「理科」は小学生のお子さんにとって人気科目のひとつですね。
ですが、得意な子と同じくらい理科が苦手・嫌いな子もいるかと思われます。
お子さんの理科の成績が伸び悩んでいたり、あまり興味をもってくれなかったりして、困っている親御さんも少なくないのではないでしょうか?
理科は中学・高校と進むにつれて、物理・化学・生物・地学と細分化されていきます。
そのスタートとなる小学校の理科はとても重要な科目であることは言うまでもありません。
どうしたら理科が得意な子、好きな子になってくれるのでしょうか?
お子さんに理科への関心をもってもらい、学校の授業がもっと楽しくなる方法を解説します。
いま注目のSTEM教育
理科はいま、”時代の追い風”が吹いている教科といえます。
なぜかといえば、近年「STEM教育」に注目が集まっているからです。
STEM教育とは、“Science, Technology, Engineering and Mathematics”の頭文字をとった略称で、「科学・技術・工学・数学を総称する分野」です。
芸術を意味する”Art”を含めて「STEAM教育」とも呼ばれます。
21世紀は多くの分野で科学技術人材が必要とされています。
あらゆる産業の開発現場や生産工場において、AI・IoT・5G・ロボット・ドローンなど最先端のテクノロジーを用いた革新が進んでいます。
これらのデジタル技術を利用したオートメーション化や効率化は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼ばれ、各企業で人材の獲得競争が始まっています。
また、宇宙開発・エネルギー・材料・医学・バイオなど多くの科学技術分野が今後大きく発展すると見込まれています。
科学技術分野の進展を支える人材を育てるのが「STE(A)M教育」であり、理科はその中核をなしています。
したがって、理科好きになることは、将来これらの分野に携わることにつながるといえます。
理科は「自然」を相手にする学問
にもかかわらず、お子さんの理科への興味が低いのは悩みの種かもしれません。
そもそも理科はどんなことを学ぶ分野なのでしょうか?
理科は「自然」を対象にする学問の総称で、英語の「サイエンス」にあたります。
文学・経済学・法学・社会学・教育学など「人文科学」に対し、「自然科学」とも呼ばれます。
この名の通り、「理科が好きになるか、嫌いになるか」の分かれ目はひとことでいえば、「お子さんがどのくらい”自然”に接したことがあるか」によります。
子どもの行動範囲は大人に依存するため、「親御さんがふだんどのくらい”自然”に接しているか」と言い換えられるかもしれません。
「親の背を見て子は育つ」と言われるとおりです。
ちなみに、ここでいう”自然”は「自然現象」を指しており、人工物も含まれます。
たとえば、理科の授業でおなじみの実験のひとつ、「電池を銅線でつなげて豆電球を光らせる」にも「電気」という基本的な自然現象が関わっています。
集団教育の限界
お子さんが理科をなかなか好きになれない根本的な原因は、本人や親御さん以前に、学校教育にもその一端があります。
どんな分野にも当てはまりますが、用語を覚えるだけでは「わかったつもり」になるだけです。
用語を先に覚えてからその対象に興味をもつわけではありません。
現象に興味をもってはじめて、用語や知識を知りたくなるものです。
ところが、集団教育の小学校では授業時間に限りがあります。
先生も子どもたちに伝えたいことを全部伝えられず、させたいことを全部できません。
このことは、自分でやってみるとすぐにわかります。
理科で行われる観察・飼育・製作・実験にはプロセスがあります。
各プロセスは時間がかかるため、説明をつけてちゃんと教えようとすると数時間はゆうに過ぎてしまいます。
先生の力量も問われるところですが、どうしても座学中心になり、用語を覚えさせるだけで精一杯なのが実情です。
こうしたことから学校の授業だけで「わかる」には無理があるため、現象に興味をもたせるプロセスは率先して家庭で行うべきなのです。
対応策①”自然”に触れましょう
このように考えると、お子さんが理科を「あまり好きではない」「苦手」なのは、もしかすると「自然現象」に触れた経験が少ないのかもしれません。
子どもは本来、時間を忘れて没頭できるもの、熱中するものが大好きです。
与え方を間違えなければ理科は面白いはずなので、ご家庭で「自然体験」を意識的に増やす取り組みが大事です。
自然と関わる時間が多ければ多いほど、お子さんも親しみが湧いてきます。
結局は”慣れ”の問題なので、実体験に基づく知識が増せば、理科への苦手意識は薄れていくことでしょう。
大事なことは、このとき「なぜそうなるか」を逐一伝えることです。
子どもは何でも疑問に思います。
現象の背後に潜む理由を知りたいからです。
枝葉にわたる細かい疑問に対しても、出来る限り答えてあげましょう。
明快な理由がわかると自然現象の素晴らしさに感動し、子どももますます色々なことに興味をもつ好循環が生まれます。
すると当然、親御さんにも「本やインターネットなどで必要な知識を調べておく」という責務が生じます。
「自然」に対する造詣があればよいですが、問題は、いずれの親御さんも自然探検・自然観察・電子工作などが苦手、もしくは多忙で時間がとれない場合です。
そのような場合、観察イベントや実験教室に参加するなどプロの助けを借り、お子さんが自然に触れる機会を増やしてあげましょう。
詳しい方法は後述しますが、基本的な方針は「生の自然といかに触れ合うか」がポイントになります。
対応策②学ぶ「理由」を伝えましょう
また、お子さんによっては、ひょっとすると「なんのためにこれを覚えないといけないんだろう…」と疑問を感じているのかもしれません。
理科をいまいち好きになれないのは「なんのために学ぶのか」という芯の部分が分かっていない可能性があります。
何かを学ぶには合理的な「理由」が必要です。
理由を理解できると、学ぶモチベーションが自然と湧いてくるものです。
多くの大人も運転免許をとるのに苦労しますが、「車を運転できるようになるため」と理由がはっきり分かっているので頑張って学ぶわけです。
同様に、子どもも高学年になるほど納得できる理由づけが必要です。
たとえば、算数を学ぶのは「お店の買い物で困らないようにするため」、英語を学ぶのは「世界中の人々と楽しくおしゃべりできるようにするため」という具合に教えているかと思います。
スムーズに学習を進めるには、折に触れて「学ぶ理由」を伝える必要があるのです。
理科を学ぶわけ
では、理科は何のために学ぶのでしょうか?
簡単な答えは「生きるため」です。
人類の祖先はみな、石器や土器の時代に集落で暮らし、動物の毛皮を着て、日がなの食べ物を採集する原始人でした。
そんな時代から現代の豊かな文明社会を築くには数千~数万年の歳月がかかりました。
つまり、人類の誰かが身近にあるものから原理や法則を発見し、便利な道具や機械を発明してきたからこそ、今の豊かな暮らしがあるわけです。
蛇口をひねれば水が出てくる、スイッチを入れると明かりがつくのは、すべてが「理科」の賜物です。
それらの恩恵がどのように生まれたのか、ふだん便利に生活できているのはなぜか、最低限のことは知っておかなければいけません。
理科ではさまざまな原理原則を学びますが、それらは人間にとってなくてはならない”生きる知恵”の集合体です。
「明日をよりよく生きる」ために理科の知識は必要不可欠なものです。
知識は”命”をも守る
よりわかりやすい例を挙げましょう。
小学校の理科では「山」「川」「海」について習います。
自然いっぱいで楽しそうな響きがありますが、山は天気が気まぐれであることや、川は雨が降ると増水するなどの基本的知識を習うことで、実は非常に危険な場所であることが分かります。
このような場所は大人でさえ怖さをしばしば忘れてしまうため、事故が絶えません。
地方の危ない川には地元の人ほど怖さを知っているため近づかず、むしろ都市部に住む遠方の旅行者ほど恐れ知らずで近づいてしまうそうです。
このように、理科の知識は実用性に優れ、文字通り「生きるため」の知恵に直結するのです。
「知」は発明や発見につながる
自然の怖さについて抜かりなく学べば、その恐ろしいほどの力を逆に応用することができます。
「水」の絶大な力を巧みに利用したのが水車やダム、水力発電です。
自然界の力をうまく味方につければ、人間にとって有用なものへ変換できます。
よくよくまわりを見渡すと、身の回りの道具・機械・乗り物など文明の産物の多くが「理科」の知識に基づいて発明されたことに気づくでしょう。
何千~何万年も生きるだけで毎日が精一杯だった人類に便利な生活手段を与えたわけです。
理科を学ぶ根本的な意義は「日々の生活をもっと良く、便利にするため」と理解すると学習意欲も湧くことでしょう。
幅広く多岐にわたる「理科」
では、理科で学んだことは実際どのような分野に広がっていくのでしょうか?
宇宙・天文・気象・物理・化学・生物・情報・農学・医学・工学など応用範囲は多岐にわたり、それらの融合領域も多く存在します。
現代文明は「高度に発達した理科によって支えられている」といっても過言ではありません。
また、理科で学んだ知識は学問領域にとどまらず、日常の生活にも幅広く役立ちます。
毎日の料理やスポーツ、アート鑑賞などの趣味にも活かせるでしょう。
ただ、身近な生活に根ざした学校の「理科」と、実社会の科学技術の間には大きなギャップがあるのも事実です。
授業での学びが実生活にいかに役立っているかを想像するのは、お子さんにとってまだ難しいかもしれません。
後述するように、地域のイベントや博物館に出かけることで”知識と実践の架け橋”をかけて、お子さんの想像力をうまく育むことが大事になります。
「理科好き」にするためにできること
ここまで、「自然に触れる」「学ぶ理由を伝える」大切さを述べました。
とはいえ、取っかかりがないとなかなか興味をもたないので、自然に親しむきっかけを積極的に与えるとよいでしょう。
身近な範囲で手頃にできる方法を以下にご紹介します。
虫採り・魚釣り
近くに川や森、池などがある場合は、一緒に昆虫採集に行ったり、ザリガニを捕まえたり、魚釣りに行くとよいでしょう。
近くにない場合は、遠出して大きな公園やキャンプ場まで足を伸ばしましょう。
生き物の飼育や観察
飼育は昆虫・甲殻類・魚類・両生類・爬虫類・哺乳類・鳥類の特徴が分かり、生物学の理解を深めます。
広い森林公園に出かけ、バードウォッチングもおすすめです。
双眼鏡や野鳥図鑑を忘れずに持っていきましょう。
家庭菜園
ガーデニングで植物の生長を実地で学べます。
一生懸命育てた野菜や果物が実り、食卓に並ぶと嬉しいものです。
お米づくり
田んぼで苗を植えたり、稲の収穫や脱穀の作業によって、日本人として知っておきたいお米の知識を体得できます。
毎日食べているご飯がどのように作られているかを知ると食育にもつながり、社会科の知識としても役立つでしょう。
天体観測
星の動きは最も身近な自然現象のひとつであり、人類ははるか昔から天体の運行をさまざまな形で利用してきました。
たまにしか訪れない月食や日食だけでなく、星座や月の満ち欠けを観察し、また季節の変化を捉えましょう。
望遠鏡でレンズの仕組みも学べます。
日中は日時計を作ると、太陽の位置の変化がわかります。
飛行機を飛ばす
人類で初めて動力飛行機を飛ばしたライト兄弟は、子供の頃にプロペラ飛行機のおもちゃに夢中になり、空を飛ぶ仕組みを考えていたそうです。
竹とんぼやプロペラ飛行機、ペットボトルロケット、ドローンなどを飛ばすとよいでしょう。
一緒に製作を行う体験は楽しい思い出にもなります。
ドローンは都市部では飛行区域が限られますが、地域によっては競技会などのイベントも行われています。
電気、電子回路
電車模型やラジコン、ロボット、ドローンなどの玩具から入り、電子工作に入るとよいでしょう。
また、電気と関わりの深い「磁気」に興味をもたせるには、マグネットを使った砂鉄集めや方位磁針(コンパス)がよいでしょう。
リニアモーターカーの車両見学も興味をもつきっかけになります。
人体
目に見えないミクロの世界に触れるには、ルーペや子供用顕微鏡を与えるとよいでしょう。
できれば本物の顕微鏡で試料を観察すると、ミクロの世界の不思議さをより実感できます。
スポーツをしたり、医院や歯科医院に通うことが人体の仕組みや医学に関心をもつきっかけになることもあります。
また、子どもたちから貴重な体験の機会を奪ったコロナ禍は、医学や生物学に興味をもつうえでは格好の題材です。
マスクの必要性から入り、ウイルスの性質、肺炎のメカニズム、ワクチンの原理、PCR検査、抗体・抗原など免疫学の知識に至るまで、あらゆる点で題材があります。
人体や病気への理解が深まることでしょう。
体験教室で学ぶ
地域などで定期的に開催されている科学実験教室やプログラミング教室もおすすめです。
「百聞は一見にしかず」の通り、何度も聞いた知識であっても、体験しないとなかなか定着しないものです。
専門の講師に実験やプログラミングを教わると、驚きや感動を直に味わえるでしょう。
一緒に料理を作る
調理は化学・生物の知識に関連し、調理器具や電子レンジの原理は物理・化学の知識に基づいています。
したがって、毎日の調理作業は「理科」の入り口に最適です。
卵や重曹、ドライアイスなどの身近な材料は科学実験の宝庫なので、余った食材などで簡単な実験をするとよいでしょう。
博物館や美術館に行く
科学知識に溢れる科学博物館はお子さんの知的好奇心を刺激する、もってこいの施設です。
エンターテイメント性にも優れ、学校では学べない理科の側面を体感できます。
また、美術館でのアート鑑賞もおすすめです。
名画には「色彩」「陰影」「遠近法」「塗料・顔料」「錯覚」など、物理・化学・生物の知識が活用されており、知識を実用に結びつけることができます。
理科が好きになるおすすめ本
子どもは物事を抽象的に捉えることが苦手です。
言葉を具体的なイメージに置き換えるには、視覚的に理解できる本や図鑑が役立ちます。
低学年のうちは、大きなカラー写真が豊富な図鑑がおすすめです。
恐竜・宇宙・動植物・魚・昆虫などレパートリーが豊富です。
最近の図鑑にはDVDやAR(拡張現実)機能が付属するなど至れり尽くせりです。
自分の部屋で実物大の恐竜が歩き回ると、想像力がかき立てられることでしょう。
理科が好きになるおすすめの本(図鑑以外)を以下にいくつかご紹介します。
【宇宙】
『13800000000ねん きみのたび』坂井 治
宇宙の誕生にはじまる物質と生命の壮大な物語です。
国立科学博物館が監修しています。
『月とアポロとマーガレット』 ディーン・ロビンズ
アポロ11号による人類初の月面着陸を支えた女性プログラマー、マーガレット・ハミルトンの伝記絵本です。
女の子の宇宙教育に適した一冊です。
【地学】
『地面の下のいきもの』松岡 達英
土の下に暮らす生物の様子が詳細なイラストで描かれています。
『フリズル先生のマジック・スクールバス 地球のまんなか』ジョアンナ・コール
地球の真ん中まで探検するストーリーで、岩の種類など地質について学べます。
【物理・化学】
『じしゃくのふしぎ』フランクリン・M・ブランリー
身近にある物を例に磁石や磁気の不思議な性質がわかりやすく語られています。
『ロウソクの科学』マイケル・ファラデー
電磁誘導を発見したファラデーによる講義録で、燃焼や呼吸のメカニズムが解説されています。
【生物】
『いのちのひろがり』中村桂子
46億年にわたる生き物の進化がわかりやすく描かれています。
『おもしろい! 進化のふしぎざんねんないきもの事典』今泉忠明
子供の興味をひくような記述がとっつきやすく、取っ掛かりにはよいでしょう。
まずは絵本から入り、漢字がある程度読める高学年になってからは文章中心の本に切り替えるとよいでしょう。
まとめ
「理科」に興味・関心をもってもらうには、学ぶ意義を伝えたうえで自然(現象)にたくさん触れ、興味の取っかかりと良書をできるだけ与えることです。
その過程で、現象の理由や根拠を知り、知識と実践をつなぐことを学びます。
「勉強は遊びの延長」「よく学び、よく遊べ」と言われますが、理科ほどそうした言葉が当てはまる教科はありません。
日常生活で「不思議だな…」「なぜだろう?」と感じた疑問を解き明かすこと、「面白い!」と感じた現象を掘り下げること、ふとした疑問に立ち止まり、考えを深めることにその原点があります。
たゆまぬ好奇心こそ、人類が比類ない文明を築き上げた原動力です。
逆に要領良く用語を覚えるだけの学習、点をとるだけの学習ほどつまらなく退屈なものはありません。
身の回りの現象や自然物をよく見回して、従来の先入観を取り外し、その奥に潜む真理を知ることが理科の本質です。
科学的好奇心は幼い子どもは誰もがもっているので、自然現象の奥深さを素直な心で感じることが大切です。
本来備わっているモノの見方や考え方に気づくと、「理科」のもつ豊かな魅力により近づけることでしょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。