消費増税の使い途として教育の無償化の方向性が打ち出されています。
私立高校の無償化が話題になっていますが、こういった教育に対する費用負担の軽減の波は、大学にも及んでいます。
文部科学省による通達の元で、奨学金利用者の8割以上が利用する日本学生支援機構が、給付型奨学金の対象を拡大しています。
2020年4月から、この新制度が適用されます。
今回は、特にこの日本学生支援機構の給付奨学金について焦点を当てて解説していきます。
給付奨学金の概要
日本学生支援機構では、主に第一種奨学金と第二種奨学金が用意されています。
第一種は無利子で、第二種は有利子です。
どちらも貸与型の奨学金です。
貸与型はあくまで借りるので、当然、返還義務があります。
一種か二種かで利子の有無が変わるわけです。
国の施策の元で、2020年4月より給付奨学金制度が対象を拡げ本格的にスタートします。
これまで日本学生支援機構といえば貸与のイメージでしたが、給付も多くの学生が受けられるようになります。
令和元年度の採用者数は、大学進学者で12,321名です(※)。
手続きは自分の高校から行います。
しかし、振込は大学進学後になされます。
そのため、入学金など入学前に必要なお金は、別途準備する必要があります。
給付奨学金の審査に通っても、4年間受け続けられるか、というと違います。
毎年審査があって、基準を下回ると打ち切りになることがあります。
さらに例外として、特に事情もなく成績が著しく悪かったり、退学になったりした場合、返済の義務が生じる可能性もあります。
進学後も給付奨学生である自覚を持って、羽目を外さないように生活をすることが必要です。
給付金額
具体的な支給金額は、進学先が国立(公立)か私立かによって異なります(※)。
私立のほうが支給額は大きいです。
また、主に収入要件によって第一区分、第二区分、第三区分と分けられます。
第一区分が最も支給額が多いですが、そのぶん、年収要件などが厳しくなります。
さらに、自宅通学か自宅外通学(1人暮らしなど)によっても支給金額が異なります。
自宅外通学のほうがやはり金額が大きくなります。
- 第一区分(国立)で自宅通学は29,200円(毎月)です。自宅外通学は66,700円です。
- 第一区分(私立)で自宅通学は38,300円です。自宅外通学は75,800円です。
- 第二区分(国立)で自宅通学は19,500円です。自宅外通学は44,500円です。
- 第二区分(私立)で自宅通学は25,600円です。自宅外通学は50,600円です。
- 第三区分(国立)で自宅通学は9,800円です。自宅外通学は22,300円です。
- 第三区分(私立)で自宅通学は12,800円です。自宅外通学は25,300円です。
自宅通学か自宅外通学かでだいぶ金額が異なります。
大体、倍くらいの違いです。
しかし、その差は大きくても3万円程度なので、1人暮らしの家賃にも満たないといえます。
最も大きい支給額は、第一区分で私立大学への自宅外通学者です。
これが上記で示した通り75,800円となり、給付奨学金の支給額としては最も高額になります。
※参考:日本学生支援機構 給付奨学金案内
申込資格
申込資格は、当該年度の高校卒業予定者か、卒業後2年以内の人です。
基本は、高校三年生が進学先を決めて、申し込むことになります。
選考基準
既に述べたとおり、給付奨学金は希望すれば誰でも採用されるわけではありません。
学力基準と家計基準の双方をパスする必要があります。
学力基準
最も分かりやすい基準として、評定の定めがなされています。
高校の成績の平均値が5段階で3.5以上というものです。
3.5以上は、オール4に半分3があっても良いわけですから、それほど難しい要件ではありません。
その高校のなかで特別優秀ではなくても、この基準は満たせます。
また、3.5以上の成績を持っていなくても、採用される可能性は存分にあります。
ただし、この場合は高校での面談やレポート提出が課せられます。
それらを通して、大学での学習意欲をアピールしなければなりません。
家計基準
この基準は、さらに収入基準と資産基準に分けられていて、どちらも満たさなければなりません。
この密度によって第一区分~第三区分が決定されます。
もちろん、第一区分が最も給付額が大きいですから、厳格度も上がります。
収入基準
- 第一区分 学生と生計維持者(父母など)の市町村民税所得割が非課税
- 第二区分 学生と生計維持者の支給額算定基準額(※)の合計が100円以上25,600円未満
- 第三区分 学生と生計維持者の支給額算定基準額の合計が25,600円以上51,300円未満
※支給額算定基準額は、以下の計算式で求められます。
収入基準の審査にあたって、学生と生計維持者のマイナンバーを提出する必要があります。
具体的な収入額目安についてみてみると、たとえば母子家庭で奨学金希望者と中学生の弟がいる場合を想定します。
この場合、第一区分は221万円まで、第二区分は298万円まで、第三区分は373万円までになります。
資産基準
以上、収入基準と資産基準、2つの基準を満たさなければなりません。
特に収入基準のほうで、区分が決まるのが特徴です。
申込から支給までの流れ
申込
まず、申込に必要な書類を入手します。
これは、日本学生支援機構から取り寄せるのではなくて、通っている高校に言ってもらいます。
大学合格をして進学先が決まり、かつ、給付奨学金を得たい意思があるのであれば、担任に伝えましょう。
あえてHRなどで先生から給付奨学金の存在を知らせたり、希望者は伝えるように、などと言ったりしてくれないことがあります。
忘れずに自分から伝えることが大切です。
必要書類の準備が整ったら、こちらも機構ではなくて、学校に提出します。
さらにあわせて、インターネットから機構へ申し込み手続きを行います。
申込後1週間以内に、学生と生計維持者のマイナンバーを機構へ簡易書留で送ります。
これは前述したように、収入基準を満たすかどうかの審査に使われます。
審査に通ると、採用候補者として決定されます。
高校在学中に行う手続きはここまでです。
振込
大学に入学後、すぐに進学届を提出します。
その後、正式に奨学生となり、区分にしたがって決められた金額が4月から毎月振り込まれます。
この入金口座は、学生本人名義のものです。
無駄遣いをしそうだから、と親が自分の口座に振り込んでもらいたいと考えることがあります。
実際に手続きも子どもではなく実質的に親が担当しているから、そちらのほうが自然に感じる方も多いです。
しかし、やはり奨学金はあくまで親ではなく学生本人が貸与を受けるものですから、たとえ保護者や保証人の立場にあるとしても、親自身の口座に振り込んでもらうことはできません。
適格認定
奨学金の支給中には、毎年、適格認定が行われます。
家計の審査(秋)
秋には家計の適格認定が実施されます。
提出したマイナンバーをもとに、学生や生計維持者の所得などを調査して、基準を依然として満たしているかの調査がなされます。
ここで適格ではないと判断された場合、支給額が変わったり、給付が中止になったりすることがあります。
学業の審査(春)
春に行われるのが、学業の適格認定です。
これは、基本的に通っている大学が判断します。
日本学生支援機構が学生本人から成績証明書などを提出させるわけではありません。
大学が、学業について一定基準にもとづいて判定し、その結果が機構に送られる仕組みです。
大学の判定が著しく悪いと、やはり支給額が下がったり、支給そのものが打ち切りになる可能性があります。
支給が中止になる例としては以下のものが挙げられます。
- 退学、除籍、停学
- 留年決定
- 取得単位数が上限の5割以下
- 出席率が5割以下
- GPAが下位4分の1
上記のような事態になると、給付奨学金を継続できなくなる確度が高いです。
しかし見て分かるとおり、これでは打ち切られても仕方がないと思えるものばかりです。
経済的問題を克服して学業に励むために給付を受けているのですから、その意思が感じられない行動をすれば、給付が止まるのは当然のことです。
むしろ、これまでの支給額について返還義務が生じないだけ良い、とまでいえます。
普通に授業に出席していれば、取得単位数が上限の5割以下になることはありえません。
5割以下が続けば、大抵の大学では留年になります。
■GPAの基準について
GPAというのは、高校生には馴染みがない言葉かもしれません。
これは、大学で用いられる成績の評点です。
自分の内申点を各科目の成績で合計して表すのは中学生頃から行います。
大学では、科目数が多いこともあって、全ての科目の成績の合計では表さず、平均値で表現します。
たとえば、高校で計算しやすくするために10科目が通知表に載るとします。
オール4に5が2つあった場合、高校では42と表現します。
大学では、これは、4.2といいます。
これがGPAです。
今では、4段階評価を採用している大学が多いです。
S・A・B・Cといった具合です。
それぞれ4・3・2・1の点数になります。
全体の下位4分の1に入る成績は、GPAが2.0以下など極めて低くないと起こりません。
GPAの平均は2.4~2.8です。
平均以上の成績が取れるようにする必要があります。
Cはなるべく取らないようにして、A以上を取ることを目標にしていれば、2.0以下になることはありません。
給付奨学金についてまとめ
国が推進する高等教育無償化の流れが、日本学生支援機構の奨学金にも及んでいます。
それが2020年4月より本格的にスタートする給付型です。
得られる金額は最大でも7万円程度なので、正直、それだけで学費の全てをまかなうことはできません。
しかし、家計の厳しい家庭では、毎月決まって返還のいらないお金が振り込まれるのはありがたいものです。
興味がある方は、日本学生支援機構のHP を参照したり、現在の高校の担任などに相談したりと早めに動いてみましょう。
また、奨学金を受給している家庭の「収入状況」についても詳しく調査しましたので、以下の記事を参考にしてご自身の家庭と比較検討してみてください。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。