高校2年生の終盤になると、ある心配事がわいてくると思います。
「部活と受験勉強をどう両立するか」問題です。
結論を先に紹介すると、原則は両立させないことが望ましいでしょう。
部活動に使う時間を勉強に回したほうが、学力を向上させやすいからです。
しかし受験生が、部活で獲得したスキルを勉強に応用できれば、部活動のマイナス効果をプラスにすることができるかもしれません。
3年の夏休み前まで部活の部長を務めていた人が、現役で高偏差値大学に合格しているのは偶然ではありません。
部活に集中する力は、勉強の集中力に使うことができるからです。
受験のライバルたちは、自分が部活をしているときも勉強を進めています。
その差を埋める方策を講じれば、部活と受験勉強は両立できます。
運動が脳を賢くする
運動系の部活をしている人は、より直接的に受験勉強効果を得ることができます。
筑波大学とアメリカのカリフォルニア大学の共同研究チームが次のような実験を行いました。
学生に、サイクリングマシンで10分間運動してもらい、そのあとしばらく休むという動作を繰り返してもらいました。
そのあとで、この運動をした学生と、運動をしなかった学生に記憶テストを実施しました。
その結果、運動をしたグループのほうが、運動しないグループより正答率が高くなりました。
そして学生の脳内をMRI(磁気共鳴断層撮影装置)という特殊な撮影機器で写したところ、運動したチームの海馬という脳の一部が活発に働いていることがわかりました。
海馬は学習機能に関連します。
また運動したチームの脳内で、さまざまな部分がお互いに連携し合っていることも確認できました。
運動が脳を活性化させ、その活性化した脳によって記憶力が高まりました。
運動に「賢くなる効果」があることを確認できたのです。
また、運動に関連して「筋トレ」も脳に良い効果があると言われています。
規律と習慣化が学習効果を高める
運動系でも文科系でも、部活では規律と習慣化が重視されます。
これが受験勉強に効くのです。
規律とはルールや計画やスケジュールのことです。
部活は文化系でも運動系でもルールにしたがって活動をします。
また市内大会や北海道大会、全国大会は年間スケジュールにしたがって開催されます。
そして部活動は朝練をしたり放課後に練習したりと、習慣的に行います。
大学受験でも規律と習慣化が大切です。
受験に必要な教科はすべて、文部科学省の学習指導要領という規律にしたがって構成されています。
受験勉強はわからない部分を気分次第で解いていくのではなく、教科の全体像を把握してから体系的に学習していったほうが短期間で深く学ぶことができます。
そして大学受験は1年間という長丁場になるので、春にやること、夏にやること、秋にやること、入試直前にやることを決めて進めていくべきです。
部活でスケジューリングに慣れている人は勉強スケジュールを難なく作成できるでしょう。
さらに受験では、気がのったときだけ勉強するわけにはいきません。
勉強をルーティンワーク化して、集中力が高まらないときでも淡々と進めていく必要があります。
部活では、練習を面倒に感じたときでも休まず参加し続けてきたと思います。
作業を習慣にする癖は、そのまま受験に使えます。
以上の内容は、運動系部活にも文化系部活にも共通する話です。
次に運動系と文化系にわけて受験勉強へのよい影響をみていきましょう。
運動系部活の勉強への影響について
日本の高校スポーツはいまだに根性論や精神論が残っています。
スポーツ科学的にはいずれもよい効果は生まないとされていますが、受験には役立ちそうです。
難関大を狙う人であれば、1日10時間学習が必要になります。
高校で6時間授業を受けたら、自宅や塾の自習室などで4時間勉強することになります。
学校が休みの日は、自習を10時間しなければなりません。
10時間にわたって机の前に座るには、忍耐力、根性、精神力が必要になります。
受験勉強に取りかかったばかりのころは、1時間も参考書に向かっていると体がムズムズして席を立ちたくなるはずです。
学校の授業は、教師の話を聞きながら教科書を目で追っていけば自然と知識が身につきます。
1時間に学ぶ内容も教師が構成しているので、生徒が知識の整理をする必要はありません。
しかし受験勉強の自習はそうはいきません。
1時間でどこまで進み、どの順番で勉強していくかは、自分で決めなければなりません。
学校の授業では、わからないことがあれば、授業中や授業が終わったあとに教師に質問できますが、自習では参考書の説明が理解できなくても、誰も助けてくれません。
そして、なかなか理解できない問題や、暗記しにくい項目についても、しつこく食い下がって自分の知識にしていかなければなりません。
ときに、数学の1問に、英語の長文の1題に1時間2時間と時間をかけなければならないこともあります。
自習とはストレスが多い学習法なのです。
運動系部活を続けてきた人は、ストレス耐性ができています。
耐性とは耐える力のことです。
勉強で苦しくなったとき、練習や試合で最後まであきらめなかった経験が生きてくるはずです。
「この数学の問題を解くのもつらいけど、炎天下の練習に比べたら楽」と思えるかどうかは、学力向上に影響します。
文化系部活の勉強への影響について
文化系部活に入っている受験生は、知力を使うことが多いので、脳をフル活動させることに慣れているでしょう。
そのスキルは受験勉強に活かすことができます。
脳は意外にわがままです。
いろいろなアイデアがスラスラ浮かんでくることもありますし、面白いように次々記憶できることもあります。
ところが、突如「飽き」に襲われます。
体調もよく、睡眠もたっぷり取っているにも関わらず、頭が働かないことがあります。
文化系部活をしている人は「脳との対話」ができるので、脳の好不調がわかります。
そして脳の働きが悪いときのすごし方も習得済みのはずです。
運動系部活の受験生は根性で勉強困難期を乗り越えますが、文化系部活の受験生は脳の疲労をコントロールすることで勉強を継続させることができます。
仲間の存在が学習効果を高める
再び、運動系と文化系に共通した部活の勉強効果を探っていきます。
部活には仲間がいます。
部活の先輩は受験の先輩も兼ねています。
1、2年のころから3年生が受験で苦しんでいる姿を目にしているので、自分が3年生になるころには心の準備ができています。
部活によっては、部活動とは別に先輩が後輩に勉強を教える慣習があります。
優れた参考書や学力に合った参考書、休日に自習できるスポットといった受験情報を入手できるでしょう。
先輩が卒業のときに参考書や問題集を部室に置いていくこともあります。
そして同学年のチームメイトは、自分と一緒に3年生になって受験生になります。
部活動で培ったチームワークを活かして受験情報を集めれば、目まぐるしく変わる入試制度を正確に把握できます。
後輩に勉強を教えれば、復習効果が得られます。
佐賀県教育センターによると、集団教育では、自分の学びと仲間の学びを最大限に高めようとする意識が生まれます。
これを「集団内の促進的な相互依存関係」といいます(※)。
促進的な相互依存関係(つまり、部活の仲間で高め合って学力を上げていく取り組み)を進めるには、次のことが必要です。
- メンバー全員が自分の学習が仲間のためになり、仲間の学習が自分のためになることを理解する
- 協力して取り組める課題がある
- 学習を他人に任せて済むようにはしない
- 協同学習の目的は、強い個人をつくること
- 互いに知り合い、信頼し合い、正確なコミュニケーションが取れるようにする
- 受容し合い、支え合い、対立が起きても建設的に解決できるスキルを身につける
- 学習を終えたあとに振り返りの機会を設ける
- すべてのメンバーが自分以外のメンバーを評価する
こうした作業は、部活で培った信頼関係があれば容易に実行できそうです。
※参考:https://www.saga-ed.jp/kenkyu/kenkyu_chousa/h24/08%20kateika/jissai2.htm
両立は夏休み前までが限界か
冒頭で紹介しましたが、重要なことなのでここで再び確認しておきます。
高3生になったら部活を辞めて、勉強により多くの時間を割いたほうがベターな選択です。
しかし部活には受験勉強にプラスに働く効果があるので、それを最大限活かせば両立のマイナス効果を帳消しにできるかもしれません。
ただそれも、夏休み前までが限界でしょう。
部活が夏休みに食い込むと、受験勉強への悪影響が一気に増加します。
夏休み以降の部活と受験勉強の両立は、現役合格を目指すのであれば、絶対無理とはいいませんが無謀といえるでしょう。
グロス学習時間とネット学習時間について
部活と受験勉強を両立させようとしている受験生は、時間を効率的に使うようにしてください。
ここでは、グロス学習時間とネット学習時間の違いについて解説します。
グロス(gross)は「全体、総体」という意味で、ネット(net)は「正味、中身だけ」という意味です。
例えば2人の受験生が同時に16時に勉強を始めて22時まで通しで勉強をしたら、2人のグロス学習時間は等しく6時間です。
しかしネット学習時間は異なります。
例えば2人がその6時間で英単語の暗記に取り組んだとします。
その結果、1人が500個暗記でき、もう1人は250個しか暗記できなかったとします。
このとき、500個暗記した人のネット学習時間を6時間だとしたら、250個暗記した人のネット学習時間は3時間でしかありません。
つまり250個しか暗記できなかったひとは、6時間机に向かっていても、正味3時間しか勉強していないことになります。
部活と受験勉強を両立させようとしている人は、ネット学習時間を限りなくグロス学習時間に近づけるようにしましょう。
それには勉強の効率化が欠かせません。
部活と受験勉強の両立とは、部活動で失った時間を、効率的な勉強や部活パワーで取り戻すことに他なりません。
まとめ~覚悟はあっても過労に注意
部活と受験勉強の両立は、部活で鍛えた体と頭をフル活用すれば実現できます。
ただし、相応の覚悟を決めたうえで自己責任で実行する必要があります。
そして過労に注意してください。
受験は体力勝負の一面があるので、体調を崩したら元も子もありません。
両立どころか共倒れになってしまいます。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。