学習効果を高めるために読書をしている人には「KWL表」の作成をおすすめします。
KWLは、下の3つの英文の「I」の次の単語の頭文字を取ったものです。
What I know. (この本について知っていること)
What I want to learn. (この本から学びたいこと)
What I learned. (この本を読んで知ったこと)
KWL表は、読書帳の一種です。
読書帳は、読んだ本の感想や、本に書かれてあった重要な箇所を書いておくメモ帳のことです。
KWL表を使って読書帳をつくることで、本から多くの学びや気付きを得ることができるようになります。
KWL表はとても簡単
KWL表はノートが1冊あれば簡単につくることができます。
ノートの1ページいっぱいに、次のような枠をつくってください。
本のタイトル |
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購入日 読了日 |
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知っていること (Know) |
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学びたいこと (Want) |
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知ったこと (Learned) |
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この表の右の欄に文字を埋めていくだけです。
それぞれの欄に何を書いていくのか解説します。
「本のタイトル」に何を書くのか
「本のタイトル」の欄には、「本のタイトル、著者名、出版社名、値段、購入先」を書きます。
本のタイトルと著者名だけで十分と思われるかもしれませんが、その他の項目も書いておいたほうがよいでしょう。
出版社には、大手と中小零細があり、その本の位置づけに大きな影響をもたらします。
有名人がメジャーなテーマについて書いた本が大手出版社から出ていれば、それは「順当」と考えることができます。
しかし、無名の著者がマイナーなテーマについて書いた本が、大手出版社から出ていれば「何が起きたのか」と思います。
そこにはきっと、深い意味があるはずです。
逆に、有名な人がメジャーなテーマについて書いた本が中小零細出版社から出てきたら、「この編集者はどのようにして、この著者を口説き落したのか」と想像したくなります。
値段も、読書帳には重要な情報です。
質の高い情報や知識が得られたのに、その本の価格が600円であれば「超お買い得本」とみなすことができます。
逆に、分厚いだけで読みにくくて、いくら読み進めても興味がそそられないのに3,000円もしていれば、買ったことを後悔するでしょう。
また、内容は薄いけど、サラッと読むことができて時間つぶしになった本の価格が安ければ「まあまあおすすめできる本」といえます。
本の価値と値段は深い関係にあります。
最近はいろいろな場所で本を買うことができるので、購入先も記録しておくと、面白いデータが取れるはずです。
アマゾン、近所の小さな書店、駅前の大型書店のいずれかで買うことが多いと思います。
ただたまに、旅先の書店で買うことがあるでしょう。
本には買う喜びもあるので、購入先の記録は楽しい情報になります。
「購入日、読了日」に何を書くのか
「購入日、読了日」の欄には、本を買った日と、本を読み終えた日を書きます。
買った日と読み終えた日が近ければ、楽しみにしていた本を買い、すぐに読み始めて、あっという間に読み終わったことがわかります。
買った日と読み終えた日が離れていれば、必要だと思って買ったものの、なかなか読む気になれず、それで長らく放置していたものの、読み始めたら意外に面白くて一気に読み終えた、といったことがわかります。
もしくは、面白くないけど読み終えなければならず、ダラダラと1年かけて読んだことも、日付をつけておけばわかります。
「知っていること」(K)に何を書くのか
KWL表のKである「知っていること」の欄は、本を読む前に書きます。
本を買うとき、何の予備知識もなく購入することはないはずです。
例えば、数学を学びたいから数学の参考書を買いますし、気になる作家の小説を読み続けたいからその作家の新作を買いますし、特定の知識を増やしたいからそのことをテーマにした新書を買います。
「知っていること」の欄には、その本のテーマや著者について知っていることを書いていきます。
なぜ本を読む前に、本について「知っていること」を書くのかというと、本を読み終わったあとに、事前に知っていたこと以上の情報と知識を獲得できたか知るためです。
読者は、知らないことを教えてもらいたくて本を購入し、本を読みます。
本を読むメリットは、知識と情報を獲得できることなので、事前の知識と比べることは大切な作業といえます。
もし、事前に知っていたことをはるかに上回る情報が得られたら、その本に費やしたお金と時間はとても有効だったことがわかります。
その読書は成功したことになります。
もし、事前に知っていたこと以上の情報を得られなかったら、その本に費やしたお金も時間も無駄になります。
その読書は失敗したことになります。
「知っていること」書いておけば、読書の成功と失敗がひと目でわかります。
「学びたいこと」(W)に何を書くのか
KWL表のWである「学びたいこと」の欄には、その本から得たい知識と情報を書きます。
この欄も、本を読む前に書きます。
「この知識を獲得したい」「あの情報を得たい」と思って本を買い、見事にその知識とその情報が載っていたら、その読書は成功したといえます。
「学びたい」と思って本を読み、読んだあとに「学べた」と実感できることが、読書の理想形です。
しかし、読書の初心者は、大抵はうまくいきません。
失敗する原因はいくつか考えられます。
- タイトルに引っ張られすぎた
- 著者のことを知らなすぎた
- 書評をよく読んでおくべきだった
こうした失敗は、読書の回数を重ねるごとに減っていきます。
読書の失敗を減らすことができれば、お金も時間も無駄にしないで済みます。
読書の成功確率を高めるためにも、その本に期待することを「学びたいこと」欄に書いておきましょう。
もちろん、ただなんとなく本を買い、なんとなく読み始めることもあります。
その場合も「学びたいこと」欄に「ただなんとなく買ってみた」「大きな期待はしていない」「タイトルに引かれた」「書評で『すごくよい』と書いてあったから」などと書いておいてください。
そうすることで、読後感と比較することができます。
「知ったこと」(L)に何を書くのか
KWL表のLである「知ったこと」の欄には、読書によって得られた内容を書きます。
KWLのなかでは、Lが最も重要です。
あとで「そういえば、このことについてはあの本に書かれてあったな」と思い出したとき、「知ったこと」欄を読み返せば、わざわざ本を読み返さなくて済みます。
本は大抵、複数の部や章や節にわかれて書かれてあります。
もし、自分が重要だと感じた部や章や節があったら、その内容を要約して「知ったこと」欄に書きましょう。
もしくは、著者の言葉が自分の心に「刺さった」ら、その言葉を「知ったこと」欄に書き写してもよいでしょう。
「知ったこと」欄は、本を読んで賢くなって成長した証(あかし)になります。
ここにしっかり書き込んでおけば、時間とともに記憶が薄れても、ここを読み返すことで、もう一度賢くなったり成長したりすることができます。
また、「知ったこと」欄には感想を書いてもよいでしょう。
「とにかくおすすめ」「よく理解できなかったけど、重要な内容が書かれてあることはわかった。後日、必ず再読すること」と書いておきましょう。
もしくは「知っていることばかりだった」「論理の飛躍があって、著者の主張に賛同できない」「取材が甘い」「情報が古い」「エビデンス(証拠、または根拠)が薄い」と、酷評しても構いません。
「まんが 医学の歴史」でKWL表をつくってみた
実際の本を使って、KWL表を作成してみました。
ただし、これはあくまで記入例なので、自分でKWL表をつくったら、自由に書いていってください。
また、以下の内容は、あくまで個人の見解ですので注意してください。
本のタイトル | 「まんが 医学の歴史」 著者:茨木保 出版社:医学書院 税別2,200円 購入先:コーチャンフォー・ミュンヘン大橋店 |
購入日 読了日 | 2009年1月30日 購入から大体3日後 |
知っていること (Know) | 著者の茨木保は医者であり、なおかつ漫画家を志していた。 医学の歴史についてはほとんど知らないまま、本書を購入した。 本屋で立ち読みしたら、絵がきれいだったので読みやすいと思った。 かつては床屋が外科医だった、と聞いたことがある。魔術で病気が治ると信じられていた時代もあったと聞いたこともある。 |
学びたいこと (Want) | 医学について知識を増やしたかった。 ただ、参考書や専門書で勉強するのはハードルが高いので、まずは漫画で基本的な知識や予備知識を獲得したいと思った。 医学は人の命を左右する科学技術なのに、失敗から学ぶことが少なくない。医学における失敗とは、死や不健康になることである。 他人の死や、他人の不健康や、他人の病気という「不幸」によって進化する医学って何なのだろうか。 こうした疑問の答えを、本書で見つけられたら嬉しい。 |
知ったこと (Learned) | 古代メソポタミア文明のころは、医学が哲学や宇宙観や悪魔論などと一緒に扱われていたことがわかった。 医学が悪魔論と一緒になっていたことは驚かないが、その状態であっても「医学の始まり」とみなしていることに驚いた。 医学の父、ヒポクラテスの功績が理解できた。「言論によるだけの結論からは有益なことは生まれないが、実証による結論からは益が生まれる」という考えが、紀元前460~370年ごろに生まれていて、それが医学に応用された。この思考は、現代医学とそれほど離れていないのではないか。 ヴェサリウス(1514年、ベルギー生まれ)のエピソードは圧巻。 子供のころから死体と動物解剖に異様な執着を持っていたヴェサリウスは、医学を学ぶためにパリ大学に進学した。動物解剖の技術を持っていたヴェサリウスは、人の死体を解剖する講義で、その手腕を発揮する。すぐに、解剖実習の助手に抜擢された。 講義での死体解剖だけでは物足りなかったヴェサリウスは、墓場に出かけて、墓を掘り起こして死体を盗むまでになってしまった。 現代では到底許されない行為だが、ヴェサリウスはその後、有名大学の教授になり、医学界の常識を根底から覆した解剖学書「ファブリカ(人体構造論7巻)」を著わした。 本書にはその他にも、医学の巨人や医学の偉人を多く扱っている。北里柴三郎や野口英世といった日本人も登場する。 お金や名誉にまつわる「ドロドロ」した話もしっかり描いてあって、医学がきれいごとだけで発展したわけではないこともわかった。 まれにみる良書。参考書にもなる。2,200円は安い。 |
まとめ~情報を余すことなく吸収しよう
KWL表を使った読書法は、本に載っている知識と情報を、「一滴たりとも余すことなく吸収したい」と考える人にうってつけの方法です。
本を苦手にする人は少なくありません。
1冊を読了するには多くの時間がかかります。
本を購入するにはお金がかかります。
だからこそ、本は無駄にしたくないはずです。
「本をそのまま頭になかに入れてやる」という気持ちで、KWL表を作成してみてください。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。