためのスタート地点は、あの「広大な」試験範囲を把握することです。
試験範囲を最も確実につかむ資料として、文部科学省の「高等学校学習指導要領(地理歴史編)」をおすすめします。
学習指導要領は学校で学ぶ内容の大元です。
教科書も参考書も問題集も入試問題も、学習指導要領を逸脱することは許されません。
そのため世界史を選択する受験生も、学習指導要領をチェックすることが全体像を把握する最短ルートといえます。
ただ、学習指導要領の文章は膨大な量になるのですべて読み込むことは苦労します。
そこで学習指導要領をコンパクトにまとめてみました。
世界史は5部構成
学習指導要領では世界史のことを「世界史探求」(以下、世界史)と呼んでいます。
世界史は次の5部で構成されています。
A:世界史へのまなざし
B:諸地域の歴史的特質の形成
C:諸地域の交流・再編
D:諸地域の結合・変容
E:地球世界の課題
受験生の世界史の勉強は、この5つを学習したら終了します。
広大かつ壮大な試験範囲ではありますが、「必ず終わりがある」と自分に言い聞かせて取り組んでみてください。
「A:世界史へのまなざし」の内容
「A:世界史へのまなざし」はイントロダクションで、次の2項目で構成されています。
(1)地球環境から見る人類の歴史
(2)日常生活から見る世界の歴史
「見る」とあるように、ここでは世界史を学ぶうえでの視点を獲得しましょう。
世界史を学ぶときの心構えといってもいいでしょう。
文部科学省は、高校生たちが次のような視点を持つことを期待しています。
そのため大学やセンター試験では、世界史の試験をつくるときに、受験生がこうした視点を持っているかどうかを問う内容にしています。
<文部科学省が高校生に期待する世界史を学ぶときの10の視点>
1)それはいつの出来事だろうか、同じ時期に他の地域ではどのようなことが起こっていたのだろうか
2)その事象は、どのような経緯で起こったのだろうか
3)当時の人々はなぜそのような選択をしたのだろうか
4)このことで何を変えようとしたのだろうか、何が変わったのだろうか、何が変わらなかったのだろうか
5)複数の諸事象の変化には、どのような違いがあるのだろうか
6)その事象と他の事象を比較すると、どのような共通点と相違点を見いだすことができるだろうか
7)その違いが生じたのはなぜだろうか
8)共通点に注目すると、どのような傾向が見いだせるだろうか
9)その事象は、当時どのような意味をもっていたのだろうか
10)その事象は、社会全体にどのような影響を及ぼしたと考えられるだろうか
世界史の問題は、丸暗記だけでは対応できません。
世界史では流れをつかむことが重要です。
流れを追う学習をするとき、上記の10の視点を持ちながら教科書や参考書を読んでいってください。
「B:諸地域の歴史的特質の形成」の内容
「B:諸地域の歴史的特質の形成」は3項目で構成されています。
(1)諸地域の歴史的特質への問い
(2)古代文明の歴史的特質
- オリエント文明
- インダス文明
- 中華文明
(3)諸地域の歴史的特質
- 唐の統治体制と社会や文化の特色
- 唐と近隣諸国との関係
- 遊牧民の社会の特徴と周辺諸地域との関係
- 南アジアと東南アジアにおける宗教や文化の特色
- 東南アジアと周辺諸地域との関係
- 西アジアと地中海周辺の諸国家の社会や文化の特色
- キリスト教とイスラームを基盤とした国家の特徴
- 東アジアと中央ユーラシア、南アジアと東南アジア、西アジアと地中海周辺の歴史的特質をそれぞれ理解する
「C:諸地域の交流・再編」の内容
「C:諸地域の交流・再編」は次の2項目で構成されています。
(1)諸地域の交流・再編への問い
(2)結び付くユーラシアと諸地域
- 西アジア社会の動向とアフリカ・アジアへのイスラームの伝播
- ヨーロッパ封建社会とその展開
- 宋の社会とモンゴル帝国の拡大
- アジア海域での交易の興隆
- 明と日本・朝鮮の動向
- スペインとポルトガルの活動
- 諸地域へのイスラームの拡大の要因
- ヨーロッパの社会や文化の特色
- 中国社会の特徴やモンゴル帝国が果たした役割
- 諸地域の交易とヨーロッパの進出に関わる諸事象の背景や原因、結果や影響、事象相互の関連
- アジア海域での交易の特徴
- ユーラシアとアメリカ大陸間の交易の特徴とアメリカ大陸の変容
「D:諸地域の結合・変容」の内容
「D:諸地域の結合・変容」は以下の4項目で構成されています。
(1)諸地域の結合・変容への問い
(2)世界市場の形成と諸地域の結合
- 産業革命と環大西洋革命
- 自由主義とナショナリズム
- 南北戦争の展開
- イギリスを中心とした自由貿易体制
- アジア諸国の植民地化と諸改革
- 南北アメリカ大陸の変容
(3)帝国主義とナショナリズムの高揚
- 19世紀末に大きく変容した世界経済の構造
- 第一次世界大戦後のヨーロッパ中心の国際秩序の見直し
- 第二次産業革命と帝国主義諸国の抗争
- アジア諸国の変革
- 第一次世界大戦とロシア革命
- ヴェルサイユ・ワシントン体制の形成
- アメリカ合衆国の台頭
- アジア・アフリカの動向とナショナリズム
- 列強の対外進出とアジア・アフリカの動向
- 第一次世界大戦後の国際協調主義の性格
- アメリカ合衆国の台頭の要因
- アジア・アフリカのナショナリズムの性格
(4)第二次世界大戦と諸地域の変容
- 世界恐慌とファシズムの動向
- ヴェルサイユ・ワシントン体制の動揺
- 第二次世界大戦の展開と大戦後の国際秩序
- 冷戦とアジア諸国の独立
「E:地球世界の課題」の内容
「E:地球世界の課題」は次の4項目で構成されています。
(1)国際機構の形成と平和への模索
- 集団安全保障と冷戦の展開
- アジア・アフリカ諸国の独立と地域連携の動き
- 平和共存と多極化の進展
- 冷戦の終結と地域紛争の頻発
(2)経済のグローバル化と格差の是正
- 先進国の経済成長と南北問題
- アメリカ合衆国の覇権の動揺
- 資源ナショナリズムの動きと産業構造の転換
- アジア・ラテンアメリカ諸国の経済成長と南南問題
- 経済のグローバル化
(3)科学技術の高度化と知識基盤社会
- 原子力の利用や宇宙探査などの科学技術
- 医療技術・バイオテクノロジーと生命倫理
- 人工知能と労働の在り方の変容
- 情報通信技術の発達と知識の普及
(4)地球世界の課題の探究
- 紛争解決や共生
- 経済格差の是正や経済発展
- 科学技術の発展や文化の変容
センターはまずは教科書だけでよい
センター試験の世界史AもBも、ほぼ教科書から出題されます。
そのため教科書を読み進めればいいのですが、教科書は説明の大部分を省略しているので読みにくい欠点があります。
そこで世界史を勉強するときは、教科書の文章を理解するために、必ず横に参考書を置いておきましょう。
そして教科書は、先ほど確認した全体像「A、B、C、D、E」を確認しながら読み進めていってください。
世界史では「暗記はあとで」と覚えておいてください。
まずは流れを押さえることが先決です。
教科書を1巡しただけで頭に流れが入ってこなければ、2巡しましょう。
センター試験の世界史Bでは、全分野から基本的な内容が出題されます。
飛ばさず順番を守る
流れを追うことが重要なので、世界史では項目を「飛ばさない」ことも大切です。
受験生によっては、中国史は好きだがヨーロッパ史は苦手、といった好みがあると思いますが、それでも学習指導要領の順番に押さえていきましょう。
なぜなら学習指導要領の順番は、大学などの世界史の研究者や権威たちが集まって、最も効果的に、かつ楽に学習できると考えた並びになっているからです。
世界史は秩序立てて押さえていかないと混乱します。
縦と横で押さえる
世界史の教科書を1巡または2巡できたら、次は「縦と横」の学習を意識しながら勉強していきます。
縦の学習とは、ある1カ所の過去から現在までの出来事を押さえる学習です。
横の学習とは、複数カ所の同時代の動きを押さえる学習です。
縦と横の学習は、先ほど紹介した「世界史を学ぶときの10の視点」を持って勉強すれば自然と身につきます。
地図を確認する癖をつける
世界史の勉強は、頭のなかに地球儀が入っているとスムーズに進みます。
新しい場所の歴史を学習するときは、事前に地図帳や地球儀で場所を確認してください。
おすすめは、グーグルマップで現地の現在の写真をみておくことです。
ビジュアルを活用した学習は記憶の定着が進みます。
ロシア(ジュネーブ広場)
アメリカ(ワシントン記念塔)
バルセロナ(サグラダ・ファミリア)
まとめ~最大のコツは好きになること
入試科目としての世界史は苦手でも、映画や小説や漫画としての世界史は誰でも「すんなり」受け入れることができるはずです。
映画や小説は必ずしも史実に基づいているわけではないので、その内容がそのまま試験に出ることはありません。しかし歴史上の人物の名前や雰囲気をつかんでおくだけでも、無味乾燥な世界史の教科書をドラマチックな書物に変えてくれるはずです。
世界史は入試科目のなかでは、断トツに「好きになりやすい」科目です。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。