学校や塾での学びは、働くための準備でもあります。
将来の職業を見据えて勉強や進学を考えているでしょうか。
働くことは、夢と現実の折り合いをつけることでもあるので、今からしっかり考えてください。
働く日に備える知識として、「ブラック企業にだけは就職しない」と覚えておいてください。
ブラック企業とは、「悪い企業」「社員を食い物にする会社」のことであり、そして「社員を殺す会社」すら存在します。
これは決して大げさに表現しているのではなく、過労死を引き起こしている企業が、21世紀の日本でも生き残ってしまっているのです。
大企業でも過労死を引き起こしている
過労死とは、企業の働かせすぎが原因で社員が死亡してしまうことです。
全国的に知られた事例を紹介します。
大手広告代理店A社に勤めていた女性新入社員Bさん(当時24歳)が2015年12月に働かされすぎたことが原因で自殺しました。
Bさんは2015年4月にA社に入社したばかりです。
その新人に大量の仕事が与えられ、Bさんは毎月100時間以上の残業をさせられていました。
残業とは、本来の仕事の時間以外に働くことをいいます。
残業100時間はこれほど過酷
本来の仕事の時間は、労働基準法という法律で1日8時間以下、週40時間以下と決められています。
これなら土曜と日曜を休んでも、平日は午前9時から働き始めて、昼休みを1時間取っても午後6時には帰宅することができます。
これに月100時間の残業が加わると、どのような働き方になるでしょうか。
週5日働くと、1カ月が30日の月は21.4日(≒30日÷7日×5日)出勤することになります。
つまり1日の残業時間は約5時間(≒100時間÷21.4日)となります。
午後6時から約5時間働くと、午後11時になります。
月~金の毎日、午前9時に出勤して午後11時まで働くことが、「残業時間100時間」の意味です。
Bさんの場合、月130時間の残業もありました。
Bさんは2015年12月に、A社の社員寮から投身自殺しました。
Bさんは亡くなる前に、「1日2時間睡眠が続いている」「これが続くなら死にたいな」「死んだほうがよっぽど幸福」などと話していたといいます。
過労死とは
過労死とは、働かされすぎが原因で心臓病や脳の病気などを起こして亡くなることをいいます。
また、過労が原因で自殺することを過労自殺といいます。
過労死も過労自殺も、労働災害(労災)のひとつとみなされます。
ただ、一生懸命働いていた人が心臓病や自殺で亡くなっても、その全員が過労死や過労自殺と認定されるわけではありません。
労働基準監督署という、ブラック企業を取り締まる行政機関が労災と認定した死のみが、過労死または過労自殺となります。
労働基準監督署は、職場で
- 異常な出来事
- 短期間の過重業務
- 長期間の過重業務
があったとき、労災や過労死や過労自殺を認定します。
Bさんの自殺は、過労自殺と認定されました。
つまり、労働基準監督署は、A社の働かせ方がBさんの自殺の原因になったと認定したわけです。
厚生労働省はブラック企業をこのように説明している
A社はとても有名な企業で、社会に対して強い影響力を持っています。
今も事業を続けています。
もちろんA社は、通常業務ではブラックなことをしているわけではなく、むしろ素晴らしい会社という評価を得ています。
それでもブラックに染まってしまうことがあるのです。
では、ブラック企業とはどのように定義されるのでしょうか。
ブラック企業という言葉は、単なる俗語ではなく、厚生労働省が用いる労働関係の正式な用語です。
その厚生労働省はブラック企業を次のように説明しています。
- 労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す
- 賃金不払い残業が横行している
- パワーハラスメントが横行している
- 企業全体のコンプライアンス意識が低い
- 上記4つの状況下で労働者に対し過度の選別を行う
どれも重要なので、ひとつずつみていきましょう。
労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す
労働者は企業に時間を拘束されて働きます。
そして仕事は、時間内に終わらないことが珍しくありません。
それで企業は、拘束時間を延長して労働者に働いてもらうことになります。
それが残業です。
残業自体は悪いことではありません。
労働者は、仕事を完成させる喜びと割増し賃金を得ることができます。
「残業代(割増し賃金のこと)がほしいから、もっと仕事をしたい」という労働者もたくさんいます。
しかし長時間の残業は心も体も疲れさせるので、労働者がギブアップすることがあります。
そのときの対応で、ブラック企業とそうではない企業がわかれます。
ブラック企業は、そのギブアップを認めず「もっと働け」というのです。
ノルマとは、売上目標や販売目標のことで、「今月のノルマは100個の販売」といったように使います。
ブラック企業のノルマは単なる目標ではなく、達成するまで仕事をさせる絶対的な目標です。
ノルマが長時間残業を生むこともあります。
賃金不払い残業が横行している
極端な長時間労働や厳しいノルマを課すブラック企業より悪質なのは、過酷な労働を課したうえに残業代を支払わないブラック企業です。
極端な長時間労働も違法ですが、賃金不払い残業も違法です。
つまり2重に違法状態になっているわけです。
そのような企業は従業員に、「残業になるのは仕事ができないからだ」「あなたの上司は、あなたのせいで苦労している」「仕事ができないうえに上司に迷惑をかけているのに、なぜ残業代を支払わなければならないのか」という理屈で賃金不払い残業を正当化します。
もちろん、この理屈は間違っています。
会社は、労働者を雇用した以上、仕事を教えて仕事をさせなければなりません。
残業になるのは会社のせいです。
会社のせいで残業をしているのですから、残業代は普通の労働の賃金より割増しで支払わなければなりません。
パワーハラスメントが横行している
パワーハラスメント(以下、パワハラ)とは、社長や上司が労働者に対し暴言を吐いたり暴力をふるったりする行為です。
労働者が、仕事に慣れるまで時間がかかるのは当然のことです。
ところがパワハラ上司はそれを許さず「一度で覚えろ」「馬鹿か」などと、人格を否定するようなことを言います。
ものを投げつけたり、叩いたり、蹴ったり、嫌がらせをしたりすることもあります。
暴言や暴力で仕事を強制させることは、いかなる理由があっても許されません。
企業全体のコンプライアンス意識が低い
コンプライアンスを日本語に訳すと「法令遵守(ほうれいじゅんしゅ)」となり、企業は法律を厳格に守らなければならない、という意味です。
ブラック企業の経営者や上司は、総じてコンプライアンスの意識が低い特徴があります。
極端な残業、過酷なノルマ、賃金不払い残業、パワハラは、明確なコンプライアンス違反です。
そしてブラック企業の経営者のなかには、堂々と「コンプライアンスを守っていたら利益を出せない」と述べる者もいます。
確信犯なのです。
労働者に対し過度の選別を行う
ブラック企業は、労働者をエース社員、A級社員、B級社員、ダメ社員などにわけることがあります。
労働者をわけること自体は問題ありません。
企業は利益を追求する組織なので、優秀な実績をあげている人を優遇し、上司の期待にそえない労働者の賃金が高くないのはやむを得ません。
しかし過度な選別は許されません。
例えば、エース社員とA級社員にのみ週休2日を与え、その他の社員は週休1日にする、といった処置は、選別を超えた差別になり、違法行為です。
ブラック企業に入社しないようにするには
さて、ここまで読んだ方は、次のような疑問がわくと思います。
「ブラック企業といえども企業なので、入社しなければいいだけのではないか」
「間違ってブラック企業に入ってしまっても、嫌になったら辞めればいいのではないか」
それはそのとおりです。
しかしブラック企業は、罠をしかけて労働者を捕まえるのです。
普通の企業のように求人し、脅して辞めさせない
もしブラック企業が、普通の企業と同じ方法で求人(働き手を募集する活動)をしたらどうでしょうか。
もしブラック企業が社員を脅して、退職させないようにしたらどうでしょうか。
ブラック企業は求人票(労働条件を知らせる文書)や採用面接で、とてもいいことをいいます。
例えば社長や採用担当者から「うちはほとんど残業がない」「休日は年間120日以上ある」「ノルマはない」「高い給料を支払う」と言われたら、仮にも企業なのだから嘘をつくはずがない、と思ってしまうでしょう。
そしてブラック企業は入社した労働者を逃がしません。
ブラック企業の経営者たちは従業員に対し「君は会社に大きな損害を与えた。もし今退職したら、損害賠償を求める訴訟を起こす」といった脅しをかけます。
もちろん、そのような損害賠償訴訟を起こしても、会社側が敗訴するでしょう。
しかし、社長や役員や上司に囲まれてそのようにすごまれたら、「退職したら何をされるかわからない」と思ってしまうでしょう。
ブラック企業はアリ地獄のようなものです。
気づかぬところに罠が仕掛けられていて、近づいたら最後、穴に落ちるしかなく、穴に落ちたら骨の髄までしゃぶりつくされてしまいます。
労働基準監督署に相談する
ブラック企業に入社しないようにするには、「おいしい話」を疑うようにすることです。
例えば「残業なし」「休日多い」「ノルマなし」「高い給料」といった条件を、新入社員に適用するまともな企業は存在しません。
そのような条件をみたら「あやしい」と疑ってください。
そしてもしブラック企業に入社してしまったら、労働基準監督署に相談してください。
ブラック企業はすでに労働基準監督署から注意や指導を受けているかもしれません。
もしそのような「前科」があれば、労働基準監督署がその企業にペナルティを加えて、労働者を救済するでしょう。
ただ「厳しい」だけではブラック企業とはいえない
さて、これまでブラック企業の実態について紹介しましたが、しかし「仕事が厳しい」というだけではブラック企業とはいえないことも覚えておいてください。
仕事というものは、例えコンプライアンスを遵守している会社の仕事でも、常に厳しい内容になっています。
楽な仕事はありません。
そして厳しい仕事をクリアできなければ、労働者として成長することはできません。
すわなち、働き始めた以上、常に厳しくて難しい仕事にチャレンジし続けなければなりません。
ブラック企業の厳しさに耐える必要はありませんが、よい企業の厳しさには耐えたほうがよいこともあります。
もし、働き始めて仕事がつらいと感じるようになり、ブラック企業に入ってしまったかもしれないと思ったら、親や学校時代の恩師、友人に相談してみてください。
もし「今が我慢のしどころだ」と励まされたら、頑張って会社に行ってみましょう。
もし「その内容は異常、早く退職したほうがいい」と言われたら、退職を検討しましょう
まとめ~十分警戒を
会社というものは、ブラック企業もよい企業も、労働者を働かせてお金を稼がせます。
そして、労働者が稼いだお金の大半を会社が取り、残りを賃金として渡しています。
どの企業もそのようにしています。
したがって、ブラック企業とよい企業の境目は、意外に不明瞭です。
冒頭で紹介した広告代理店A社も、よい企業といわれていましたし、今も多くの人がよい企業だと思っていますし、利益もしっかりあげています。
働くのはもう少し先かもしれませんが、今から警戒し始めてもまったく早すぎません。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。