学校授業の指南書とも言える学習指導要領が全面改訂され「主体的な学び」という文言が初めて記載されました。
「自主的に学習へ向かう」という言葉はよく日常生活の場でも耳にする機会が多いですが、主体的とは具体的に何を指すのでしょうか。
どちらも子どもの教育に欠かせないものであり、我々保護者も知っておく必要があります。
主体性と自主性の違いについて
自主性と主体性についてほとんど同じであるという意見をお持ちの方も多いかと思われます。
しかし主体性と自主性は似て非なるものであり、決して同一視することはできません。
どちらも行動をする際の様子についてを指す言葉ですが、比較してみましょう。
主体性は自分の考えにフォーカスしている
広辞苑では主体的の意味として「ある活動や思考などをなす時、その主体となって働きかけるさま。他のものによって導かれるのではなく、自己の純粋な立場において行うさま」とされています。
要約すると「自分で考えて、その考えのもとで行動する」という事です。
周りの意見に左右されることなく、確かな自分の考えを持っているという事に焦点が置かれているため、主体性と比較すると思考寄りであるという位置付けが最も自然でしょう。
自主性は自分の行動にフォーカスしている
主体性と同様に広辞苑から自主性の意味を引用してみたいと思います。
「他からの干渉を受けないで、自分で決定して事を行うさま」と記載されています。
主体性と比較すると自分の立場や意志に関する記述がなされていないことから行動により重点を置いた立ち位置であると見做す事が比較としては自然な意見となります。
主体性も自主性も「周りからの干渉に左右されることがない」という箇所は概ね共通していますが、主体性では自分の立場での行動である旨が補足されておりますので、以上のことから「行動と思考」をポイントに話を進めることにしましょう。
どちらも日常生活で必要となる能力である
主体性と自主性について、似て非なるものであることはお分かりいただけたかと思います。
これらを日常生活の場面に当てはめて考えてみましょう。
自主性からお話します。
自主性とは単なる行動であることから「考えなくても出来るようなもの」にその力を発揮することになります。
例えば食事後の食器の片付けやお部屋の掃除など比較的習慣化しやすいものが当てはまります。
子どもが独り立ちした際に困ることのないように自主的に身の回りの世話を自分で出来るようにならないといけない事からも自主性の重要性については御理解いただけるかと思います。
これらは強制力が有り、生活を送る上でしなくてはならないタスクであることが特徴です。
続けて主体性についてですが、自主性と比べて頭を使うタスクは主体性をもって取り組まなければなりません。
日常生活の場でも探究的な姿勢が必要とされるシーンが存在します。
例えば朝の天気予報を見ている場面を考えてみましょう。
恐らく「今日の降水確率は40%だって」なんて会話が行われている事でしょう。
この際に主体性のある子どもは「傘を持っていったほうがいいかもしれない」と感じることでしょう。
逆に自主性のみを持っている子どもの場合は単なる降水確率の報告に終わってしまう事が考えられます。
このパターンの明確な差は「自分の置かれている立場を把握して考えられているか」の違いです。
雨に打たれて困るのは子ども自身です。
また、雨にぬれても構わないという考え方も想定されるため、強制力は弱く本人の判断に委ねられる事が特徴です。
雨に遭うかもしれないというシチュエーションを踏まえて、自分はどの選択を行えば良いのかについてまで考えられる子どもは主体性が身についていると言えます。
保護者が主体性や自主性を妨げてしまうケースも
主体性と自主性が大切なことは既にお分かり頂いていることかと思いますので、ここでは日常生活の場で主体性や自主性の発達を妨げてしまっているケースをご紹介します。
これから紹介するケースに関しては大抵の場合保護者に悪気はなく、知らず識らずのうちに施してしまうものを掲載しています。
そのためもし当てはまっていると感じられても気を悪くされないように申し上げておきます。
主体性を妨げる詰め込みの存在
日常生活の場とはかわり、勉強の場面を想定して考えてみましょう。
学習の場面でよく見られる暗記に徹した、俗に言う「詰め込み型」の学習方法ですが、あまりお勧めしません。
一般的な暗記方法として同じ語句を何回も書き写し学習するという方法が挙げられますが、暗記作業中は完全に思考が停止しており手のみが動いている状態です。
そのため子どもにとっても学習の意義を感じにくく、勉強を楽しいものだと感じるためには多少無理があります。
誰かに強制されて勉強する事を主体性や自主性のある姿勢だとは言えません。
そのため詰め込みや暗記など作業中心の勉強方法は自主性・主体性の発達を妨げる事になります。
お節介は主体性の発達を妨げる原因に
勉強をしていると時には躓く場面もあるでしょう。
その際、働きかけひとつで子どもの主体性の伸び代が変わります。
例えば算数で面積を求める問題に躓いている場面を想定して考えることにしましょう。
子どもは面積を求める公式を忘れてしまい困っています。
この場合、保護者の方の対応としては大きく2つに分かれます。
答えを教えてあげるか、もしくは自分で確認させるかの2通りです。
この際、子ども自身で解き方を調べる事で主体性を育むことが出来ます。
すぐに答えを教えてしまうと「分からなかったら誰かに聞けば良いのか」と判断してしまいます。
この考え方では答えは知ることが出来るものの、原理や考え方などの深い知識を習得することは出来ません。
先程の例で申し上げると、面積の公式を知ることは出来るが、何故縦の長さと横の長さを掛け合わせると面積を求めることが出来るのかまでは知ることが出来ないという事です。
今回は面積という比較的容易なものを例として取り扱いましたが、速さや距離など具体物がなく難しい問題を考えるときには主体的に考えないと習得が難しい事が考えられます。
すぐに答えを与える働きかけは子どもの主体性を封じ込めます。
勉強に対して賞罰を与えると自主性は育たない
「テストで100点を取ったら寿司を食べに行こう」という親子の会話はイメージしやすい事と思われます。
非常に微笑ましい光景ですが、インセンティブやペナルティを与える事も程々にする必要があります。
勉強する事とそれに対する報酬を与える事で、子どもは「勉強をしたらご褒美がもらえる」と学習します。
そうする事でどのような不都合が生じるのでしょうか。
もし子どもが高校生になり欲しい物も高額になった時の事を想定してみましょう。
子どもは勉強をしてもご褒美が無いので勉強しなくなります。
また保護者の側から考えてみても、服やバッグなどをよい成績を残す度に与えるのは現実的ではありません。
また「ご褒美など特に欲しいものはないので、勉強もしなくてよい」という考えにたどり着く場合もあります。
逆に勉強しないとペナルティが与えられる場面も同時に考えてみましょう。
同居している場合は、勉強をしないと子どもにとって良くないことが起こるため仕方なく勉強をすることになります。
もしその子どもが大学進学や就職を機に家を出たときにどうなるかは、ご想像いただけるかと思います。
勉強をしなくても罰を与える存在が居なくなるので子どもは勉強しなくなります。
しばしば過去への反発だと表現される場合もありますが、どちらにせよ罰が無くなることで、それに結びついていた行為は罰せられる行為ではなくなるという事です。
上記の事から勉強と他の要素を結びつける事はあまりお勧めしません。
当然のことですが、子どものやる気が下がってきたときのモチベーション維持のためにご褒美を設定するなどは適切な選択です。
要するに持続性のない賞罰ありきで机に向かわせる事は効果的でないという事です。
主体性や自主性を強化する為の鉄則3つ
上記の三例は好ましくない例ですが、それでは主体性や自主性を育むために保護者はどのように働きかければ良いのでしょうか。
以下に例を示しておりますので参考にして下さい。
全ての例に共通することですが「子どもが喜びを得る」という考え方が根底にあります。
人がアクションを起こす理由は「快感を得ることが出来るから」「不快から逃げるため」の2つに分類されます。
次回以降の動機に繋げやすい喜びを与えるための働きかけを行うという考え方をもって接すると良いでしょう。
問いかけひとつから工夫する
発見する喜びの側面から考えてみましょう。
例えば部屋の片付けがうまくいかない子どもが居たとしましょう。
この際に「こうすれば良いんじゃない?」と問いかけるよりも「じゃあどうすれば良いか一緒に考えてみよう」と問いかけたほうが主体性の醸成には好影響です。
保護者はヒントを撒き、子ども自身で片付けのアイデアを考えるサポートを行います。
そうすることで部屋の片付けを自分が行う当事者意識が芽生え、問題解決に積極的な姿勢を示します。
問題に対する解決策を子ども自身が発見することで喜びを覚え、積極的に部屋の片付けを行うようになります。
また、さらなる工夫の探求を行うきっかけにもなります。
活躍の場を設けてあげる
自主性を育む為に、子どもが安心して挑戦できる機会を与えましょう。
年末の大掃除を例に考えてみます。
大掃除は家族で役割分担をして効率よく進めたいものです。
子どもの前で「私は台所を掃除するから、あなたは高い場所のホコリ落としを頼むわ」などの会話を行い子どもの興味を誘います。
もし興味を示さなくても「○○くんも一緒に大掃除する?」と問いかけることで大抵の場合は大掃除に参加してくれます。
子どもに担当の場所を与え、掃除させることで役割意識を持つことができ、また協力する楽しさを身につけることもできます。
目標を達成する喜びを与える
上記の2点と共通していますが、目標を達成すると大きな喜びを得ることが出来ます。
これを勉強のシーンに応用する事で、問題を解くことが出来る喜びや問題に対する解決方法を導き出す楽しさを知ることが出来ます。
自主的に勉強してほしい、主体的に問題へ向かってほしいのであれば、勉強をする楽しさを子どもに伝えられるような心がけが必要となります。
さいごに:主体性と自主性は保護者の働きかけに懸かっている
今回は子どもに主体性と自主性を育むという観点で執筆いたしました。
全てに共通して言える事ですが、出来る限り子ども主体で物事を進める事が大切になってきます。
主体性にせよ自主性にせよ、子どもが行動する動機を与えてあげないと成り立ちません。
そのため保護者が指示を行うのではなく、子どもに考えさせるという事を心がけていただけると間違いないでしょう。
この記事を監修した人
「大成会」代表
池端 祐次
2013年「合同会社大成会」を設立し、代表を務める。学習塾の運営、教育コンサルティングを主な事業内容とし、札幌市区のチーム個別指導塾「大成会」を運営する。「完璧にできなくても、ただ成りたいものに成れるだけの勉強はできて欲しい。」をモットーに、これまで数多くの生徒さんを志望校の合格へと導いてきた。