大学入試で勝つには2つの方法があります。
圧勝することと、戦略を練って辛勝することです。
今回のコラムでは、このことについて小論文の書き方のコツと合わせて、小論文がおいしい理由について解説していきたいと思います。
圧勝するか戦略的に勝つか
入試の圧勝とは、東大や京大に余裕で合格することです。
しかしこの方法は一握りの天才しか採用できません。
ほとんどの受験生は、徹底的に合格にこだわる戦略を練りましょう。
大学入試は、1位で合格しても最下位で合格しても価値は変わりません。
勝ち戦略のひとつが、小論文を入試科目にしている大学を狙うことです。
北海道大学では、法学部と経済学部と教育学部が入試で小論文を課しています。
このようにアドバイスすると、多くの受験生は「小論文を選択するなんて無謀だ」と思うのではないでしょうか。
それは、高校や予備校や塾で、小論文の書き方を習うことが少ないからです。
しかし、だからこそ、小論文はすべての受験生にチャンスを与えます。
天才も秀才も普通の受験生も、小論文なら同じスタートラインにいます。
したがって「少し勉強するだけ」で差がつくので、小論文はとても「おいしい」入試科目といえます。
この記事では北大の小論文を例にとって解説しますが、ここでのアドバイスはどの大学の小論文にも通用します。
なぜ諸論文が「おいしい」のか
おいしい入試科目とは、才能に関係なく、誰でも少しの勉強で合格ラインを越えるチャンスが広がる科目、という意味です。
才能やひらめきや猛勉強やこれまでの積み重ねが点数に大きく反映される英語や数学は「おいしくない」科目といえます。
おいしくない科目は、黙々と学力をつけるしかありませんが、おいしい科目である小論文なら、低偏差値の人が高偏差値の人を簡単に追い越すことは難しくありません。
大学生や研究者たちが書く本物の論文は、才能やひらめきや猛勉強やこれまでの積み重ねが必要です。
しかし、その小規模版である小論文という入試科目では、出題者である大学教授たちは、本物の論文レベルの「論」を求めていません。
本当は出題者も、高いレベルの論を期待しています。
しかしほとんどの小論文は「ちゃんと書けて」いません。
つまり「ちゃんと書く」だけで、合格ラインに達することができるのです。
この記事では「ちゃんと書く」方法を解説します。
「作文との違い」も「論理性」も後回しでよい
小論文の参考書を開くと、第1章や第2章に「小論文は作文ではない」や「論理性を重視せよ」といったアドバイスが書かれてあります。
しかしその両方とも、最重要スキルではありません。
「構成を考えて書こう」というアドバイスもよくみかけますが、これも最重要ではありません。
作文との違いを意識して書くこと、論理的に書くこと、構成を考えて書くことは、最重要でないだけで重要ではあるので後段で紹介します。
ちゃんとした小論文を書くために最も重要なことは、「社会に関する知識」を身につけて「主張」することです。
したがって次の章で知識と主張についてじっくり解説します。
次の章が最も重要な部分なので、この記事を一読したらすぐに次の章を再読してください。
知識と主張を持つことに集中する
小論文対策は高校3年の4月からで十分間に合います。
しかも英語や数学や国語など、自分にとっての本命科目の勉強の合間に時間を取れば十分です。
その代わり、小論文の勉強をするときは「社会の知識を獲得する」と強く意識してください。
英語や数学や国語などの教科の勉強では「入試の点を獲得する」ことを強く意識していると思いますが、小論文対策はそれでは通用しません。
社会に関する知識はどこに存在するかというと、朝日新聞や読売新聞や日本経済新聞などの「硬派」な新聞と、NHKなどの「硬派」なニュース番組です。
最近は新聞をとっていない家庭が多いようですが、その場合は、コンビニで硬派な新聞を買ってください。
1部150円くらいで、1部あれば2週間分の勉強ができます。
もしくは、1カ月以内の古新聞を無料でもらえるなら、それでかまいません。
テレビニュースは、NHK総合の「NHKニュース7」(19時スタート)または「ニュースウオッチ9」(21時スタート)か、TVh(テレビ東京)の「ワールドビジネスサテライト」(23時から)がよいでしょう。
このうち1番組を平日の毎日録画しておきましょう。
新聞を読むときとニュース番組をみるときは、「社会の知識を獲得する」ことを意識して、さらに「自分の主張を持つ」ようにしてください。
記事を読んだりニュースを聞いたりしたら、「自分はどう思うか」と自問してください。
最初は、ニュースの内容に賛成できるか反対したいかだけで構いません。
慣れてきたら、なぜ自分はそのニュースに賛同できたのか、または、嫌悪感を抱いたのか、を考えてください。
例えば2019年6月の朝日新聞に「フェイスブック仮想通貨、途上国の貧困層も視野に 課題は情報漏洩」という記事が掲載されました。
その冒頭は、次のように書かれてあります。
米フェイスブック(FB)がクレジットカードや音楽配信など幅広い分野の大手企業と組み、暗号資産(仮想通貨)事業に参入する。
手元のスマートフォンで海外送金や決済できるようになれば利便性は高まるが、情報漏洩(ろうえい)や悪用を防ぐ手立てなども課題になる。暗号資産「リブラ」では、スマホ上での様々なお金の決済や送金を想定している。
FBが改修中のメッセージアプリ「メッセンジャー」上でリブラのロゴをタッチすると、自分が持っているリブラの残額が表示され、相手先に米ドルでいくら送りたいのかを聞いてくる。
フェイスブックが仮想通貨事業に参入すれば、仮想通貨はさらに拡充するでしょう。
そのことについて、賛成か反対か決めてください。
正解はないので、自分の気持ちに正直に回答してください。
現段階ではまだ、なぜ賛成なのか、または、なぜ反対なのかを説明できないでしょう。
しかしスマホで「仮想通貨」と検索すればたくさんの情報にアクセスできるので、それを読んで仮想通貨の知識を自分のものにしてください。
そのうち、賛成または反対した理由がみつかるはずです。
記事を書き写し、メモを取りながらニュースをみる
新聞を読み、「これは面白い」と感じたり、「何を言っているのかまったく理解できない」と思ったりしたら、その記事を丸々書き写してください。
記事を書き写すことで、記者の「息吹」を感じることができます。
新聞記事には、文章作成の基本要素がぎっしり詰まっています。
書き写すことで、自分の主張を文章にするテクニックや文章構成の基礎が身につきます。
新聞記事の書き写しは、漢字と現代国語と社会の勉強になります。
つまり小論文の勉強は、その他の教科の勉強を兼ねることができるのです。
テレビニュースをみるときは、メモ帳とペンを持ち、ニュースキャスターが話していることを文章に起こしてください。
最初は話すスピードが速すぎて、耳の残った単語しか書けないでしょう。
それでもあきらめずにメモ取りしていくと、2カ月くらいでほぼすべての要素をメモ書きできるようになるはずです。
これらの作業は、1日1時間行ってください。
新聞記事の書き写しをする日は、テレビニュースのメモ取りを休みましょう。
テレビニュースのメモ取りの日は、新聞記事写しを休んでください。
1日1時間を守ってください。
月曜日に2時間やって、火曜日に休むことのないようにしてください。
新聞記事の書き写しは、1時間では記事1~2本が限度でしょう。
しかしそれでかまいません。
最重要ではないが重要なこと
それでは保留しておいた「作文との違いを意識して書く」「論理的に書く」「構成を考えて書く」について解説します。
これらの対策は重要ではありますが最重要ではないので、夏か秋ごろに始めれば十分です。
そして春から
- 知識獲得
- 主張の訓練
- 新聞記事写し
- テレビニュースのメモ取り
…をしていれば、夏ごろには自然とこの3つのスキルが身についているはずです。
作文との違いを意識して書く
小論文は作文ではありません。
代表的な作文は読書感想文で、これは本を1冊読み、内容の要約を書きながら、自分の感想を記していきます。
小論文でも、ある程度は要約を書く必要がありますが、それに多くの文字を使わないようにしてください。
そして単なる感想は、小論文では「文字の無駄」でしかありません。
例えば北大法学部の小論文で「市民感情が形成される過程と熟議の重要性を論じた文を読み、熟議と感情の関係を説明せよ」という課題が出ました。字数は750字です。
700字は、自分が持っている知識と、自分の主張に費やしましょう。
「筆者は~と述べているが」といった要約の文章は極力減らし、「私はこの論を読み暗い気持ちになった」といった単なる感想は書かないようにしてください。
新聞記事やテレビニュースで獲得した知識のなかから「市民感情」や「熟議」に関連しそうなものを引っ張り出して、解答用紙に書いていってください。
そして、「熟議と感情の関係」について、自分の主張をぶつけてください。
論理的に書く
大学入試の小論文では、賛成の主張を書いても、反対の主張を書いても、それだけで減点されることはありません。
したがって、「これは賛成に回ったほうが無難そうだ」と考える必要はありません。
自分の信条に照らし合わせて直感的に賛成か反対かを決めて、決めたほうの主張の根拠になる論理を書いていきます。
小論文を人体に例えると、賛成または反対の主張は骨です。
論理的な説明は筋肉です。
研究者たちが書く「小」が付かない本物の論文には、臓器や肉や皮膚や脂肪が必要ですが、小論文であれば骨と筋肉だけで構いません。
小論文のなかでは、まずは主張を明確に表明してください。
次に、その主張がなぜ正しいのかを説明していってください。
小論文の採点者が、「なるほど、そのように説明するのであれば、その主張は正しいといえそうだ」と感じたら、その説明は論理的です。
論理的な文章を書くには、小論文の採点者(大学教授)を説得しようと思い続ける必要があります。
論理的説明の基本形は「AはBである。BはCである。ゆえにAはCである」です。
構成を考えて書く
小論文の構成は、単純化しましょう。
自分の文章スタイルが完成するまでは、以下のフォーマットに主張と論理を盛り込んではいかがでしょうか。
「私は○○(主張)と考える。その理由は△△(論理その1)である。また、△△(論理その2)という理由もある。
しかしこの主張には□□(反論その1)という反対意見が予想される。
ところが□□では△△(反論を否定する論理その3)のような問題を解決できない。
○○(主張を繰り返す)にも□□(反論その2)欠点はある。しかし総合的に考えて、○○が現状では最善の策といえるだろう。」
これを分解すると次のようになります。
- 主張
- 論理その1
- 論理その2
- 予想される反論の紹介
- 反論を否定する論理その3
- まとめ:主張を繰り返して、妥当性を確認する
小論文の採点者がチェックするのは、大まかに次の3点です。
1点目は、論理1、2、3に盛り込まれた情報の質です。
採点者に「よくそのようなことを知っていたな」と思わせる知識を書いてください。
2つ目のチェックポイントは、論理1、2、3が主張の正当性を説明できているかどうかです。
3つ目は、反論がフェアかどうかです。
例えば小論文の原稿用紙に「海に投棄されているプラスチックごみ対策は、グローバルな課題といえる。一方で、プラスチックが低コストであることを理由に海洋汚染くらい無視すべきであるとの主張もあるが、これは到底受け入れることはできない。」と書いたとします。
プラスチックごみ対策に反対する人は数多く存在しますが、しかしそのような人たちが「海洋汚染くらい無視すべき」と言うはずがありません。
また、もし「海洋汚染くらい無視すべき」と主張する人がいたとしても、そのような極端な意見を反対派の代表意見として採用するのは、フェアではありません。
したがって紹介する反論も、論理的かつ合理的でなければなりません。
まとめ~そして何より楽しい
小論文は入試科目として「おいしい」と紹介しましたが、その理由は最小の努力で最大の効果を生み出しやすいから、だけではありません。
「知識と主張」に焦点を当てて小論文を勉強すると、論理的な思考が養われるので国語と社会と英語の勉強もはかどるようになるでしょう。
また小論文の勉強が軌道にのると、学ぶことの楽しさがみえてきます。退屈な受験勉強に弾みがつくはずです。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。