受験生は恋愛をすべきではないのでしょうか。
それとも恋愛してもいいのでしょうか。
この難しい問題に正解を出すことは簡単ではありませんが、次の3つのパターンについて考察していきましょう。
- A:感情を抑えられるなら、恋愛はしないほうがよい。恋愛に使うパワーと時間を勉強に向けよう。
- B:受験生によっては、恋愛の気持ちの昂(たか)ぶりを勉強モチベーションに変えられる。恋愛が深まるほど学力が上がる人もいる。
- C:今できる恋愛は今しかできない恋愛だ。学力が多少落ちようと恋愛はやめない。でも勉強にもしっかり取り組む。
A、B、Cの3つのパターンを解説する前に、受験の大前提を考えてみたいと思います。
あえて正論を述べるなら
受験とは、1年または2年ほどの期間、勉強だけに集中する取り組みのことです。
受験生のなかには、保護者や教師に言われて仕方なく受験勉強をしている、と主張する人がいるかもしれませんが、大抵の受験生は自らの意志で受験の世界に飛び込んできたはずです。
そして日本の社会は、受験に没頭する子供たちに、勉強だけすればよい機会を与えています。
受験生の家庭でも、家族たちはいわゆる「犠牲」を払って受験生に勉強だけに集中できる環境を与えています。
受験生はいわば「特別待遇」を受けています。
勉強に没頭できる機会を与えられた受験生は、勉強だけに集中すべきでしょう。
受験勉強を邪魔しかねない行動は慎むべきです。
もし恋愛中の受験生が、周囲の大人から厳しい口調で「受験の1、2年くらい恋愛を中断しなさい」と注意されたら、それは正論といえます。
ただ、世の中の出来事にはいつでも予期せぬ事情が発生します。
それは受験と恋愛についても同様です。
「A:恋愛しないほうがよい」について
受験と恋愛の関係のパターンAは「感情を抑えられるなら、恋愛はしないほうがよい。恋愛に使うパワーと時間を勉強に向けよう」でした。
これは正論に近いのですが、もう少し緩やかな考え方です。
高3の男性受験生のA君が、同じ高校の2年生の女性後輩Bさんと付き合っている、とします。
もしA君がBさんに対し、「受験に専念したいから来年の入試が終わるまで会わないようにしたい」と言い、Bさんが「先輩、わかりました。そうしましょう」と理解してくれたなら、それが理想形です。
しかもこの形はとても自然です。
会わないといってもせいぜい1年です。
しかもデートをしなければいいだけで、LINEのやりとりくらい問題ないでしょう。
例えばA君がLINEで「この間の模試の結果が返ってきた。北大がC判定、帯広畜産大学がB判定だった。まずまずのスタートだと思う」とメッセージを送ったとします。
それに対しBさんが「まだ模試を受けたことがないのでよくわかりませんが、よい結果ということですね。よかった」と返したとします。
A君は励ましを受けてやる気が起きますし、Bさんは受験勉強のリアルな姿を把握できるので、自分の来年の受験に役立ちます。
このように、会わずに愛を育むことは可能ですし、「会いたい」気持ちを勉強エネルギーに変換することもできます。
もし自分がA君の立場になったら、LINEで簡単に想いを伝えるのではなく、今の複雑な気持ちやストレスフルな生活の様子を英文にして、それを手紙にしてBさんに郵送してみてはいかがでしょうか。
A君の英語の勉強になるだけでなく、英文ラブレターを受け取ったBさんも辞書を使って必死に翻訳するでしょう。
手紙というアナログ手法は新鮮なので、お互いの感情を高め合うこともできます。
さらに「禁欲生活」や「我慢」は日本人の気質にマッチします。
制限されるストレスを創造の原動力にすることは、日本人の得意技のひとつです。
受験という大きな目標のために愛する2人が「会わない」と決断するのは、ドラマチックですらあります。
「B:勉強モチベーションに変える」について
続いてパターンB「受験生によっては、恋愛の気持ちの昂(たか)ぶりを勉強モチベーションに変えられる。恋愛が深まるほど学力が上がる人もいる」について考察してみましょう。
恋愛をしていない受験生が、100%勉強に集中できるのかといえば、そのようなことはありません。
恋愛以外にも、受験期間中は多くの誘惑に駆られます。
そして、そもそも勉強が苦手な人は、恋愛をしていなくても、その他の誘惑事項がなくても、勉強に集中できないでしょう。
つまり「恋愛は受験の邪魔」論は、100%確実な理論ではないのです。
このことを踏まえると、受験期間中であっても恋人と3日に1回、1回1時間程度会って愛を確かめ合うことは、必ずしも受験のマイナスにならないかもしれません。
そして恋人から励まされることで感情が昂ぶり、そのテンションで参考書に向かったほうが勉強がはかどる場合、3日に1時間の逢瀬がプラスに働いたと考えられます。
ただこのパターンBでは、線引きに注意する必要があるでしょう。
3日に1回、1回1時間がOKなら、2日に1回でもよさそうな気になります。
では毎日2時間、会うことはどうでしょうか。
夏休みに1泊2日で旅行に行くことはどうでしょうか。
その旅行に参考書を持っていけば問題ないでしょうか。
このように、恋愛は「溺れる」状態を生みやすいので、パターンBを発動するときは自制心が必要になるかもしれません。
「C:受験より大切なことがある」について
受験と恋愛パターンCは「今できる恋愛は今しかできない恋愛だ。学力が多少落ちようと恋愛はやめない。でも勉強にもしっかり取り組む」についてですが、こちらはパターンBよりリスクが大きいのでさらに注意する必要があります。
学力が多少落ちようと恋愛はやめない、という感情は思春期の人が陥りやすい気持ちであり、理性的とはいえません。
理性的な恋愛とは、相手を思いやり、自分の損失を最小限にする付き合い方を模索することです。
そして、今できる恋愛は今しかできない恋愛である、との考え方は盲目的すぎるきらいがあります。
受験期間のわずか1年間ですら毎日会わなければ維持できない恋愛は、本物の恋愛なのだろうか、という疑問が湧いてきます。
ただこのパターンCでは、勉強にもしっかり取り組むと決めているところに救いがあります。
恋人と会う以上は、恋人と会ったことで成績が落ちたと言われないように結果を出す、という決意があれば、こちらも恋愛パワーを受験に活かすことができるかもしれません。
片思いの感情をどう処理するか
ここまで、恋愛している2人の関係と受験勉強について考えてきました。
しかし受験生を悩ませるのはうまくいっている恋愛だけではありません。
むしろ片思いのほうが受験生を苦しめ、勉強の大きな障害になるかもしれません。
片思いはどのように処理したらいいのでしょうか。
告白先延ばし作戦
好きになった相手にまだ告白していない受験生は「入試が終わったら告白する」という目標を立ててみてはいかがでしょうか。
例えば、高3生の女性受験生Cさんが、自分が所属している男女グループの男性D君のことを好きになったとします。
D君だけでなく他のグループメンバーもCさんの想いは知らなかったとします。
もし自分がCさんの立場だったら、グループのみんなに、入試が終わったらみんなでニセコに行ってスノーボードをしようと提案してみてください。
そして、実際に入試が終わってみんなでニセコに行ったときに、CさんはなんとかゲレンデでD君と2人だけの時間をつくり、気持ちを伝えるのです。
このように設定すると、入試後の告白が受験勉強の「報酬」になります。
報酬とは心理学や脳科学の分野の概念で、行動を決める要素になります。
ほしいものが与えられたり、大きな目標を達成できたり、誰かに褒められたりすると、脳内に快感物質であるドーパミンが分泌されます。
これが報酬となり、再びドーパミンによる快感を得たいと考えるようになります。
義務的行動の後に報酬を設定すると、義務的行動の動機が強化されるようになります。
告白を報酬、受験勉強を義務的行動とすると、入試後のニセコ旅行でD君に気持ちを伝えるという目標は、十分に受験勉強の報酬になります。
片思いはつらいものです。
募る想いが邪魔をして、勉強が手につかないこともあるでしょう。
しかし報酬理論を使えば、恋愛感情を勉強エネルギーに変換することができるかもしれません。
当たって砕けろ作戦
片思いと受験の関係では、「当たって砕けろ」作戦も選択肢になり得ます。
受験勉強が手につかなかったら、振られる覚悟で告白してしまうのです。
しかし当たって砕けろ作戦には2つの懸念があります。
ひとつ目の懸念は、片思いが成就してしまうことです。
喜ばしいことではあるのですが、新恋人ができたのにデートを我慢できるでしょうか。
そして付き合い始めというのは、毎日会いたいと思うはずです。
それは確実に受験勉強を障害します。
ふたつ目の懸念は振られてしまった場合です。
「スッキリした、気持ちを切り替えて勉強しよう」と思えればいいのですが、落ち込む可能性が低くありません。
「こんなことなら告白しなければよかった」と悩むと、これも勉強の支障になってしまいます。
まとめ~大人も簡単に罠にはまる
受験生は、恋愛の処理の仕方は簡単ではない、と覚悟しておいてください。
恋愛は、ゲームやスマホや漫画や趣味以上に、強力な勉強阻害要因になりかねません。
恋愛は、より理性的で分別があるとされている大人すら狂わせることがあります。
最近の不倫報道は、まさにそのことを証明しています。
恋愛は魔物です。
それで受験に失敗した人もいます。
しかし恋愛感情を上手に受験パワーに変換することも十分可能です。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。