大学を出て就職をするにあたり、民間企業に行こうか公務員になろうか、悩まれる方がよくいます。
確かにこれは進路選定のうえでほとんどスタート地点にある大きな分岐点だといえます。
どちらの道を選ぶかは、やはりそれぞれの違いについてしっかりと理解していなければなりません。
そこで以下では、民間と公務員の仕事内容から立場の違い、年金や保険にいたるまで両者の違いを解説していきます。
公務員とは
まず、公務員というのは、国や地方公共団体に所属する人をいいます。
それこそ市役所の職員はまさしく公務員というテンプレート的なイメージですし、他にも多くの人にとって身近な存在であるはずの小学校や中学校、高校時代の教員(公立に限る)、また消防士、警察官、法務省や財務省に勤める官僚もまた、当然に公務員です。
このように、ひとえに公務員といっても、多くの種類があります。
同じように市役所の試験を受ける場合でも、一般行政職の他、土木・建築・造園・機械・電気電子・化学・農業・林業・児童心理・社会福祉・学校事務・司書・保育士・管理栄養士など自治体ごとに様々な受験区分が設けられています。
技術職は大学選びが大事
たとえば市役所に勤めたい、ただ一般行政事務ではなくて、土木職に就きたいということであれば、試験問題からして土木には専門科目の出題がありますから、土木系の大学学部、学科を出ておくのが断然有利です。
土木系で全国的に有名な大学の学部学科には、日本大学理工学部の土木工学科があります。
2020年に創設100年を迎える歴史ある学科です。
この学科は特に公務員の内定率が高く、2016年度の実績では91名が公務員の内定を得ています(※)。
大学は関係ないことのほうが多い
一方で学校事務の場合は、特にどの大学の学部学科が良いということはありません。
特別に取得しておくべき資格もないですし、試験内容も学校事務専門の科目というのは存在しません。
もちろん一般行政事務も同様です。
高卒でも公務員試験(初級)を受けられるわけですから、特別どこの大学、学部のほうが有利、ということはありません。
地方公務員試験の良いところは、学歴で差がつかないことです。
国家公務員総合職など、一部例外はあるものの、公務員の多くは良い大学を出ている必要はありません。
詳しくは後述しますが、民間における大手企業のような学歴フィルターは存在しないといえます。
国家公務員と地方公務員
公務員には国家公務員と地方公務員があります。
国家公務員は国の職員として、地方公務員は都道府県、市区町村の職員として働きます。
上記でみてきたような市役所の職員、都道府県の職員や警察官、消防士も、同様に地方公務員です。
国家公務員になる場合には、国家公務員試験を受ける必要があります。
国家総合職と一般職試験があり、総合職試験はキャリア採用ともいわれ、格段に出世が早くエリートが集まります。
地方公務員に学歴は関係ない
地方公務員試験では、前述のように原則として学歴は大して影響しません。
それこそ市役所の職員の学歴をみても、上は東大から下は高卒まで千差万別です。
日東駒専というと、中堅大学のイメージとして全国的に定着しています。
これより上の大学は難関大学とされ、それより下の大学は入りやすい大学とされます。
地方公務員は日東駒専あたりがボリュームゾーンで、特別に良い大学を出ていなければなれないわけではありません。
また、採用後も良い大学を出ているから出世が早くなることもありません。
国家公務員総合職は東大法学部が有利
話が違うのは国家公務員総合職です。
これは、歴史的な流れもあって、いまだに東大閥が存在しています。
採用実績では東大法学部が全体の2割を占めています。
2019年の国家公務員総合職試験における出身大学別の合格者数でみてみると、1位が東大で307名、2位が京大で126名と、ダントツの数を誇っています。
採用後は当然、東大法学部出身であることが昇進に有利に働きます。
この図式は特に人気の5大省庁(財務省、外務省、経済産業省、警察庁、総務省)に当てはまります。
上記の人気省庁に配属されて昇進したいのならば、やはり東大法学部を出ているほうが色々な意味で安心です。
実際に早稲田の学生がキャリア組(国家総合職)の人に官僚になる相談をしたところ、「そもそも君は東大じゃないんだからその選択肢はない」と言われたという話があります。
東大法学部以外でも採用されることはあり、さらに人気の省庁でもバリバリ頑張っている人はいます。
ただ数が少ないだけですから、選択肢はない、は言いすぎです。
ただ、まだ高校生の段階で上記5大省庁を目指しているのであれば、後から人並み以上の苦労を味わうよりも、今ここで歯を食いしばって勉強して東大法学部へ入っていたほうが、後に大きな恩恵に預かれる可能性が高いのも確かです。
給与は国民の税金から
公務員は国民の税金から給料をもらっています。
もちろん、ボーナスも税金から支払われています。
まだ学生の立場だとあまり実感が湧かないかもしれませんが、大人は非常に多くのお金を国に納めています。
それこそ消費税の他にも、所得税や住民税、固定資産税、自動車税など様々です。
人に一定額以上のお金をあげるだけでも贈与税が発生します。
特に所得税は給料が増えるほど上がる仕組み、いわゆる累進課税制度が採用されていて、たくさん稼ぐ人はその収入の半分が税金でなくなります。
よく脱税のニュースを耳にしますが、それは、このような非常に大きな税負担がその背景にあります。
イメージしてみましょう。
たとえば自分で一生懸命アルバイトをして稼いだ10万円を、ずっと欲しかったパソコンの購入資金に充てようと思っていました。
しかし、5万円を税金として支払わなければならなかったとします。
結局あれだけ頑張ったのにパソコンは買えません。
ここで払わない選択をするともちろん脱税となってしまいますから、歯を食いしばって5万円を国に納めます。
そしてこの断腸の思いで払った5万円が、冒頭で指摘したように公務員の給料として還元されるわけです。
世間の目が厳しい理由
それだから公務員には世間の風当たりが強くなる傾向があります。
自分があれだけ苦労して払った税金で給料もらっているんだから、そんなテキトーな仕事をするな、という具合です。
社会に出ると、それこそ税金や結婚、家の関係などで役所に行く場面が出てきます。
そのとき、不抜けた顔でちんたら仕事をしているのを見たら、文句が言いたくなるでしょう。
それが民間なら言うだけ無駄、金輪際ここには来ないようにしよう、で済みます。
しかし公務員は先の税金と給料の関係がある以上、文句を言わずにおられない人が多く、確かにその行動は全うだと評価できます。
実際に世間との摩擦を生じやすいのは、やはり現場にいる職員です。
普通に生活をしていて、先の財務省や外務省の官僚に出くわす機会は早々ありません。
少なくとも文句を言いたくなるシチュエーションでは皆無です。
もっと末端の、所轄というべき警察署の職員であったり、それこそ市役所の窓口にいたり、道路の木が邪魔だと言ったらやってくる職員であったりが、最も市民と直接に関わり、それがためにかなり厳しい非難を浴びる場面があります。
公務員が楽に安定して稼げるは幻想
公務員はリストラもないし、安定してお金をもらえるし、そのお金もテキトーに仕事をこなしていれば年齢とともに上がっていくから最高、というのは幻想です。
仕事ができない公務員はできない人が集まる部署に飛ばされて、給料の上昇には限度があり、ほとんどの人は年収1,000万円に到達しない段階で定年を迎えます。
そもそもそのもらうお金が国民の税金という関係上、そんな幻想は国民全体が許さないという側面があります。
あらゆるコストのなかで最も負担が大きいのは人件費です。
公務員の仕事の9割はAIで代替可能であり、たとえば戸籍や税務、住民票などの手続きは、人間である必要がありません。
もしかしたらAIである必要すらなく、ただの証明書発行機一台設置すれば済む話かもしれません。
そんな無駄な人員の無駄な給料のために重い税金を負担するのは馬鹿らしいという声が、年々大きくなっています。
公務員を目指すのに不可欠なマインドとは
実際のところ、特に市役所職員を志望する人の多くは、安定しているから、定時で帰れそうだから、社会的地位が悪くないから、楽そうだから、という理由で動いています。
そのような低いインセンティブで公務員になっても、結局、自分の人生にとっても、広く国民にとっても、誰も得をしません。
その事実は必ず国民の声として自分に返ってきます。
公務員を志望する場合には、資格予備校のウマい話ばかりに踊らされず、その実際の側面、リスクやデメリットもしっかりと吟味をしたうえで、それでもその仕事をしたい、その仕事をするためには公務員でなければ駄目だ、という明確なモチベーションが必要です。
民間の社員とは
営利性が基本的性格
民間企業は、公務員のように税金でお金がまかなわれることはありません。
自社が生き残るためには必ず利益が必要になります。
そのため、営利性を持って活動する社会的団体というのが基本的性格になります。
ゼネラリスト(公務員)よりスペシャリスト(民間)
市役所の職員というのは、異動が5年の範囲で必ずあります。
税金や年金、福祉、総務、人事、公共施設、スポーツ振興など、全く内容の異なる部署へ配属されることも日常茶飯事です。
そのため、特定分野のスペシャリストを生み出す構造にはなっていません。
マニュアルがあって、新たに配属された人ができる仕事でなければならず、それがゆえに誰でもできる仕事でなければならない側面があります。
だからこそ自分一人がいなくても誰も困らないから有給が取りやすい、という人もいます。
民間では、むしろスペシャリストであることが求められます。
たとえば出版社なら編集マンとしてのスキル、メーカーのマーケティング部門なら営業や広報のスキル、アパレル関係の現場部門なら接客販売のスキル、といったことです。
もちろん、民間でも異動はありますし、社内でのキャリアップで統括部門に行くと現場にいたときとは違うスキルが求められることはあります。
しかし、市の職員のような、前年まで図書館に配属されて司書をしていたのに、今度はケースワーカーになって生活保護の調査をすることになった、など会社そのものが変わるほどの仕事内容の変化は、民間では少ないといえます。
採用段階で学歴フィルターがある場合も
民間企業は、公務員(国家総合職を除く)と違い、学歴が重視されます。
俗に学歴フィルターといわれますが、やはり有名な企業になればなるほど、その審査密度は高くなります。
そもそも、なぜ皆が高校はなるべく良い高校に、大学は良い大学に進学するのでしょうか。
確かに一部に例外的な選択をする人はいますが、今なおテンプレートははっきりしています。
良い高校に入るのは、良い大学に入るためです。
良い大学に入るのは、良い企業に就職するためです。
これが多くの親が子どもに望むテンプレート的進路であり、当然に多くの子どもたちはその道にしたがって受験戦争に臨み、その後は就活戦線へと立ち向かいます。
賢明な学生なら考えるまでもないかもしれませんが、上記の流れからして民間企業で公務員とは比較にならないくらい学歴が重視されるのは当然です。
もし良い企業に就職するのに学歴が大した意味をなさないのだとしたら、良い大学に入った意味、良い高校に入った意味、疑いの余地がなかったはずの王道ルートに疑問を呈さざるを得なくなるからです。
受験勉強にかけたお金、時間を返せ、という思いを持つ人も出てきます。
トップ企業なら早慶上智以上でハンデなし
電通や博報堂といった大手広告代理店、5大商社(三菱商事、伊藤忠商事、丸紅、三井物産、住友商事)はまさに日本の経済界を牽引するトップ企業です。
これらの一流企業に就職するのに具体的な学歴をみてみます。
採用実績では、早慶上智以上の出身が80%以上です。
残りの10%がMARCH、5%前後が関関同立といった内容です。
これを見ると、どうして皆そうまでして早慶上智を目指すのか、予備校がなぜあんなに大きく早慶上智を推し出すのかが分かります。
トップ企業に就職するためには、まずは早慶上智以上の大学を出ることが第一条件です。
どうしても無理だとしても、関西なら関関同立、関東ならMARCHには受かっておく必要があります。
■早慶上智以上でも内定は約束されない
また、早慶上智に入ったからといって当然、まったく安心できません。
上記トップ企業の就職倍率は200倍超えで、大学受験の3倍程度の倍率とはわけが違います。
当然、同じ早慶上智でも内定をもらえる人もいれば、もらえない人も出てきます。
むしろもらえる人はそのなかでもごく僅かです。
つまり、電博や5大商社のようなトップ企業に入るためには、早慶上智以上を目指すべきです。
しかし仮に早慶上智以上の大学に入れても、それはあくまで内定をもらうための余計なハンデのないスタートラインに立ったに過ぎません。
スタート地点で、あなたは5m下がって、そちらのあなたは10m下がってください、と言われなくて済むだけの話です。
民間の給料(公務員との比較)
そもそもまだ高校生くらいだと、なぜ良い企業に入らなければならないのか分からないという声がよく聞かれます。
そこで大手企業と公務員、企業間の収入差についてみていきます。
公務員の年収
■地方公務員
自治体によって給料の差があるものの、それは地域間での物価の違いに応じた「地域手当」によるものです。
基本的には県職員でも年収1,000万円以上得るためには部長級になる必要があります(※)。
部長級は誰でもなれるわけではなく、多くの人はそこまでいかずに定年を迎えます。
※参考:群馬県人事委員会 令和元年度 職員の給与等に関する報告及び勧告の概要
仮になれたとしても、定年間近ですぐに年収1,000万円は終わってしまいます。
■国家公務員
国家公務員の総合職は特別で、基本的には誰でも必ず年収1,000万円に到達できます。
地方公務員に比べて早い時期、40代後半~50代前半で到達するケースが多いです。
国家公務員総合職のなかで最高のポストが事務次官ですが、これは誰でもなれるわけではありません。
限られた人しかなれない代わりに、年収2,000万円を超えます。
嵐の櫻井翔さんのお父さんがこのポストに就いたことで話題になりました。
民間の年収
民間の場合、企業によって年収はピンキリです。
いつまで働いても年収1,000万円は厳しいところもあれば、頑張れば30代で1,000万、40代で2,000万円稼げるところも存在します。
また、やはりお金を多くもらえる企業のほうが、世の中に対する影響力が大きく、それだけスケール感のある仕事ができるのが魅力です。
同じ時間、同じように頑張って働いているのに、会社が違うだけで同い年が1,000万円もらっている一方で、自分は400万円しかもらっていないということが普通にあります。
実に半分以下の年収です。
良い大学から良い企業に入るべき理由
公務員と異なり、民間は収入格差がつきやすいという特徴があります。
だからこそ、なるべく良い企業に入れるように、といわれるわけです。
ここでの良い企業というのは率直なところ、給料の良い企業をいっていると考えて差し支えありません。
公務員を目指しているのであれば特に学歴は関係ありません。
しかし民間への就職を考えている場合には、学歴フィルターにかからないためにも、やはりなるべく良い大学を出ておく必要があります。
日東駒専よりはMARCH、MARCHよりは早慶上智、早慶上智よりは東京一工、ということになります。
民間と公務員の年金の違い
国民は年金を納めなければなりません。
国民年金は、国民みなが払う基礎年金です。
これに加算する形で、厚生年金と共済年金があります。
厚生年金は民間の会社員で、共済年金は公務員です。
共済年金は職域部分として加算されるなど、厚生年金に比べて優遇されすぎているとかねてより批判が多くありました。
そこで、2015年10月より共済年金は廃止され、公務員も会社員と同じ厚生年金になりました(※)。
税金の項目でも述べたとおり、世間からの目が厳しいのが公務員の宿命です。
※参考:地方公務員共済年金制度研究会 共済年金は厚生年金に統一されます
その発露の1つが年金の一元化にあるといえます。
ただ楽して安定してウマい汁を吸いたい、というのは難しくなっています。
民間と公務員の健康保険の違い
病院にかかるとき、保険証を出します。
この保険証も、民間なのか、公務員なのかで変わってきます。
民間の健康保険は、協会けんぽと組合健保に分けられます。
協会けんぽは、社員3000人未満の中小企業の被用者が加入します。
組合健保は、社員3000人以上の大企業の被用者が入ります。
公務員は共済組合です。
こちらも、国家公務員が加入する国家公務員共済組合と、地方公務員が入る地方公務員共済組合があります。
保険料の違い
それぞれに保険給付の種類や保険料が異なってきます。
特に気にする方が多いのが、保険料の違いです。
以下に間単に保険料の違いをみていきます。
協会けんぽ…25,000円
組合健保…22,153円
共済組合…20,500円
※参考:全国健康保険協会 鳥取支部 協会けんぽ・健保組合・共済組合等の比較
このように、同じ給料でも加入している健康保険によって、保険料に差があります。
協会けんぽより組合健保のほうが、組合健保より共済組合のほうが、保険料が少なくて済みます。
福利厚生、保険給付の点でも共済組合のほうが一般的にみて、協会けんぽ・組合健保より手厚くなっています。
公務員と民間の違いについてまとめ
公務員になりたい場合、一部の技術職や国家総合職を除いて学歴は関係ありません。
特別有名な大学を出ている必要はなく、もちろんその後の昇進についても大学名が影響することはないです。
民間の場合、大手企業となるとやはり早慶上智など有名な大学を出ていたほうが有利です。
そのために、多くの人が良い高校から良い大学、そして良い企業を目指します。
収入や年金、保険について、それぞれに一長一短があったり、なかったりしますから、今回紹介した内容を参考に、自身のキャリアビジョンやニーズに応じて、公務員か民間かのジャッジをするのが良いです。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。