大学入試で勝利するため、受験生は今、必死に勉強していることでしょう。
子供を勝利に導くため、受験生の保護者は今、必死にサポートを続けているはずです。
その努力と取り組みがとても貴いことであることが実感できる話題をお届けします。
「替え玉受験事件簿」です。
娘の大学入試を、女装した父親が受けるという、笑うに笑えぬ、でも笑ってしまう話もあります。
ITを駆使した替え玉受験や、組織的に入試不正を働いた私立医大も紹介します。
努力しないで利益を得ようとする者は、必ず報いを受けます。
女装した父親が津田塾大入試に挑む
私立女子大のトップクラスに君臨する津田塾大でその珍事が起きました。
娘の入試の日に現れたのは、その父親で女装して入試を受けました。
発生したのは1975年とかなり昔の話ですが、日本受験史に残る有名事件です。
なんと1日目は無事終了
当時の報道などによると、津田塾大では2日にわたって入試を行っていました。
父親は、1日目は無事、試験を終えることができました。
しかし父親の横で試験を受けた本物の女性の受験生が違和感を持ち、大学側に「男かもしれません」と通告。
発覚していることを知らずに、父親は2日目の試験にもやってきました。
そのときの服装は、レンガ色のパンタロンに白いタートルネックのセーターだったそうです。
パンタロンは裾幅が極端に広いズボンで、当時は男性も女性も着用していました。
タートルネックは首全体を覆うデザインなので、のどぼとけを隠すことができます。
喜劇か、それとも受験戦争が生んだ悲劇か
この事件は日本の不正受験史のなかでもトップクラスの珍事といえるでしょう。
このような事件が起きたのは、1970年代の受験シーンが「戦争」に例えられるほど激しかったからです。
子供が多かったうえに、大学を出れば裕福な生活が約束されていると信じる人が多かったのです。
そして1978年には、センター試験の前身である共通一次試験が始まり、受験はさらに激化していきます。
父親女装受験事件は、受験狂騒曲の一曲だったわけです。
父親が娘に替え玉受験を提案したのか、娘が父親に懇願したのかは定かではありませんが、いずれにしても、大学だけでは人生が決まらないことが知れ渡っている現代では、この父と娘の心理は想像できないでしょう。
しかし替え玉受験は現代でも根絶できているわけではありません。
パソコンで顔写真を合成した中央大学事件
中央大で2010年に発覚した替え玉受験では、パソコンで顔写真を合成するという、IT時代ならではの手口が使われました。
事件の舞台が理工学部だったので、理系ならではともいえるでしょうか。
朝日新聞の報道を元に、当時の事件を振り返ってみましょう。
出身校の校長も「本人です」
中央大の入試に出願したのは、一浪の男Aでした。
Aになりすまして実際に2019年2月の入試を受けたのは、Aと小学校から付き合いのあったBです。
Bは事件当時、別の私大の学生でした。
浪人生Aが私大生Bに指示して、2人の顔を合成した顔写真をつくらせました。
そして浪人生Aはその写真を使って中央大に出願し、私大生Bに受験させました。
2人の顔を合成した写真なら2人の特徴が含まれているので、どちらがその写真でチェックを受けても「少し違和感があるが本人のものだろう」と推定されるというわけです。
私大生Bは合格点を取ることができて、浪人生Aは合格しましたが、何者かが中央大に通報しました。
中央大は、Aが入学手続きに現れたときに事情を聞き、Aが「自白」したので合格を取り消しました。
中央大は合格を取り消す前に、浪人生Aの出身高校を尋ね、校長に合成写真を見せました。
校長は「うちの卒業生のAに間違いない、本人です」と答えたそうです。
そして中央大の入試では、監督官は私大生Bの顔と受験票の合成写真の顔を確認していました。
合成写真はそれだけ精巧につくられていたのです。
浪人生Aにいじめられていた私大生B
浪人生Aと私大生Bは小学校以来の知り合いでしたが、友人ではありませんでした。
BはAにいじめられていました。
合成写真の作成でも、浪人生Aは複数の友人を呼び、Bを脅していたことがわかっています。
通報者は私大生Bが通う私大にも、Bが中央大で替え玉受験をしたことを通報していました。
大学側の調べに対しBは事実を認めました。
BはAから現金数万円を受け取っていることもわかりました。
ただ大学側は、Bが小さいころからAにいじめられていて、指図に逆らえなかったのだろうと判断し、Bを停学処分にしたあとで復学を許しました。
チェックを厳重化
中央大は朝日新聞の取材に対し「通報がなかったら見過ごしていただろう」と認めています。
顔写真まで偽造されては手の打ちようがないわけです。
中央大は事件後の入試では、受験者の顔と受験票の顔写真の確認を厳重にし、さらに答案用紙の文字と願書の文字の筆跡を調べているそうです。
替え玉受験と裏口入学の違い
不正受験には替え玉受験の他に裏口入学があります。
替え玉受験には、受験生側の犯行という性質があります。
また、出願者ではない者に実際の入試を受けさせるので、共犯者が必ずいます。
替え玉受験は、入試のチェック体制の甘さをついた犯罪です。
有印私文書偽造罪で起訴されることもあります。
替え玉受験ではまれに、大学職員が加担していることもありますが、大学が組織的に関与することはありません。
大学が組織的に不正受験を行うのは、裏口入学です。
裏口入学は、受験生の親が多額の現金を大学側に支払うことで、子供をその大学に入学させる手口です。
受験生は普通に入試を受ければよく、あとは大学の合否判定の責任者が「合格」を認定するだけです。
裏口入学は、国公立大の場合は公務員が絡むので贈収賄罪になりますが、私大では罪に問われないことも考えられます。
私大には寄付金とAO入試の2つの制度があるからです。
裏口入学の意図があって受験生の親が大学に多額のお金を渡しても、寄付金として授受すれば問題ありません。
またAO入試は面接で合否を判定できるので、学力が足りないのに入学させたことを示す物的証拠が残りません。
不正な寄付金と不正なAO入試の両方を実行するには、何人もの関与者が必要になり、賄賂も高額になるにも関わらず、罪に問えないのはとても理不尽に感じるでしょう。
不正受験はなぜ起きるのか
替え玉受験や裏口入学などの不正受験が起きるのは、メリットが大きいからです。
メリットは次の2種類が考えられます。
- 受験勉強をしなくてよいメリット
- 大卒という資格が生む経済的な利益
受験勉強は修行のようなものです。
受験勉強も修行もやることが決まっていて、それを確実にこなしていくことが求められます。
やることは難しく、単調で、大量にあります。
それは行為者に大きなストレスを与えます。
ストレスが増えると逃げ出したくなり、実際に逃避する人もいます。
しかし、修行を放棄すれば悟りが開けないように、受験勉強を続けなければ合格を手にすることができません。
しかし不正受験をすれば、難しくて単調で大量にあるやることを回避でき、ストレスを受けないで済みます。
不正受験のチャンスが目の前にあれば、受験生の心は揺らぐでしょう。
また、子供が苦しんでいる姿を毎日目の前でみている保護者も、不正受験で子供を救ってあげたいと思うかもしれません。
不正をしてでも受験をあきらめないのは、実益が大きいからです。
実益とはお金のことです。
中卒者より高卒者のほうが、高卒者より大卒者のほうが高い給料を獲得することができます。
そして低い偏差値の大学を出るより、高偏差値大学を出たほうがやはり高額収入を得ることができます。
これが不正受験のモチベーションになります。
不正受験をする人の最終目標はお金です。
しかも高偏差値大学を出ると世間で尊敬を受けることができます。
直接お金を盗む行為と比べると、不正受験は卑怯さが際立っています。
特定の受験生を拒否するための入試不正
替え玉受験や裏口入学が「入るための不正」なら、2018年に発覚した私立医大の入試不正は、特定の受験生を「入れないための不正」でした。
この私立医大は、合格点に達していた女性の受験生と多浪生を不合格にしていました。
多浪生とは、数年以上浪人している人のことです。
医大は医師を養成する大学であり、医大を卒業した人しか医師国家試験を受けることはできません。
女性と多浪生の得点を低く書き換えた
2017、2018年の入試では、計69人が合格ラインを上回っていながら不合格になっていました。
第三者委員会が調べたところ、さらに2013~16年にも109人が同じ被害に遭っていました。
全員、女性または多浪生でした。
大学側の手口は、女性受験生と多浪生のセンター試験と2次試験の点数を低く書き換えました。
指示したのは理事長と学長です。
まさに大学ぐるみの犯行でした。
この私立医大は2017、18年の入試で不合格になった人のうち44人に対して追加合格にしましたが、2013~16年の不合格受験生には追加合格をしないことを決めました。
そして第三者委員会も、不正に不合格になった受験生が補償を求めたら、大学側は誠実に対応すべきである、としています。
つまり「古い話なので、大学に入学させるのではなくお金で解決したほうがよい」と決まったわけです。
反省の弁と影響
事件後にこの私立医大の学長に就任した学長は、公式ホームページ上で次のように振り返っています。
●●大学は、今般の一連の不祥事により、創学以来100余年にわたって築いてきた社会からの信頼を大きく失墜させました。私たちは、このことを真摯に受け止め、長い年月の間に学内に積もったと考えられる問題点を徹底的に究明しながら、●●大学の新生に向けてその第一歩を踏み出していかなければなりません。そのためにまずは、公平公正な入学試験を実施することと同時に、これまでに不利益を被らせてしまった受験生の皆様に対し誠実かつ適正に対応してまいります。また、理事会構成員の一人として、内外のご意見を集約しながら、本学のガバナンス改革に取り組みます。この改革に終わりはなく、永続的なものとし、積極的に情報を開示していきたいと思います。
この私立医大は、若い男子学生を増やしたいと考えました。
それはつまり、若い男性の医者を増やしたかったということになります。
その理由は定かではありませんが、多様性を認める社会づくりに反していますし、人生100年時代にも逆向します。
さらに、合格すべき優秀な人が不合格になったということは、不合格になるべき優秀でない人が合格したことになります。
医者に必要な学力を持っていない人が、人の命を預かる医師になる可能性があるということです。
この私立医大を卒業した医師は「そういう目」で世間からみられることになります。
私大の医学部の授業料は1,000万円をゆうに超えます。
そして医者になれば、将来的に大きな収入を得ることができます。
大学ぐるみの巨大入試不正が大金が動く私立医大で起きたのは、偶然ではないと考えることもできるでしょう。
理事長と学長は贈賄罪で在宅起訴されました。
まとめ~まんまと入学した者について
替え玉受験や裏口入学、入試不正、カンニングなどの発覚は、ほんの一握りなのかもしれません。
大学生のなかには、まんまと入学できた者が混ざっているかもしれません。
しかし真面目に地道に勉強に取り組んでいる受験生が、過度に怒る必要はないでしょう。
不正で大学に入った者は、いつか必ずボロが出ます。
そのとき過去の不正受験が発覚すれば、社会的な地位は一瞬で消え去るでしょう。
女装した父親は40年以上経ってもこのように笑われていますし、入試不正をした私立医大は、これから何十年も卒業生の医者たちに肩身の狭い思いをさせることになります。
悪が栄えたためしなし。
「お得な受験不正」は存在しません。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。