秋といえば、スポーツの秋です。
体を定期的に動かすこと、すなわち運動やスポーツはレクリエーションとして気分転換やストレス発散になるだけではありません。
お子さんの心や体を鍛え、日々の勉強や学習にも良い影響をもたらします。
体育の授業で習う運動やスポーツを、運動が苦手な子が無理なく楽しむためにはどうすればよいのでしょうか?
体育の運動やスポーツを楽しく克服する方法について解説します。
いまスポーツが熱い!
今、日本はスポーツブームに沸いているといえます。
その立役者は2021年に行われた東京オリンピックです。
新型コロナの医療問題が重なったことに加え、商業利権との癒着が問題視されていますが、競技や選手自身に罪はありません。
メダルラッシュに沸いたのは記憶に新しいですが、多大な後押しの賜物でした。
オリンピックには数年間に及び、”スポーツ振興”の名のもとに巨額の助成がなされたからです。
どうして国を挙げてスポーツ立国を目指したのでしょうか?
現在、高齢化が進む中、医療費はどんどん膨らむ一方。
そのため、オリンピックには”1億総運動社会”を目指す狙いもありました。
医療費抑制に不可欠な健康維持・病気予防のために、運動習慣の普及は大きな社会課題です。
また、脚光を浴びていなかった競技が近年強くなったこともブームに一役買っています。
昔は日本のスポーツといえば、国技の相撲の他、柔道・水泳・スキーくらいでした。
今や、世界一に輝いた実績をもつ野球・ソフトボール・女子サッカーをはじめ、男子サッカーもワールドカップの常連です。
さらにテニス・卓球・バドミントン・フィギュアスケート・カーリングといったかつてのマイナースポーツからも、世界的に活躍する選手が次々と育っています。
このように運動やスポーツへの取り組みは、個人の健康促進とジュニア育成強化の両面から機運が高まっているのです。
運動の科学的効能
また、最近の研究では「運動と知能の関係」が科学的に調べられています。
私たちの頭と体はつながっていますが、「運動をすると頭が良くなる」という俗説は本当なのでしょうか?
ベストセラー『スマホ脳』の著者であるスウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンの『運動脳』という著作があります。
運動が認知課題の成績に与える効果を調べた同書のデータによると、
- 水泳やジョギングなどの有酸素運動で脳の前頭葉が大きくなり、記憶や学習を司る海馬の細胞が増える
- 情報を処理する「灰白質」、情報を伝える「白質」のいずれも機能が高まり、成績が向上する
- 小学生の学童期に効果が高い
- 「週2~3回」「30分~1時間」程度でも効果がみられる
ことが分かっています。
つまり、体を動かすと脳が成長し、知力も向上するということです。
事実、優れた知力は一流アスリートのひとつの条件でもありますが、逆もまた然りです。
起業家や科学者には、登山やゴルフなど体を動かす趣味や運動習慣をもつ人が多いとされます。
とはいえ、大人も子どもも多忙な時代、なかなか時間がとれない悩みもあります。
どれくらい運動すればよいかは問題ですが、上記の通り、必要な頻度はそれほど多くありません。
肥満予防としては、最低「1日10分程度」の運動でも良いそうです。
あまり気構える必要はありません。
体育を嫌いになる理由
もともと体を動かすことが嫌い、という人は少ないでしょう。
運動は気分転換やストレス発散になるからです。
では、なぜ体育の授業を嫌いになる子が多いのでしょうか?
1.人と比べられる
勉強も同じですが、単に好きでやっていることを他人と比べられて、勝手に優劣をつけられるのは気分の良いものではありません。
好みは十人十色ですが、同調圧力の強い日本社会はやたらと同じことをさせたがります。
スポーツは花形の野球・サッカー・バスケットボールに限らず、体操・アーチェリー・ゴルフ・カーリング・スケート・スキー…などさまざまです。
本来どれを楽しんでもよいはずですが、一斉教育で一律に同じスポーツをさせられるのは問題です。
2.授業時間が決められている
授業ではチームワークが出来始め、ようやくエンジンがかかってきた頃に非情のチャイムが鳴ります。
「まだやりたい!」という空気の中、しぶしぶ教室に戻らなければなりません。
1日中運動できる運動会を楽しみにしている子は多いことでしょう。
スポーツは本来レクリエーションなので、やりたいだけやらせればよいのです。
3.格好が決められている
体操着や水着は制服のように指定が定められています。
見た目を気にする思春期の子供には、特に反発する理由になります。
非合理的な要素が生徒の興味を遠ざけてしまうのは勿体ないことです。
4.軍隊教育の名残
かつての軍隊教育の名残から、一部の内容は時代にそぐわなくなっています。
海外の先進国でそうした内容が行われることはまずありません。
鉄棒・跳び箱・マット運動などは軍人育成に必要なものでした。
当然、面白いものではありませんが、今なお目的が失われたまま行われています。
集団スポーツを好む傾向も名残といえます。
以上の点を鑑みると、成績評価を緩くし、競技・時間・服装の幅を自由にして、より近代的な種目を取り入れることで、体育を好きになるお子さんが増えるのではないでしょうか。
体育の授業を克服するには
まず適切な目標設定が必要です。
目標は決して「陸上選手や体操選手になる」ことではありません。
あくまで「苦手意識をもたなくなる」ことであれば、最低限がこなせればOKであり、それほどハードルは高くありません。
他の教科と同じく、体育も文科省が指導要領で範囲を定めています。
つまり、基本的にはほとんどの子が達成できるようになっています。
授業で目立ったり、活躍する必要はないのです。
以下では、具体的ないくつかの方策を示します。
遊びを見つける
「好きこそものの上手なれ」と言われるとおり、いかなる物事も楽しく上手に行うコツは「好きになる」ことが先決です。
運動自体を好きになれば、楽しくできて上達し、さらに楽しくなる好循環が生まれます。
勉強も同じですが「苦手教科を克服しよう」と正面から考えず、「その教科を好きになるようなこと(=遊び)をする、見つける」ことが大切です。
それは鬼ごっこでもキャッチボールでも、何でも構いません。
子どもの場合、”好き・得意”、”嫌い・苦手”の自己意識は案外大きいものです。
逆にいえば「自分は運動が好き、得意だ」というざっくりした肯定感を一度もたせることが肝要です。
運動の種類が違っても「やればできる!」という気持ちが生まれ、挑戦を続けることで、きっと克服できるに違いありません。
反復練習をする
取っかかりとなる「肯定感」をもつには、やはり最低限の練習が要ります。
教育熱心なご家庭であれば、文字の書き取りや足し算・引き算などを就学前に行うことは珍しくないでしょう。
そうしたご家庭ほど、体育の予習・復習をわざわざ行うことは少ないかもしれません。
ですが、苦手であればなおさら、家庭で補うことが平均点のキープにつながります。
早いうちから特定の教科に苦手意識をもたない方がよいのは、体育も他の教科と同じです。
結局、時間をかけて自分でやってみて体で覚えるしかありません。
自転車に乗る練習は、言葉で逐一教えるより、転びながら習得する方が早いのと同じです。
文字や言葉で伝えたところで、実際やってみると全くイメージが違うことがほとんどです。
以下では、競技の種類別に対策を挙げます。
1.球技
体育の授業で行われる球技は、ドッジボール・野球(ソフトボール)・サッカー・バスケットボール・バレーボール・バドミントン・卓球とさまざまです。
バドミントンや卓球はご家庭でもできますが、多くの競技はチームスポーツです。
できれば友人や近所のお子さんを誘って、大人数で楽しめる環境を作ってあげるのがオススメです。
面倒くさがらず、むしろお子さんの運動嫌いを理由に積極的に仲間を作ることで、人間関係の輪も広がるでしょう。
2.器械体操
跳び箱や鉄棒などの器械体操系がレクリエーションで行われることはまずありません。
これらの種目が苦手な場合、ご家庭での取り組みが必須です。
<縄跳び>
簡単にできるため、庭や空き地などでコツコツ練習しましょう。
ケンケンパやゴム跳びで遊ぶのもよいです。
<鉄棒>
たいていの公園に備えつけられているので、お子さんを連れて行って練習しましょう。
逆上がりなどは補助をしてあげると早く習得できます。
<マット運動>
前回り、後回り、逆立ちなどは布団の上で練習できます。
ベッドの場合、落ちる危険もあり難しいかもしれません。
<跳び箱>
いっけん練習しづらい種目ですが、馬跳びで代用できます。
<ダンス>
指定の楽曲を再生し、室内で踊れる環境を作ってあげると雨の日も遊べます。
3.陸上競技
体育の授業の花形といえば、やはり陸上競技です。
徒競走、いわゆるかけっこの順位で他競技の優劣も決まってしまいます。
俊足は体つき、遺伝と片付けがちですが、速く走るコツはいくつか知られています。
手を振る、あごを引く、体の軸をまっすぐにする、呼吸法を意識するなどです。
足が速くなるとジャンプ・ハードル・球技などに応用が効き、体育全般に良い影響をもたらすため抑えたいポイントです。
4.水泳
陸上動物である人間はもともと泳ぐことができません。
よって、然るべき方法を習わないと正しいフォームが身につかず、正しく泳げないといわれます。
泳げるようになるポイントは息継ぎと浮き方にありますが、学校の授業はそこまでサポートしてくれないのが実情です。
水泳は有酸素運動で心肺機能を高められ、足に負担がかからないため、数少ない”生涯スポーツ”でもあります。
親御さんが得意なら市民プールで教えればよいですが、苦手な場合、短期間でも水泳教室に通わせるとよいでしょう。
運動習慣をつける
人間は習慣の生き物です。
習慣が身についていないと、新しいことを始めたところで、すぐにやらなくなってしまいます。
逆にどんなことであれ、毎日やっていることは嫌でも徐々に身についてきます。
運動をしていない人は毎月やることから、
毎月運動している人は毎週やることから、
毎週運動している人は毎朝やることから、
という具合に少しずつ頻度を上げていきましょう。
この際、運動の質を上げる(時間を伸ばす、きつくする)必要はありません。
5分でも15分でもそれ以上でも構いません。
サッカーでもランニングでも水泳でも、お子さんが好きなことでよいです。
まずは習慣作りが先決です。
一緒に運動する
飽きっぽい子どもが新しいことを始め、ましてや続けることは容易ではありません。
ただ単に「外で運動しなさい」と言ってもやらなかったり、三日坊主で終わることはざらです。
運動が苦手であれば、なおさらです。
昔の有名な言葉に「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」というものがあります。
他人を動かすには、まず「自分がやってみせる」ことが大切だということです。
一緒に走る、一緒に泳ぐ、キャッチボールをする、卓球やバドミントンをする…
何でもいいですが、お子さんと一緒にやってあげると互いに楽しいものです。
そのうえで少々アドバイスをし、上達のコツを徐々に教えていきます。
コツが分からなければ本などで調べましょう。
うまくできたら褒めることが肝心です。
モチベーションが高まれば、次第にひとりでも運動するようになるでしょう。
運動ができる体をつくる
案外見過ごされがちですが、意識や習慣といった”心理的要素”の改善だけで、運動能力を上げるのは難しいものです。
すなわち、”物理的な肉体”を形づくることが何より大前提です。
よって、食習慣も大事な要素になります。
人間の肉体は数十兆の細胞で構成されています。
一個一個の細胞を形作るのはタンパク質であり、各種ビタミンやミネラルなどが健全な成長に不可欠です。
骨や血液を作るカルシウムや鉄分などは体の丈夫さに直結します。
また、エネルギー源としての炭水化物も必要です。
バランスよく食べないと、肥満や痩せ気味になり、運動が得意になるどころではありません。
すなわち、これら1日当たりの栄養所要量を満たす食生活の毎日の維持が肝要です。
最近では健康志向ブームから、糖質制限やグルテンフリー、菜食主義、各種ダイエット法など、主に外国由来の新しい健康食が流行しています。
大人になって必要に迫られ、自己責任でこれらの方法を取り入れることに異論はありませんが、伸び盛りの子どもとなると、再考の余地があります。
いずれの方法にせよ、短期的なメリットに目を向けるだけでなく、長期的なデメリットを考慮する必要があります。
両立するには面倒がらず、親子でメニューを分けるとよいでしょう。
十分な睡眠をとる
食習慣と同様に大切なのは、毎晩の睡眠です。
夜間の睡眠中に成長ホルモンが分泌されるため、十分な睡眠は脳と心の健全な成長を促すからです。
理想の睡眠時間は米国睡眠学会によると、小学生で9-11時間、中高生で8-10時間とされています。
睡眠不足は運動に関わる身長の伸びも妨げます。
190センチを超える長身の野球の大谷翔平選手は幼少期、夕方にはもう寝ていたそうです。
また、睡眠が浅い、長時間眠れないお子さんは睡眠の質を高める必要があります。
日中はなるべく外遊びをさせて太陽の光を浴び、布団・枕・カーテンなど寝室環境を整えて、ぐっすり眠れるようにしましょう。
スポーツの習い事を始める
最低限の生活習慣を身につけた後は、スポーツの習い事を始めて運動習慣を強制的に作るのも手です。
体育の授業や部活動と違い、月謝を払うスポーツ教室であれば、たとえ苦手なスポーツでも懇切丁寧に教えてくれます。
友達と入会すれば一緒にスポーツを楽しめ、チームスポーツであれば一丸となって戦うと盛り上がり、スポーツの楽しさがさらに倍増します。
集団スポーツは協調性、自律性、リーダーシップ、コミュニケーション力も身につきます。
イベントの日は応援に行ったり、プロスポーツの観戦をするなど、レジャーの幅も広がるため、親子の思い出作りにもなるでしょう。
スポーツ以外の遊びも大事
いっけんスポーツと関係ないような物で遊び、とにかく体を動かすことは運動神経を鍛えます。
たとえば、けん玉はバランス感覚を養い、脳にも良いとされます。
他にも、竹馬、木登り、ブランコ、かくれんぼ、鬼ごっこ、魚捕り、虫捕り…など挙げればキリがありません。
昔ながらの自然の野原や公園でのさまざまな遊びは、運動や身体発育の基礎を育むことでしょう。
体型を活かす
バランスの良い食生活を心がけても、もってうまれた体質はなかなか克服できないものです。
よって、チームスポーツでは独自の体型を生かしたポジションや役回りを見つけさせましょう。
たとえば、太めの子はパワー、背が高い子はジャンプ力、背が小さい子は小回りによる俊敏さを活かすことです。
サッカーであれば、それぞれディフェンダー、キーパー、フォワードに相当します。
自分の特性をつかみ、自分なりにチームに貢献できれば、スポーツを一層楽しめることでしょう。
どうしても出来ないことは諦める
必死に練習しても出来ないことはあります。
その子なりに頑張ったうえで、どうしても出来ないならきっぱり諦めましょう。
目標が高すぎて、現時点での能力・体格ではおそらくまだ無理なのです。
いくら頑張ったところで二重跳びが苦手、後回りが苦手、懸垂だけは出来ない、ドッジボールは好きじゃない…など、誰しも1つや2つ、苦手や好き嫌いはあるものです。
諦めが早いのも問題ですが、だからといって、出来ないことや取り組まないことを責めるのはやめましょう。
ますます体育を嫌いになってしまいます。
1-2年経つと体が発達し、驚くほどすんなり出来てしまうこともあります。
幸い体育大学でも目指さない限り、体育の評価は学力試験ほど考慮されず、内申点の差も微々たるものです。
漢字や九九を諦めると将来困る場面もあるでしょうが、そこまでではありません。
一般論としては、苦手克服も大事ですが、自分の得意なことを伸ばす時間や労力は何よりも重要です。
苦手な存在や意識は良い意味での”コンプレックス”となり、向いている分野を思い切り頑張る理由にもなり得ます。
得意分野ができると、苦手分野はむしろ人間的魅力に変わるでしょう。
必ずしも克服ばかりが正解ではないため、こだわり過ぎないように留意しましょう。
まとめ
基礎体力をつくり、協調性を育む運動やスポーツは脳と心の発達につながり、学習面でも良い影響をもたらします。
「健全な精神は健全な肉体に宿る」と言われますが、運動を支えるバランスのとれた食事と睡眠は不可欠です。
運動の苦手な子が旧態依然とした体育の授業に対応するには、他教科と同様、もしくはそれ以上のご家庭のサポートが欠かせません。
苦手対策や、典型的なスポーツや球技の習慣をつくるだけでなく、体を動かす遊び全般を通じて家族や友人で楽しみ、運動そのものを好きになることが大切です。
苦手意識を早めに取り除き、肯定感を与えるとお子さんも前向きに取り組めます。
適度な運動習慣は継続的な健康維持が求められる「人生100年時代」のかけがえのない財産になります。
週末に親子で一緒に走ることから始め、無理せずに続けましょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。