もし、ほんの少しでも「入試でカンニングができたら、受験勉強で苦労しなくて済むのにな」という気持ちがあったら、この記事をしっかり読んでください。
または、これまで学校の試験で不正を働いてしまったことがある人も、この記事を最後まで読んでください。
入試で「なりすまし・カンニング・不正」を働くと、法的な処罰が下る可能性があります。
つまり、合格が取り消されるだけでなく、人生に取り消すことができない大きな汚点を残すことになります。
この記事では、入試不正と法的処罰について詳しく解説します。
ただ「入試で不正を働くなんて考えられない」と思っている受験生でも、もし大学の法学部を狙っているのであれば、この記事をしっかり読み込んでおいてください。
法律的な考え方が身につくので、法学部での勉強の準備になります。
入試での「なりすまし・カンニング・不正」とは
法的処罰を紹介する前に、入試での「なりすまし・カンニング・不正」についてみていきましょう。
なりすましとは、大学に願書を送った人でない人が代わりに入試を受けることをいいます。
賢い人が、偏差値が低い人の代わりに入試を受ければ、偏差値が低い人は難関大学に入ることができます。
偏差値が低い人は勉強せず有名大学に入ることができますし、なりすまし受験した人は報酬をもらうことで利益を得ることができます。
カンニングとは、自分で用意したカンニングペーパーを試験中に見る行為です。
もしくは手の平や腕の内側にマジックでキーワードや公式を書いておけば、腕を少し動かすだけで答えを見ることができます。
また、隣の席の人や斜め前の人の解答用紙を盗み見る行為もカンニングです。
その他の入試不正には、例えばチームでカンニングを働いたり、電子機器を使ったりする行為が考えられます。
もしくは、大学の職員と結託して、事前に入試問題を入手したり、別の人が本人に成り代わって受験する「替え玉受験」という不正行為まであります。
不正と犯罪行為と処罰について
個別具体のケースを検討する前に、不正と犯罪行為と処罰に関する基礎知識を紹介します。
不正と犯罪行為は似ていますが、違うものです。
両者は「不正であっても犯罪行為に該当しないことがある」という関係になります。
日本は法治国家です。
つまり、法律でルールを決める国です。
そのため、法律の書かれていない不正は、例え正しくない行為でも犯罪行為とはみなされないのです。
政治家や裁判官が「法律には書いてないけど、こいつは相当悪い奴だから罰する」とはできません。
法治国家だからです。
そして処罰についても、法律に書かれてあることしか与えることができません。
「法律には5年以下の懲役と書いてあるけど、こいつは悪どいから刑務所に10年入れておく」とすることはできません。
さらに法的な処罰には、刑罰と民事賠償があります。
ここで解説する内容は、「なぜそのタイプの不正入試にその法的処罰が下るのか」を理解するために必要な基礎知識になるので、しっかり押さえておいてください。
刑罰とは
刑罰とは、警察官に逮捕されて裁判にかけられて有罪になったときに課せられるペナルティのことです。
ペナルティには軽いほうから、科料、罰金、拘留、禁固、懲役、死刑があります。
ペナルティを課すのは、原則、日本政府です。
刑罰の特徴は、刑法などの法律に書かれていなければ、罰せられないというものです。
極論すれば「かなり悪いと思えるようなことでも刑法などの法律に書かれていなければペナルティを与えられない」ということです。
もちろんそのようなことが起きないように、悪いと思える行為はすべて法律に盛り込むようにしています。
例えば、刑法235条には窃盗罪が規定されていて「他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と書かれてあります。
他人の財物を盗らなければ窃盗罪は成立しませんし、窃盗罪に問われたら、どれだけ悪いタイプの窃盗であっても懲役10年が最高刑です。
民事賠償とは
世の中の悪いことのうち、刑罰が該当しないものは、民事賠償の対象になります。
民事事件には警察は介入しません。
そして民事事件では、日本政府は罰を与えません。
民事事件では賠償が問題になります。
要するに「お金で解決する」ことになります。
民事賠償には、損賠賠償や慰謝料などがあります。
例えば、AさんがBによる詐欺被害に遭ったとします。
警察がBを逮捕して、刑事裁判でBに罰金刑が言い渡されたとします。
このときのBが支払う罰金は、日本政府が徴収し、Aさんに渡ることはありません。
このままではAさんは詐欺の被害を回復できません。
刑事裁判では、BがAさんから奪ったお金を、Aさんは取り戻すことができません。
そこでAさんは、裁判所に民事訴訟を起こします。
そして裁判官がBに、Aさんから奪ったお金を返し、さらに賠償金も支払えと命令すれば、Aさんの被害は回復することができるかもしれません。
詐欺罪と窃盗罪は成立しない
法律の基本論理が身についたところで、カンニングにどのような法的処罰が下るのか考えてみましょう。
カンニングは、本当は正答を知らないのに、解答用紙に正答を書く行為です。
そのため、カンニングをした受験生は、その解答用紙を採点する試験官をだましたことになります。
ではカンニングは詐欺罪に該当するでしょうか。
詐欺罪に、カンニングのことが書かれてあれば、その受験生を詐欺罪で罰することができますので、刑法の条文をみてみましょう。
詐欺罪は刑法246条に次のように規定されています。
刑法246条
第1項
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
第2項
前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
カンニングは「人を欺いて」いますが、カンニング行為は見るだけなので、「財物の交付」も「財産の利益を得ている」わけでも「他人に財産の利益を得させている」わけでもありません。
そのためカンニング受験生は、詐欺行為は働いていない、と認定されます。
では、隣の受験生の解答用紙の解答を盗み見るタイプのカンニングを働いた受験生は、窃盗罪に該当するのでしょうか。
窃盗罪は刑法235条に次のように規定されています。
刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
窃盗罪が成立するには、他人の「財物を取っている」状態がなければなりません。
カンニング受験生は、隣の受験生の解答用紙を奪ったわけではありません。
そこに書かれてある内容を見て、それを暗記して自分の解答用紙に書いただけです。
そのため隣の受験生の答えを盗む行為は窃盗罪に該当しません。
では、カンニング受験生は無罪かというと、そのようなことはありません。
カンニングは偽計業務妨害罪に該当するかもしれない
法律の専門家は、カンニング受験生は、偽計業務妨害罪に該当するだろうとみています。
偽計業務妨害罪については、刑法233条に次のように書かれてあります。
刑法233条
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
偽計とは「人を欺く行為」ですので、カンニングは「偽計を用いて」います。
そしてカンニングは試験官たちの正常な入試業務を妨害しているので「業務を妨害」しています。
ここにきてようやく答えが出ました。
カンニングをすると、偽計業務妨害罪に該当する可能性があり、その罪で有罪になったら、3年以下の懲役か50万円以下の罰金という処罰が下る可能性があります。
実際に京都大学は2011年に、入試問題の一部が試験中にインターネットの掲示板に投稿されたことを、京都府警に被害届を出しました。
京都府警は、投稿者が入試業務を妨害したと考え、偽計業務妨害の疑いで捜査に着手しました(※)。
※参考:http://www.asahi.com/special/cheating/OSK201102280044.html
民事賠償の可能性
なりすましやカンニングなどの入試不正は、民事賠償を問うことができるのでしょうか。
大学側は少なからぬ金銭的な損害を受けているので、民事賠償で不正受験生からお金を徴収してもよいような気がします。
法律の専門家は、ある1人がなりすましをしたり、1人でカニングをしただけでは、大学職員が精神的な苦痛を受けた、という理由で不正受験生に慰謝料を求めることは難しいだろう、としています。
ただ、グループで入試不正を働き、不正が多数発生して再試験になるといったようなことが起きれば、金銭的な被害が顕著なので大学側は不正グループに慰謝料を請求できるでしょう。
入試問題を流出したらどう処罰されるのか
次に、受験生と大学職員が結託して、大学職員が入試問題を受験生に事前に渡したとします。
そして、受験生側がそのお礼として多額のお金を大学職員に支払ったとします。
もしくは、入試問題は流出させないものの、試験官が特定の受験生の解答用紙を正答したように加工したとします。
そして受験生側がお金を大学職員に支払ったとします。
いわゆる裏口入学ですが、これは「無罪」になる可能性があります。
私大には寄付金制度があるので、大学側が学生(合格する前の受験生)からお金をもらうことは違法ではありません。
また、誰を合格させるかも、私大の場合、かなり大きな裁量が大学側に与えられています。
さすがに、試験官が受験生の解答用紙を加工したら問題になるでしょう。
しかし、例えば入試に面接を課し、特定の受験生に「とても素晴らしい人物なので、筆記試験が多少悪くてもうちの大学への入学を許可する」とすることは問題ありません。
ただ、国立大の場合は、受託収賄罪が適用される可能性があります。
受託収賄罪は刑法197条に次のように規定されています。
刑法197条
第1項
公務員が、その職務に関し、賄賂 を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する。
受託収賄とは、公務員が民間人から便宜を図るよう依頼を受けて、賄賂(わいろ)を受け取ることをいいます。
国立大の職員は公務員とほぼ同じとみなされるので、裏口入学をすれば受託収賄罪が適用される可能性があります。
受験生側は贈賄罪に問われるかもしれません。
贈賄罪は刑法198条に次のように規定されています。
刑法198条
第197条から第197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。
贈賄とは、公務員に賄賂を与えることです。
受験生側が国立大の職員に、裏口入学を期待してお金を渡せば、贈賄罪に問われるでしょう。
まとめ~悪い心を押さえる方法
悪い気持ちを起こさないことが、人として理想ですが、多くの誘惑がつきまとうので常に正し気持ちを保てるわけではありません。
参考書の同じページを何度読み返しても覚えられないとき、ふと「これを試験会場の持ち込むことができたらどれだけ楽か」と思ってしまうのは、仕方がないことです。
問題は、その悪い心をどのように消滅させるかです。
入試不正の法的処罰を知っておけば、「なりすましやカンニングなんて、まったく割にあうものではない」とわかるでしょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。