大学受験において「古文」は、好き嫌いがくっきりわかれる科目です。
古文の配点はそれほど大きくないので、古文を苦手にしている受験生のなかには、思い切って捨ててしまう人もいます。
しかし、理系の受験生でも古文のテストを得意にしている人がいて、そのような人は「古文は簡単、ボーナス問題のようなもの」と思っています。
古文を好きになるか嫌いになるかの「分かれ道」は「文法の6個の基礎」です。
これをクリアできると、古文の勉強が一気に進み得意科目になるでしょう。
「6個の基礎」勉強法をマスターすれば、あとは機械的に覚えていくことができます。
古文を捨てないで
国立大の理系学部を狙っている受験生だと、「苦手な古文に時間を割くくらいなら、得意科目を伸ばしたほうがよい」と考えたくなるでしょう。
それはそれで戦略のひとつになり得ますが、「ボーナス問題」を捨ててしまうのはもったいない話でもあります。
古文の勉強法はとてもシンプルです。
しかも「とてつもなく難しい」問題は、入試では原則出ません。
しかも、古文を苦手にする受験生が古文をクリアすれば、志望する大学を1ランク上げることができます。
「6個の基礎」勉強法とは
古文文法の「6個の基礎」の6個とは、動詞、形容詞、形容動詞、助詞、助動詞、敬語のことです。
「6個の基礎」勉強術さえクリアすれば、古文の応用問題の勉強が驚くほどスムーズに進むでしょう。
「6個の基礎」勉強術は、コスパがよい学習項目といえます。
ただ、やはり古文を苦手にする人には大変な作業になるので、そこは覚悟しておいてください。
6個のうち1個でも落とすと、古文を「ボーナス問題」にすることはできません。
覚悟を決めたら、6個を一気に覚えていきましょう。
動詞の基礎
動詞の基礎で覚えることは、「動詞が『未然、連用、終止、連体、已然、命令』に活用する」ということです。
これと一緒に「ず、て、言い切る、こと、ども、よ」も覚えてください。
この2つは、以下の表で覚えてください。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
ず | て | 言い切る | こと | ども | よ |
動詞を「ず、て、言い切る、こと、ども、よ」につなぐように活用させれば、動詞の活用は自然に覚えていくことができます。
この表はとても重要なので、このまま覚えてください。
古文の文法の動詞では、まずは「四段活用、上二段活用、下二段活用」を押させておきましょう。
例えば、四段活用の動詞に「読む」があります。
これを、上の表に当てはめてみます。
「読む」を「ず、て、言い切る、こと、ども、よ」につなぐように活用させてみてください。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
ず | て | 言い切る | こと | ども | よ |
読まず | 読みて | 読む | 読むこと | 読めども | 読めよ |
「読む」の「む」が「ま、み、む、む、め、め」と「ア、イ、ウ、ウ、エ、エ」に変わっています。
だから「読む」は四段活用の動詞ということができます。
上二段活用の動詞に「落つ(おつ)」があり、これを表に当てはめてみます。
「落つ」を「ず、て、言い切る、こと、ども、よ」につなぐように活用させるだけです。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
ず | て | 言い切る | こと | ども | よ |
落ちず | 落ちて | 落つ | 落つること | 落つれども | 落ちよ |
上二段とは「ア、イ、ウ、エ、オ」のうちの「イとウ」のことです。
「落つ」の「つ」が「ち、ち、つ、つる、つれ、ち」と「ち、つ」に変わっています。
「イとウ」しか使っていません。
ここで、古文嫌いの人は「『る』と『れ』が入っているではないか」と気になると思いますが、これは覚えるしかありません。
下二段活用もみておきます。
動詞「受く(うく)」を表に当てはめてみます。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
ず | て | 言い切る | こと | ども | よ |
受けず | 受けて | 受く | 受くること | 受くれども | 受けよ |
「く」が「け、け、く、くる、くれ、け」になっていて、下二段(ウとエ)だけで活用しています。
動詞の活用には、上一段活用、下一段活用、カ行変格活用、サ行変格活用、ナ行変格活用、ラ行変格活用もあります。そしてこれらも入試に出ます。
しかし「今は」あえて無視しましょう。
動詞は、まずは上記の内容を完璧に覚えておき、それが済んだら、次の形容詞に進みましょう。
上一段活用、下一段活用、カ行変格活用、サ行変格活用、ナ行変格活用、ラ行変格活用は、「6個の基礎」をパーフェクトにできてから学習しましょう。
形容詞の基礎
形容詞は、形容動詞と似ています。
形容詞も形容動詞も「活用する、述語になる、用言」という点が共通しています。
両者の違いは終止形の語尾です。
形容詞は「し」で終わり、形容動詞は「なり」で終わります。
それでは、形容詞の基礎を解説します。
形容詞でも「基礎だけ覚える」「基礎以外は飛ばす」の気持ちで進みます。
それが「6個の基礎」勉強術の極意です。
形容詞の基礎は、次の2点です
- ク活用
- ば、て、言い切る、こと、ども
形容詞の活用は、形容詞を「ば、て、言い切る、こと、ども」につなぐように活用させるだけです。
形容詞にはシク活用やカリ活用もあり、それらも重要ですが、「6個の基礎」のあとに覚えましょう。
形容詞では下の表を覚えてください。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
ば | て | 言い切る | こと | ども | 形容詞には命令形はない |
この表を使って形容詞「白し(しろし)」を活用させてみましょう。
「白し」を「ば、て、言い切る、こと、ども」につなぐように活用させてみましょう。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
ば | て | 言い切る | こと | ども | 形容詞には命令形はない |
白くば | 白くて | 白し | 白きこと | 白けれど |
|
「白し」の「し」が、「く、く、し、き、けれ」と活用していることがわかります。
次に「美し(うつくし)」を活用させてみましょう。
「美し」を「ば、て、言い切る、こと、ども」につなぐように活用させるだけです。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
ば | て | 言い切る | こと | ども | 形容詞には命令形はない |
美しくば | 美しくて | 美し | 美しきこと | 美しけれど |
|
「美し」の「し」が、「しく、しく、し、しき、しけれ」と活用していることがわかります。
「白し」の「し」の「く、く、し、き、けれ」に「し」が加わっただけです。
実はこれが「シク活用」です。
先ほど「シク活用はあとで覚えましょう」とアドバイスしましたが、シ活用を覚えると自然にシク活用も覚えることができます。
このことは、古文文法の全体についてもいえることで、「6個の基礎」を覚えていくうちに、自然とその他のことも覚えていけるようになります。
形容動詞の基礎
形容動詞は、形容詞のところで少し触れたので「簡単」です。
「6個の基礎」勉強術では、形容動詞は次の2点を覚えるだけです。
- ナリ活用
- ば、て、言い切る、こと、ども、命令
表はこのようになります。
形容詞と似ています。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
ば | て | 言い切る | こと | ども | 命令 |
有名な形容動詞に「つれづれなり」があります。
これを活用させてみましょう。
「ば、て、言い切る、こと、ども、命令」につなぐように活用させます。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
ば | て | 言い切る | こと | ども | 命令 |
つれづれならば | つれづれなりて | つれづれなり | つれづれなる | つれづれなれ | つれづれなれ |
「つれづれなる」の「なる」が「なら、なり、なり、なる、なれ、なれ」
形容動詞にはナリ活用の他にタリ活用もありますが、ナリ活用を覚えればそれを応用するだけです。
タリ活用する形容動詞に「堂々たり」がありますので、活用させえてみましょう。
「ば、て、言い切る、こと、ども、命令」につなぐように活用させます。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
ば | て | 言い切る | こと | ども | 命令 |
堂々たらば | 堂々たりて | 堂々たり | 堂々たる | 堂々たれ | 堂々たれ |
「堂々たり」の「たり」が「たら、たり、たり、たる、たれ、たれ」と活用しています。
これは「つれづれなる」の「なら、なり、なり、なる、なれ、なれ」と同じです。
ナリ活用を覚えれば、タリ活用は自然と覚えることができます。
助詞の基礎
助詞を覚えると、品詞分解がしやすくなります。
しかし助詞は「大量」にあって、なおかつ「細々(こまごま)」しているので、覚える気持ちを削ぎます。
例えば次のとおりです。
●助詞の種類
格助詞・接続助詞・副助詞・終助詞・係助詞・間投助詞●格助詞の種類
が、の、を、に、へ、と、より、にて、から、して●格助詞の「が」
主格、連体修飾、同格、体言の代用、連用修飾●格助詞の「の」
主格、連体修飾、同格、体言の代用、連用修飾●格助詞の「を」
動作の対象、移動する場所、時間●格助詞の「に」
時間、場所、帰着点、動作の相手、使役、受け身、変化の結果、原因、理由、比較(中略)
●接続助詞の種類
で、ば、して、て、つつ、ながら、とも、と、に、を、が、ものの、ものから、ものを、ものゆゑ、ば、ど、ども(後略)
これらはほんの一部です。
そのため「6個の基礎」勉強術では、助詞を次のように勉強してください。
・一気には覚えない
・問題集に出てきたらその都度覚えていく
なぜこのような勉強法を採用するのかというと、助詞にこだわりすぎて、古文を嫌ってしまっては元も子もないからです。
小倉百人一首に、次のような和歌があります。
このなかの「で」が助詞で、さらに詳しく説明すると「打消しの接続助詞」となります。
「やすらは」は「ためらう」という意味です。
「寝なまし」は「寝ていた」という意味です。
つまり「やすらはで寝なまし」は「ためらわないで寝ていた」という意味です。
この和歌の前半部分は「あなたが来ることを知らなかったら、私はなんのためらいもなく寝ていたことでしょう。
しかし、あなたが来ることを知っていたから、寝なかったのですよ」という意味になります。
ちなみに後半部分は「夜がふけて、月が傾くのをずっと見ていました」という意味になります。
このように助詞は、古文の問題を解くときにその都度チェックしていきましょう。
助動詞の基礎
助動詞は、その前に置く言葉に意味を加える作用があります。
例えば助動詞「ず」は打消しの意味を加えます。
「走らず」は「走る」行為を打ち消しています。
助動詞によって表現できる意味は次のとおりです。
意味と、主な助動詞は次のとおりです。
過去 | 完了 | 推量 | 打消し | 打消し推量 | 伝聞・推定 |
き けり | つ ぬ たり り | む むず らむ けむ | ず | じ まじ | なり |
断定 | 受け身 | 使役 | 希望 | 比況 |
なり たり | る らる | す さす しむ | まほし たし | ごとし |
先ほど、「走る」に打消しの助動詞「ず」をつけて「走らず」をつくりました。
同じように、「走る」に過去の助動詞「き」をつけると「走りき」となります。
これで、過去に「走る」行為が終わったことを意味します。
「6個の基礎」勉強法では、助動詞の学習をここで終わりにしておきます。
助動詞には、上記の表以外にもあります。
また、試験では助動詞の活用も問われます。
例えば過去の助動詞「き」は、「せ(未然)、き(終止)、し(連体)、しか(已然)」と活用します。
しかし「6個の基礎」勉強法でそこまで学習範囲を広げてしまうと、その他の5個の学習が疎かになってしまいます。
まずは「6個の基礎」を完璧にして、そのあとで助動詞の応用学習をしましょう。
敬語の基礎
古文で敬語が重要になるのは、入試で「偉い人」に関する文章が使われるからです。
もちろん、古文が普通の日本語として使われていた時代には、庶民たちも古文を使っていました。
しかし庶民たちの文章が入試に出ることは、あまり多くありません。
「偉い人」たちの文章には、敬語が必ず出てきます。
そして文章のなかの敬語によって、登場人物の「偉さ」がわかります。
偉さとは、位の高さのことです。
入試では「敬語の使い分け」と「登場人物の位の高さ」の関係が問われます。
敬語には、「尊敬語、謙譲語、丁寧語」があり、それぞれ短く説明するとこうなります。
- 尊敬語は、主語に敬意を払う表現
- 謙譲語は、動作の客体に敬意を払う表現
- 丁寧語は、読者に敬意を払う表現
このうち、古文を苦手にする人が迷うのは、謙譲語です。
謙譲語さえクリアできると、敬語の突破口がみえてきます。
それでは具体的に「尊敬語、謙譲語、丁寧語」をみていきましょう。
<尊敬語>の例:AがBにのたまふ
「のたまふ」は尊敬語で、「おっしゃる」という意味です。
主語のAに敬意を払っていることがわかります。
<謙譲語>の例:AがBに申す
「申す」は謙譲語で、「申し上げる」という意味です。
Bが敬意に値しない人物なら「申す」を使いません。
Bが位の高い人だから、申し上げる必要があるのです。
このように謙譲語は、「言う」という動作の客体であるBに敬意を払っています。
<丁寧語>の例:~という人はべりけり
「はべりけり」の原形は「はべる」で、これは「おります」という意味の丁寧語です。
したがって「~という人はべりけり」は「~というような人物がおりました」意味になります。
「~という人はべりけり」という文章を書いた人は、位の高い人に読ませようと思っています。
「6個の基礎」勉強法では、「尊敬語、謙譲語、丁寧語」を3個ずつ覚えておきましょう。
その他の敬語は、「6個の基礎」がすべて完了してから手をつけていってください。
敬語 | 敬語の形 | 意味 |
尊敬語 | あそばす | ~をする |
いまそかり | ~していらっしゃる | |
きこす | ~をお聞きになる | |
謙譲語 | いたす | ~させていただく |
うけたまわる | ~をお受けする | |
まゐる | ~へうかがう | |
丁寧語 | はべり | ~でございます、~です |
さぶらふ | ~でございます、~です | |
さうらふ | ~でございます、~です |
まとめ~機械的に覚えていく
古文の文法は、まずは「6個の基礎」勉強法でスタートして、そのあとに学習範囲を広げていってください。
そして古文が苦手な人は「機械的に覚えていけばよい」と自分に言い聞かせてください。
古文は本来、味わい深い文学作品に触れることができる楽しい教科なのですが、そのように感じることができず、入試のために「仕方なく」学ぶ人も少なくないでしょう。
そのような人は、割り切りが大切です。
古文の学び始めこそ「学ぶことがたくさんある」と恐れおののくかもしれませんが、「6個の基礎」勉強法を皮切りに機械的に覚えていけば、センター試験で満点獲ることは夢でなくなります。
古文は難解な学問ですが、入試ではそこまで難しい問題は出ません。
英語や数学などと比較すると、案外簡単に「ゴール」がみえてきます。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。